刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP26 騎士学園入試 後編

「おーい、ノイ。すまないけど、そこの刀を放ってくれないか」

「了解したの」

 そう言ってノイが投げてくれた刀を、俺は左手で受け取り右手を柄に添える。

 俺はレスルと戦うにあたり、ただの刀ではあるが武器を使うつもりだった。
 レスルも傷つける訳にはいかないという意味ではノイと変わらない。しかし俺にはどうしても、武器を使わなくてはいけない理由があった。

 レスルの攻撃速度はノイに劣る。しかしそれは、レスルの方がノイより弱いということと、必ずしもイコールではない。

 どういう意味なのかと言うと、ノイの戦い方が攻めでレスルの戦い方が受けなのだ。そもそも戦い方が違うため、簡単に比べられるものでもないのである。
 そしてそれ故に、レスルの戦い方をしっかりと見るためには、こっちから攻撃をする事が必須なのだ。

 はっきり言って、学園長を納得させる事なんてどうでもいい。優先順位はレスルの実力を見極めることの方が上だ。
 それ故に俺は刀を抜き、鞘を放る。そして俺は、レスルを見据えて声を上げる。

「レスル。俺は抜刀術は使わないし、白龍も使わない。しかし、俺はそれ以外は容赦はしない。正面から攻めるから、お前の全てをもって対処してみろ‼」

「分かりました‼」

『そ、それでは、模擬戦二試合目。ケイ対レスル、始め!』

 その教師の合図を聞いた直後、俺は腕を伸ばしながら突進を仕掛けた。刺突である。

 そもそも刀は湾曲しているため、刺突には全く向かない。なのに俺が初手に刺突を選んだのには、もちろん理由がある。
 それは刺突は、一番対処が難しいからだ。

 刺突は一点に力が全て込められているため、防いだり軌道を逸らしたりする事が極めて難しい。使用しているのが刀であるが故にその利点は多少薄れてはいるのものの、刀はこの世界に存在しないので、レスルにはそこまでこの武器の特徴が理解出来ていないはずだ。
 そうなると、対処の難易度は普通の刺突と同じくらいのはずである。

 しかし、逆に言えばこの刺突に対処出来ればかなりの実力を持っているということになる。
 それくらいの実力はあるのかを確認するために、俺はレスルに刺突を仕掛けたのだ。

 そしてレスルはほんの少しだけ跳躍し、左手で彼から見て右側の刀の側面を叩いた。
 レスルの選択はとても正しい。
 この行動は刺突の威力が弱ければ軌道を逸らし、強ければ体が跳躍して空中にあるので、彼自身から見て右側に体が吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされるが怪我はしない。
 しかし吹き飛んだ後は、体勢を戻してからではないと攻撃が出来ない。そのため普通はその隙に攻撃して勝つことが出来るだろう。

 しかしそれはあくまで普通の時の話だ。俺が今使っっているのは刺突。
 俺は今まで刺突は一度も使用した事がなかったが、それは何故か。
 答えは簡単。刺突は次の攻撃に繋ぐのが桁違いに難しいからである。

 それ故に、俺よりレスルの方が早く体勢を立て直し、俺に向けて右斜め上方から片手剣を振り下ろした。
 逡巡は一瞬。俺は唯一即座に攻撃に使える左手を、レスルの鳩尾に打ち込む。

「うっ‼」

 レスルは一度呻き声を上げ剣速を鈍らせたが、即座に速度を戻した。成果は俺にレスルの剣が接触するまでの時間が延びた程度だろう。
 しかし、俺にとってはそれで十分。俺はその延びた時間を用いて刀を引き戻し、レスルの斬撃の軌道に重ねるように構える。

 直後に、衝突。

「ッ!」

「……間一髪、ってところか」

「……さすがですね。今のは当たったと思ったのですが」

「まぁ、一応お前の師匠だからな。愛用の武術と武器を禁止した程度で、負ける気はない」

「それもそうかもしれませんね。ですが僕もこのまま負ける気はありません、よっ!」

 レスルはそう言った直後に、鍔迫り合い状態になっている剣に更に力を込めた。
 実のところ、この状態は俺にとって不利なのだ。筋力はおそらくレスルより俺の方が二周りは上であるにも関わらず、だ。

 その理由は武器の差にある。
 俺の武器は刀で、レスルの武器は剣。刀は剣とは違い、筋力を用いて斬る武器ではないのだ。

 しかしもちろん、刀にだって強みがある。湾曲しているという特徴を用いて、相手の攻撃を受け流す事ができるという点だ。
 俺は刀の向きを変え、レスルの剣を滑らせて受け流す。

 即座に距離をとり、レスルの眼を狙うように刀を構える。
 レスルは俺に受け流されたため、空振った事によって体勢が崩れていたが、即座に体勢を立て直し、左脇に抱え込むようにして剣を構えた。

