刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP11 魔物殲滅

 壁から魔物の群れに跳び込んだ俺の目に、最初に映ったのは鹿のような魔物の背中だった

 俺は白龍を抜刀し、鹿のような魔物の首筋に斬撃を放ち、反動で落下速度を下げたが、落下の衝撃を緩和しきるには至らなかった。
 故に俺は、衝撃を怪我をしないくらいに緩和する為に、地面を転がるようにして着地した直後、周囲の安全確保の為にしゃがんだまま白龍を薙いだ。

 俺が立ち上がると周囲の魔物から殺気を向けてくる。しかし俺は、この程度の殺気で怯えたりはしない。
 冷静に、戦況の分析を開始する。

 一体一体の強さはそこまでではない。油断さえしなければ、一撃で一体倒せる程度の強さだ。

 しかし、数が桁違いに多すぎる。
 負ける事は無いと思うが、最優先事項は魔物からこの町を護る事だ。適当に戦ったらこの町を護りきる事は出来ないだろう。

 となれば、壁の近くで戦うに限る。
 俺は、壁に沿って走りながら、侵入を試みる魔物共を斬り払うという作戦にすることにして、行動を始めた。

 急所を斬って一撃で仕留める事で反撃の隙を与えていないので、怪我は少しも負っていない。
 しかし対応しきれているかというとそれはまた別の問題だ。

 俺一人で、壁に魔物が群がっている範囲を、全てカバーするのは明らかに無理だった。
 
 頼みの白龍の技も、この状況に合った技は無い。
 唯一使えるとしたら斬撃の結界だが、残念ながら、自分を中心とした半径十メートルの結界が限界だ。

 それ故に、俺にはこのまま走りながら斬り払い続ける以外の選択肢が無かった。

 壁の魔物が群がっている範囲を斬り払いながら七往復した頃、ついに限界が来た。
 俺がしばらく前に斬り払った大きな魔物の死体を踏み台にして、数匹の身軽な魔物が壁に向かって跳んだのだ。

 その跳躍は壁の高さを、明らかに超えていたが、何故か壁を越えることはできなかった。何かにぶつかったかの様に跳ね返ったのだ。

 見ると壁の上に、新しく壁ができていた。
 実体を持ってはおらず、その壁は無色透明だった。それなのに気付けた理由は壁に当たった光が僅かに屈折し、壁の向こう側の風景が少々歪んでいからだ。

 壁はとても高く、雲に届いていてもおかしくない程だった。実際、届いているのだが。

「『四方守護陣』か。余計な事をしやがって」

 そんな事を呟いたが、実際はかなり助かった。 

 『四方守護陣』。もちろん、これを使っているのはノイである
 四神の本来の役目は守護。そして四方守護陣は、その四神の力を最大限に引き出すために、ノイが生み出した技だ。
 
 この陣の中に入ることが出来るのは、ノイと四神の両方が認めた存在に限られる。それ以外であれば全てを防ぐのだ。例外は無い。
 四神が一体でも欠ければ使えないが、逆に言えばそれ以外の弱点は無いのだ。 

 四方守護陣は展開の際に体力と精神力を大幅に使うが、展開してしまえば維持は四神に全て任せられるため、体力と精神力のどちらも消耗しない。
 つまりそれは、いつまでも維持し続けることが可能だということだ。

 どうやって、ノイが町の外に魔物がいることを知ったのかは、少々興味がある。
 しかし、今大事なのは魔物が壁を越えられなくなったのであれば、今までの様に壁に沿って魔物を倒す必要は無いということ。他の事なんて考えず、ただ刃を振るえばいいのである。

「さて、それじゃあ殲滅を始めるとするか」

 俺はニヤリと笑い、鞘に納めたままの白龍の柄を握って、全速力で走る。
 そして魔物が射程範囲に入った瞬間――抜刀。

 目の前の一体の魔物と、その魔物の向こう側にいた二体の魔物、合わせて三体の魔物に、一筋の線が走った。
 直後にその線から噴き出るのは血。つまり俺は目の前の魔物だけでは無く、その向こう側にいた魔物も斬ったのである。
 
 刀身の長さから考えればどう考えても不可能な芸当だ。それなのに、何故斬れたのか。
 そう問われれば俺はこう答える。ただの風圧だと。
 
 そうは言ってもそこまでの射程がある訳では無い。精々一メートルが限界だ。
 しかし、多数を相手にするときに、一メートルの攻撃範囲の増加は大きな意味を持つ。
 実際に、普通なら一体しか斬れないのに、射程を生かして三体を斬ったばかりだ。

 当然、通常時にそんな速度で白龍を振るうことは出来ない。こんな速度で振るえているのは、抜刀の際にベクトルの向きの絶妙な調整を行っているからである。

 しかし、毎回毎回白龍を鞘に納めるわけにもいかない。それならばどうすればいいのか。
 その難問に俺はこんな答えを出した。
 速度を落とさずに次の斬撃に繋げればいい、と。

