君の瞳の中で~We still live~

ザクロ・ラスト・オデン

暗殺者

「似非さん」
「……大参先生」
「これ以上、彼の記憶に触れないでくれ」
「どうしてですか?」


「彼を生かすためなんだ。わかってくれないか」


それは、大人の理不尽なようで、大人の苦渋の決断だった。




 目が覚めると、涙を流している。なぜかはわからなくて、記憶も思い出せない。
 ここは……あぁ、そうか。孝人さんの家だ。


「おはよう、和仁。意識を失ってから二日間、目が覚めてなかったけど、体調はどう?」


 目を覚ましたことに気づいたのか、台所のほうから孝人さんがやってきた。


「えぇ、問題ありません。そんなに長い間、意識を失ってたんですか?」
「あぁ、家の外でバッタリとだ。俺がちょうど家に帰ってきた時だったから良かったけど、世津さんも苦労したんだぞ?」
「そうだったんですか……」


 外出する理由などあったんだろうか。そもそも、何をしようとしていたか思い出せない。


「あんまり、外出はするなよ?危険だからな」
「はい」


 外出なんか、する必要がない。だが、どこか心の奥底に、違和感があった。
 とても、大事なことを忘れた気がする。忘れちゃいけない、大きなこと。


「それじゃあ、俺は仕事に行ってくるから、家で安静にな」


 違和感をそのままに、孝人さんは家から出ていった。家が、静寂に包まれる。時計の針の音も、外のセミの声も、何も聞こえない。


「どうやら、聞こえてるみたいだな、俺の声は」


 静寂の中、体の中から聞こえてくるその声。


「誰だ……お前……」
「まぁ、とりあえず、この家、結界が張られてるからよ、一度、外に出てくれ」


 言われるがまま、服を着て、外に出た。どこか開放感を感じる。若干暗い、夕暮れ。そのまま下にある駐車場のベンチに向かい、腰掛けた。
 すると、体の中から白い煙のようなものが出ていき、次第にそれが体を形成した。
 白髪に、黒いマフラー、そして黒いタンクトップ、白い短パン、裸足、そして「真っ赤な目」の少年。


「もう一度聞く、誰だ、お前」
「口調はだいぶ昔っぽいんだがなぁ。記憶だけはすっからかんか。まぁ、無理もねぇ」


 腕を組みながら、ニヤニヤと笑っているのがひどくムカつく。


「質問に答えたらどうだ」


 すると、拍子抜けした顔をして口を尖らせた。


「そっか、お前には二年前も会ったことがなかったか。名乗るのもめんどくせぇ。自分で考えな」
「考える記憶もないんだが」
「あぁ言えばこう言うなぁ……あいつも苦労しただろうに。じゃ、適当にアサシンって呼んでくれ」


 つまりは「暗殺者」ということなのか。そもそも、煙から体を生成した時点で、人間ではなさそうだが。


「お前は、何のために俺の前に現れた」


 するとそいつは、頭をボリボリ掻きながら大きくあくびをした。


「あーあ、ホントめんどくせぇ」
「……面倒なら何も聞かないが」


 湧き上がる苛立ちをなんとか抑えつつ言い返すと、そいつは白けたような顔をした。


「探究心ってものはねぇのかお前。つまんねーの」


 大きくため息をつくと「まぁ、ちょっとは説明しないとな」と呟いた。


「最初に聞く。お前は、忘れた記憶を思い出したいか」


 そう聞かれれば、無論、あったに困ったことはないだろう。


「もちろんだ」


 すると、またそいつは大きなため息をついた。


「なるほどなぁ……コイツは厄介」


 全くもって意味がわからない。なぜだ?
「じゃあ、単刀直入に言うぜ。お前は、記憶を思い出すとそのショックから「自殺しようとする」だが、お前には記憶を思い出してもらわないと困る。だから、俺は二日前にお前の中に入り込んだんだ。記憶を思い出してもらうためにな」
 ズキン、と心が痛んだ。心の奥底から、何かが手を伸ばしてくる。それを足で踏み潰して、なんとか上がってこないように抑えるが、むしろ足を掴まれて、引きずり込まれていく。
 その時、アサシンは俺を思いっきりビンタしてきた。消えかけていた意識が、一瞬で戻ってくる。


