語りかける想い

ONISAN

 母は誰かが死ぬと呼ばれる仕事をしていた。ここでは浄逝師ジョウセイシと呼ばれている。死んだ人が最後に持って逝きたいものとその理由がわかる特別な能力を持った母は代々のその仕事を継いだ。
 最期の言葉が聞きたい遺族は浄逝師に連絡をよこす。時には感謝され時には怒りをぶつけられる。それでも母は嘘は言わず、最期の声を遺族に伝えていた。
 小さな僕は留守番が多かったが、稀にその場へ一緒に行くことがあった。
 初めは何も感じることはなく、母が仕事をしている間は、その近くで静かに遊んで待っていたが、ある時を境に僕にも声が聞こえるようになったんだ。
「そこのぼく…私の声は聞こえるかい?」
 振り向くとそこには見知らぬお爺さんが立っていた。
 頷いて、そのお爺さんの目を見つめる。
「こりゃ驚いた。姿も見えるのか」
 お爺さんは驚いたと言っていたが、そんな風には見えなかったのをよく覚えている。
「当たり前だよ。よく見えるよ」
「そうか、じゃあ、君も良い浄逝師になれるんじゃな…お母さんにお礼を言っておくれ。最期の声を聞いてもらった」
 そう言うとお爺さんの姿はなくなった。
 ああ…これがお母さんの言っていた魂ってやつなんだな…。
 僕は初めて見る魂に少しだけ驚いたけど、母と同じ仕事ができると思うと嬉しかった。それから僕は、母の許しが出た時だけ一緒に弔いをしに行くようになったんだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品