リスタート!!〜人生やり直し計画〜
ありがとう
2004/9/26
「今日はお疲れ様。帰ったらゆっくり休んでね」
そう先生は話すものの、みんな疲れてぐったりしてるか周りの人と話しているかであまり聞いていなかった。
「それじゃあ、起立!礼!」
『さよーなら!!』
結局、2回戦で3組に逆転され、学年別順位は2位、色別でも2位に終わってしまった。
結果発表の時、それに対して文句を言う者や責任を他の人になすりつける生徒の声で拓哉たちのクラスは大きく湧いたのだが、今ではそんな様子もなくただわいわいと下校し始めていた。
「有沙ちゃん、帰ろう」
と拓哉も前の席に座る有沙に声をかけるが返事がない。
不思議に思って顔を覗き込むと、そこには今にも泣きだしそうな有沙の顔があった。
拓哉は驚いて辺りを見渡すがもうみんな下校してしまい、教室には誰もいない。
「ちょ…ちょちょ、どうしたの?有沙ちゃん」
慌ただしい拓哉の問いかけにも返事はない。それどころか、目からはせき止めていたダムが崩壊したように涙が浮かんできた。
ようやく、その口が開き、小さな小さな声を発した。
「わ…わたしの、せいで…まげだって…」
その声は涙に震え、とても弱々しく拓哉の耳に響いた。
「に…にかい、めは…ぜん…ぜんとべなくて…そ、それで…」
有沙の泣きながらのその言葉が先ほどまで慌てふためいていた拓哉の心を落ち着かせた。
しかし、落ち着いたところで言葉は出てこない。
「わだしが…いなければよかったって‼︎」
今日、自分の見ていないところで、誰かのために一生懸命頑張っていた少女はその誰かに傷つけられ、ひどく落ち込んでいたのだ。
それを近くで見ていることすらできず、今の今まで知らなかったような奴が何と声をかければいいだろう?
適当に慰めても、悪く言った奴らと喧嘩したとしても、根本的な解決とはならない。
目の前の少女は今も自分で発した言葉でさらに傷つき続け、涙を流し続けている。
この少女を守るために、その涙を流させないためにやり直したはずの人生で一体何度、この顔を見たのだろう?
拓哉はそんな自分への怒りをぐっと堪えると、有沙とは反対に笑ってみせた。
「そんなことないよ」
その声は優しく有沙の涙を拭った。
先ほどまで、下を向いて泣き続けていた有沙も顔を上げて拓哉の方に目を向けた。
「いなければよかったなんて…絶対にそんなことない。少なくとも、僕には必要だよ」
拓哉は知っている、彼女のいない世界を。いなかった世界を。
だからこそ、切に、深く、心からそう思った。
「有沙ちゃんがいなかったら、僕は誰と行き帰りすればいいの? 昼休みは誰と遊べばいい?」
拓哉の言葉は強く、それでいて優しく有沙の心に呼びかけた。
「休みの日だって暇になっちゃうし、休み時間話す人もいなくなっちゃうし、給食も1人で食べなきゃいけないし、他にも…」
徐々に熱を帯びる拓哉の顔の方へと、不意に有沙の手が伸びてきた。
その手は、拓哉の頬から目元までを優しく拭った。
そこで拓哉は始めて気づいた。
自分で言葉を発しながら、自分のトラウマに触れてしまっていたことに。
「なんでたくやくんがないてるの?」
その涙の跡が残る有沙の顔は笑っていた。
目は赤いままで、未だに少し潤んでいたが、とても優しく微笑んでいた。
 
「ごめん…」
「へんなの」
そう言って、今度は可笑しそうに笑った。
さっきまで泣いてたのに、とコロコロ変わる有沙の表情を見ながら拓哉も自然と笑顔になっていた。
そんな時、2人の空間を切り裂くように教室のドアが開かれた。
「いたいた。上野さん。あれ?どうかしたの?」
