君の瞳の中で~We still live~

ザクロ・ラスト・オデン

区切り

────まったく、わけのわからない話だ。


……彼、覚元和仁のオリジナルが話したことは、実際、人間が全部理解できるような世界ではない。


 それでも彼は、満足したように笑う。


────必要だったのは「世界」の仕組みを理解することではない。誰か一人でも「未来を目指す意思」だった────


「ここは……」


悠治が目を開くと、そこは、地獄の炎に焼かれ、赤黒く染まった、二上町だった。空は黒く、地は燃え盛る。これをこの世と呼んでいいものか、これを、世界と呼んでいいものか。これは、人間なんて生きることを許さない、絶望の世界だった。


「ここは、2週目でもあり、1週目でもある二上町。世界は一つに収束した。世界の滅亡といった形でね」
「……こんなことがあっていいのかよ」
「まぁね、確かに。1週目の和仁は、自分の存在で多くの人間が苦しむと悟り、世界を滅ぼした。そこで、世界は無理やり2週目に入ったんだが、そこでコスモが介入、本来あるべき2週目とは違った形になった」
「2週目の世界の、ありえた可能性みたいな感じか? 英語で言うIFってやつ?」
「正確にはIFはありえちゃいけないんだけどそういうこと。そして、2週目の世界も、こうやって滅亡した。そこで俺は考えた。3週目を作るのではなく、1週目と2週目を重ねて、新しい世界を作ろうかなって」
「はぁ!?」


訳が分からない、スケールがでかすぎる。悠治の頭は混乱していた。そもそも、世界の仕組みなんて、わかったように接しているが、悠治の頭ではさっぱり理解できていない。なんせバカなので。
オリジナルの和仁は笑顔で話を続ける。どうやら、説明したくて仕方ないようだ。


「ちょっと説明するとね、1週目の和仁が、自分という存在が二度と世界に生まれないように、自分の存在を世界に刻み「座」っていうものを作ったんだけど、そもそも「世界の柱」として存在する人間は、みんな「世界」に刻まれているんだよ。もともと「覚元和仁の座」はあった。じゃあ、1週目の和仁がさらに刻んだことで、何が起こったと思う?」
「自分の存在ができないようにしたんだから……世界を作り変えるとか?」


悠治もわからないままテキトーに答える。だが、オリジナルの和仁は「正解!」といって大げさに拍手した。その空気感が世界の滅亡風景と相まって、何とも言えない、複雑だ。


「世界創造、あとは、すべての覚元和仁の記録保存ね。いいものが付け加えられたんだよ。と、いうことで、1週目と2週目の和仁の記録と、世界の記録、そして世界創造によって、新たな世界を、俺が作ることができちゃうのです! っていう話」
「ややこしいなぁ。もう、わけがわからないから好きにしろ!」
「えー、神様みたいな存在からの世界創造レクチャーだぞー。ありがたくうけとれー」
「棒読みで言っても通じんわボケ!」


と、言いつつも、悠治はどこか信じていた。こいつならば本当に、世界を作り変えられるのではないかと。俺たちが何よりも願った、平穏を、作り出せるのではないかと。


「なぁ、世界を作り直すと、何が起きる」
「そりゃあ、世界だもの、いろんなことがあるだろうね。すべての悪が根絶されるわけではないよ。鳩だって残るし、もっと別の問題だって残る。解消するのは一つ、覚元和仁による世界滅亡の可能性だけ」
「ふーん、じゃあ、日和が生き返るわけでもないか」


こんな時、和仁ならなんて考えただろう。日和のいない世界なんて、と思ったんだろうか。ふと、あの時がよぎる。ただ見ることしかできなかった、一周目の和仁と、二周目の和仁の戦い。あの時、彼が発していた言葉は……


「生きたいんだ」


そう言っていた。生きていたい、悠治でさえそう思っていた。


「俺は、絶対に死なない、絶対に現実から逃げない」


そうだ、生きるために死んではいけない、そのために、どんなつらい現実が待っていても、受け止めなければいけない。


「この世界は、俺の生きる世界だ!」


そこまでを思い出して、ニヤリと満足げに、悠治は笑う。


「和仁、付けたすぞ。「俺たち」の生きる世界、だろ」


「俺たちの世界は、俺たちが決めるんだ」


その言葉は確かに、和仁が言っていた。声のするほうへ、ゆっくりと手を伸ばす。光へ、真っすぐに。


「あぁ、だな。和仁、今度はお前を一人にしない、みんなで……みんなで未来を作ろう」


光を確かに掴む。その光から次第に、求めていたあの彼が、形作られていく。


「3人目の和仁の誕生だ。おめでとう」


記録オリジナルがどこかで祝福していた。それを笑顔で見守ると。世界はまぶしい光に包まれて、体が歪むような感覚の中、悠治は静かに目を閉じた。


何もかも消え去りそうな中、一つだけ心にとどめた思い。それだけは絶対に失わずに。


────もしも、君の瞳に映るそれを、君の記憶と呼ぶのなら……それは、瞳の中に残る変えられない世界。


瞳に映り、記憶となったものは、絶対に変えることはできない、現実という世界になる。


だから、どれだけ世界が作り直されても、覚元和仁が見たすべては現実だ。


────それでも生きている、それでも生きていく。みんなでなら、乗り越えられると信じているから。




「ねぇ、白い着物の和仁さん、一つ、お聞きしてもよろしいですか?」


真っ白な世界。世界が生まれ変わる寸前。人間など、本来は絶対に存在しない世界。まぶしい光に包まれ、お互いの顔なんてわからない。それでも、声だけで確かに、お互いにを認知していた。


「あぁ、志乃さん。この世界の観測、ありがとう。この世界ではいろいろ仕事を任せちゃったけど、大変だったでしょ?」
「いいえ、覚元和仁、神代刀利の道案内。あまり苦労はしませんでした」
「そこでなんだけど、これ、覚えてる? 「世界」は誕生し、あるものは修正を、あるものは観測を、あるものは終結を、あるものは守護をその使命とするだろうっていう、間の祖の言葉」
「えぇ、「世界」は和仁、修正は悠治、観測は紀和、終結は刀利、守護は義仁として置いていたですよね? それが何か」


男はへへっと笑い、困ったなぁ、とわざとらしく言いながら続ける。


「いやぁ、世界リニューアルに伴って、ちょっとそこの配置変わっちゃって。守護になるんだけど、いいかな?」


しかし、女は動じなかった。むしろ、そんなことは最初から分かっていたかのようだ。


「えぇ、構いません。紀和家は「世界」に守られし家。「世界」の命には背きません。新しい神に、使えればよいのでしょう?」
「あぁ、志乃さん、本当にありがとう。この世界では助かったよ。また十三本の刀が集まらないように、調節よろしくね」
「わかりました。また、どこかで」


一層光はまぶしくなる。もう何も見えない、もう何も聞こえない。


「新しい世界が始まるのですね。私はその、一柱となるのでしょうね」


ふふふ、と優しく優雅に笑う女は、その世界を受け入れた。



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