君の瞳の中で~We still live~

ザクロ・ラスト・オデン

「その力は、間の祖としての力! 継承されたというのか!?」


もう一人の覚元和仁は驚きを隠せない。予想していなかったのだ。こんなことはあり得ない。そもそも、あんな莫大な力を手にして、平然といられるはずはない。
だが、覚元和仁は、平然と、そして覚悟のある目で、もう一人の覚元和仁を見つめていた。気づいた。彼は最初からありえない存在だったんだ。その存在を創造したのは創造の神だと思っていたが、手伝ったのは「父親として存在した間の祖」だったというわけか。
だとすれば、その力が拒絶反応を起こさないのもうなづけた。


「なぁ、もう一人の俺。俺が「記憶を保持した自分自身」は、未来から俺の運命を変えるためにやってきた。俺を「唯一の未来」に導こうとしいる。そう言ったとき、正解だ、といったな」


覚元和仁は、ゆらゆらとした足取りで、ゆっくりと、しかし着実に、距離を詰めてきていた。片手に、ナイフを持ちながら。


「あぁ、その通りだ。そう、この世界の筋書きは違うところも多くあるが、俺に関する筋書きは変わらない。だからこそ、導いてやるのさ、この世界の「破滅」に!」
「どうして、この世界を滅ぼすんだ?」
「決まっているじゃないか。この世界が正しくないからだ。自分自身の存在で、世界が歪み、幸せに生きられないなら、滅ぼしたほうがいいに決まってる。その手に、決定権があるならば!」
「じゃあ、前の世界で生きていた人たちはどうなったの?」


その問いかけに、もう一人の覚元和仁は言葉を詰まらせた。


「死んだんでしょ? いいや「殺した」んでしょ?」
「あぁ……だって、俺の存在で多くの人が苦しむなら、最初から全部、なかったことにするんだ。殺したんじゃない、消したんだよ」
「そんなの、自分勝手なわがままじゃないか! そんなのは結局、逃げただけだ!」
「黙れよ……複製品の分際で!」


もう一人の覚元和仁、いや、一周目の和仁は、目を鬼のように変え、赤と青の目をギラギラと光らせ、風のように、和仁に切りかかった。そのナイフを、和仁は持っていたナイフで止める。だが、力でギリギリと押されていた。


「逃げてなんかいない! やり直すんだ! 俺のいない世界で、正しい世界を!」


一周目の和仁は左手にもう一本ナイフを出し、和仁の横腹を突き刺した。


「あ゛あぁ!」
「痛いだろうなぁ……だが、どうせ俺たちは死ねないんだ。白黒つけるまで、殺しあおうぜ」


怯んだその隙に、右手のナイフは喉元に刺さった。和仁の意識は飛ぶ。そして、死んだように倒れた。


「どうせ死ねないさ。神の目で体は修復され、また戻ってくるんだから」


意識は遥か彼方。何処か遠く。無限の記録の海に、それはあった。


────俺は、どうしたら救われる?


……さぁな、答えはわからない。


────お前は、誰だ?


……さぁな、知る必要もない。


────俺の様で、俺じゃない。


……さぁな、どうだか。


────なぁ、俺はどうすればいい?


……簡単なことさ「信じたものに従えばいいんだ」


「世界」の中、その影を見た。そこには、座に記録された、永遠に消えない存在がいた。その存在は確かに笑って告げたのだ。


……さぁ、油を売る必要はない。「生きる」んだよ。どこまでも、人間らしくね。


「動かないな。本当に死んだのか?」


一周目の和仁が、もう一度、和仁の体にナイフを突き刺そうとしたその時、和仁の宝石のような目が開いた。突然のことに驚き、すぐさま一周目の和仁は距離を取る。
和仁はゆっくりと起き上がり、もう一度、赤と青の翼を羽ばたかせた。


