刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP12 魔王様は最上級(弱い)

 昨日はギルドに向かった後、アリシャを連れて宿に戻った。
 最上級冒険者の彼との決闘は有耶無耶になった。正確には、有耶無耶にされたというのが正しいが。
 
 そして現在は、冒険者ギルドに向かっているのだが……

「何か視線がおかしくないか?」

「確かにそうなの」

 そう。周りの町の人から向けられる視線がおかしいのだ。
 しかも、悪意を含んだ視線なら逆にいいのだが、そういう視線ではないのが気味が悪い。

 俺は、特に何もしていないはずなのだが。

「あなたたち二人は、この町を一万もの魔物から護り、その魔物の全てを殺したんですよね。そんな事をしたら、目立つのは当たり前ですよ」

 アリシャが呆れたようにそう言った。最近、アリシャに呆れられることが多い気がする。
 そもそも彼女と会ってから、そこまで経っているわけでもないのだが。

 それはともかく、そういうものなのだろうか。
 何かをして感謝をされるという経験があまり無いので、俺もノイもよく分からないのだ。

 気にしても仕方が無いので、俺たちは町の人を無視する事に決めてギルドに向かったのだが、ギルドの中に入ってもその視線が減る事は無く、逆に視線は増えた。欲望や嫉妬の視線じゃなかっただけ、幸運だと思うべきなのだろうか。

 挙句の果てには、『人神』に『守護者』といった大げさな二つ名すら聞こえてくる。おそらく『人神』が俺の事で、『守護者』がノイの事だろう。
 『真紅の疾風』などという二つ名も聞こえてきたが、全力で気づかなかった事にした。

「ケイさん、ノイさん。ギルドマスターが、『最上級冒険者にならないか』と、言っています。いかがしますか?」

 受付に向かうと、そんな言葉を掛けられた。
 どうやら俺たちがやった事は、かなりの偉業だと判断されているようだった。

 それはともかく、この国では最上級冒険者になっても損は無い。
 俺たちはその申し出を受け入れる事にした。

「それじゃあ、お願いする」

「分かりました。それと、壁の増築の件で町長と首都からの使者が奥の部屋で待っています。お時間はありますか?」

 もう首都から使者も来ているのか。
 それにしても町長を待たせてる俺たちって、かなりヤバいんじゃ……まぁ、細かい事は気にしない事にしよう。

 俺が再度肯定の言葉を返すと、ギルドの職員に案内されて、応接室に通された。

 ついでに言うとアリシャはまた逃げた。堅苦しい事は嫌いだと言って。
 アリシャが俺たちについて来ている理由を、真面目に疑問に思う。

 もっともアリシャは、そんなことを変える俺など気にせず、夜には宿に戻るといってさっさとどこかに行ってしまったが。
 心配なので、エクスに人化して追って貰った。

 話を戻そう。
 アリシャ云々は横に置いておく事にして、ともかく応接室には二人の男性がおり、テーブルを挟んで、椅子に座っていた。

 一人はお髭の白い五十は越してるであろうおじさん。絶対にこっちが町長だ。
 もちろんそう考えるのには根拠がある。

 何故なら、そのおじさんの向かいに座っているのが――

「なんでここにいるんだ、レオ公爵」

 ――首都で出会った、レオ公爵だったからだ。絶対に首都からの使者というのはこっちだろう。
 お忍びなのか特に隠している訳では無いのかは分からないが、不真面目なのは違いない。ちゃんと公爵としての仕事をして欲しいものだ。

 そう考えている俺に、レオ公爵は呆れた表情で言った。

「……君ね、自分たちがやったことの意味を理解してるかい?」

 ……はて。何の事だろうか。

 俺がやったのは魔物を殲滅することで、ノイがやったのはそれまで耐えること。
 冒険者たちの実力が低いのは知っているが、公爵が出てくる程の事だろうか。

 俺たちが本当に理解していない事に気づいたのか、レオ公爵は驚くべき言葉を発した。

「言っておくけど、魔王の実力は一級――最上級の魔物とほぼ同じだよ」

「はぁっ?」

 魔王の実力が最上級の魔物と同じだと。この人は本気で言ってるのか。

 確かに冒険者の仕組みでは倒せる魔物と冒険者の級は同じではない。弱い魔物でも、たくさん倒せば級は上がるのだから、昨日の奴と魔王が同じくらいの強さというわけではないのだろう。
 彼が嘘をついているようにも見えないし、それにそれが事実だとしたら、ここにレオ公爵がいる理由にも納得がいく。
 
 しかし、魔王がベヒモスやらクレイジーウルフより弱いというのは、感性的な問題で納得がいかない。
 あのデカブツと犬っころに、魔王が負けるというのは想像がつかなかった。
 
 俺がそんな葛藤を抱えているのに、気づいているかいないのかは分からないが、レオ公爵が次の言葉を放つ。

「現魔王は六代目。今回の勇者召喚を除いて五回も勇者を召喚しているけど、魔王を倒すのが精一杯で、級外の魔物を倒せた勇者は一人もいない。そもそも有史以来、級外の魔物が倒されたことは一度も無いんだよ」

