君の瞳の中で~We still live~

ザクロ・ラスト・オデン

「世界」

「────す、て……」


 誰の声だろう。


「あー、テステス、聴力テストー。聞こえるか?」


 ゆっくりと目を開く。そこには、和仁の姿があった。


「ここは?」
「目を覚ましたか、悠治。目が覚めないもんで、ありゃ、記録抹消したっけ? って心配になったよ」


 記憶の抹消? 何をわけのわからないことを言っているんだ、こいつは。そう思いながら、悠治は目の前の人物を見つめる。
 だんだん、周りの景色が見えてくる。悠治は、ゆっくりとその状況を理解した。まずは和仁。白い着物に、白い袴。そして刀を帯刀している。
 そして周り。周りは黒く壮大な世界だった。その中を星のようなものが飛び交っている、まるで宇宙のように。そして、横を見ると、まるでこの空間の中心のような、巨大な光の塊があった。銀河系の中心部のように感じる。無機質だが、現実味がなく、幻想的だ。
 どうやら自分は、まるで空中に浮かぶように横たわっているらしい。


「ここは「世界」だ。たまに和仁が死んで、ここに帰ってくる。そのたびに、俺は追い返しているわけだ」
「和仁……が?」
「あぁ、和仁の体は、神の目によって回復し、死なないようにできている。お前はそう思ってたよな?」
「神様のおまけ……二神様のおまけだろうなって」


 すると、着物姿の和仁は、うーんと申し訳なさそうに、首を横に振った。


「あれはちょっと間違い。それはそうなんだが、和仁は俺の分身だから、俺が死ななければ、和仁も死なない。そして和仁の命を終わらせるかどうかは、俺にかかっている。だって、俺がオリジナルだからね」
「和仁の体の仕組みね……ってか、待ってくれ、俺は思い出したぞ。俺は和仁と戦ってたんだ!」


 あの瞬間を忘れない、二度目の死を忘れてはいけない。あの後どうなったんだ。和仁は、怜花は? 思い出した悠治の必死な様子を見て、和仁はくくくっと笑いをこらえた。


「……なんだよ、意味深だな」
「まぁね、そりゃだって「あの世界滅んじゃったもん」」
「……え?」
「ゲームで言うところのバッドエンドだよね。日の出と同時に、和仁は力を解放して、自爆した。そして、町も、世界も、全部焼却されちゃったってことさ」
「……んなあっさりというか! 世界の滅亡だぞ!」
「あはは、やだなぁ。オリジナルの俺は2回目だぞ、見るの。もう慣れたよ」
「慣れるか!」


だが、そのあっさりと告げられた世界滅亡に、悠治は少し気を落とした。


「なんだって? 俺のしたことは全部無駄だったか、とでも思ってるでしょ」
「まぁな……誰にだってわかるわな、こんな気持ち」
「確かに。でも、善戦はしたね。悠治のやった和仁との戦いは間違いじゃなかった。あそこでパンドラとなった和仁を殺し切れば、焼却は防げただろう。……どちらにせよ、ゆっくりと世界は消滅していったが」
「ゲームだったら積みじゃねえか。どこで間違えたか……なんて、もうわかんねぇなぁ」


 起き上がっていた体をまたゆっくりと寝かせる。もう、考えるのもやめた。もうこれ以上どうにもならない。世界は消滅したんだから。もうどんなヒーローが行ったって、世界は救えない。いわゆるふて寝、悠治は寝返りを打って、和仁から目を逸らした。


「まぁ、ふて寝でもしている間に「世界」の俺からちょっと解説してあげる。どこで間違えたか、それは少々愚問だね。だって「最初から」間違ってるもん」
「あぁ……コスモが作ったんだっけ、あの世界」
「そうそう、元をたどれば「世津達見と結ばれるための世界」を作ろうとしたこと、これが間違い」
「私利私欲のために世界を作ることがか」
「あー、そこじゃないんだなぁ……私利私欲で世界を作る神なんていっぱいいるし。問題なのは、必要要素を入れなかったことだね。矛盾が生じてこうなったんだ」
「?」


