君の瞳の中で~We still live~

ザクロ・ラスト・オデン

────「世界」は最初に、破壊と創造を作った。


────「世界」は次に、小さな世界を作った。


────「世界」は次に、天と地を作った。


────そして「世界」は「人間」を作った。


────「世界」は「人間」を作る際に、肉体と精神と感情を作った。


────しかし、そこに大きな間違いがあったのだ。


 赤と青の美しい翼で、その祖はこの世に顕現する。「間の祖」この世界を作った要因の一つだった。
 似非大治は、蘇ったその力を使い、この地を滅ぼさんとする勢いで戦った。アスファルトはめくり上がり、電柱は歪み、街路樹はその原型を留めていなかった。
 だが、間の祖には一向に触れられない。何か見えない壁に、すべてはじかれているかのようだった。


「見事、貴様はなかなかやるようだ。だが、所詮は劣化版。完全には程遠く、貴様が目指すものには届かない」
「はっ、何を言う。これほどの力、とうに太陽の神を超えた! 俺はこの地を支配する神となる! それが俺の野望!」


 だが、その言葉を聞いて間の祖は鼻で笑う。その顔に表情などなく、感情など全くないようだった。だが、それでも、大治には、見下されたように感じたのだ。


「鼻で笑いやがったな、この俺を……!」
「当たり前だ、言っているだろう。貴様は劣化版なのだと」
「原初のお前からすれば、確かに俺は劣化版だが、それがなんだ。この地の支配とは関係ない」
「さっきから、貴様こそ何を言っている?」


 その会話が噛み合っていないことに、大治はたった今気づいた。


「お前は、太陽の神、月の神の先祖、原初の姿……つまりは真の神だ。その神は、願いを叶えるんじゃないのか!?」
「逆に問おう。願いを叶えるのが神だと言うなら、貴様はいったい何を目指している? 破壊神か? 破壊の神とて、願いは聞く。貴様のような、支配だけのために存在はしない」


 大治は、何か言おうと思ったが、言い返すことができなかった。自分はいったい、何を目指してここまで来たのかと。神とはいったい、なんだったのかと。


「待て、太陽の神は、何の神なんだ! お前が神なら、俺は何なんだ!」
「所詮、貴様は劣化したもの。我が赤い翼から、肉体だけを操る神を、我が青い翼から、精神だけを操る神を、数ある世界に置いた。その神同士が交わり、また交わり、離れ、壊れ、原初から離れすぎた結果、一周回り、原初に近づいた。それが、貴様たちの言う二神様だ」
「じゃあ、俺は……?」
「原初から離れた子孫から、分身したのがお前だ。さっきから言っているだろう。ただでさえ原初から離れ、劣化した神のなりそこないから、分身したのが貴様なのだ。故に、貴様は神になどなれず、そもそも、神になろうとするものが、なぜ神に願いを叶えてもらうのだ。無力の極みだろう」
「そ……んな……」


 大治は地面に崩れ落ちた。すべてを知ったうえで、絶望した。望んでいた願いがどれだけ小さく、そして遠いものだったのかを。
 似非大治は、よくできた鳩だった。100年ほど前に、太陽の神から分裂した似非大治は、同時期に分裂した亮治とともに、人間を監察し、そして、人間に近づいた。そのなかで、小さな闇が生まれた。


「なぁ、亮治、この人間たちをどう思う」
「……僕にはまだわからないよ。大治兄さんには、わかるの?」
「あぁ、わかる。この世界は間違っているよ。俺たちは、正しくあらなければならない」


────どうしてこの町の人々は、神を忘れて、のうのうと生きているのだと。
 太陽の神と月の神を、そしてそこから生まれた二神様を、この町の人間は忘れていた。町は少しずつ、現代に向かって歩みだしていたのだ。神とともに歩んでいた時代は終わり、人間は人間の町を作ろうとしていた。
 その中で、異形などもってのほか、迫害など同然だった。そのなかで、その闇はさらに大きくなった。
────どうして人間は、自分と違うものを差別するのかと。


「人間なんて、間違っている。今日だって、人間どもは亮治を殴った」
「そうだよ……でも、僕は仕方ないと思っている。僕たちは人間にはなれないもの。殴られて当然だよ。大治兄さん。僕を今日も助けてくれてありがとう」
「あぁ、でもな、それがおかしいんだ。違うものをなぜ差別する。恐れているのか? 俺たちはただ、近づきたいだけなのに」
「そうだね……それがわかってもらえたら、とても嬉しい。でもいいんだ。僕は少しずつ、人間をわかっていくよ」
「それが……遅いんだよ」


 そして、大治はある結論にたどり着いた。────異形がこの町を支配すれば、差別などないのではないかと。
 そうして、異形の存在を人間の身に刻めば、太陽の神がこの地に戻っても、誰もが崇めるはずなのだと。
 だからそれまで、自分が支配すると、そう誓った。