「ここに俺がいるのは、多くの人のおかげだ。すべての人がいてこそ、俺はここにいる。誰一人欠けることはあり得ない。そこで、何人もの人が死んだとしても、俺を存在させることに変わりはない。俺は受け入れて、その上で、生きていくんだ」
「お前が、周りを不幸にしてもか」
「あぁ、その分、周りを絶対に幸せにする。罪の数だけ、生きるんだ。どこまでも人間らしく」
「俺たちは人間ではない、そんなことは無理だ」
「でも、確かに人の形をしている。中身なんてどうだっていい。どう生きるかが人間かを決める。父さんは人間だったんだよ」


だが、それを一周目の和仁は受け入れなかった。受け入れなかったからこそ、世界を滅ぼした。その考えは今も変わらない。それが一周目の和仁の出した答えなのだから。


「では、どこまでも人間らしく、生きてくださいますか?」


小鳥のような美しい声が響く。白いブラウスに黒いフレアスカート、お嬢様という雰囲気そのものの、か弱い女性。ここにいるのが、本来はありえない女性。そして手には、二本の短刀を手にしていた。


「紀和……先輩……!」


和仁にとってみれば、2年ぶりの姿だった。2年前、鳩との戦いで大けがを負い、心配していた人だ。復讐への道へ狩り立たせたのは、志乃のケガも一つの理由だった。
戦いには絶対に向かない志乃を、それでも戦わせたこの争いを、心の底から憎んだ。


「ここまでなるとは想定外でした。ですが、だからこそできることがあるでしょう」


和仁の人ならざる姿を驚くことも、慄くこともなく、静かに近寄っていく志乃。そして、そっと、その短刀を渡す。


「覚元くんなら、神社を触媒とし、二神様の力を発揮させる「失われた十三本」を復活させ、世界を作り変えてしまうだろうと思っていました。それは、ここまでの存在になる前から、私や、世津さんたちが危惧していたことです」
「俺は、世界を作り変えることはできない。壊すか、続けるかだ。でも俺は、続けることを選ぶよ」
「えぇ、そういうと思いまして、こちらの神具を持ってまいりました。これは、失われた十三本のうち、二本のレプリカです。ですがあなたは、これを触媒にして、本当の刀を呼び出すでしょう」
「本当の刀?」
「えぇ、詳しくは理解できませんが「世界」の記録から呼び出せるのでは?」


それだけ言い残すと、志乃は和仁から離れていった。


「紀和先輩! 俺は、この道であってるんですよね!」


離れていく志乃に、精一杯の思いで叫ぶ。本当に志乃なのかも、わからないその人に、あり方を問いかけた。


「あなたの思うままに。ご武運を」


まるで幻影のように、紀和は遠くへ見えなくなっていった。ここにいたのか、それさえもわからない。だが確かにここに二本の短刀がある。それが証明だった。


────意識を集中させる。刃に、その刀すべてに。ここまでのすべてを、噛みしめるように思い出していた。
記憶を失った状態で目が覚めたこと。すべて取り戻して絶望したこと。家族が全員死んだこと。親友でさえも死んだこと。それでも受け入れて、戦おうと決意したこと。自分が複製品だったこと。それさえも肯定した「愛」を、思い出していた。
今、できることは何か。その手に世界が委ねられているならば、この手で、世界を幸せにする。それが必ず、自分自身の幸せに、そして未来に繋がると信じて!


「十三の誓い、ここにあり。神は我らに、我らは神に力を。この刃は神とともにある! 十三の四・玄武、十三の五・霊亀!」


どこからともなく、水が湧き上がる。その水は刀を包み、そして、和仁を包んだ。


「神の刀……あぁ、一周目の世界にもあったさ。誰が作ったかわからない、十三本の刀が! まさか作ったのは!」


水がはじけ飛ぶ。水しぶきが上がり、周囲は彼の世界になる。時が止まったようなその世界で、一周目の和仁はただ、見つめることしかできなかった。その圧倒的な神の力を。


観測不能アンオブザーバブルワールド!」


水滴が地面に落ちる前に、その二本の刃は確かに対象である、一周目の和仁の左腕をとらえていた。


「バカな! ありえない! 観測不能アンオブザーバブルタイム!」


使い物にならなくなった左腕を振り回し、何とか身をよじる。そして、残った右手で、世界の欠片を手にした。時を止める力と「世界」を止める力がぶつかり合い、ナイフと短刀は火花ではなく、虹色の光を放った。
本来ならば、一周目の和仁がこらえきれた、はずだった。だが、ナイフは無情にも砕け散る。


