ある日、5億を渡された。
花と殺気
……ある時、ある場所で。自販機に照らされ、ぼんやり浮かび上がる人影。その影は、二つ。
「まぁ、まさか、お前じゃあねぇよな。ゴミくず坊主がよぉ……」
男は自販機で飲み物を買う。めっきり冷え切ったこの頃、飲みたくなるのはきっと暖かいもの。だが男は、躊躇なく、缶の炭酸ジュースを選んだ。
「坊主、奢ってやる。何がいい」
「……てめぇのもんはいらねぇよ。クソジジイ」
「あっそ。まぁ、いいんだがよ」
カシュッと音を立て、缶を開ける。爽快感はじける音が、この季節には似合わなかった。しかも、その二人の人影は、かなり薄着。季節を3か月ぐらい間違えている。
「クソジジイ、俺はお前を疑ってるんだぜ」
「馬鹿言うな、俺は遠い昔にやめたんだよ」
「……理由を教えてくれたら、ここは引いてやるが?」
大柄な男に、細身の青年は立ち向かう。自販機の明越しに、二人は向かい合った。
「ジジイ、お前は戻るべきだ。誰のためか知らないが、逃げることはできねぇぞ」
だが、男は鼻で笑う。青年の言葉など、どうでもいいというかのように。
「いいや、逃げ切るさ。現に、俺は20年以上逃げてんだろ」
「……逃げ切る? ジジイが死ぬまでか?」
「そうじゃねぇ「終わらす」のは俺だ、ゴミくず坊主」
青年の顔が曇る。だが、男は本気だった。
「なぁ、右耳のピアス、つけてんだな」
男は自身の右耳をつまみながら、笑うように言う。それを見て、青年は鼻で笑った。
「お前は外したのかよ。本気なんだな」
────その場に、一瞬にして緊張感が走る。殺気、それだけでは言い表せない何か、黒い感情。だが、男は冷静だった。その場を収めるために、一石を投じる。
「坊主、俺を消したきゃ好きにすりゃいいが、お前が俺を恨んだところでどうにもならねぇ。これは俺とあいつの問題だ。消したきゃ、お前の知るすべてを、あいつに伝えればいい」
その時は────そういって、男は続けた。
「その時は、お前と俺は、本当の敵になるってことよ」
その場に放たれた緊張感は、一瞬にして立ち消える。青年が迷ったのだ。男の、あまりにも真っすぐな思いに。
「いいか、坊主。俺の大事なものは、この世に今のところ「二つ」だ。それを傷つけようってんなら、俺はもう一度……何度だって、命を投げだす」
そして、去り際に告げる。もうこの場所で、緊張感が走ることはないだろう。
「なぁ、坊主。お前が命を懸けられるものは、何だ」
「それは……」
青年は、すぐに答えることができなかった。男は振り返らずに去っていく。取り残された青年は、静かに俯くのだった。
「あーあ、クソジジイだよ、本当。飲み物貰っときゃよかったなぁ」
────それは、青年の中で、最大の強がりだった。
……金城さんの死から数日後、俺は華山銀行に向かっていた。華山銀行は、この国でかなり有名な銀行と呼べるほどのシェアを誇る銀行だ。俺も、この銀行で口座を作っている。確か、母さんの勧めだったな。
華山家の重要な人物、華山葉がいるのは、この銀行だと聞いて、明に何とか橋渡しをしてもらい、忙しい中で時間を取ってもらった。
しかし……名前を聞くにもう……だよね、絶対トップの人だ。案内された、専用のエレベーターに乗りながら、俺は考えていた。どんな人なんだろうか、と。
「それにしても……」
エレベーターのガラスは透明だ。どんどん、特別な部屋に向かって上がっていく。そこから見る景色、俺は嫌いだった。なんだかふわふわするし、寒くなってくる。ようやく自覚する……これは、高所恐怖症だっ!!