 和仁の発言に、思わず寝返りを打ち、悠治は和仁をじっと見る。


「続き、聞きたい?」
「あぁ、めっちゃ」


 じゃあ、と言って、和仁は突然、画面のようなものを出現させた。その画面には「世界の作り方講座」というものが映し出されている。


「なんじゃこれ」
「うーん、まぁ、一番上の神様がお遊びで作った、ルールブックのスクリーン版なんだけど、まぁ見ていってよ。ここ何千年か誰も見てないけど」


 細かいことはいいじゃないかというように、和仁は悠治をなだめる。そうして、画面は動き出す。


「まず神が世界を作るときに、必要な材料がある。「天」「地」「人間」「感情」これは絶対になければ作れない。人間の部分は、ライオンでも、クジラでも、ミジンコでもなんでも結構」
「じゃあ、ライオンとかには感情いらないんじゃねぇの?」
「だが、生きなければならないという本能とか、食べなければいけない食欲とかあるだろ。感情はこれに属する」


 そして、画面は次のスライドを映し出す。罪という文字と、人間が書かれたイラストだ。


「そして、人間を作るとき、もう一つ付けなきゃいけないものがあってね、それが「罪」なんだ」
「え……できればいらなくね? それ」


 甘いなぁ、と言いながら、バカにするように人差し指を素早く降る。バカにしてんのか、と悠治が言いかかったあたりで、和仁は落ち着いて話を続けた。


「罪、その意識は人間の原動力だ。例えば、食べ物を食べなければ人間は生きていけないとする。そうすれば、ほかの命を刈り取らなければならない。つまりほかの命を奪った、罪だ。人間は、生きるために罪を犯す。人に迷惑だってかけるし、ミスだって犯す。人間に感情を備える限り、必ず罪はついて回る。そしてその罪があるからこそ、人間は生きることができるんだ」
「その設計ってさ、変えられないの?」
「いじることは可能。でもそうしたら、さっき悠治のいた世界のようになるってわけ」
「……どういうことだ?」


 次のスライドを映し出す。


「罪、があるということは罪の元「原罪」というものがある。例えば、旧約聖書で例えるなら、アダムとイヴは楽園を追放されただろう。神話で例えるなら、パンドラが開けてはいけない箱を開けたことだろう。罪の元、が必ずある。「世界」のルールとして「パンドラ」と呼ばれる人間を置くと決めている。そこから人間が始まった。だからこれはなくてはならない現象なんだ」
「なるほどな。でも、和仁はパンドラになってしまった。だが、それは怜花を生かそうとしたからだ。和仁はパンドラの予備とか言ってたけど……どういうこと?」
「パンドラは常に一人じゃない。同じ時代に何人かはいる。そして、時代を動かせば、そのたびに死ぬ。男の可能性もあるし、女の可能性もある。例えるなら、マリーアントワネットとかかな。国を散々動かして処刑されたんだ。織田信長もそれだな。彼によって時代は動いたが、やっぱり死んだだろ」


 ついでだから、織田信長で例えよう、と、和仁はスライドをいじくって、勝手に新しいスライドを作る。織田信長、明智光秀、豊臣秀吉の三人が映し出された。


「ちょっと脱線して、世界の柱と、修正力と、パンドラの話をしよう。例えば織田信長がパンドラとして、時代を結局混乱させたのは誰だったか。歴史の細かい話はさておき、明智光秀だ。つまりは、織田信長と明智光秀は、お互いにパンドラで、お互いに予備だったってこと。どちらがその時代を狂わす原罪になるかは、わからなかったわけさ」
「なるほどな、それがパンドラの予備か。歴史で学んだのはそうだが……じゃあ安土桃山時代の世界の柱は誰だったわけ?」
「世界の柱っていうのは、本来分散するものなんだ。誰でもない人が柱のこともあるし、パンドラが柱のこともある。織田信長はパンドラであり、世界を動かす、世界の柱だったわけだけど、同時に、豊臣秀吉も世界の柱だった」
「……じゃあ、俺のいた世界って?」


 うーん、と言いながら、和仁はスライドをいじる。該当するようなスライドはないようで、頭をがっくり落とした。


「そうだね、異質だ。和仁が誕生するまでは、いろんな人に柱としての力があった。それが一気に、たった一人の少年に集中したんだよ、生まれた瞬間からね。理由は言うまでもない。コスモが世津と結ばれるための世界だ。存在しない世界を無理やり作るには、莫大な力を持つ柱が必要。そうして「世界」にある俺、つまりは「覚元和仁の記録」から、覚元和仁が生まれたわけ。だから、それには莫大な修正力が必要だった」
「それが俺……ってわけか」
「織田信長にとっての明智光秀ともいえる。異常があれば、柱だって刈り取るような修正力が、世界には必ずある。豊臣秀吉にとっての徳川家康のようなね。あー、家康が秀吉殺してないよ、とか、その辺はほっといてね」
「例え話だろ、ほっとく、続けろ」
「オッケー。だが、死の左腕をもってしても、世界の柱一本がでかすぎたんだな。歪んだ世界を無理やり作り出すための柱だもの。そりゃ、気づけないし届かない。灯台下暗しってやつ」


