ある日、5億を渡された。
花と殺気2
「さて、進くん。早速本題に入らせてもらおう」
「はい、俺の記憶に関することですよね?」
「あぁ、そうなんだが……」
と言って、華山さんは、少し困り顔をする。
「単刀直入に言おう。君の記憶というものは、厳重に守られているんだ」
「……守られている?」
「そうだ、思い出さないように守られているんだよ。これを破り、君に忘れた記憶の内容を話せば、私たちは殺される」
思わず目を見開き、凍り付く。嘘だ……俺の記憶で、誰かが死ぬ?
「だが……安心してほしい。つい最近まで、この秘密は守られ続けていた。死者はいない、この前の金城さん以外はね」
「金城さんは……結局は俺に、話せなかったんですよ」
「わかっているとも。だが、少しでも話す可能性があるならば、潰されるのがルールだ。特に彼は、約束に加盟していなかったからね」
「約束?」
俺のつぶやきに、少し間をおいて、華山さんは続けた。
「約束に加盟したのは、我が華山家、影山家、矢崎家、そしてグループ「オーア」の四つだ。この約束は、影山家とオーアの間で結ばれたものだったが、関係したその他の家も、約束に加盟させられたんだよ」
「その約束って……俺の記憶を俺に教えないとかですか?」
「あぁ、まず一つ目がそれ。二つ目は、進くんの存在を他人に言ってはいけない。三つめは、なるべく進くんとの接触を避ける。だった」
俺の記憶を教えない。俺の存在を話さない。俺との接触を避ける。なんだろう、まるで俺は、世界から隔離されているかのようだ。いいや、過去の俺が、世界と切り離されているというべきなんだろう。俺という存在は、その約束によって守られていた。
────知られない、それはもはや神秘だ。
「まるで隔離されてるみたいです」
「あぁ、そうなんだよ。だが現在、そうは言ってられないことになった」
「……どうして?」
俺が聞くと、華山さんは話しづらそうに、それでも振り絞るように言う。
「約束を交わした人間が一人、君の過去を思い出してほしいと願ってしまった。我々からすれば、命が掛かっているのに、なんて馬鹿な真似を……そう思った」
だが、と言って、華山さんは続ける。
「だが、そこまで踏み切るということは、理由はわからずとも、覚悟はできているということだ。ならば、その願いに答えてあげなければならない。ほかならぬ「あの人」の頼みだからね」
「その人は……どんな人なんです?」
「それはあの人の都合上、答えることはできないが……それ以外にも、オーアのこと、家族のこと……君の記憶を思い出す手助け、キーワードを与えなければならない」
しかし、その時だ。天井から大きな音がした。最上階なのに音がするなんてありえない。その音は……天井を突き破ろうとする音だった。
「おぉ、思っていたより早かったね。強く作った天井だが……やはり人は入れたか」
「えっ、ちょっと……まずくないですか!」
「あぁ、心配ない。紳士たるもの、余裕を持たねば。なに、椿がいる。進くん、君はこれを持って逃げなさい」
そう言って、華山さんは、胸ポケットから何か袋を取り出した。
「キーワードを3つ入れておいた。私からできることはこれだけだ。後は、君自身で見つけるんだ、進くん。君自身が自力で見つければ、約束の外だ。すべては丸く収まる」
最後まで、その声は冷静だった。紳士たるものの余裕、そういうことができるだろう。その顔は……どこかで見たことのある、安心感ある笑顔だった。俺の記憶は、一瞬にして砂嵐が掛かる。その砂嵐が、俺を飲み込もうと渦巻いていた。
俺は思わず、立ちくらんだ。すると、目の前に、秘書の椿さんが立ちふさがって、強引に俺の手を握ったかと思うと、さっきのエレベーター前まで引っ張っていく。その強さに、俺の意識は何とか正常に戻った。
「進様、お逃げください。先ほどのエレベーターで」
「でっ、でも非常階段のほうが……」
「あいつは、あなたの命に興味はありません!」
