ある日、5億を渡された。
重い現実とスクーター
「本当なのかよ……」
気づけばスマホは自分の指紋でのみロック解除できるようになり、銀行口座の暗証番号も教えてもらい、簡単な説明をして明は去り……
スマホの画面の桁を数える。……確かに5億だ、キャッシュカードもここにある。
「金、引き出そう。ついでにバイトもやめよう」
まずはコンビニだ。先ほどおにぎりを買ったコンビニに恐る恐る入り、キャッシュカードを差し込み、暗証番号を打ち込む。
「とりあえず……5万かな」
打ち込む、そして出てくるお金。そして淡々と「ありがとうございました」とアナウンスは伝える。当たり前のことなのだが、ようやくこの「非現実」に実感が持ててきた。
よし、こうとなればすぐさまバイトをやめよう。楽に過ごすんだ、人生をこれで、変えられる!
……と、思ったその時、俺のスマホに通知が来る。バイト先からのショートメッセージだった。
「申し訳ないんだけど、今日限りでやめてもらえないかな。上のほうから言われてね」
「えっ」
唐突すぎる。そもそもバイトの退職なんて、今までこんなことはなかった。一方的に、クビ宣言……?
だが今となっては願ってもないことだ。なぜなら、俺は今、大金を手に入れた。もう働かなくていいはずだ。少しくらい解放されたっていいはずだ。
ちょっとだけ、夢が見たかった。ちょっとだけ、自由が欲しかった。
「わかりました」
指は自然とその文字を打つ。ついさっきまでなら絶対に嫌だったその文字を、当たり前のように淡々と。
────本当に不思議なことに、その日のうちに、新聞配達以外のバイトをやめることができた。いいや、向こうからやめてくれと言われたんだ。理由は「上の都合」そもそも働いているところは、影山グループがほとんど。一番上の彼女が言うならば、こうなってもおかしくない。
そんなことを考えながら、妹の高校の門の前で待つ。普段飲めない、炭酸ジュースを飲みながら。
「真希ちゃんじゃあねー」
「うん、バイバーイ」
あ、妹の声が聞こえる。真希がそろそろ来るな。そう思い、すぐさま炭酸ジュースを飲み切って、ごみ箱に捨てた。突然贅沢してるなんて、かっこ悪くて見せられるはずがない。
かわいい妹の前では、常にかっこよくあらなければ。
「お兄ちゃん、迎えに来てくれてありがとう」
「いいや、今日は暇だったからな」
「……どうして? いつも忙しそうなのに」
真希の声は少し重い。確かにいつもと違うことをしたら、何か不審に思われても仕方がない。
いや……まぁ、妹くらいになら言ってもいいだろう。5億を手にしたプロセスは置いておいて、宝くじとでも嘘をついておこう。
「俺、仕事辞めたんだ。宝くじに当たってね、5億円手に入ったんだよ。これで、母さんも真希も、楽に過ごせ……」
「なんで!? なんで仕事辞めたの!?」
「……は?」
真希は突然、顔色を変えて激高し始めた。鋭い目で睨みつけ、拳を固く握りしめている。何が何だかわからない。どういうことなんだ。
「たった5億でしょ? 働かなくちゃそんなの一瞬でなくなっちゃうよ。お母さんの治療費、私の学費、ほかにもいっぱいお金がかかるんだよ? それが5億で足りるわけないじゃん。お兄ちゃんが働いてくれないと、私たち死ぬんだよ、そんなの嫌でしょ?」
その声は高圧的で、だけどどこか言い聞かせるような。……そう、まるで、考えを強制させるような話し方。怖い、こんな真希は見たことない。いつもの真希じゃない!
言い訳だ。言い訳をしなければ。きっと納得してくれる。5億で足りないわけがない。
「5億もあれば足りる。底を尽きれば働くし、そう焦ることはないよ。今までずっと耐えてきたじゃないか。少しくらい、みんなで楽をしようよ」
「だから、そのお金が足りないの! 一般人と同じ生活をするために、ボロ安アパートから新築マンションに映らなきゃいけないし、服だって、バッグだって、なんだってそろえなきゃいけない。「普通」になるためには全然お金が足りないんだよ!?」
わけがわからない。真希は何を望んでいる? 普通ってなんだ? 家があって、食事があって、親がいて、学校に通えて、最低限のものがそろってる。それが普通のはずだ。それ以上に何を望む? 母さんの健康? 学費? だって、絶対に「5億で足りる」じゃないか。
「いつもお下がり、いつも中古品。新品なんて持ったことないし、満足にものだってそろってない。私が満足すると思ってるの?」
よく聞く。女子は物を欲しがる。なんだってオシャレなものをそろえないと気が済まないって。でも、それはお金を手に入れたとたん、爆発するものなのか。今の生活を続けようとしないのか。
なぜ、変わる必要があるのか、俺にはわからない。
気づけばスマホは自分の指紋でのみロック解除できるようになり、銀行口座の暗証番号も教えてもらい、簡単な説明をして明は去り……
スマホの画面の桁を数える。……確かに5億だ、キャッシュカードもここにある。
「金、引き出そう。ついでにバイトもやめよう」
まずはコンビニだ。先ほどおにぎりを買ったコンビニに恐る恐る入り、キャッシュカードを差し込み、暗証番号を打ち込む。
「とりあえず……5万かな」
打ち込む、そして出てくるお金。そして淡々と「ありがとうございました」とアナウンスは伝える。当たり前のことなのだが、ようやくこの「非現実」に実感が持ててきた。
よし、こうとなればすぐさまバイトをやめよう。楽に過ごすんだ、人生をこれで、変えられる!
