刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP16 対麒麟戦 後編




 奥義……この刀が所有者を認めた時に顕現する。試練……合格
 ・物象を喰らう白龍
 神である白龍の本来の力。この奥義は斬撃の『障壁』を身に纏い、その斬撃に触れた存在を『分断』。『分断』した存在を『崩壊』させた後、その存在の残骸を『変換』してエネルギーにすることで、所有者は自らの体力を補充することが出来る。また、それによって発生した余剰分の体力を、他のエネルギーに再度『変換』して、外部に放出することも出来る。



 抜刀した俺に、斬撃が纏わり付く。その斬撃は周りの風どころか、麒麟の殺意の含んだ視線すら崩壊させた。

 俺が麒麟に向かって行くと、纏わり付いた斬撃は足元の建物の残骸も崩していく。
 そして散り散りになったそれらを、俺はエネルギーに変換して喰らい、体力と怪我を回復させる。
 
 麒麟が、怯えて後ずさる。俺が通った場所にあった物が消え去っていくのを見て、恐怖でも覚えたのだろうか。
 
「■■■■■■■■■■■■■‼」

 麒麟はどうも、俺に対して声を上げたようだった。まぁ、口を動かしただけの可能性もあるが。
 今俺は、周りの人の声が聞こえないのだ。この奥義で、音を含む様々なものを消去しているために。

 もちろん、麒麟には俺の声も届かない。
 故に俺は、本当に無駄な口を開くという行為はせず、ただ麒麟の方に歩みを進める。

 麒麟は恐怖に耐え切れなかったのか、後ろを向いて逃げる。更に麒麟は、地を動かすことで、移動速度を上げていた。
 しかしもちろん、逃がす気は全く無い。
 
 重力による落下現象――分断。崩壊。変換、体力
 余剰体力――変換、運動エネルギー

 俺は重力の縛りから逃れ、空を飛んで麒麟を追う。
 
 理論上、俺は無限に飛行速度を上げることが出来る。
 奥義によって触れた物は崩し去るが故に、空気抵抗は存在しない。そして、俺は崩した存在を運動エネルギにに変換して、加速することも出来るからだ。

 白龍を振るう必要は無い。
 左手に鞘を、右手に白龍を持って、俺は頭から麒麟に向かって飛びかかる。

 容赦はしない。
 最短距離を、最速で俺は飛ぶ。

 突然、麒麟が方向を変える。俺が桁違いの速度で飛んでいるのところから、急な方向転換は無理だとでも考えたのだろう。
 しかし、その考えは間違っている。

 運動エネルギ――分断。崩壊。変換、体力。
 余剰体力――変換、運動エネルギー

 自分の肉体に対して加わっていたベクトルを変換して喰らい、その直後に俺は喰らった力をもう一度変換して軌道を変更する。
 これは手間が掛かるようで、実際はほとんど時間を使わないのだ。麒麟からしたら驚きだろう。

 麒麟が何度も逃げる方向を変え、それに対し俺は、龍のように滑らかに曲がりながら麒麟を追尾する。
 麒麟の体が、少しずつ強張っていっている。麒麟の余裕は、着実に削れているようだった。

 数分後、ついに麒麟が転んだ。
 麒麟の巨体が倒れた事によって、風圧で地面に落ちていた建物の残骸が吹き飛び、それによって視界が制限されそうになるのを視認し、俺は飛行速度を限界まで上げる。
 そしてその咄嗟の行動によって、飛び散った残骸が視界を塞ぐ前に、俺は麒麟にかなり近づくことが出来た。

 俺が至近距離まで近づいたのを知って、麒麟がフェニックスの幻で炎を身に纏う。
 しかしその程度で、この奥義は破れはしない。炎だろうがなんだろうが、存在しているであれば斬れないものは無いのだから。

 触れた場所だけではなく、麒麟に纏わり付いた炎が全て崩れ去る。それを認識した麒麟は、一瞬動きを完全に止めた。
 そんなあからさまな隙を見逃すわけがない。
 
 俺は纏う斬撃を麒麟にぶつけ、幻獣としての少しも余さずに麒麟を喰らいつくす。……本当に、強大なエネルギーだ。
 そうして麒麟は、まるで幻のように、光も色も無く、何の痕跡も残さずに消えさったのだった。

 奥義を解除して、地に足をつける。そして数秒後、俺の足元に小さくなった麒麟が現れた。
 ちゃんと新生してくれたようで安心だ。理屈では、こうならないとおかしいのは分かっていたが、感情的な問題で、ちゃんと再度現れるか結構不安だったのだ。

 俺が麒麟を倒した事を何らかの手段で知ったのか、四方守護陣が解除されていた。しばらくしたら、ここにこの町の人達が集まってくるだろう。
 面倒事は御免なので、小さな麒麟を抱えて俺はそそくさとノイたちのいる場所に戻る。

「おつかれさまなの」

「ああ。ノイも、四方護衛陣ありがとな。それとこいつ、ちゃんと連れて来たぞ」

 そう言って、俺はノイに麒麟を丁寧に手渡す。そしてノイが慈愛に満ちた表情でその小さな頭を撫でると、麒麟は安らかに眠り、虚空に吸い込まれるようにして消えた。
 何の問題も無い、ノイが他の幻獣を従えた時と同じ現象に俺は安心する。

 アリシャは、俺と麒麟あんなに派手な戦いをしていたというのに、まだ気絶していた。エクスが何度も頬を叩き、やっと気を取り戻したが。

「えーと、ここはどこですか?」

 起きた瞬間、そんなことを言うアリシャ。どうやら、かなり混乱しているようだった。
 俺はアリシャに現状を簡単に説明し、その後みんなに麒麟との戦いの詳細の説明をした。
 