「この世界は、俺の生きる世界だ!」


玄武は胸を、霊亀は腹を切り裂く。流れ出たものは血ではなく。虹色の粒子だった。


「認めない……あるべき、未来へ!」


最後の力を振り絞り、その右手を掲げ、無数のナイフを出現させる。すべて世界の欠片。すべて、彼の思い。概念は「死」


「認めない……認めるかぁ! 観測不能アンオブザーバブル無限アンリミテッド!!!」


漆黒の光を放ち、轟音を響かせ、空間も、天も、地も、すべてを殺す勢いで、そのナイフは和仁に迫る。


「届けえええええっ!」


だが、和仁は二本の短刀を掲げた。その無限の刃に真っ向から向かい打つ覚悟だ。


「その思いを、確かに受け取った。だからこそ、生きよう。観測不能アンオブザーバブルライフ


振り下ろした刀から放たれる光は。死を覆す。すべてを肯定し、すべてを受け入れる。生きることが、愛することに繋がる。そう信じた和仁の概念の力だった。
ナイフはすべて消えた。翼も刀も消えて、何もなくなった。武器もお互いに持たない状態で、和仁は一周目の和仁に近寄った。一周目の和仁は、ボロボロになり、もはや消滅まで猶予はないといった状態だ。


「生きたいんだろ、生きたかったんだろ」
「無理だよ、俺には。世界を壊した俺には。それに、教えてやる」
「何……?」


かすれた声で、一周目の和仁は、告げる。


「俺は、覚元和仁という存在を、世界に刻んだ。その時点で、一周目の和仁は消滅する。座に記録された覚元和仁だけが、オリジナルになる」
「じゃあ、お前……」
「そうだ、もはや俺ですら「複製品」だ。わかってはいたさ。それでも、座に記録した覚元和仁を作ったのが俺なら、俺がオリジナルなんだって」


そうか、認めないのは自分ではなく、「消えた」一周目の和仁の存在だったのか。和仁はそれに気づいた。
どの世界に立っていても、それは「世界」に記録されたデータの、複製でしかない。一周目であれ、二周目であれ、オリジナルではない。


「だが、俺はこう思う」


一周目の和仁は、姿が保てず、へたりこんだ。足元から、粒子になって消えかかっている。それでも、話し続ける。


「オリジナルなんて関係ない。自分らしく生きれば、それはオリジナルにも勝る。複製品が、原型に及ばないことはないはずなんだ。ただそこに、生きる意味があれば……」


そこまで言って、一周目の和仁は笑った。仕方がないと、諦めるように。


「あぁ、そうだ。人の生き方に、口出しするもんじゃない。だが、もうひとりの俺。お前のおかげで助かったこともある」
「何だ? 迷惑しかかけてないが?」


和仁は首を振って、今できる精一杯の笑顔で答えた。


「俺の道しるべになってくれて、ありがとう」


一周目の和仁は、一つ、涙をこぼし、笑う。その人生を、最後は謳歌するように。


「先回りしたんだ。それは当然だろ?」


その笑顔のまま、一周目の和仁は消滅した。一周先の滅んだ未来からやってきた、もうひとりの自分自身は、最後は生きることを選んだのだ。


「俺は、絶対に死なない、絶対に現実から逃げない。俺の分は、俺が生きる」


和仁は決意を新たに、何もなくなったその場を離れた。



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