「痛っ……」
「ったく、自分自身に飲まれるってどういうことだよ」
「逆に聞きたい「それ」はどういうことだ」


アサシンは「よくぞ聞いてくれた」とニヤリと笑った。


「お前の心にいるのは「記憶を保持したお前」だ。そうだな、二重人格、というよりかは、もはや魂が二つ、といったところか」
 記憶を失っていない俺が、俺を奥底に引きずり込もうとする。俺はその場所にいたいのに、そいつは手を伸ばしてくる。毎回、意識を失って、目が覚めたら泣いている。
 そして、全てを忘れている。
「記憶を保持した自分が「思い出せ」と言っているのか」
「まぁ、そういうこったな。もちろん、俺も、怜花もだ」
「怜花……?」


 記憶が砂嵐のようになってよく見えない。怜花・・・・とても、大事な言葉のような気が・・・・


「そっか、結界張られてるもんな。俺がバックアップとっておいたが、いる?」


 アサシンは俺の答えなど待たず、頭に手を置く。すると二日前の記憶が鮮やかに蘇った。まるで、テレビのチャンネルが完全にあったような。ありがたいことだが、同時に多くの疑問が出てくる。


「俺は何かを思い出して……首を掻き切った?」
「そう、そのパーカーの血は落ちてるけど、中のカッターナイフは……」


 気づいてすぐに取り出した。見た目では全く血が付いていないが、刃を出すと、その刃は茶色く、べったりと血が付いていることが分かる。


「隠蔽に焦ったんだろうな、あいつら。刃まで手が回らなかったんだろ」
「隠蔽?」
「お前は、記憶を思い出すと自殺する。だからそれを阻止しようと動いてるやつらが居るのよ。世津、大参、あと二上な。お前の記憶を封印することで、普通の高校生として生きてもらうってわけ」
「待て、隠蔽はわかった。だが、俺の傷はどうして治った。俺はいったい、何のために記憶を思い出さなければならないんだ!」


 情報量が多くて追いつかない。思わず声を荒らげてしまう。記憶を封印しようとする人々、記憶を思い出させようとする人。俺を相手に、多くのことが渦巻く。俺自身は、いったい何者なんだ。


「あぁ、お前ね……ぶっちゃけ、俺も全部理解してるわけじゃないんだが……」


 アサシンは俺からカッターナイフを奪い取ると、刃を出し、俺の腕を思いっきり切りつけた。
 一瞬のことで、理解が追いつかなかった。動脈が裂け、血がはじけ飛ぶ。真っ赤な血が、地面に流れ、血だまりを作っていく。腕は変色していき、体の血が抜け出ていっているのを感じ取った。


「あああ……ああああああああああっ!」


 痛みなんてものじゃない。もはや感覚そのものが暴れている。必死に手首を抑え、血を抑えようと必死に握り締めた。
「止まれ……止まれよ……クソッ……!」




俺は死にたかったんじゃないのか?今なら死ねるんじゃないのか?


……ダメだ、死んでもらっちゃ困る。


思い出したら、死にたくなるんだろ?


……だな、でもいつかきっとわかる。生きる意味が。


いや、死ぬよ、このまま。もう俺は、助からない。


……無理だろう。もうお前は、世界の欠片を掴んでいる。




「目を閉じたんなら、開けばいいだろ。俺」




 目の奥が熱くなるような感覚。それと同時に、傷はみるみるうちに塞がっていき、体の中で足りなくなった血液が、増えていく気がした。


「やっぱ、生きたいんじゃん、お前」
「……どういうことだよ……っ!?」


 理解の追いつかない俺を、アサシンは見つめる。そいつを見ると、その目は、右目が赤、左目が青に光っていた。


「お前の今の目、こんな感じだぜ?さぁ、記憶を取り戻して、本当の戦いを始めようぜ、和仁」




……とりあえずわかったことは二つ。俺はただの人間じゃない。そして「俺がキーマンである」こと。



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