リスタート!!〜人生やり直し計画〜
知らない世界
2016/4/19
「え、え?」
今、この時、拓哉の頭は非常にごちゃごちゃした状況であった。
(変だ。不思議だ。知ってる。この子も、今の状況も)
何しろ、これまでの20年の記憶と新しい5歳から20歳までの記憶が同時に存在したため、それを整理するところから必要だった。
(っ…頭が痛い…)
一晩のうちにこれだけの記憶を脳に埋め込まれた訳だ。頭が割れるような痛みに襲われた。
「ちょっと、大丈夫? 頭痛むの? 学校休んだら?無理しないでよ?」
「だ、大丈夫!大丈夫だから。いっぺんに喋らないで」
襲いかかる頭痛に加えての有沙からの追加攻撃に耐え切れず、悲鳴をあげる。
(お、落ち着け…落ち着け。とりあえずは…)
「今日って何月何日だっけ?」
とりあえず目の前の有沙に時間を尋ねてみる。
「え?4月の19だったかな?」
「何年のだっけ?」
「2016年だけど」」
(やっぱり…)
そこで再びうずくまってうんうんうなりはじめた拓哉を有沙は心底心配そうに見ていた。
「ちょっと、本当に大丈夫? 具合悪いんじゃない?」
「大丈夫。本当だよ」
しかし、再び有沙に向けられた視線はまっすぐで落ち着いたものだった。
それを聞いて、心から安心する有沙。
「ごめん、ごめん。ちょっとからかってみたんだ」
「まったく…大概にしてよね。平気ならご飯食べに来てよ」
少し呆れ気味の顔をしながら有沙は部屋を出ようとする。出る手前、この部屋の入り口で立ち止まると最後にこんな言葉を残した。
「でも、本当に無理しないでよ? もう、あんな思いしたくないからさ」
その表情はせつなさそうに笑っていた。
そう、この世界では拓哉は高1の時に病気でぶっ倒れていた。
随分、色々とあったようだが、それを整理するには時間がかかった。
が、なんとか落ち着いた。保育園の頃、仲良くなってから腐れ縁のように毎回毎回同じ学校に通い続け、何やかんやで付き合うことになったらしい。
「ふぅ…何とか落ち着いたけど、改めて考えるのも恥ずかしいな…」
一瞬のうちにブチ込まれた未体験の思い出に照れてみる。
「早く来ないと冷めるよ〜?」
ドアの向こうからは有沙の声が聞こえる。
「はいはーい。今いくよ」
急いでその辺にかけてあった服を着て、慌てて部屋を出る。
「中々美味しかったよ」
自分は1限はないのに、心配だからと未だ神妙な顔をして付いてきた有沙に声をかけてみた。
小中高だけならず、大学までも一緒という見事な腐れ縁っぷり。
いや、こちらからついていってるという記憶はないため、多分、有沙が付いてきてるのだろう。
(それにしても、随分と立派に育ったな〜 昔からは想像もできないほどに)
「あれ?まだ顔赤い…やっぱり帰ったら?」
そんなことを考えてたら有沙にバレた。
「へ、平気だって。もう授業始まるから行くね。バイバーイ!」
「あ、ちょっと?」
(とりあえず離れないと考えがまとまらない…)
心配そうに見守る視線を背に、拓哉は1限へと向かった。
(ふぅ…何とか落ち着いた)
有沙と別れて数分、教室の隅っこの席に着席したところでようやく拓哉の緊張がとけた。
授業は始まっていたが、ハナから聞く気なんてなかった。
(さてさて、またなんかよくわからない状況だけど…)
ここで一旦、自分の思考を整理してみる。
(また知らない世界だ。少なくとも元の世界には戻ってないよな… そうすると考えられる可能性は3つくらいか…
まず1つは、夢。もうこれであってほしい。全体的に現実味に欠ける。まあ悲しいことにこれはもう1番薄い。そもそも長すぎるし、ほとんど覚えてもいなかった有沙がこんなに深く関わってくるのはおかしい。
2つ目は、あの変な石。まあ2回に共通してるっちゃしてるんだけど…これもちょっと薄いかな。なんか効力はもうないみたいに書いてあったし。
そうすると、やっぱり残るのは…)
そんな感じでその日は終わった。今日1日拓哉はほとんど同じことを考え続け、それと共に、思い出をしっかり確認して、現在の状況把握もより詳細にした。
(ふう。何だか、何もしてないのに疲れたよ…)
怒涛の1日を、いや2日だろうか、を過ごしぐったり気味の拓哉が大学を後にしようとすると出口で有沙が立っていた。
「あ、拓哉くん!大丈夫だった? 倒れなかった? もう熱はない?」
有沙は拓哉を見つけると同時にドカドカと詰め寄ってきた。
(あ、愛が重い…)
のしかかる有沙を押し返すこともできず、なあなあとその場をごまかす。
「大丈夫だって。もう熱もないし、な? 帰ろう」
何とかなだめつつも帰路につく。
「なんか、その…ごめんね? 今朝もわざわざ早くから心配かけて」
その帰り道で一応かけた迷惑に対して、謝っておいた。