緊急事態、そういう時は非常階段だと思ったが、どうやらそうでもないらしい。あいつ、その言葉が引っかかるが、俺は急いでエレベーターに乗る。
「では、進様。ご武運を」
「────あっ」
扉が閉まる寸前に見た、椿さんの微笑みは、俺の知っている誰かに似ている気がした。待って、そう言いたかったが、扉は閉まってしまった。あの人は……ただの秘書じゃない。
天井を突き破る音は次第に大きくなっていく。その場で、華山葉はずっと立ち続け、天井を見上げていた。
「何をしているんですか、葉様!」
「いやぁ、顔が見たいじゃないか。新しい死神のね」
その精神は少し異常だ。怖いもの見たさの子供のように、葉はニコニコと笑い続けている。
「葉様、下がっていてください。ここは私が!」
「あぁ、じゃあ観戦させてもらうよ。お手並み拝見だ」
「なっ! 危ないです、やめてください!」
「いいや、椿の本気を見たことないし、私にもう後悔はないからね」
椿は悔しそうに顔を歪ませる。その時、ついに目の前に、死神は降りてきた。仮面をかぶった、黒いフードの死神。その姿はまるで、ストリートギャングだ。
「……葉様、確かに進様に会われて、後悔はないかもしれません。ですが────」
椿は死神のほうを見る。その姿は戦闘態勢に入っていた。
「あなたは「本当の妹」を大事にしてください。たとえ彼女が、縁を切ったとしても」
彼女は胸元からナイフを取り出す。それとほぼ同時に、死神もまた振りかかった。刃がぶつかり、火花が散る。それを見て、葉は満足に笑みを浮かべる。
「そうだね、椿。まだ私は死ねないね」
────その戦いは互角だった。一瞬にして繰り出される何発もの拳を、お互いにかわしながら、その瞬間に攻撃を放つ。その繰り返しはたった5秒で終わり、椿が攻撃をかわした瞬間に放たれた蹴りは、見事死神の腹に命中する。
……しかし、それで倒れるような死神ではない。ナイフを投げたことでできた隙を利用し、死神は次のナイフを取り出して、椿に切りかかった。
「甘い!」
椿は投げられたナイフを二本の指で挟み、切りかかる死神の腕を割く。なかなか分厚く着込んでいるようで、ナイフは貫通しなかった。
「なるほど、見越して防御はしているのね。でも、あんたはまだ甘いわ!」
切られたことによって、気持ちに隙ができた死神へ、椿はさらに畳みかける。自身の持っていたナイフを死神の右肩に突き刺し、さらに腹にもう片手で拳を入れる。それはまさに、刹那の一撃────
「そんなもんじゃないでしょうね」
攻撃とは、隙を作ることである。死神はそれを見逃さなかった。死神は刺さったナイフを抜くと、勢いよく、葉のいる方向へ投げる。もちろん、椿は見逃さなかった。空を切る、靴のヒールで、ナイフの軌道を変えて、床へ刺す。
「すごい……すごいよ、椿!」
葉の声は聞こえていた。だが死神もまだ終わらない。椿の始末は不可能と考えた死神は、壁を走り、最短ルートで葉をめがけてナイフを振り下ろす。もちろん、椿は見逃さなかった。いいや、見越していた。
「手を出すな!」
ここにあった美術品は、すべて偽物。今回のために、全て入れ替えておいたのだ。椿は近くにあった、偽物の宝石を投げつける。その投げ方は、もはやメジャー選手級。剛速球ともいえるその宝石は、死神の頭に直撃した。
痛みに、ナイフの軌道は外れる。それは、葉が距離を取るには十分な隙だった。
「おぉ、ひやひやしたね、椿」
「逃げてくださればいいんですって!」
もちろん、こうは言い返しているものの、椿には勝算があった。死神が深追いしないことは知っていた。だからこそ、余裕をもって戦い続けていた。
────しかし、死神も今回ばかりは食い下がらないようで、まだ立ち上がる。もちろん、どのダメージもあくまで隙を与えただけの一撃。致命的な傷とはなっていない。彼の任務は続行される。
ならば……椿は死神の心変わりにかけることにした。椿の知る死神は、まだ甘い。
