刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP19 戦力強化

「で、あんたはなんでここに居るんだ?」

 俺は今、先日罠を仕掛けられたギルドの応接室で、ラルド王と対談をしていた。俺側の椅子にはノイ、ラルド王側の椅子にはギルマスが座っている。

 首都から連れてきた護衛は、町を自由に散策させているとの事だった。この王様、とても民思いなのである。
 因みにアリシャは、今日もふらふら町の中を散策中である。

 ギルマスは隣にこの国の王が居るが故の緊張で、服に汗をびっしょりと滲みこませていた。ドンマイである。

「実は今日は、とても大事な用事があって来たのだ」

 ラルド王はとても真剣な表情で、俺たちに向かってそう言った。
 俺は表情を改め、エルド王に問い返す。

「その用事というのは、なんだ。あんたが出てくるからには、大事なんだろう?」

 その問いに対し、ラルド王は頷き、そして言う。

「実は四日前、魔王からの使者が城に来た」

 ……ラルド王は至って真面目な声色でそう言ったのだが、俺は呆れ返って物も言えなかった。

「なんだ、その表情は?」

「いやさ、城に魔王からの使者が来たってことは、その使者の首都への侵入を許したってことだろ。警備はちゃんと出来ているのか?」

 俺がそう尋ねると、エルド王は苦い物を噛みしめたような表情を浮かべた。

「はっきり言うと、魔王の手下は我が国の兵隊より隠密行動や情報収集に数周りも長けているんだ。軍隊の力で言えば武装国家ノロクの軍隊と魔王の軍隊に差はほとんど無い。しかしそこの差があるが故に魔王を倒すのに勇者が必要だったんだ。もっとも、もうその必要は無くなったんだがな」

「……魔王側が、停戦を求めてきたのか?」

「その通りだ。よく、分かったな」

「……まぁな」

 あまり頭が良くないとは言っても、この程度のことなら俺にも分かる。そんなことで、驚かれるとは。
 もしかしたら、俺はこいつに馬鹿にされているのではないか。

 そんな疑いを持ったまま、俺は顎で次の言葉を促す。

「停戦自体は、お前たちが級外の魔物を倒した直後に提案されていたのだがな。条件が圧倒的に不平等だったもんで、断ったのさ」

 当然のように、俺が級外の魔物を倒したことを言葉にするエルド王に、ギルマスは驚きの表情を浮かべて俺に視線で問い掛けて来た。
 ので、俺は同じく、視線で肯定の意を表した。
 
 そんな俺たちの動きに、気付いているのかいないのか。
 それは分からないが、エルド王は続きの言葉を紡ぐ。

「そして今回、こちらとしても納得のいく条件の停戦を求めてきたのでな、交渉に応じることにしたわけだ」

「それで……なんでここに来たんだ? まさか、この町で交渉をするのか?」

「そうだ」

 冗談で言ったのだが、エルド王はそう言って頷いた。ギルマスの体が、先ほど以上に緊張を帯びる。
 本当に、ドンマイとしか言いようが無い。

「因みに、お前たちにも参加して貰うからな」

「はぁ? なんで俺が、そんなのに参加しなきゃいけないんだ?」

「激しく同意なの。私たちに、そんなことに参加する理由は無いと思うの」

 俺もノイも、その言葉にそんな不満の言葉を返す。どうにも、意味が分からなかったのだ。

 それに、問題はそれだけでは無い。

「この町で、そんな大事なことをやるのはオススメしないぞ。この町の町長は、魔王側の奴らを暗殺しようしてもおかしくないからな」

「しかし、既に三日後の昼に交渉を始めると約束を……今、なんと言った?」

「この町の町長は魔王側の奴らに毒を持ってもおかしくないと言ったんだ。実際、俺らも殺されそうになったからな」

「……詳しく聞かせて貰おうか」

 そう問われたので俺が事情を話すと、エルド王よりギルマスの方が驚いていた。そういえば、どうやって罠から身を守ったのかは、説明していなかったかもしれない。

 一応、町長に毒を盛った事も伝えておいた。
 さすがにその報告には、エルド王も驚いていた。ギルマスのライフはとっくにゼロである。

 その話を終えると、エルド王は席を立って去ろうとしたので、俺は慌てて言う。

「待て待て。それで、なんで魔王側がこの町を交渉の場に選んだのかは分かっているのか?」

「魔王は別の大陸に住んでいる。船で来るのであれば、この町が一番だからな。まぁ一番の理由は、お前たちを見るためだろうがな。ああ。さっきの話に戻るが、拒否したら恥ずかしい二つ名をたくさん広めるだけだから、覚悟しておけ」