 気づかないよねー、とのんきに言いながら、徳川家康の肖像画を見せられる。


「ここで重要なのが、パンドラも、修正力も、柱も、本来は自分自身がそうであると自覚できないこと。しかしながら、覚元和仁は気づいたし、お前も気づいた」
「「世界」と繋がったからか? 俺は確かに一度……」
「そうだな。しかし「世界」と繋がる原因ができてしまったのも、元をたどれば世界の作り方のせいだな。本来はこんなこと起こるはずがない」
「え?」


 悠治が聞き返すと、和仁はスライドを戻し、もう一度、罪のスライドを映し出した。


「コスモは、パンドラを世界に入れなかった。それによって、世界には矛盾が起こる。罪がないはずなのに、なぜ罪があるのか。人間は自覚できないままだ。もっとも、そう簡単に自覚はしないんだけど、こういった世界はあってはならない。そうして「世界」から無理やりパンドラや、神が送り込まれたんだ。世界をゆっくりと終わらせるためにね」
「そのコスモは気づかなかったわけ?」
「「世界」の強制執行。気づかないよ。例えば、覚元和仁の父、覚元義仁や似非亮治が「間の祖」だったりとか、覚元日和や似非怜花が「パンドラ」だったりとか、似非悠治と似非怜治は「修正力」だったりとか……その時代だけでも様々さ。そうしてゆっくりと世界は終焉に向かった。最後は、和仁にすべての力が集約してしまったわけだ」
「あの……人間とは思えない姿? もはや化け物だけど、お前に近づいていったわけじゃないよな」
「……どれだけ近づいても、オリジナルにはならないよ。実は、ギリギリのところで、修正力と柱とパンドラは重ならなかった。しかし、和仁の神の目に、怜治の神の目が重なり、大参経由で、日和の神の目も重なった。瞳の中に修正力とパンドラの一部。和仁の受け取った弾丸から、間の祖の力。そしてパンドラから和仁が抽出したパンドラの力。残るピースは一つ、お前の命だった」
「ピース? それが揃うと何が起こる?」
「俺に最も近いニセモノになる。計り知れない力の塊。力の強さは、手をかざすだけで世界の終わり。柱が一つに集約され、力も罪も集約される。俺に最も近くなる代わりに、体が崩壊を起こす。お前が魂も残さず死んだことで、修正力としてあった、死の左腕が「世界」に返還された。よって彼の元に力が揃って、世界終了ってね……」


 軽く言っているが、軽いことではない、世界一つ滅ぼす、とても重要なこと。わかっていての和仁は笑顔だった。


「必ずしもパンドラが世界を終わらすきっかけなわけじゃないんだが……今回の終わり方はびっくりするほど特例だ。だからこそ、最後まで戦い抜いた、悠治に聞きたい」


 そう言いながら、和仁は鞘から刀を抜く。そして、悠治の首元にあてた。気を抜けば殺されそうに、空気が一気に張り詰める。悠治は顔をしかめた。


「……なんだ?」
「どんな未来でも、歩む覚悟はあるか」


 すると、悠治は鼻で笑った。その様子に、和仁はどこか拍子抜けだった。


「当たり前だ。そんなことより、和仁に聞いたほうがいいだろ。あいつが柱なわけだし……ってお前か」


 その時、堪えきれなくなったのか、和仁は刀を置いて、腹を抱えて笑い始めた。ひーひー言いながら、悠治を指さす。訳が分からない。何を見て笑っているのか、それとも、ちょっとした悠治のボケに突っ込んだのか。


「ははっ、はーあ、なるほどね。悠治は誰よりもほかの人の未来を応援するんだね。わかったよ」
「まぁな、俺死んでるし。今も、さっきも。あとはさ、未来を歩むんならみんなでだろ。あいつ一人に背負わせない。俺だって逃げない」
「あーあ、良かった。お前を呼んで本当に良かった。その言葉が聞けて俺は嬉しいよ、悠治」


 着物の和仁は、満面の笑みを浮かべた。悠治は全く理解できない。それでも、どこか安心しているような、信じきったようなその顔は、悠治をニヤリと笑顔にさせた。
 その瞬間、見渡す景色は、真っ白に染まっていった。何もかも、塗りつぶすようなその白に、圧倒されるように悠治は目を閉じた。

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