空気も読まずにズカズカと入ってきたのは相沢先生だった。
「探したのよ〜?校門で待ってても全然出てこないし…」
そのまま2人の元へとふと視線を拓哉の方へと移した。
口元を拓哉の耳元へと寄せる。
「本当にどうかしたの? よかったら相談にのるけど?」
かなり遅れてやってきた相談を受けて然るべき大人のその発言に拓哉は呆れ顔で別にと答えるしかできなかった。
「そう?ならいいけど…」
状況もまったく知らず、突然その場に現れた先生としても、それ以上言いようがないといった様子だった。
「で、どうかしたんですか?先生」
「あ、そうそう。上野さん、ちょっといいかしら?お話があるんだけど」
「え?はい」
有沙と先生で話が始まりそうだったので、少し待っていようとその場にとどまっていた拓哉に先生がさらに声をかけた。
「内田くんは先に帰っていてちょうだい」
「何話すつもりですか…」
「成績のことだけど?」
まったく嘘をついているようには見えないのだが、この人はそんな顔しながらでも時々平気で嘘をつく。
そんな疑い顔を見ていた有沙から声をかけられた。
「さきかえっててよ。たくやくん」
有沙にまで言われてしまってはどうしようもない。
居場所を失った拓哉はしぶしぶ帰る事にした。
「じゃあね…有沙ちゃん」
「じゃあね〜」
有沙に笑顔で見送られ、内心少し傷つきながらも教室のドアに手をかける。
「たくやくん」
不意に有沙に声をかけられ、再び振り向く。
「ありがとう」
有沙の輝かしい笑顔に思わず言葉を失う。
その言葉とその笑顔だけで、拓哉には多すぎる報酬だった。
今回、拓哉は彼女に何もしてあげられなかったが、それでもこうやって笑っていてくれるなら…
そんなことを考えながら今度こそ教室から出る。
「じゃあね」
「うん。バイバイ!」
「さようなら」
生憎なことにここから1年近く、拓哉と有沙の間で会話らしい会話を交わすことはなかった。
「今日はお疲れ様。帰ったらゆっくり休んでね」
そう先生は話すものの、みんな疲れてぐったりしてるか周りの人と話しているかであまり聞いていなかった。
「それじゃあ、起立!礼!」
『さよーなら!!』
結局、2回戦で3組に逆転され、学年別順位は2位、色別でも2位に終わってしまった。
結果発表の時、それに対して文句を言う者や責任を他の人になすりつける生徒の声で拓哉たちのクラスは大きく湧いたのだが、今ではそんな様子もなくただわいわいと下校し始めていた。
「有沙ちゃん、帰ろう」
と拓哉も前の席に座る有沙に声をかけるが返事がない。
不思議に思って顔を覗き込むと、そこには今にも泣きだしそうな有沙の顔があった。
拓哉は驚いて辺りを見渡すがもうみんな下校してしまい、教室には誰もいない。
「ちょ…ちょちょ、どうしたの?有沙ちゃん」
慌ただしい拓哉の問いかけにも返事はない。それどころか、目からはせき止めていたダムが崩壊したように涙が浮かんできた。
ようやく、その口が開き、小さな小さな声を発した。
「わ…わたしの、せいで…まげだって…」
その声は涙に震え、とても弱々しく拓哉の耳に響いた。
「に…にかい、めは…ぜん…ぜんとべなくて…そ、それで…」
有沙の泣きながらのその言葉が先ほどまで慌てふためいていた拓哉の心を落ち着かせた。
しかし、落ち着いたところで言葉は出てこない。
「わだしが…いなければよかったって‼︎」
今日、自分の見ていないところで、誰かのために一生懸命頑張っていた少女はその誰かに傷つけられ、ひどく落ち込んでいたのだ。
それを近くで見ていることすらできず、今の今まで知らなかったような奴が何と声をかければいいだろう?