……と、思ったその時、俺のスマホに通知が来る。バイト先からのショートメッセージだった。
「申し訳ないんだけど、今日限りでやめてもらえないかな。上のほうから言われてね」
「えっ」
唐突すぎる。そもそもバイトの退職なんて、今までこんなことはなかった。一方的に、クビ宣言……?
だが今となっては願ってもないことだ。なぜなら、俺は今、大金を手に入れた。もう働かなくていいはずだ。少しくらい解放されたっていいはずだ。
ちょっとだけ、夢が見たかった。ちょっとだけ、自由が欲しかった。
「わかりました」
指は自然とその文字を打つ。ついさっきまでなら絶対に嫌だったその文字を、当たり前のように淡々と。
────本当に不思議なことに、その日のうちに、新聞配達以外のバイトをやめることができた。いいや、向こうからやめてくれと言われたんだ。理由は「上の都合」そもそも働いているところは、影山グループがほとんど。一番上の彼女が言うならば、こうなってもおかしくない。
そんなことを考えながら、妹の高校の門の前で待つ。普段飲めない、炭酸ジュースを飲みながら。
「真希ちゃんじゃあねー」
「うん、バイバーイ」
あ、妹の声が聞こえる。真希がそろそろ来るな。そう思い、すぐさま炭酸ジュースを飲み切って、ごみ箱に捨てた。突然贅沢してるなんて、かっこ悪くて見せられるはずがない。
かわいい妹の前では、常にかっこよくあらなければ。
「お兄ちゃん、迎えに来てくれてありがとう」
「いいや、今日は暇だったからな」
「……どうして? いつも忙しそうなのに」
真希の声は少し重い。確かにいつもと違うことをしたら、何か不審に思われても仕方がない。
いや……まぁ、妹くらいになら言ってもいいだろう。5億を手にしたプロセスは置いておいて、宝くじとでも嘘をついておこう。
「俺、仕事辞めたんだ。宝くじに当たってね、5億円手に入ったんだよ。これで、母さんも真希も、楽に過ごせ……」
「なんで!? なんで仕事辞めたの!?」
「……は?」
真希は突然、顔色を変えて激高し始めた。鋭い目で睨みつけ、拳を固く握りしめている。何が何だかわからない。どういうことなんだ。
「たった5億でしょ? 働かなくちゃそんなの一瞬でなくなっちゃうよ。お母さんの治療費、私の学費、ほかにもいっぱいお金がかかるんだよ? それが5億で足りるわけないじゃん。お兄ちゃんが働いてくれないと、私たち死ぬんだよ、そんなの嫌でしょ?」
その声は高圧的で、だけどどこか言い聞かせるような。……そう、まるで、考えを強制させるような話し方。怖い、こんな真希は見たことない。いつもの真希じゃない!
言い訳だ。言い訳をしなければ。きっと納得してくれる。5億で足りないわけがない。
「5億もあれば足りる。底を尽きれば働くし、そう焦ることはないよ。今までずっと耐えてきたじゃないか。少しくらい、みんなで楽をしようよ」
「だから、そのお金が足りないの! 一般人と同じ生活をするために、ボロ安アパートから新築マンションに映らなきゃいけないし、服だって、バッグだって、なんだってそろえなきゃいけない。「普通」になるためには全然お金が足りないんだよ!?」
わけがわからない。真希は何を望んでいる? 普通ってなんだ? 家があって、食事があって、親がいて、学校に通えて、最低限のものがそろってる。それが普通のはずだ。それ以上に何を望む? 母さんの健康? 学費? だって、絶対に「5億で足りる」じゃないか。
「いつもお下がり、いつも中古品。新品なんて持ったことないし、満足にものだってそろってない。私が満足すると思ってるの?」
よく聞く。女子は物を欲しがる。なんだってオシャレなものをそろえないと気が済まないって。でも、それはお金を手に入れたとたん、爆発するものなのか。今の生活を続けようとしないのか。
なぜ、変わる必要があるのか、俺にはわからない。
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