君の瞳の中で~We still live~

ザクロ・ラスト・オデン

視覚

 一対の双剣は、今、分たれ、火花を散らしぶつかり合う。それぞれの持ち主の思いがぶつかり合い、その戦いは熾烈を極めた。
 両者、一歩も引くことはない。常にぶつかり合い、一定の距離を保ってはまた、ぶつかり合う。それは、互角の争いだった。


「2年前、お前と出会ったときも、こうだったな」


 大参は一息つき、剣先を似非に向ける。それに答えるように、似非も剣先を向けた。


「2年前は、俺が逃げた。だが、今度は絶対に逃げない。和仁が眠り続けるならば、大参、お前が俺を殺してくれ」
「それにしては、死にたくないかのように、戦い続けるじゃないか。大人しく、首を差し出せばいいんじゃないか?」


 似非は首を振り、魂から否定した。


「違う、お前とは戦わなくてはいけない」
「何故だ」
「俺自身が、お前を殺したいからさ!」


 それはどこか、悲痛な叫びのようにも聞こえる。ぶつかる剣、その度に脳裏をよぎる、夏のある日……




────14年前。3人の仲はとても良かった。日和、その幼馴染の大参、そして似非。


3人は昼休憩を共にし、部活動を楽しみ、休日もよく遊びに出た。仲良しの3人組だったのだ。


それが崩されたのは、その年の夏、8月28日だろう。


あぁ、一つの視点からでは誤解が生じる。いくつかの視点を交えよう。


気にするな、今から見るものは「世界」としての記録の再映に過ぎない。


では、俺は誰なのか。そうだな「世界の断片」を見た、その過去を嘆く一人の少年だ。




 8月28日。夏の終わりを感じさせない暑さ。校内に植えられた木から、セミの鳴き声が聞こえる。ここは屋上。セミの声は下から聞こえ、空がずっと近く感じる。吹き抜ける風が、とても気持ちいい。


「あんた、こんな屋上で寝っ転がれるなんて、相当体がイカれてるのね。脳みそはあるのかしら、ニンジン野郎」


 少女がスポーツドリンクを持ちながら近寄ってきて、足でゲシゲシと俺を踏む。


「いいじゃんよ! 久々の登校日だから、ちょっと屋上満喫だよ」


 飛び起きると、その少女は、俺にスポーツドリンクを差し出した。


「まぁ、いいんじゃない? コンクリートの上に寝っ転がるなんて、イカれてるとしか思えないわ」
「健康的な日焼けがしたかったんだよ。で、なにこのスポーツドリンク。くっそマズイ!」


 ちょうど水分が欲しくてがぶ飲みすると、そのスポーツドリンクの、甘ったるくて酸っぱい奇妙な味が、腹から湧き上がってきた。


「あ、これ、不評のイチゴ味のスポーツドリンクか! 日和はひどいことするなぁ」
「にひひー! イチゴで脳みそは増えたかしら、ニンジン野郎」


 日和はニヤニヤと、いたずらが成功した子供のように笑う。ニンジン野郎、大参孝人の字をとり、人参にんじんと読めることから付いたこのあだ名、幼稚園のころからこれである。


「おーい、ここにいたか、大参。さっき教室で、お前のこと探してるやつがいたぞ」


 その屋上に乗り込んできたのは、白髪に赤い目、アルビノという体質の友人、似非だった。


「誰が探してた?」
「あぁ、望月だったと思うよ」


 望月明もちづきあきら、この学校の生徒会に所属する、未来の生徒会長とうたわれる男。同じ部活の友人だが、俺に何の用だ?


「わかった、ありがとな。じゃ、日和、またな」


 俺は、日和に軽く手を振る。すると、日和は、急にその手を握ってきた。


「今度、私の弟に会ってみてくれる?」
「えっ!? うん、まぁ、いいけど」
「そう! じゃあ良かった、行ってらっしゃい!」


 日和はパッと手を離し、手を振って見送った。どこか、いつもと違う違和感を感じたのは、気のせいだろうか。




「……大参、行っちまったな」
「あんたのことでしょうから、望月くんの呼び出しは嘘じゃないんでしょ。でも、行かなければいけないほどの急用じゃない」
「相当、お見通しだな、どこまで見えてんの、その目」


 日和は、さっきまでの大参への態度とまるで変わった、冷たい態度を俺にとった。俺も、乾いた態度を取るまでだ。


「さぁね、ある一定の未来まで、かしら。それより話があるんでしょう、私に」
「あぁ、耳打ちしたとおりだが、親父に神の目をねじ込まれた」
「いつ?」
「先週」


 そう、と冷たく返事をしたかと思うと、日和は俺の顔を押さえつけ、強い目でじっと俺を見つめた。


「これはひどいわね。このままじゃ、あんた、人を殺すわよ」
「なっ……」


 それは、親父に言われた言葉のままだった。お前は将来、人を殺す殺人鬼となるだろう、いや、もはや死神だ。その親父の、高く乾いた笑い声と、赤と青の異径の目つきが、思い起こされて、離れない。


