リスタート!!〜人生やり直し計画〜

水山 祐輔

嵐の後の静けさ

目が醒めるとそこは病室だった。
遠足中に迷子になり、大雨の中、気を失っていた少女、上野 有沙は静かにその眼を開いた。


「あ、れ? わたしあのあと、どうなって…」


外はまだ暗く静まりかえっていた。
頭は酷く痛み、身体中に寒気がし、節々は悲鳴を上げていた。
身体は鉛のように重く、立ち上がることすらままならなかった。
そのまま起きているのも辛くなって、再び目を閉じる。
薄れゆく意識の中、1人の少年の後ろ姿が有沙の脳裏に強烈に焼き付いていた。








  再び有沙が目を覚ました時には部屋には陽の光が差し、明るくなっていた。
身体の体調はまだよくないのだが、半ば無理やりに身体を起こした。
  クラクラする頭を手で支えながら、辺りを見渡す。
  有沙が寝ているベッドの周りはカーテンで囲まれ、頭の横にはテレビが設置されており、向かって右手にある机の上には、フルーツや花などのお見舞いの品が置かれていた。
生まれてこのかた、入院経験のない有沙にとってはここがどこで、なぜいるのかなどわかるはずがなかった。
  しかし、今の有沙にはそれより気になることがあった。雨の中、激しい風の中、有沙を恐怖の中から救い、助けに来てくれた少年のことだ。
有沙にはあの時のことが、夢か現かもわからなかったが、彼に背負われて山を降りる時のことを薄れていく意識の中で感じていた。


「た…くや…くん…?」


その少年の名前を呼ぼうにも、喉はガラガラで声はかすれて、空気中に散っていってしまう。
ゴホッゴホッと喉の奥から出てくる咳を堪えきれず、苦しそうに咳をする有沙。
そんな時に、カーテンの向こうから声が聞こえた。


「今回のことで、お国の方からね…すぐにでも、転校してきてほしいって言われてるの」


その声の主は有沙もよく知る1年2組の担任、相沢先生のものだった。
その内容は有沙には全く理解できないもので、首をかしげる。


「いい環境でお勉強して、将来はお国の為に…」


「嫌ですよ。転校なんて」


ここで初めて少年の声が聞こえた。しかし、その声は有沙同様、ガラガラで有沙には拓哉がどうか判別できなかった。


「それはせっかくできたお友達と別れるのは寂しいかもしれないけど…」


「別にそういう訳じゃ……」


「特にあなたは全国1位だから国の方も大事に思ってるのよ」


「国が大事なのは、僕じゃなくて『国の未来』でしょ? それより、全国1位って何のことですか?」


「ごめんなさい。それは言えないの」


「じゃあ、僕も答えられません…」


  それっきりカーテンの向こうからは何も聞こえてこなくなった。
  有沙には終始わからないことだらけだったが、「てんこう」という彼が口にした言葉が妙に耳に残った。






















その数日後、有沙は退院した。
先に退院していた拓哉とは次の日学校でとのこととなり、母の運転する車で自宅に帰ることとなった。


「学校に会ったら拓哉くんにお礼いわなきゃね。あの子のおかげで有沙のこと早く見つけられたんだって。まあ、2人とも危なかったらしいからあんまり褒められたことじゃないかもしれないけど…あの子がいなかったらあなたは助けられなかったかもしれないっていうんだから、感謝しないとね」


母の声には嗚咽が混ざり、安堵の涙は有沙には見えなかったが、十分伝わってきた。
それでも、有沙の頭の中はあのことで頭がいっぱいだった。


「ねぇ、お母さん。『てんこう』ってなぁに?」

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