「……ねぇ、覚えているかしら。「あたし」があんたと縁を切った日」
急に一人称を変えた椿に、死神は動きを止めた。動揺している、椿は確信した。
「あたしの右耳には、やっぱりピアスの穴が残っているけども、今は両耳に開けたの。そうして、揺れないタイプのピアスをつけた」
そう言って、椿は右の耳元に手をそっと添える。死神もまた、右耳と思われるところに、手を当てていた。
「……何故だ、椿。どうして俺たちから離れた」
死神のボイスチェンジャーで変えられた声を聞いた椿は、死神が何者であるかをこれで確信する。死神は、まだ死神になり切れない、未熟者だと。
「何故って……あたし、あんたらのやり方嫌いだし。後継者はみんな、母親違いだしね」
「……何……!? みんなって……」
「────あ、口が滑った……」
「そうか……あいつだな」
椿のドジっぷりはここで出てしまった。死神は何かを確信したようにうなづくと、窓ガラスを殴って砕き割る。
「まっ……待って。あんたはまさか、その座を押し付けるつもり? あたしが無理に……あんたに……!」
「後悔は無駄だ、椿。お前はもう、戻らないんだろ」
死神はまるで置き土産のように言い残すと、ビルから飛び降りていった。椿は一瞬驚き、そのあとを見下ろす。すると、空中ですぐさま服を脱ぎ、下に来ていたウイングスーツを広げ、モモンガのように、飛んで逃げて行ってしまった。
「心配はいらないようだけど……逃げられちゃった」
「うーん、ドジもあるけど……椿の後悔だろうね。やっぱり、新時代の死神には、少し謝りたいことがあるのかな?」
葉はそっと、椿の肩に手を置く。椿はうなづいて、葉のほうを振り返った。
「私はやはり戻るべきでしょうか。彼のためにも……」
今にも泣き出しそうな椿を、葉は優しく抱きしめる────花には常に葉があるように、二人の心は常にともにある。それは、今も変わらない。
「────戻らなくていい。オーアから逃げた君の居場所は、私が必ず守るとも」
「はい、俺の記憶に関することですよね?」
「あぁ、そうなんだが……」
と言って、華山さんは、少し困り顔をする。
「単刀直入に言おう。君の記憶というものは、厳重に守られているんだ」
「……守られている?」
「そうだ、思い出さないように守られているんだよ。これを破り、君に忘れた記憶の内容を話せば、私たちは殺される」
思わず目を見開き、凍り付く。嘘だ……俺の記憶で、誰かが死ぬ?
「だが……安心してほしい。つい最近まで、この秘密は守られ続けていた。死者はいない、この前の金城さん以外はね」
「金城さんは……結局は俺に、話せなかったんですよ」
「わかっているとも。だが、少しでも話す可能性があるならば、潰されるのがルールだ。特に彼は、約束に加盟していなかったからね」
「約束?」
俺のつぶやきに、少し間をおいて、華山さんは続けた。
「約束に加盟したのは、我が華山家、影山家、矢崎家、そしてグループ「オーア」の四つだ。この約束は、影山家とオーアの間で結ばれたものだったが、関係したその他の家も、約束に加盟させられたんだよ」
「その約束って……俺の記憶を俺に教えないとかですか?」
「あぁ、まず一つ目がそれ。二つ目は、進くんの存在を他人に言ってはいけない。三つめは、なるべく進くんとの接触を避ける。だった」
俺の記憶を教えない。俺の存在を話さない。俺との接触を避ける。なんだろう、まるで俺は、世界から隔離されているかのようだ。いいや、過去の俺が、世界と切り離されているというべきなんだろう。俺という存在は、その約束によって守られていた。
────知られない、それはもはや神秘だ。
「まるで隔離されてるみたいです」
「あぁ、そうなんだよ。だが現在、そうは言ってられないことになった」
「……どうして?」
俺が聞くと、華山さんは話しづらそうに、それでも振り絞るように言う。
「約束を交わした人間が一人、君の過去を思い出してほしいと願ってしまった。我々からすれば、命が掛かっているのに、なんて馬鹿な真似を……そう思った」