「え?」
「いや、その、有沙は1限なかったんだろ? わざわざ付き合わせて悪かったな〜って。暇だったでしょ?ごめんね?」
「何だか気持ち悪いね…」
「なっ!」
詫びを一蹴されて、怯む拓哉。
「いつも何にも言わないのに」
(まあ確かに記憶にはないけど、そんなにかな…)
何となく、これまでの自分が残念に思えてきた。
「私ね…ずっと拓哉くんに助けられてきた」
急にしんみりとした有沙に対して、少しドキッとする。
「小さい頃から、意気地なしで、弱虫でいつも1人でウジウジしてた。
でも、ある日、あなたが誘ってくれた。一緒に遊ぼうって。
それはきっとあなたにとっては何気なく女の子を遊びに誘っただけかもしれないけれど、私には嬉しかった。そこで私のすべては決まった。いいや、それからもどんなに辛い日も、疲れてる時も、ずっと隣にいてくれた。だから、本当にありがとうって言いたいのは私。少し小っ恥ずかしいけど、私のあなたへの信頼は揺らがない」
そこまで言うとにっこりと笑ってみせた。
夕暮れを背にしたその笑顔は普段の童顔の影がなく、えらく大人っぽく見えた。
「はい、できたよ」
食器に乗せた料理を運ぶ有沙だったが、その先のテーブルの拓哉はなんだか少し落ち込んで見えた。
「どうかしたの?やっぱりまだ具合悪いの?」
しかし、拓哉は横に首を振った。
「いや、何でもないよ。平気」
それでも、明らさまにその顔は沈んでいた。しかし、その神妙さに有沙にはこれ以上、言及することはできなかった。
有沙と別れ、1人寝室へと向かう。
拓哉は、やっぱり気持ち的に沈んでいた。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
それは、考え得る第3の可能性。彼女のあんな笑顔を見たからこそ、他にも、体験はしてなくとも思い出はしっかりと胸に刻まれていた。だからこそそれが怖かった。怖くて、怖くてしかたなかった。
(もしかしたら僕はこれから毎晩、知らない世界に飛ばされるんじゃないだろうか?そんなの嫌だ。でも、どうしたら…寝なければいいのか? そうだ!寝なければ、何とか…)
しかし、無情にも彼の意識は摘み取られていく。
深い深い眠りの中へと…
(ああ、やめて。僕はもうここでいい…)
意識と共に有沙のあの笑顔までがどこかに消えていくようだった。
「え、え?」
今、この時、拓哉の頭は非常にごちゃごちゃした状況であった。
(変だ。不思議だ。知ってる。この子も、今の状況も)
何しろ、これまでの20年の記憶と新しい5歳から20歳までの記憶が同時に存在したため、それを整理するところから必要だった。
(っ…頭が痛い…)
一晩のうちにこれだけの記憶を脳に埋め込まれた訳だ。頭が割れるような痛みに襲われた。
「ちょっと、大丈夫? 頭痛むの? 学校休んだら?無理しないでよ?」
「だ、大丈夫!大丈夫だから。いっぺんに喋らないで」
襲いかかる頭痛に加えての有沙からの追加攻撃に耐え切れず、悲鳴をあげる。
(お、落ち着け…落ち着け。とりあえずは…)
「今日って何月何日だっけ?」
とりあえず目の前の有沙に時間を尋ねてみる。
「え?4月の19だったかな?」
「何年のだっけ?」
「2016年だけど」」
(やっぱり…)
そこで再びうずくまってうんうんうなりはじめた拓哉を有沙は心底心配そうに見ていた。
「ちょっと、本当に大丈夫? 具合悪いんじゃない?」
「大丈夫。本当だよ」
しかし、再び有沙に向けられた視線はまっすぐで落ち着いたものだった。
それを聞いて、心から安心する有沙。
「ごめん、ごめん。ちょっとからかってみたんだ」
「まったく…大概にしてよね。平気ならご飯食べに来てよ」
少し呆れ気味の顔をしながら有沙は部屋を出ようとする。出る手前、この部屋の入り口で立ち止まると最後にこんな言葉を残した。
「でも、本当に無理しないでよ? もう、あんな思いしたくないからさ」
その表情はせつなさそうに笑っていた。
そう、この世界では拓哉は高1の時に病気でぶっ倒れていた。
随分、色々とあったようだが、それを整理するには時間がかかった。
が、なんとか落ち着いた。保育園の頃、仲良くなってから腐れ縁のように毎回毎回同じ学校に通い続け、何やかんやで付き合うことになったらしい。
「ふぅ…何とか落ち着いたけど、改めて考えるのも恥ずかしいな…」
一瞬のうちにブチ込まれた未体験の思い出に照れてみる。
「早く来ないと冷めるよ〜?」
ドアの向こうからは有沙の声が聞こえる。
「はいはーい。今いくよ」
急いでその辺にかけてあった服を着て、慌てて部屋を出る。
「中々美味しかったよ」
自分は1限はないのに、心配だからと未だ神妙な顔をして付いてきた有沙に声をかけてみた。
