君の瞳の中で~We still live~

ザクロ・ラスト・オデン

サマータイムエピローグ

 目が、覚めた。わけもわからない涙が流れ、夢の中身も、今までの記憶も、何も思い出せない。


……ここは、どこだ……?


 真っ白な世界で、忘れてはいけない、何かを忘れた。かけがえのない、何かを失った。この手で。


 進むと決めたのに、逃げないと決めたのに、未来を掴もうとしたのに。結局、世界を滅ぼしてしまった。


────あぁ、そうだ、思い出したじゃないか。俺は、俺の手で未来を終わらせたんだ。その涙なんだ。


 俺は世界を代償に、逃げたのだ。結局、綺麗事だったんだ。俺のやってきたことは、全部、全部。


「気にするな、これからさ。新しい覚元和仁の人生は、な」


 どこからか、自分の声が聞こえる。その瞬間、景色は歪み、まぶしい光に包まれた。


「生きていていいのか、俺は」


 その声は、くすくすと笑うと、答えたのだ。


「生きていくんだよ、俺たちは。お前が破壊し、俺が創造した新しい世界で」


 そうか、そうだよな。きっと、一人じゃない気がする。目を覚ませば、きっと……


 どうしてそう思えるんだろう。家族でもないのに、どうして心が温かいんだろう。


「みんな、なんやかんやで鳩の子だろう? そりゃあ、みんな血がつながっているじゃないか」


「そうだったな、じゃあ、問題はきっと、寝ても覚めても山積みだ。そうだろ? もう一人の俺」


「その呼び方は……なんか違うなぁ。だって俺……」


 その先は、言わなくてもわかっていた。どこかで気づいていたんだ。一人じゃなかったんだと。


「言わなくてもいい、本当の道しるべはお前だったんだな。ありがとう」


 景色はさらに歪み、意識は次第に遠のいていく。どこか、遠くへ行く気がした。このまま、違うどこかへ。


 何もかも消えていく中、ありがとう、その声だけが、響いていた……




 目を覚ます。空の星は鈍く輝く。いよいよ、夜が明ける。東の空から、太陽がやってくる。そんなさわやかな風が吹く中。目が覚めた。ずっと眠っていたような気がする、すべて夢だったような気がする。でも、確かに、その記憶は変えられない世界だった。確かにわかる、世界は一度滅んだと。


「お目覚めか? まったく、遅いんだよ!」


 物思いにふけっていたその時、真上に、真っ白な髪の毛をした、赤い目の少年の顔があった。あぁ……嘘だろう?


「悠治……」
「気づいたらみんな二上神社だぜ。世界は、丸っと作り直されちまったよ」


 胸の高鳴りを抑えつつ、ゆっくりと起き上がる。目の前には、姉、日和がいた。


「姉ちゃん……!? 生き返ったのか?」
「あら、第一声がそれ? いいや、生き返ったわけじゃないわ。あなたに集中した世界の柱は、大きく13に分割され、さらに細かく砕かれた。もちろん、一本は和仁の中にあるのだけど、力の集中を抑えるために、柱は細かく砕かれたの。で、その一部が私の中にってわけ」
「そうしたら、俺もこの通り、実体化しやすくなってな。まぁ、死んでるけどほぼ生き返ったようなもんだな。びっくりびっくり!」


 日和との会話に、横から怜治が割り込むようにやってくる。二人ともニヤニヤ笑って、理解できてない和仁を見ている。
 その突然起こった奇跡は、理解できない、というより、驚きで言葉が出ないといったあたりだ。


「十三の柱の一本は俺にも入ってるぜ。まぁ、俺もほとんど生き返ったようなもんか……前とあんまり変わらねぇけどな」


 仕方なさそうな口調でも、どこか笑顔の悠治は「周りも見てみろよ」と指をさす。目に留まったのは世津。お互いに目を合わせ、和仁はゆっくりと歩み寄った。何を言い出すのか、迷っていたが、先に口を開いたのは世津だった。


「もし、あの時、ああしていれば。もし、あの時こうしていれば。人生というものは後悔がつきもので、必ずしもうまくいかない。その後悔の数だけ、分岐点があり、平行世界がある。そんな論文に書いた文章がある。今思うと、この世界は、後悔でできた新たな世界なのかもしれない」
「……俺が滅ぼしてしまった世界ですよ」
「あぁ、お前の後悔も、その一部なんだろう。神様がどれだけ手抜きで世界を作ろうとも、作ったのはお前のオリジナルだ。そこはくみ取っているだろう」
「……なんでそれを?」