だが、と言って、華山さんは続ける。
「だが、そこまで踏み切るということは、理由はわからずとも、覚悟はできているということだ。ならば、その願いに答えてあげなければならない。ほかならぬ「あの人」の頼みだからね」
「その人は……どんな人なんです?」
「それはあの人の都合上、答えることはできないが……それ以外にも、オーアのこと、家族のこと……君の記憶を思い出す手助け、キーワードを与えなければならない」
しかし、その時だ。天井から大きな音がした。最上階なのに音がするなんてありえない。その音は……天井を突き破ろうとする音だった。
「おぉ、思っていたより早かったね。強く作った天井だが……やはり人は入れたか」
「えっ、ちょっと……まずくないですか!」
「あぁ、心配ない。紳士たるもの、余裕を持たねば。なに、椿がいる。進くん、君はこれを持って逃げなさい」
そう言って、華山さんは、胸ポケットから何か袋を取り出した。
「キーワードを3つ入れておいた。私からできることはこれだけだ。後は、君自身で見つけるんだ、進くん。君自身が自力で見つければ、約束の外だ。すべては丸く収まる」
最後まで、その声は冷静だった。紳士たるものの余裕、そういうことができるだろう。その顔は……どこかで見たことのある、安心感ある笑顔だった。俺の記憶は、一瞬にして砂嵐が掛かる。その砂嵐が、俺を飲み込もうと渦巻いていた。
俺は思わず、立ちくらんだ。すると、目の前に、秘書の椿さんが立ちふさがって、強引に俺の手を握ったかと思うと、さっきのエレベーター前まで引っ張っていく。その強さに、俺の意識は何とか正常に戻った。
「進様、お逃げください。先ほどのエレベーターで」
「でっ、でも非常階段のほうが……」
「あいつは、あなたの命に興味はありません!」
緊急事態、そういう時は非常階段だと思ったが、どうやらそうでもないらしい。あいつ、その言葉が引っかかるが、俺は急いでエレベーターに乗る。
「では、進様。ご武運を」
「────あっ」
扉が閉まる寸前に見た、椿さんの微笑みは、俺の知っている誰かに似ている気がした。待って、そう言いたかったが、扉は閉まってしまった。あの人は……ただの秘書じゃない。
天井を突き破る音は次第に大きくなっていく。その場で、華山葉はずっと立ち続け、天井を見上げていた。
「何をしているんですか、葉様!」
「いやぁ、顔が見たいじゃないか。新しい死神のね」
その精神は少し異常だ。怖いもの見たさの子供のように、葉はニコニコと笑い続けている。
「葉様、下がっていてください。ここは私が!」
「あぁ、じゃあ観戦させてもらうよ。お手並み拝見だ」
「なっ! 危ないです、やめてください!」
「いいや、椿の本気を見たことないし、私にもう後悔はないからね」
椿は悔しそうに顔を歪ませる。その時、ついに目の前に、死神は降りてきた。仮面をかぶった、黒いフードの死神。その姿はまるで、ストリートギャングだ。
「……葉様、確かに進様に会われて、後悔はないかもしれません。ですが────」
椿は死神のほうを見る。その姿は戦闘態勢に入っていた。
「あなたは「本当の妹」を大事にしてください。たとえ彼女が、縁を切ったとしても」
彼女は胸元からナイフを取り出す。それとほぼ同時に、死神もまた振りかかった。刃がぶつかり、火花が散る。それを見て、葉は満足に笑みを浮かべる。
「そうだね、椿。まだ私は死ねないね」
────その戦いは互角だった。一瞬にして繰り出される何発もの拳を、お互いにかわしながら、その瞬間に攻撃を放つ。その繰り返しはたった5秒で終わり、椿が攻撃をかわした瞬間に放たれた蹴りは、見事死神の腹に命中する。
……しかし、それで倒れるような死神ではない。ナイフを投げたことでできた隙を利用し、死神は次のナイフを取り出して、椿に切りかかった。
「甘い!」
