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香川外科の愉快な仲間たち

こうやまみか

久米先生編 22

「久米先生はご実家もクリニックを経営なさっていますよね、市内で。そういう方なら礼儀作法も教え込まれているのでしょう?」
 隣に座っていた田中先生が完璧な箸使いでお吸い物の椀の中から竹の子らしきものを口へと運びながら聞いてきた。
 母校からそのまま上の病院勤務に決まった段階で履歴書などは提出してある。その書類欄には緊急連絡先――災害とか突発事故のせいで緊急の呼び出しとかのためだと注意書きに書いてあったので漏れなく記入した――父のクリニックの電話番号も固有名詞付きで提出した。
 高校時代とかの友達は文系に進んだヤツも多かったので四年で卒業して社会人二年目だ。
 だから、就活とか内定式、そして新入社員の時のことも話題に出たことも有ったが、そこまで詳しく会社は聞いて来ないらしい。せいぜい実家の住所と電話番号程度で――ちなみに京都出身であっても、東京に本社が有る会社の方が圧倒的なので東京住みになっている友達の方が多い――何だか病院に必要とされている感がして身の引き締まる思いとか、「特別感」めいたものを感じたことを思い出した。
 当然そういう情報は教授にも共有されているだろうから、教授が知っていてもおかしくなかったし、懐刀としてそして何だかプライベートでも仲の良いとウワサの田中先生が――実際の電話番号までは知らないだろうけど――知っていても全く不思議ではない。
「はい。茶道とか礼儀作法は母親や、母のお師匠様でもある家元に教わっています。
 京都人の嗜みとして……。ただ、書道だけは才能がないらしくて、勉学を理由に辞めてしまいましたけれど。
 それに茶道は正座が出来なくてですね……。恥をかかないレベルまでは何とか頑張ったのですが、師範とかではないです」
 母親には「正座も出来ないなんて」と嘆かれた苦い思い出がある。ただ、嫁入り道具の箔付けになる茶道や華道の師範のお免状は男の自分には関係がないので母も簡単に引き下がってくれたが。
 教授も田中先生も何だか珍しい生き物を見ているような感じを受けたのは気のせいだろうか。ただ、この状態で聞き返す勇気は持ち合わせてはいない。
 それに、お箸袋に書いてある「墨痕鮮やかな」と言いたいほどの老舗料亭の名前の豪華なお弁当だったが、この教授執務室の雰囲気とか二人の圧倒的な存在感のせいだろうけれども正直味がしなかった。
「あのう、面接の時に日経平均株価を知っているかどうかというご質問が有りましたよね?あの時、答えられなかったので正直なところ何故受かったのかとても疑問なのですけれど……」
 最も気にかかっていた点を聞いてみることにした。
 教授は――外科医にしては珍しい――静謐な佇まいの笑みを浮かべてオレの顔と何故か田中先生とを交互に見ている。
 そして、隣の席の田中先生の肩が可笑しさを堪えるように上下に動いていた、微かではあったものの。
 多分。

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