……必死な思いで、最上階の特別な部屋に通される。エレベーターの中まで付き添ってくれた、案内人とはここでさようならだ。
どうやら、最上階は展望台になっているらしく、目の前に都会の風景が広がる。その壮大さに、また体が寒くなってくる。その展望台としての広場から、少し人目につかないところに、40代くらいの男性が立っていた。
「高いところはお嫌いかな? 進くん」
「えっ……はい、どうやらそうみたいです」
すると、その男性は紳士的にも、落ち着いて笑う。その顔は、どこか見たことのある顔だった。
「やぁ、お久しぶり。覚えていないだろうが、私が華山葉だ」
「よっ……よろしくお願いします!」
差し出された手を、両手で握って、深々とお辞儀をする。紳士的なその男性は、柔らかな笑みを浮かべて、俺を奥の部屋に案内した。
「この部屋は、プライベートスペースなんだ。君ならいくらでも案内するよ」
そう言って、華山さんが開けた扉の先には、美しい花がいくつも飾られた、美術館の一角のような部屋があった。絵画、花、造形物、その中心に、芸術的に歪んだ椅子が二つ。対面するように置かれていた。
「あぁ、そうだ。一応秘書も呼んでいいかな」
「えぇ、大丈夫です」
おいで、と華山さんは呼ぶ。すると、どこからやってきたのか、ドアから髪をポニーテールに束ねた女性が入ってきた。見た目はかなり若く感じるが……
「彼女は、私の妹だ」
「華山椿と申します」
そういって丁寧にお辞儀をする姿に、どこか冬馬さんを感じる。執事や秘書は、作法が似ているんだなぁ。そんなことを考えていた、のんきな俺だ。
「まぁ、まさか、お前じゃあねぇよな。ゴミくず坊主がよぉ……」
男は自販機で飲み物を買う。めっきり冷え切ったこの頃、飲みたくなるのはきっと暖かいもの。だが男は、躊躇なく、缶の炭酸ジュースを選んだ。
「坊主、奢ってやる。何がいい」
「……てめぇのもんはいらねぇよ。クソジジイ」
「あっそ。まぁ、いいんだがよ」
カシュッと音を立て、缶を開ける。爽快感はじける音が、この季節には似合わなかった。しかも、その二人の人影は、かなり薄着。季節を3か月ぐらい間違えている。
「クソジジイ、俺はお前を疑ってるんだぜ」
「馬鹿言うな、俺は遠い昔にやめたんだよ」
「……理由を教えてくれたら、ここは引いてやるが?」
大柄な男に、細身の青年は立ち向かう。自販機の明越しに、二人は向かい合った。
「ジジイ、お前は戻るべきだ。誰のためか知らないが、逃げることはできねぇぞ」
だが、男は鼻で笑う。青年の言葉など、どうでもいいというかのように。
「いいや、逃げ切るさ。現に、俺は20年以上逃げてんだろ」
「……逃げ切る? ジジイが死ぬまでか?」
「そうじゃねぇ「終わらす」のは俺だ、ゴミくず坊主」
青年の顔が曇る。だが、男は本気だった。
「なぁ、右耳のピアス、つけてんだな」
男は自身の右耳をつまみながら、笑うように言う。それを見て、青年は鼻で笑った。
「お前は外したのかよ。本気なんだな」
────その場に、一瞬にして緊張感が走る。殺気、それだけでは言い表せない何か、黒い感情。だが、男は冷静だった。その場を収めるために、一石を投じる。
「坊主、俺を消したきゃ好きにすりゃいいが、お前が俺を恨んだところでどうにもならねぇ。これは俺とあいつの問題だ。消したきゃ、お前の知るすべてを、あいつに伝えればいい」
その時は────そういって、男は続けた。
「その時は、お前と俺は、本当の敵になるってことよ」
その場に放たれた緊張感は、一瞬にして立ち消える。青年が迷ったのだ。男の、あまりにも真っすぐな思いに。
「いいか、坊主。俺の大事なものは、この世に今のところ「二つ」だ。それを傷つけようってんなら、俺はもう一度……何度だって、命を投げだす」
そして、去り際に告げる。もうこの場所で、緊張感が走ることはないだろう。
「なぁ、坊主。お前が命を懸けられるものは、何だ」
「それは……」
青年は、すぐに答えることができなかった。男は振り返らずに去っていく。取り残された青年は、静かに俯くのだった。
「あーあ、クソジジイだよ、本当。飲み物貰っときゃよかったなぁ」
────それは、青年の中で、最大の強がりだった。
……金城さんの死から数日後、俺は華山銀行に向かっていた。華山銀行は、この国でかなり有名な銀行と呼べるほどのシェアを誇る銀行だ。俺も、この銀行で口座を作っている。確か、母さんの勧めだったな。
華山家の重要な人物、華山葉がいるのは、この銀行だと聞いて、明に何とか橋渡しをしてもらい、忙しい中で時間を取ってもらった。
しかし……名前を聞くにもう……だよね、絶対トップの人だ。案内された、専用のエレベーターに乗りながら、俺は考えていた。どんな人なんだろうか、と。
「それにしても……」
エレベーターのガラスは透明だ。どんどん、特別な部屋に向かって上がっていく。そこから見る景色、俺は嫌いだった。なんだかふわふわするし、寒くなってくる。ようやく自覚する……これは、高所恐怖症だっ!!
……必死な思いで、最上階の特別な部屋に通される。エレベーターの中まで付き添ってくれた、案内人とはここでさようならだ。
どうやら、最上階は展望台になっているらしく、目の前に都会の風景が広がる。その壮大さに、また体が寒くなってくる。その展望台としての広場から、少し人目につかないところに、40代くらいの男性が立っていた。
「高いところはお嫌いかな? 進くん」
「えっ……はい、どうやらそうみたいです」
すると、その男性は紳士的にも、落ち着いて笑う。その顔は、どこか見たことのある顔だった。
「やぁ、お久しぶり。覚えていないだろうが、私が華山葉だ」
「よっ……よろしくお願いします!」
差し出された手を、両手で握って、深々とお辞儀をする。紳士的なその男性は、柔らかな笑みを浮かべて、俺を奥の部屋に案内した。
「この部屋は、プライベートスペースなんだ。君ならいくらでも案内するよ」
そう言って、華山さんが開けた扉の先には、美しい花がいくつも飾られた、美術館の一角のような部屋があった。絵画、花、造形物、その中心に、芸術的に歪んだ椅子が二つ。対面するように置かれていた。
「あぁ、そうだ。一応秘書も呼んでいいかな」
「えぇ、大丈夫です」
おいで、と華山さんは呼ぶ。すると、どこからやってきたのか、ドアから髪をポニーテールに束ねた女性が入ってきた。見た目はかなり若く感じるが……
「彼女は、私の妹だ」
「華山椿と申します」
そういって丁寧にお辞儀をする姿に、どこか冬馬さんを感じる。執事や秘書は、作法が似ているんだなぁ。そんなことを考えていた、のんきな俺だ。
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