椿は投げられたナイフを二本の指で挟み、切りかかる死神の腕を割く。なかなか分厚く着込んでいるようで、ナイフは貫通しなかった。
「なるほど、見越して防御はしているのね。でも、あんたはまだ甘いわ!」
切られたことによって、気持ちに隙ができた死神へ、椿はさらに畳みかける。自身の持っていたナイフを死神の右肩に突き刺し、さらに腹にもう片手で拳を入れる。それはまさに、刹那の一撃────
「そんなもんじゃないでしょうね」
攻撃とは、隙を作ることである。死神はそれを見逃さなかった。死神は刺さったナイフを抜くと、勢いよく、葉のいる方向へ投げる。もちろん、椿は見逃さなかった。空を切る、靴のヒールで、ナイフの軌道を変えて、床へ刺す。
「すごい……すごいよ、椿!」
葉の声は聞こえていた。だが死神もまだ終わらない。椿の始末は不可能と考えた死神は、壁を走り、最短ルートで葉をめがけてナイフを振り下ろす。もちろん、椿は見逃さなかった。いいや、見越していた。
「手を出すな!」
ここにあった美術品は、すべて偽物。今回のために、全て入れ替えておいたのだ。椿は近くにあった、偽物の宝石を投げつける。その投げ方は、もはやメジャー選手級。剛速球ともいえるその宝石は、死神の頭に直撃した。
痛みに、ナイフの軌道は外れる。それは、葉が距離を取るには十分な隙だった。
「おぉ、ひやひやしたね、椿」
「逃げてくださればいいんですって!」
もちろん、こうは言い返しているものの、椿には勝算があった。死神が深追いしないことは知っていた。だからこそ、余裕をもって戦い続けていた。
────しかし、死神も今回ばかりは食い下がらないようで、まだ立ち上がる。もちろん、どのダメージもあくまで隙を与えただけの一撃。致命的な傷とはなっていない。彼の任務は続行される。
ならば……椿は死神の心変わりにかけることにした。椿の知る死神は、まだ甘い。
「……ねぇ、覚えているかしら。「あたし」があんたと縁を切った日」
急に一人称を変えた椿に、死神は動きを止めた。動揺している、椿は確信した。
「あたしの右耳には、やっぱりピアスの穴が残っているけども、今は両耳に開けたの。そうして、揺れないタイプのピアスをつけた」
そう言って、椿は右の耳元に手をそっと添える。死神もまた、右耳と思われるところに、手を当てていた。
「……何故だ、椿。どうして俺たちから離れた」
死神のボイスチェンジャーで変えられた声を聞いた椿は、死神が何者であるかをこれで確信する。死神は、まだ死神になり切れない、未熟者だと。
「何故って……あたし、あんたらのやり方嫌いだし。後継者はみんな、母親違いだしね」
「……何……!? みんなって……」
「────あ、口が滑った……」
「そうか……あいつだな」
椿のドジっぷりはここで出てしまった。死神は何かを確信したようにうなづくと、窓ガラスを殴って砕き割る。
「まっ……待って。あんたはまさか、その座を押し付けるつもり? あたしが無理に……あんたに……!」
「後悔は無駄だ、椿。お前はもう、戻らないんだろ」
死神はまるで置き土産のように言い残すと、ビルから飛び降りていった。椿は一瞬驚き、そのあとを見下ろす。すると、空中ですぐさま服を脱ぎ、下に来ていたウイングスーツを広げ、モモンガのように、飛んで逃げて行ってしまった。
「心配はいらないようだけど……逃げられちゃった」
「うーん、ドジもあるけど……椿の後悔だろうね。やっぱり、新時代の死神には、少し謝りたいことがあるのかな?」
葉はそっと、椿の肩に手を置く。椿はうなづいて、葉のほうを振り返った。
「私はやはり戻るべきでしょうか。彼のためにも……」
今にも泣き出しそうな椿を、葉は優しく抱きしめる────花には常に葉があるように、二人の心は常にともにある。それは、今も変わらない。
「────戻らなくていい。オーアから逃げた君の居場所は、私が必ず守るとも」
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