 世津がしぶしぶ指をさしたほうには、コスモ……ではない、人間の姿をしたコスモ、君恵がいた。


「うちの彼女が厄介なことをしたと詫びている。俺だけじゃ何とかできない。なだめてやってくれ」
「コスモ……」


 近寄ると、コスモ、いや、君恵は、顔を赤らめ背ける。黒いショートヘアーが、風に揺れていた。


「オリジナルを甘く見てたわ。破壊、創造……あなたには、私にはできない力を持っているのね」
「そもそも「世界」に刻まれた存在から、生み出された一周目の俺が、その存在を確定させ、本来あったものをより強いものにした。ただ、それだけで破壊も創造も担えたわけじゃない。あの俺は、神ではない。そうだろう?」
「……えぇ、あくまでも「特別な人間」よ。その通り、本来は破壊も創造もできないはず。それを可能にしたのは、ほかでもないあなたなのよ」


 和仁は少し首をかしげる。何をしたか、これといったことは思い出せない。その様子を見て、君恵は頬を膨らまして口をとがらせ、むくれてしまった。だが……そうはいっても、原因がわからない和仁は、冷や汗を流すしかなかった。じゃあ、どうして君恵は、そこまで不機嫌なのだろうか。


「私はあなたという存在を柱とした。オリジナルから作り出した、あくまでも複製品。でも、本体と繋がる覚元和仁に変わりはない。あなたの苦しみ、悲しみ、怒り、小さな喜び、未来への決意。それはすべてオリジナルに繋がっていた。あなたは周囲や、世界の欠片、間の祖によって力を手に入れていった。同時に感情を伴った。オリジナルも同じく、というわけよ」


 世津の言葉の意味を、和仁は理解できた。そして、あの光の中で見た自分に、心からお礼が言いたかった。自らの答えは、自らが一番よくわかっている。和仁の存在を理解し、肯定したのは、まぎれもない和仁だった。


「お詫びは、やっぱり、この世界の全員にしなくっちゃ……だって、あなたを苦しめたのは、この世界創造がよく表してるわ。じゃなかったら、あなたの周りをうまく解決させた世界なんてできないもの。日和ちゃんの復讐、あなたはそれを望んでいた。願わくば会いたいと。全部叶えてしまえたんだものね」


 君恵は、耳もとで囁いた。それは、余裕をたたえた神、コスモの声で。


「あなたの願いはただ一つ、姉と未来を築くこと、でしょう?」


 それを、和仁はクスクスと笑う。ぎょっと驚いた君恵は、ちょっとだけ和仁から離れた。


「何よ、何かおかしかったわけ!?」
「あぁ、すまない。付け足してくれ。俺は姉ちゃんだけじゃない、みんなと未来に行きたいんだ。そうすれば、幸せになれる気がしてね。罪を償うって言うんなら、俺たちと一緒に楽しい毎日を築こう。俺は、そのために戦ったんだ」


 今なら笑顔でそう言える。一つ世界を潰してしまった。それは笑顔で済まされることではない。しかし、本当に幸せな未来へ行くために、新たな世界を作ったのなら、それはそれで、いいのではないだろうか。作ったのが「願った本人」なのだから。
 問題が解決してない。それはわかっている。そして、この世界に残り続ける問題もきっとある。それでも、小さな幸せを、奇跡が起こった世界で、それでも前に進めるのなら。


────それこそが、瞳に映る世界なのだろう。


「……そう……創造主がそう言うならそうさせてもらうわ。これからもよろしくね、和仁くん」
「あぁ、君恵……さん」


 創造神と創造主は見つめあい、笑いあった。世界を創ったからこそ、苦しみも悲しみも、幸せも生まれた。世界を創るということはそういうことだ。それが、この世界にすら起こることもわかっている。だからこそ笑うのだ。どこか楽しみな、この世界でのことを想像して。


「おーい、和仁! 夜明けだ!」


 悠治の呼ぶ声に、振り返る。悠治が大きく手を振っていた。周りを見る。みんな笑って、その先を見つめる。後ろにも目をやる。二上、朱音、二神様も笑顔だ。
 その笑顔につられて、思わず笑みがこぼれる。そして、みんなが見る後ろを振り返った。


────光が射す。新しい朝が来る。苦しかった夜が終わる。そうだ、この瞳に映る未来は、ここから始まる。




 その光を別の場所から眺める人物がいた。邪波が消えることで、原因不明の通行止めは解除となった。誰も原因はつかめなかったが、警察も、仕事をようやく終えようとしていた。
 ただ一人、神代刀利を除いては。


「神代さん、やっと仕事が終わりますね。いったい何だったのかなぁ、あの黒い霧」
「さぁな」
「って、絶対神代さん何か知ってますよね!」
「いいや、何も」


 後輩との話をはぐらかそうと、神代は目を逸らす。その先に、紀和志乃の姿があった。緩んでいた顔が、引き締まる。


「すまない、ちょっと知り合いが来た。話さなければならないことがある」
「仕事の話はしちゃだめですよ」
「しないよ、そんなの」


 刀利が歩み寄ると、志乃は深くお辞儀をした。


「実感が俺にはないが……世界は作り変えられた。それでいいんだな」
「えぇ、我々の問題など、覚元和仁以外の問題は、そのままですが」


 十三の約束、神の子孫とその遺産。太陽の神と鳩、鳩の残した問題、先祖の残した問題。それらが複雑に絡み合い、紀和家と神代家は対立していた。紀和家は神の子孫の存続を、神代家は断絶を願い、その溝は埋まることはなかった。
 だが、刀利は、こう考えていた。