小中高だけならず、大学までも一緒という見事な腐れ縁っぷり。
いや、こちらからついていってるという記憶はないため、多分、有沙が付いてきてるのだろう。
(それにしても、随分と立派に育ったな〜 昔からは想像もできないほどに)
「あれ?まだ顔赤い…やっぱり帰ったら?」
そんなことを考えてたら有沙にバレた。
「へ、平気だって。もう授業始まるから行くね。バイバーイ!」
「あ、ちょっと?」
(とりあえず離れないと考えがまとまらない…)
心配そうに見守る視線を背に、拓哉は1限へと向かった。
(ふぅ…何とか落ち着いた)
有沙と別れて数分、教室の隅っこの席に着席したところでようやく拓哉の緊張がとけた。
授業は始まっていたが、ハナから聞く気なんてなかった。
(さてさて、またなんかよくわからない状況だけど…)
ここで一旦、自分の思考を整理してみる。
(また知らない世界だ。少なくとも元の世界には戻ってないよな… そうすると考えられる可能性は3つくらいか…
まず1つは、夢。もうこれであってほしい。全体的に現実味に欠ける。まあ悲しいことにこれはもう1番薄い。そもそも長すぎるし、ほとんど覚えてもいなかった有沙がこんなに深く関わってくるのはおかしい。
2つ目は、あの変な石。まあ2回に共通してるっちゃしてるんだけど…これもちょっと薄いかな。なんか効力はもうないみたいに書いてあったし。
そうすると、やっぱり残るのは…)
そんな感じでその日は終わった。今日1日拓哉はほとんど同じことを考え続け、それと共に、思い出をしっかり確認して、現在の状況把握もより詳細にした。
(ふう。何だか、何もしてないのに疲れたよ…)
怒涛の1日を、いや2日だろうか、を過ごしぐったり気味の拓哉が大学を後にしようとすると出口で有沙が立っていた。
「あ、拓哉くん!大丈夫だった? 倒れなかった? もう熱はない?」
有沙は拓哉を見つけると同時にドカドカと詰め寄ってきた。
(あ、愛が重い…)
のしかかる有沙を押し返すこともできず、なあなあとその場をごまかす。
「大丈夫だって。もう熱もないし、な? 帰ろう」
何とかなだめつつも帰路につく。
「なんか、その…ごめんね? 今朝もわざわざ早くから心配かけて」
その帰り道で一応かけた迷惑に対して、謝っておいた。
「え?」
「いや、その、有沙は1限なかったんだろ? わざわざ付き合わせて悪かったな〜って。暇だったでしょ?ごめんね?」
「何だか気持ち悪いね…」
「なっ!」
詫びを一蹴されて、怯む拓哉。
「いつも何にも言わないのに」
(まあ確かに記憶にはないけど、そんなにかな…)
何となく、これまでの自分が残念に思えてきた。
「私ね…ずっと拓哉くんに助けられてきた」
急にしんみりとした有沙に対して、少しドキッとする。
「小さい頃から、意気地なしで、弱虫でいつも1人でウジウジしてた。
でも、ある日、あなたが誘ってくれた。一緒に遊ぼうって。
それはきっとあなたにとっては何気なく女の子を遊びに誘っただけかもしれないけれど、私には嬉しかった。そこで私のすべては決まった。いいや、それからもどんなに辛い日も、疲れてる時も、ずっと隣にいてくれた。だから、本当にありがとうって言いたいのは私。少し小っ恥ずかしいけど、私のあなたへの信頼は揺らがない」
そこまで言うとにっこりと笑ってみせた。
夕暮れを背にしたその笑顔は普段の童顔の影がなく、えらく大人っぽく見えた。
「はい、できたよ」
食器に乗せた料理を運ぶ有沙だったが、その先のテーブルの拓哉はなんだか少し落ち込んで見えた。
「どうかしたの?やっぱりまだ具合悪いの?」
しかし、拓哉は横に首を振った。
「いや、何でもないよ。平気」
それでも、明らさまにその顔は沈んでいた。しかし、その神妙さに有沙にはこれ以上、言及することはできなかった。
有沙と別れ、1人寝室へと向かう。
拓哉は、やっぱり気持ち的に沈んでいた。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
それは、考え得る第3の可能性。彼女のあんな笑顔を見たからこそ、他にも、体験はしてなくとも思い出はしっかりと胸に刻まれていた。だからこそそれが怖かった。怖くて、怖くてしかたなかった。
(もしかしたら僕はこれから毎晩、知らない世界に飛ばされるんじゃないだろうか?そんなの嫌だ。でも、どうしたら…寝なければいいのか? そうだ!寝なければ、何とか…)
しかし、無情にも彼の意識は摘み取られていく。
深い深い眠りの中へと…
(ああ、やめて。僕はもうここでいい…)
意識と共に有沙のあの笑顔までがどこかに消えていくようだった。
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