「い……嫌だ、俺は誰も殺したくない! こんな目、嘘だよな、冗談だよな!?」
「残念だけど、嘘じゃないわ。それに、その目を覚醒させてしまうのは、どうやら私みたい」


 嫌だ、そんな現実信じたくない。俺が誰かを殺す? 親父みたいに? 嫌だ、そうやって母さんを殺した親父のようにはなりたくない!


「先に言っておくとね、私の未来視っていうのは、確定した未来しか見えないの。だから、あなたが人を殺す未来は……」
「やめろ! 言うな、それ以上言うな!」


 日和は顔を背けたが、それでも、涙を浮かべた目で告げる。


「あなたに、一生残る呪いを残すことを、許してね。あなたのことが、2番目に好きだった」
「2番目? 1番は……?」


 仲睦まじい、日和と大参の姿がよぎる。あぁ、そりゃそうだよな、幼稚園のころからの幼馴染だもん。俺なんかが、好きになっていい相手じゃなかった。
 これが、人生で一番の失恋か。


 その時、左腕が黒い光を放つ。一瞬のことに理解が追いつかない。


「どんな思いで言葉を残しても、ダメなものはダメなのね……」


 日和は、よろよろとした、今にも倒れそうな足取りで、俺から離れる。
 待ってくれ、どういうことだ、説明してくれ。そう言いたくても、口はパクパクと動くだけで、言葉を発さない。
 離れていく日和に、必死に手を伸ばした。1番好きな人の名前を、教えてくれ。そうすれば、きっとスッキリできる、この心のモヤモヤも、きっと消えてくれる。
 だから……行かないで、俺を一人にしないで、日和……
 めいいっぱい伸ばした左腕は、黒く輝く。その波動が、周囲に放たれる。その瞬間、心臓がドクンと大きな音を立てた。
 その左腕は、無常にも彼女をつかめない。俺はこの左腕で、日和を屋上の淵にまで追い詰めていたことに気づいた。一生懸命、日和は俺から逃げていたことに気づいた。
 だが、もう遅い。その体は宙を舞い、屋上から落ちていく。死に臆病な俺は、その先を、見ることなんてできなかった。




「大参に来てもらったのはありがたいが、急用ではなかったんだ」
「え、そうなの?」
「あぁ、ただ、ダストボックスの鍵が壊されてしまっていてな。修理を放課後にでも頼めないかと思っていたんだ」


 工具箱を持ちながら、俺と、望月はダストボックスへと向かっていた。その時だ。
 あと一歩前に踏み出していたら、俺はどうなっていただろう。その目の前に、人が落ちてきた。


「え……」


 その光景に目を疑う。変わり果てた血まみれの肉塊は、さっきまで屋上で話していた、幼馴染で愛する人、日和だったのだ。


「あ……あぁ……ひよ……り……?」


 上手く声を出そうとしても、顔は固まって動かない。体は崩れることしか許さなかった。


「タカ……ヒト……」


 彼女が絞り出した、カラカラの声は、確かに俺を呼んでいた。その目は赤と青に輝き、俺を見つめている。


「2番目……に……好き……未来……を……お願い……」
「未来……?」


 その時だ、合わせていたはずの目が焼けるように熱くなり、思わず目を閉じてしまう。たったその一瞬の間に、彼女の目は虚ろになっていた。そこにあるのは、黒い穴、血だまりが広がり続ける肉塊。
 地面に着いていた手は、気づけば血まみれになっていた。
 2番目に好き、未来をお願い。その言葉の意味を、考えることなんてできなかった。ただその手に付いた血をそっと頬に当てる。
────まだ、その血は暖かかった。




それから、似非と大参の溝は埋まらなかった。


日和が好きなのは俺じゃなかったのだ、そうお互いに思い込んでいた。


お互いに、日和が好きだった。だが、お互いに、日和にとっては2番目だった。


それをお互いが、知ることはなかったのだ。


では、一番に思っていたのは、誰だったのだろう。


「ねぇねぇ「世界」と繋がってる和仁、今の和仁はどうなの?そうやって第三者視点からの傍観は楽しい?」


楽しいとも、とても。


「でもまぁ、そろそろ未来視が終わるわ。時間なんでしょう? そろそろ動いてもいい?」


いいよ、行っておいで。未来視が終わるまで、あと10秒だね。


「そうね、ようやく……」




私の本気が見せれるってもんじゃない。





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