 説明を終えると、アリシャとエクスの両方から呆れた視線を向けられた。
 賞賛の言葉はノイからしか向けられなかったのだ。解せぬ。
 まぁノイに褒めてもらえたので、特に不満は無いのだが。

「ってことは、もう問題は全て解決したって事でいいんですか?」

 俺の話が一段落つくと、アリシャがそんなことを言った。
 その言葉に、ノイとが横に振って返答する。

「後一つだけ残ってるの」

「ああ、その通りだ。なぁ、白龍」

 俺はノイの言葉に同調し、白龍の柄に手を掛ける。

 抜刀――――――

『……汝らと話すのは久々だな。期待はしていたが、まさか本当に我が奥義を顕現させるとはな』

 周囲に、聞き覚えのあるそんな声が響いた。
 
 忘れはしない。この声は白龍を始めて抜き放ち、この世界に飛ばされた時に聞いた声だ。
 すなわち、それが意味することは――

「私を創った、現在の神……」

 俺の持つ白龍を見ながら、エクスがそう声を漏らす。
 エクスの言葉は正しい。この声は現在の神である白龍の声だ。

『我が作りし聖剣、エクスカリバーか。我も汝と話したい事は色々とあるが、すまないが我が所有者との会話を優先させてもらう。すまんな』

「いえ、滅相もない」

 エクスが一礼して後ろに下がる。彼女がこんな神妙な態度を取るのは、初めてはないだろうか。
 ともかく、話し掛けても問題は無さそうだと判断し、俺は口を開く。

「久々って言うけど、そこまでの長い時間は経ってないと思うけどな。それで、俺の話したい内容は理解してるんだろう?」

『元の世界への転移に関して、か?』

「さすがは、ずっと俺と一緒にいるだけはあるな」

 俺は完璧な答えを返した白龍に、そう言って深い笑みを返す。
 そんな俺に、白龍は少々予想外な言葉を返した。

『いや。我は神ではあるが、あくまでも武器だからな。基本的に限定された状態でしか、周りの状況を正確に認識することは出来ない。我が創造物は例外だがな』

 つまり、エクスは例外というわけか。思えば、この刀は見た目はあまり特徴が無いのに、エクスはすぐに白龍だと気づいたし、創造主と創造物には、そういう特別な繋がりがあるのかもしれない。

「その、限定された状況ってのは?」

『鞘から抜かれている時だ』

 基本的に、戦闘中のみということか。つまり、ノイのと会話を聞いていたわけではないようだ。
 しかしよくよく考えれば、白龍は俺たちを無理やりここに連れて来たのだから、周りの状況が認識できない状態でもその予測が出来たのは、ある意味当然かもしれない。

 俺がそんな事を考えていると、焦れたノイが俺たちの意見を言う。

「長話をするつもりは無いから、結論だけ言うの。私たちはしばらくは、元の世界は帰るつもりは無いの」

『ほう。そうなのか、我が所有者よ』

「ああ、その通りだ」

 不思議な物質、生き物、自然、事象。この世界には元の世界には無かった魅力が沢山ある。
 折角の機会なのだから、色々な場所を見て、色々な体験をしてみたかった。

「だから俺がお前にしたい話は、今は帰らずに好きな時に帰るという選択があるのかという話だ」

『……なるほどな』

 俺たちはあちらでは、おそらく失踪したことになっているのだろうが、俺もノイも両親の性格上、特に心配はされていないだろう。
 見放されている訳では無い。信頼されているだけである。

 しかし、永遠に帰らないという選択肢は無い。こっちにしばらくいるとしても、長くて一年くらいが限度だ。
 さすがに、一生をここで過ごすという選択肢は無いのである。

 この選択が選べないのであれば、俺とノイは今すぐ元に世界に帰るつもりだった、アリシャとエクス、俺たちが魔王を倒すことを期待している人たちには悪いが。

『一つ言わせてもらおう。それを決めるのは我ではない』

「何だと。神であるお前より、上位の存在がいるというのか?」

 その時、俺は白龍が笑ったように感じた。白龍は刀で、顔に類する器官を持っていないのにだ。

『初代の神が、何故我に神の座を奪われたのかを、エクスに教えてもらっていたではないか。汝は知っているはずだ』

 白龍が面白がっていると言わんばかりの声色で、そんなことを言う。
 前の神が初代だったのは初めて聞いたが、白龍が神になった経緯は聞いている。確か前の神が、白龍を自分より上位の存在だと認識したからだったはずだが――

「おい。まさか……」

『察しが良くて助かる。我は既に神ではない。現在の神は汝だ。故にこの世界もあちらの世界も、汝に好きなように改変することさえ出来る。世界間移動など、最早些事だろうな』

 さすがに、予想外だった。世界間移動が自由に出来るというのは朗報だが、まさか俺が神なんて存在になってしまうとは。
 『人神』と言う二つ名は、今この時のフラグだったのではと、真面目に考えてしまう自分すらいる。

「何か、神の義務とかはあるのか」

『全く無い。世界を弄ろうが滅ぼそうが汝の自由だ』

 こいつは、俺のことを魔王だとでも思っているのだろうか。俺に、そんな願望は無いのだが。

「それにしても、今後の予定が決まったな」

「その通りなの」

『ほう。因みに、何をするつもりなんだ。』

 そう白龍が質問をしてきたので、俺とノイはニヤリと笑って答える。

「異世界旅行なの」

「そして、この異世界の魅力を全て見てやる。もちろん邪魔する奴は――」

「「ぶっ倒す‼/ぶっ倒すの‼」」


「刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く