「今回の戦い、少しだけ参加させてもらった。いつもは傍観するばかりだが、いざ戦うとなると、戦う現実というものは重い。悩み、葛藤する。その争いの種を作り続ける神の子孫は、やはりここで断ち切らねばならない」
「えぇ。ですが案外、それだけに問題は収まらないものです。未だ、あの十三の刀、刀工とうこうは不明なのです。もしや、我々の相手は遥か昔より「世界」だった、のではないかとも思いますよ」
「あぁ、こんな遥か昔の親戚同士の争いなんて、小さなもんなんだろう。今回はそれがわかった。それに……」
「それに?」
「俺をどこかでヒーローと思ってくれる人、それがいたことがわかったんだ。過ちすら、償っていける気がする。彼らが彼らの思うままに生きることを、応援しようと思う」


 クスクスと、上品に笑う声がこだまして、吹き抜ける風と共に消えていく。隣にはもう誰もいない。その代わり、目を射るような光が、その瞳に差し込んでくる。


「さぁ、次は何を見ようか」


 後ろから呼び掛ける後輩の声に振り返る。もうひと仕事だ、とつぶやいて、まるで少年のように、駆けていくのだった。




 太陽なんてない、永遠の夜。その異界の地に、幸村は帰りついていた。おかえりと言わんばかりに駆け寄ってきた死霊をなぎ倒し、定位置であったがれきの山の上へと昇る。そこからは敵を見下ろすことができ、また簡単にも登れないため、安全だった。


「全くよぉ……どこに行ったって安全安心なんてねぇなぁ……」


 幸村は大きくため息をつく。実際、異界を切り裂く唯一の一撃を放てるキーマンであったとしても、最後は、愛する人間のために犠牲を出した。ぶっちゃけ、破壊すらもくろんだあの可愛い神様が、この世界から幸村を出すという約束を守ってくれるかどうかも怪しい。


「そもそも、あっちの世界はどうなったんだろうなぁ。今頃、何とかなってんのかな」


 唯一気になるのは、あの触手をはやした少年が、どうなったかということだ。


「まさか……あいつのせいで世界消滅なんてねぇよなぁ?」
「さぁね、どうでしょう」


 誰に聞いたわけでもなかったのに、その答えは返ってきた。隣にはいつの間にか、白い着物姿の少年が座っている。あの触手の少年と同じ顔をしているが、どこか違っていることはわかる。そして、敵ではないと同時に、適わないこともわかった。


「まさか、お前……というかあの男が滅ぼしたとか?」
「まぁね、そうなる。そして俺が作り直した」
「ぬぁ!? まじかよ……とんでもねぇ神様だったか……」
「うーん、実際にはちょっと違うけどまぁいいか」


 そして、幸村が目を付けたのは、腰に付けた刀だった。その刀を、幸村は良く知っている。


「……その限りなく白に近い柄、闇夜に神々しく光る黒い鞘。まさか……」
「君は良く知っているだろうね。でも、君の家の使い方じゃあ、本来の力は出せないよ。そもそも十三本の刀なんて、たまたまここの神様たちと波長が合っただけで、運用方法は全く別だ。それはもはや世界の柱で……」
「すまん! わからん!」


 そのはっきりとした断り方に、和仁はハハハッと笑った。


「斬新な断り方だ。気に入ったよ。特別にいいことを教えよう」


 そして、耳もとでそっと囁く。緩やかだった幸村の顔は、険しく強張った。


「きっとね。じゃあ、ここの異界は頼んだよ。創造神は今頃、世界を作り変えられてへこんでるからね、また今度、君の魂の開放は伝えておくよ」


 言うだけ言って、押し付けるだけ押し付けて、光の泡となって消えていく。それを見た幸村は大きく息を吸って、それを声に変えた。


「あぁー! 俺の戦い終わらねぇのかよぉぉー!」


 思いっきり叫んで、そこから腹を抱えて笑い転げた。この世界の戦いは、まだまだ、終わらない。その瞳は常に映し続ける。その戦いを、その運命を背負って。


……一つの物語は、一つの終わりを告げる。それと同時に、いくつかの物語の始まりを告げる。


 それは終わらない、描かれ続け、回り続ける「世界」であり「運命」


 その瞳は何を見て何を映す?


 次の物語セカイは……まだきっと、変えられる世界────




 君の瞳の中で~We still live~終わり



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