 ……どうやら、受けの実力は申し分なさそうだ。実力を測るのは、これくらいで十分だろう。
 ここからは……真剣勝負だ。

 そして、再度の交錯――
 


 その後もしばらく間、俺とレスルの剣戟は続いた。

 はっきり言って、この勝負は俺の方が不利だ。
 実力者の斬撃なんて、簡単に受け流せるというものではない。刀で受け流せるとは言っても、全ての攻撃を受け流せるわけではないのだ。

 それなのに何故こんなに交錯が続くのか? 分かっていたのは、本人である俺だけ。
 しかしその理由に、二十回を越えた頃には、さすがにレスルも気づいた。そして彼は、驚愕を露にした。

 交錯が続いた理由は、たった一言で言える。つまるところ俺はレスルの斬撃を、刀で受け流せる斬撃になるように誘導していたのだ。

 武術の達人は、戦いの中で即座に最適な行動を選び出す。そして俺はそれを逆に利用し、巧みな動きでレスルにとっての最適解が、俺が斬撃を受け流せる軌道になるように動いたのだ。

 理屈は簡単でも、出来るかどうかは別の話。そしてレスルは自分自身が武術の道を歩む者であるが故に、その技術がどれだけ高度なものなのかを理解していたのだろう。
だからこそ、その事実に気づいたレスルは驚いたのだ。

 このままでは、レスルに勝つ手段は無い。しかしレスルは、愚直に剣戟を続けた。
 俺はそれを見て、賞賛の笑みを浮かべる。

 この戦闘技術に対して攻撃方法を変えるのは、良くない選択肢なのだ。何故ならば、それは最適解ではない選択肢を選ぶということだからだ。
 つまり、戦い方を変えると、逆に俺が戦いやすくなるのである。

 そして、レスルはそれを理解した。それ故に、斬撃を防ぐために戦い方を変えることはせず、俺がミスをするのを待つことにしたのだ。
 俺はそのレスルの観察眼に驚いて、笑ったのである。

 一見すれば今までと同じように戦い続けていては、レスルには勝ち目が無いように見える。しかし俺とて、完璧ではない。
 いつまでも全くミスをせずに剣戟を続けることは出来ないのだ。ただ憧憬の目で盲目的に信じているわけではないという点が、とても評価点が高い。

 ……三十……四十……五十……

 五十六回目の交錯の直後、俺は唇を噛んだ。
 何故か? それは五十七回目の交錯で、レスルの選べる最適の斬撃の軌道が二つも出来てしまったのだ。

 片方は俺が斬撃を受け流せる右斜め上からの軌道だが、もう片方は対処不能な右斜め下からの軌道だったのだ。
 レスルの顔に笑みに浮かんだ。……それによって発生する、隙。

 俺はレスルに対抗するために、攻撃手段を考える。
 そして思いついた一つ手段。タイミングを計って……刀を、投げる。

 狙うはレスルの斬撃の軌道と、俺とレスルの顔を繋いだ線が重なる一点。
 しかしタイミングはワンテンポずらし、予測上の最大速度では剣が通った後に刀が通る瞬間。

 レスルの斬撃が始まった後であれば、俺の投げた刀はタイミングが間に合わなかっただろう。
 しかし、俺が刀を投げたのは俺とレスルが、レスルにとっての最適な斬撃の軌道を察したタイミング。レスルの剣は、次の斬撃のための向きを変えている途中だったのだ。

 むしろその逆。
 タイミングが早かったので、俺は投げるというより放るように刀を手放した。

 レスルは選択を迷う。
 このまま斬撃を放っても、剣が俺に届く前に刀がレスルの顔に激突する。しかし俺の剣を防ぐために斬撃を途中で止めると、俺の体術を受けるのは間違いない。
 武器が無ければ負けないなどとはレスルも思っていないようだった。そしてそれは、正しい。。

 結局レスルは決断する事ができず、逡巡したままどっちつかずな斬撃を放った。
 しかしそれは、とても大きな隙。俺は一歩レスルに歩み寄り、手を伸ばして投げた刀の柄を握る。

「なっ⁉」

 普通に投げていたら、投げた刀をもう一度握る事が出来るわけがない。しかし俺は、超低速で投げたため、そんな離れ業をこなすことができたのだ。
 早いタイミングで投げたのはそういう理由である。

 俺は握った刀を左から右に薙ぐ。普通なら防がれるだろうが、レスルの剣速は俺の刀を防ごうとした時に鈍っている。
 即座に剣速を戻すのは、幾らレスルでも無理だった。

 その一撃を受けて倒れ込んだレスルに、俺はアドバイスを少々。

「技術は上々。しかし、戦いの中の駆け引きがまだまだだな」

「……そう、ですか。でも、いつかはケイさん。いや、師匠を越えて見せますよ」

「そうか。じゃあその時を、楽しみにしておくよ」

『しょ、勝負あり。勝者、ケイ!』

 その一言が、今回の戦いの結末を示していた。

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