 その言葉を聞いて、俺は悟った。
 どうやら認識を改めないといけないようだ、と。

 俺が理解した事をレオ伯爵に伝えると、ようやく町長が口を開いた。

「さて。君たちの言い分は、この町の壁を高くしろということじゃったな」

「その通りだ」

 俺はその問いに肯定の言葉を返す。すると彼は、たたでさえ皺だらけの顔を、更に顰めて言う。

「実は、壁に使う為の石材は十分にあるのじゃ。じゃが、全くもって人が足りないのじゃよ」

 なるほど、人材不足か。しかしそれならば、出来ないこともない。
 横のノイを見ると、彼女はサムズアップして見せた。どうやら、やってくれるようだ。
 
「壁の改築、やってやろうか?」

 俺がそう提案すると、町長は頭の上に疑問符を浮かべて言う。

「いくら君たちが凄腕だからって、石材を全部運んで改築するのは無理じゃろう?」

 まぁ、そりゃあそう思うよな。そんなことを思いつつ俺は返答する。

「手伝うのはノイ一人だぞ。別にノイが体を動かすというわけでもないがな」

「どういう意味じゃ?」

 そう言って首を捻る町長。
 俺はそんな町長に、折角だから、見てみたら分かるだろうと言った。



 俺たちはそんなこんなで、現在町の展望台に来ていた。
 因みに石材は持ってきてはいない。塔の上に来る前に石材置き場は通ったが。
 そのことに町長がまた疑問符を浮かべていたが、俺は見れば分かると説得した。
 
「さてと。ノイ、任せた」

「任されたの」

 ノイはそう答えて、風を巻き起こした。青竜の、力だけを行使しているのだ。

 風は遠く離れた石材置き場の石材を巻き上げ、石材を壁の上まで運んで来る。
 ノイは風を正確に操って壁の上に石材を順に積んでいき、数分後には石材は全て積み重なり、高い壁へと変化していた。

「なん……だと……」

 どっかの誰かと同じ様な事を口に出している町長はさて置き、俺はノイに問い掛けた。
 
「それで、どうやって石材をくっつけるつもりなんだ?」

 今のこれは、石材を積み重ねただけ。石材同士は繋がっていないので、このままでは強い衝撃が加えられた時に簡単に崩れる。
 もちろん、ノイが考えていないとは思っていない。純粋に、疑問に思っただけだ。

「溶かして、固める。それだけなの」

 そう言うと、ノイは朱雀の力を用いて石材の溶けるギリギリの温度で溶かして隙間を埋め、直後に玄武の力で生み出した水を用いて溶けた石材を冷やして固めた。
 
 石材を溶かすことと、冷やすこと。それ自体は、ノイにしか出来ないわけではない。
 称えるべきはその精度、完璧な力の制御だ。これだけは、誰にも真似出来やしない。

「さすがだな」

 俺は素直にノイを称える。するとノイは、仄かに頬を赤らめた。
 そして、レオ公爵はそんな俺たちの様子を見て呆れており、町長は壁を見つめたまま呆然としていた。

 つまるところ、この場は今、カオスと言うべき状況だった。

「なぁ、レオ公爵。俺たち二人の二つ名が広まるのを止めて欲しいんだが、頼めないか?」

「無理だね。諦めてくれ」

 そう言って、俺の願いをバッサリと切り捨てるレオ公爵。こんな状況故に彼の思考が纏まっていないだろうと考えて、それを利用して二つ名が広まるのを阻止しようと考えての発言だったのだが。

 俺は二つ名の件は諦めて、ノイと一緒にこの場を後にすることに決めた。町長を正気に戻すのを、レオ公爵に丸投げしたとも言うが。
 
 そして、今日はこの後、特に何かをする予定は無い
 ということで、俺たちは久々にデートをする事にした。



「異世界でデートって……」
 
 ノイはそんな事を言っていたが、足が震えていた。必死に感情を抑えているようである。
 ノイの心情が如実に表れるのは、顔に続いて足なのだ。つまるところ、彼女も喜んでいるのだ。

 そんなノイの様子を楽しみながら、俺はふとある事を疑問に思ってノイに尋ねる。

「ところで、何でこんなに冒険者が弱いんだと思う?」

「……おそらく、この世界の技術が低いのに、魔物の素材が優秀なのが問題なの」

 どうやら、既に考えついていたようだ。さすがはノイである。

「つまり、それは相対的に魔物の素材の価値が高いってことだよな。魔物の素材以外から作った物が、あまり使えないから」

「その通りなの。そして、そのせいで毎日魔物と戦わなくてもいいから、実力が上がらないの」

「具体的には?」

「下級の魔物一匹分の素材で一日、中級の魔物一匹分の素材で五日、普通の生活ができるの」

「そりゃあ弱いわけだ」

 つまり、究極的にはこの世界の技術を上げて、魔物の素材以外から作ったものの価値を高めたら、冒険者も強くなるという事だ。もちろんそんな面倒なことをやるつもりは無いが。

「それにしても流石はノイだな」

「ッ! 褒めても何もでないの」

 そんな事を言っているが頬が薄っすらと紅く染まっている。バレバレである。

「さあて。とりあえず昼食をとる食堂を決めるか」

 俺は隣のノイに向かって手を伸ばした。

「………………」

 ノイは俺のその行動に質問を返す事は無く、ただ周りを見回した。

 現在は真昼。当然周りに人は沢山いる。
 ノイは躊躇ったが、結局は俺の手を握った。

「……ひゃっ!」

 ノイの手が俺の手に重なった瞬間に俺がグッとノイの手を握ると、ノイが誇張無しで跳ねながらそんな声を上げた。
 俺がそんなノイに微笑みを浮かべると、ノイはそっぽを向いた。
 隠すなら顔を全て隠すべきである。頬がさっきよりも紅く染まっていた。
 
 とても幸せだったが、一つ言いたい。



 ……周りの人、空気を読んで俺に対する殺気を抑えてくれ。

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