適当に慰めても、悪く言った奴らと喧嘩したとしても、根本的な解決とはならない。
目の前の少女は今も自分で発した言葉でさらに傷つき続け、涙を流し続けている。
この少女を守るために、その涙を流させないためにやり直したはずの人生で一体何度、この顔を見たのだろう?
拓哉はそんな自分への怒りをぐっと堪えると、有沙とは反対に笑ってみせた。
「そんなことないよ」
その声は優しく有沙の涙を拭った。
先ほどまで、下を向いて泣き続けていた有沙も顔を上げて拓哉の方に目を向けた。
「いなければよかったなんて…絶対にそんなことない。少なくとも、僕には必要だよ」
拓哉は知っている、彼女のいない世界を。いなかった世界を。
だからこそ、切に、深く、心からそう思った。
「有沙ちゃんがいなかったら、僕は誰と行き帰りすればいいの? 昼休みは誰と遊べばいい?」
拓哉の言葉は強く、それでいて優しく有沙の心に呼びかけた。
「休みの日だって暇になっちゃうし、休み時間話す人もいなくなっちゃうし、給食も1人で食べなきゃいけないし、他にも…」
徐々に熱を帯びる拓哉の顔の方へと、不意に有沙の手が伸びてきた。
その手は、拓哉の頬から目元までを優しく拭った。
そこで拓哉は始めて気づいた。
自分で言葉を発しながら、自分のトラウマに触れてしまっていたことに。
「なんでたくやくんがないてるの?」
その涙の跡が残る有沙の顔は笑っていた。
目は赤いままで、未だに少し潤んでいたが、とても優しく微笑んでいた。
 
「ごめん…」
「へんなの」
そう言って、今度は可笑しそうに笑った。
さっきまで泣いてたのに、とコロコロ変わる有沙の表情を見ながら拓哉も自然と笑顔になっていた。
そんな時、2人の空間を切り裂くように教室のドアが開かれた。
「いたいた。上野さん。あれ?どうかしたの?」
空気も読まずにズカズカと入ってきたのは相沢先生だった。
「探したのよ〜?校門で待ってても全然出てこないし…」
そのまま2人の元へとふと視線を拓哉の方へと移した。
口元を拓哉の耳元へと寄せる。
「本当にどうかしたの? よかったら相談にのるけど?」
かなり遅れてやってきた相談を受けて然るべき大人のその発言に拓哉は呆れ顔で別にと答えるしかできなかった。
「そう?ならいいけど…」
状況もまったく知らず、突然その場に現れた先生としても、それ以上言いようがないといった様子だった。
「で、どうかしたんですか?先生」
「あ、そうそう。上野さん、ちょっといいかしら?お話があるんだけど」
「え?はい」
有沙と先生で話が始まりそうだったので、少し待っていようとその場にとどまっていた拓哉に先生がさらに声をかけた。
「内田くんは先に帰っていてちょうだい」
「何話すつもりですか…」
「成績のことだけど?」
まったく嘘をついているようには見えないのだが、この人はそんな顔しながらでも時々平気で嘘をつく。
そんな疑い顔を見ていた有沙から声をかけられた。
「さきかえっててよ。たくやくん」
有沙にまで言われてしまってはどうしようもない。
居場所を失った拓哉はしぶしぶ帰る事にした。
「じゃあね…有沙ちゃん」
「じゃあね〜」
有沙に笑顔で見送られ、内心少し傷つきながらも教室のドアに手をかける。
「たくやくん」
不意に有沙に声をかけられ、再び振り向く。
「ありがとう」
有沙の輝かしい笑顔に思わず言葉を失う。
その言葉とその笑顔だけで、拓哉には多すぎる報酬だった。
今回、拓哉は彼女に何もしてあげられなかったが、それでもこうやって笑っていてくれるなら…
そんなことを考えながら今度こそ教室から出る。
「じゃあね」
「うん。バイバイ!」
「さようなら」
生憎なことにここから1年近く、拓哉と有沙の間で会話らしい会話を交わすことはなかった。
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