 考えとしては正しいが、出来るかどうかはまた別の問題。
 しかし、俺はそれを成し遂げ、この技術を実戦で使えるようになったのである。

 昔、普通に見ただけでは見えないため、スローモーションで撮影した俺の技の映像を見たノイは言った。

「沢山の斬撃が繋がっているというより、一回の斬撃が永遠に続いているような感じなの」

 かつてノイにそう言わせた、神速にして永遠に続く斬撃が、今、牙を剥く。



「……何なんだ、あれは」

「啓の真骨頂。あの斬撃は、啓が止めよう思うまで止まらないの」

 呆然とした冒険者の一人が上げたその声に、私はそう自慢げに答えた。
 
 私たちは、塔の展望台で町の外を見ていた。
 私が町の周りに魔物が群れている事を知れたのは、この塔があったからだ。

 冒険者達が落ち着きを取り戻した後、私は不意に啓の事が心配で耐えられなくなった。
 しかし、啓に冒険者たちを護る事を頼まれていたので、動くことも出来ない。
 
 そんな中、一人の冒険者が騒ぎ出した。また魔物が襲ってくるのではないか、と。
 そして、その冒険者を抑えるための信憑性のある情報を集めるために、私は数名の冒険者と町の塔の展望台に向かい、周りの様子を見る事にしたのだ。

 因みに一緒に展望台に向かう冒険者には、私を変な目で見ていなかった冒険者を選んだ。

 塔の展望台に上ると町の外に魔物が群れていたのに気付いた。およそ一万体といったところか。
 連れてきた冒険者たちは恐怖に顔を歪めていたが、そんなことより啓はどこにいるのかと私が探していると、視界の端で血しぶきが映ったのだ。
 咄嗟にそっちの方を見ると、そこでは啓が戦っていたのである。
 
 啓は、壁の近くの魔物を殺すのに必死だった。
 それを見て私は啓が町を護るために、本来の実力を出せていないことに気づいたので、隣で冒険者が驚いていたが、援護のために私は躊躇なく四方守護陣を展開したのだ。

 私が四方守護陣を展開した事に、啓はしばらくの間気づいていなかった。
 しかし、数匹の魔物が壁を跳び越えようとして跳ね返ったのを見て、啓は私が四方守護陣を展開している事に気づいた。
 
 直後、啓は魔物の群れに突っ込み、彼の周りには紅い花が咲いた。
 死んだ仲間の敵でも言わんばかりの勢いで魔物が啓に突っ込むが、衝撃で飛ばされる事は無く、魔物はただただ真っ二つになって血しぶきを上げる。
 啓の周りでは、そんな光景が広がっていた。

 もはや啓の手元は見えず、体の全体像もぼやけている。あるのは啓の斬撃によって即死していく魔物のみ。
 町の外は、啓による一方的な殺戮の場と化していた。

「彼は……何者なんだ……」

 桁違いな光景を見て動揺していた冒険者の一人が、ある程度の落ち着きを取り戻したのか、私にそう質問して来た。

「啓は化け物でも、ましてや神でも無いの」

 もし神だとしたら死神なの、などと思いつつ、私は言葉を続ける。

「啓があんなに強いのは努力の結果。啓は、ただの人間なの」

 私と違ってという言葉は胸の内にしまい、私がそれだけ言うと、彼らは考えるような素振りを見せ始めた。
 彼らなら自分で道を探すだろう。

 そう思って私は塔の階段を下り、啓の元に向かって歩き始めた。



 あの後、俺は町の外にいた群れを十数分で殲滅した。

 門をくぐって町に入ろうとした時、俺の戦闘している様子を見ていた、衛兵に声を掛けられた。
 尊敬の言葉を掛けてきた彼に、俺は町長とのこの町の壁に関する話し合いの場を作ることを、上司に進言して貰う事をお願いした。

 彼は快く引き受けてくれたので、俺は今ギルドに向かっていたのだが、ギルドからある程度の距離にある街角を曲がったところに、ノイが一人で立っていた。
 俺の事を視認したノイは、安心したという心情がよく分かる、落ち着いた笑みを浮かべた。

 俺はそれに笑みを返し、一つ彼女に尋ねる。

「冒険者を護っておくように言ったはずだが、どうやって魔物が町の外にいる事に気づいたんだ?」

 そう問うと、ノイは俺がギルドを出た後の事を話した。
 話を聞いてみれば、とても納得のいく話だった。
 
「体調は大丈夫か? 四方守護陣は、かなりの力を消耗すれば技だったはずだが」

「特に問題は無いの。役に立てたみたいで、良かったの。それよりも、啓は大丈夫なの?」

「怪我もしてないし、大丈夫だ」

「それを聞いて、安心したの」

 そんな会話をしながら、俺たち二人はギルドに向かって歩いた。

「刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く