 魔王の国は別の大陸にあるのか。初めて知った。

 ……後半の言葉は聞こえなかった。
 そういうことに、しておこう。

「あと、もう一つ質問だ。いくらなんでも、魔王側での情報の伝達が早過ぎないか」

「おそらく通信用のアーティファクトを持っているんだろう。この国も、町と町の間の情報の伝達はそれでやっているからな。で、話は終わりか?」

「ああ。もう大丈夫。」

「そうか。じゃあ私はこの町の町長を失墜させて来る」

 エルド王は当然の様にそう言って、この部屋から出ていった。アクティブな王様である。

 こうして応接室には俺とノイ、そして燃え尽きて灰になったギルマスが残された。

「ご愁傷様、か」

「……いや、死んでないからな」

 俺のボケに、そうつっこみを入れるギルマス。乗りのいい男である



「アリシャ、まだ来ないなぁ……もぐ」

「啓を待たせる何なんて、万死に値するの……はむ」

 ノイがそんな物騒な事を言ったので、俺は少し落ち着けという気持ちを込めて頭を撫でる。

 ギルマスに三日後の朝にまた来ると伝えてギルドを出た俺たちは、ギルドの傍の屋台で数個の魚の目刺しを買い、ギルドの前でアリシャを待っていた。昼にここで会う約束なのだ。
 そして、俺たちが昼食を食べ終わる頃にやっと来たアリシャだったが、どうやら様子がおかしかった。いつもと違ってボーっとしており、俺たちのこともよく見えていない様子なのである。

「ア・リ・シャ! 何かあったの?」

「ふぇっ! な、何でもないですよ」

 アリシャはそう言ったが、何もないはずが無かった。
 まぁ、体調を崩している訳でもなさそうなので、わざわざ聞き出す必要は無いだろう。

 そう思って俺は話の方向の変更、修正を図る。

「それじゃあ、行くぞ」

「え、ええ。そうですね」

 俺たちは午後から、アリシャの戦い方を見て、修行をつけてやる予定だった。

 何故、そんなことになったのか。
 それには昨日アリシャに聞いた、驚くべきことが関係していた。
 
 普通の冒険者は、一日に一度魔物と戦う程度。しかも、それ以外では体を動かすこともほとんど無いらしいのだ。
 そんなことでは実力が低いのは当たり前だし、強い冒険者がいるわけも無い。

 アリシャも同じような感じだとのことだったので、「強くなりたくはないのか」と俺はアリシャに尋ねた。
 結果、アリシャは強くなる事を望んだので、修行をつけることにしたのである。

 俺たちはオスアを出て、草原に向かう。
 この町は港の町と言われるだけあって海の魔物の方が有名だ。多種多様な魔物、海に生息している。
 しかし、修行の相手には不適切だろう。そう判断したが故に、地上の魔物と戦ってもらうことにしたのである。

 草原に入って十数分。最初に出会った魔物は、七級の魔物であるイエローボアだった。
 アリシャの相手には、丁度いい強さの魔物。まずは、アリシャの好きにやらせてみることにする。

「ふっ! はっ!」

 魔物の攻撃を避けつつ、右手のダガーを急所に当てる。
 堅実なとても良い攻撃方法だ。体運びはともかく、戦い方は間違ってはいない。

 戦闘スタイルは変える必要はないだろう。これからは、体運びを教えることが主な修行になりそうだ。
 もっとも、一番は体力と筋力をつける事だが。アリシャ含め、冒険者の最大問題点は、そこである。

 急所を正確に刺す、斬る技術は、成長の余地はまだまだあるが、中々のものだ。
 しかし、魔物の攻撃を避ける技術はあまり良いものとは言えない。
 
 魔物を倒し終わったアリシャにこれらの事を伝え、俺は修行のメニューを考え始める。アリシャが身に付けないといけないのは、体力と筋力に加えて、攻撃を急所に当てる技術と攻撃を余裕を持って避ける技術だ。
 ノイとも相談をして、走り込みと筋トレと素振り。そして俺の攻撃を必死に避けるというメニューに決まった。アリシャの意見は知らん。

 そうと決まれば、早く始めるに越したことはない。
 まずはアリシャに草原を走らせる。後ろから白虎が追いかけてくるおまけつきだ。

 休憩時間なんて与えるつもりはない。ノイに回復してもらい、終わってすぐに腕立て附せや腹筋などの筋トレを始めさせる。
 その隣で、俺とノイはアリシャの数倍の量をやって、圧を掛ける。若干涙目だったが、やると言ったからにはやってもらう。

 少々の休憩をとり、素振りを開始する。
 素振りと言う概念が無いらしく、アリシャは戸惑っていたが、俺の実力は素振りによって身に付けた力が大きいと伝えると、真面目にやり始めた。

 その後、俺の攻撃を避ける修行を開始した。
 さすがに白龍は使っていない。ただの刀の方であり、かつ刃の向きは反対である。
 そうは言っても、かなりの速さではあるが。

 最後にアリシャにイエローボアをもう一体倒させ、俺たちはオスアに戻った。
 アリシャがいつもの数倍は疲れたと言ったが、今までがおかしかったのだと説明すると、アリシャはしぶしぶ頷いた。

 アリシャが宿に入って行った後、俺はノイが見守る中、宿の外で自分の修行を始める。
 異世界に来てから一度も素振りをしていなかったので、しばらくぶりだが果たして……

「全く腕が鈍ってないの。さすがは啓なの」

 ノイからそんなお墨付きを頂いた。素振りはしなかったが、戦いやらなんやらと、普通に体は動かしていたからだろうか。
 ともかく、ノイの言葉以上に信用できるものはないので、俺は安心して、ノイと一緒に宿に入った。

 ……そして、あっと言う間に三日経ち、魔王と交渉をする日が訪れた。

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