「ねぇ、大治兄さん、最近おかしいよ」
「どうしてだ? お前を殺そうとした人間を殺しただけだ。仲間を守るためなんだ。これは正義なんだよ」
「僕は……人間と仲良くなりたいんだ。殺したいわけじゃないんだ!」
「亮治、俺たちの本当の目的を忘れたのか? 太陽の神の復活だ! だが、こんな場所に、神の居場所などない。ならば、それを作るのが俺たちの使命だ!」
「僕には……それが正しいと思えない。それで殺すのは間違っている! もういいよ、大治兄さん。僕は、義仁のところへ行く」
「待て、亮治、裏切るのか、貴様!」


 だが次第に、その誓いは歪んでいった。人間の闇を知れば知るほど、大治は歪んでいった。正義などない、だからこそ悪でも構わない。人間を完全に従わせる力があるならば、何でもいいと思うようになった。
 その上で、肉体の支配だけでは飽き足らなくなった。そして、精神の目をねじ込むことで、精神さえも操るようになった。
 そして、その考えは形を変えた。次第に人間を裏で操れるようになった大治は慢心した。自分自身が、このまま太陽の神に成り代わってしまえばいいのだと。この悪に染まった人間の世界で、悪で正義を執行する神となろう、と。
────そのために、死神とはあるのだと。


「義仁、堕落した、使命を忘れた鳩が! 所詮、お前は人間になれない、どれだけ人間と交わろうと、その子供は、人間にはなれない!」
「そうだろうか、では、大治。お前の思う人間とは何なんだ?」
「何を言う、人間など、神が導かなければ何もできない、無知で愚かな怪物だ!」
「その言葉を、そっくりそのまま返そう。俺は思うよ、俺自身は限りなく人間だと」


 そして、たった今気づいた。自分の掲げた理想など、最初から間違いで、そもそも叶うことなどないと。


「その力、問わせてもらった。貴様には心底失望した。同じ劣化であっても、覚元義仁、彼は優秀だったのだがな」
「なぜだ……なぜ人間の手に落ちたあいつが優秀なんだ! あんなの、太陽の神も、俺たちも否定している! あんな奴のどこがいい、あんなやつの何が正しい!」


 尚も、自分は正しいのだと信じ続けた。義仁が間違いなのだと、思いこんだ。
 義仁は、大治よりも10年ほど後に、太陽の神から分裂した。しかし、鳩が分裂した際に、最初は全く持たないはずの謎の思考を、彼は最初から持っていた。


「神は不要だ。神はこれから先の世界には、必要ない」
「どうしてだ?」
「例えば亮治、お前はギリシャ神話を知っているか? あれは人間の定めた、紀元前だろう」
「あぁ、そうだ。人間のような神、不思議な神話だよ」
「そうだ、そんな神がいたのは、2000年より前なんだ。その後、イエスの登場の後、人間の歴史の中に、神は大っぴらに出てきただろうか」
「義仁……それが、お前の思う、神の時代の終わりなんだな」
「そうだ、神の世はとうに終わっている。それなのに800年前、この町には神話ができた。俺は思うんだ、これはおかしいと。もう人間の時代なんだ。異形は異形、人間は人間で、うまくすみ分けて暮らせばいいものを」
「だが……それはできない。僕らは常に迫害を受け……」
「じゃあ、溶け込めばいいだろう」
「……?」


 神は不要である、そしてこの世は人間の世なのだから、異形はうまく交わって暮らすしかないのだと、鳩の生き方根本を説いた。なぜ、義仁には、鳩にはないはずのその思考があったのだろう。
 その思考は、もちろん、大治とぶつかった。その時、大治は気づいたのだ。義仁は、普通の鳩ではないと。
 一番単純な理由は、「分裂した時から、精神の目を左目に宿していたから」だろう。鳩の中の異質イレギュラーだった。
 だから、異質なものの上の異質ならば、なおさら考えなどわかりあうはずがなかった。義仁は常に、鳩たちの先を行っていたのだから。


「覚元義仁、彼の何が正しかったか、貴様はそう聞いたな」
「あぁ……あんなやつ……おかしいんだよ!」
「同類が差別をするのか。差別に疑問を抱いたはずのお前が、同類を差別するのか。貴様の最大の矛盾であり、また、お前もどこか人間だ」


 その時、見えない何かが首元にある感覚に襲われた。それはどこか冷たい刃物のように、大治の首元に見えずともあった。


「死ぬ前に、教えてやろう」


 その言葉を、大治は確かに聞き取る。間の祖がうっすらと浮かべた笑みは、大嫌いな義仁によく似ていた。


「へぇ、最初から俺は噛ませ犬か」


 刃物なんてそこにはなかった。だがその何かはしっかりと対象をとらえたのだ。
 宙に舞う、白髪の男の頭。その残骸が地面に叩きつけられたその時。


「この世界の柱」は、そのナイフで、確かに間の祖をとらえたのだった。

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