刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP4 技の確認

 
「ん~~……」

 隣のベットから呻き声が聞こえ、俺は自分の手の中の暖かくて柔らかい感触を感じながら目を開け、体を持ち上げつつ首を隣のベットの方に向ける。
 するとそこには、布団が鼻に掛かってしまって息がしづらくなり、寝ながら苦しむノイの姿があった。

「何をやってるんだお前は」

 ノイから布団を取ると呻き声は止んだが、何故か鼻を震わせ始めた。
 じっと見つめていると鼻の震えは徐々に大きくなり、最高潮に達するとーー

「ーーっくしゅん!」

 小さくて、可愛らしいくしゃみを炸裂させた。どうやら寒かったようだった。
 ノイは目を開けると、呆然とした表情できょろきょろと周りを見回した。

 その様子を見て俺はほっこりとして、笑みを浮かべた。
 そしてノイは、俺が笑みを浮かべているの気づくと、ムッとした表情を浮かべた。

 俺は握りしめたノイの片手を辿ってノイに近づくと、ノイの体を思いっきり抱きしめた。
 ノイは少し戸惑った表情を浮かべたが、すぐに俺の体を抱き返し、しっかりとした感触を返してきた。

 俺たちはしばらくの間、そうして抱き合っていた。



「いやー、こういうのを見るとやっぱり異世界なんだなって改めて感じるな」

 俺は冒険者ギルドによった後、昨日の夜決めた予定通り、王都の南にある森に足を踏み入れていた。
 目の前には、二本の赤い角を生やした白銀の熊。俺の住んでいた世界には、絶対に存在しない生き物である。

 この熊は昨日のオッサンが倒した熊の一つ上位の熊で、名前は『シルバーベア』だと冒険者ギルドで聞いた。討伐証明になるのは頭の角だそうだ。
 あまり強そうには思えないが、一つ下のくらいとはいえ、あのオッサンが倒せたのだから、ある意味当然だ。

 しかし、今回は技の確認に来たのだ。弱い敵でもいいので使ってみるべきだろう。
 ……まぁ、既に数匹、普通に屠っているのだが。

「『暴君の一撃』」

 そう言って斬ると、その瞬間魔物の体が崩れた。討伐証明になる角まで、地面の土よりも細かく、だ。

「これは……ヤバイな」

 特に倦怠感は無く、唯一の欠点は討伐証明になる部分も崩れてしまうことだけ。
 桁違いの攻撃力だ。はっきり言って化け物である。
 俺は少し、恐怖した。

 しかし恐怖したままでは次に進めない。
 頭を振って、気持ちを切り替える。

 数分歩くと、またシルバーベアが現れた。単体ではなく群れではあったが。
 ……試してみるか。
 
「『斬撃の結界』」
 
 俺の手から白龍が消える。それと同時に俺の周りにドーム状に斬撃が生まれた。
 周りの風の流れが、感じられない。どうやら風すら防いでしまう程の数の斬撃を張る技のようだ。
 
 群れの先頭にいた魔物が爪を鋭く光らせ、攻撃を仕掛けて来る。
 しかし結界に触れた瞬間、触れた部分から魔物の肉体が霧のように散り、その後には何も残らなかった。

 これは分解の結界、もしくは消去の結界と言っても過言ではないであろう。それほどの効果だった。

 熊の群れに突っ込む。直後結界にぶつかって、群れの半分以上の熊の肉体が霧散した。
 あまり白龍の技を乱用し続けると腕が鈍りそうなので、技を解除する。

 鞘を確認すると、しっかり白龍が戻って来ている。これで、安心だ。
 残りを自分の実力で殺し、角を切り取って懐に入れる。
 
 さて。問題は最後の技である『冥界の門』だ。
 殺傷能力を無くし冥界に魂を送る技というならまだ分かる。
 しかし、『冥界の門』を操るというのは、どういうことなのだろうか。

 門というのは出入りするもの、一方通行にしか干渉できないとは限らない。
 つまり俺は殺すだけではなく、蘇生も出来るのではないかと期待しているのだ。

 折角なら強い魔物の体で試したいので、この森で一番大きな気配を発している奴の元に向かうことにする。
 
「グルァアアアアアア‼」

 気配を辿ってその魔物のもとに着くと、そこにはいたのは尋常じゃなく大きな魔物だった。
 こいつはm『地の災害』とも言われている、ベヒモス。その名を俺が知っていた理由は、見けたら逃げるように、ギルドで散々念を押されたからである。

 もっとも俺に逃げるつもりは無く、技の確認に使って殺すつもりなのだが。討伐証明になるのがどの部分なのかも分からないので、持ち帰るつもりは無い。

「『冥界の門』』

 そう言って斬ったが、鑑定台の情報通り、ベヒモスには傷一つ付かなかった。
 しかし俺は、ベヒモスの中の何かが開いたのを、確かに感じた。

 俺はベヒモスの攻撃を掻い潜りながら、ベヒモスの魂をその間に通そうと試みる。
 少し引っかかるような感覚はしたが、そこまで苦も無く通り抜けた。

 その直後、ベヒモスが倒れた。
 触ってみたが、微動だにしていない。完全に、死んでいる。
 
 さて。ここまでは予想通りだ。
 問題はこの後。蘇生が出来るかどうか。

 門のこちら側から魂を送ることより、門のあちら側の魂を探って引き戻すことの方がやはり難しかしい。引っかかるような感覚を覚えたが、どうにも出来ないとは考えられず、何度も試す。
 
 最終的には成功した。尋常じゃない体力を消費したが。
 蘇生した瞬間に襲ってくるということは無かったが、このままにしていたらいつかは起きる。そうなると困るので、俺は最後の力を振り絞り、もう一度魂を冥界に送った。

「……帰るか」

 技の確認も全て済んだので、俺は魔物の角を売るために王都の冒険者ギルドに向かう。
 もう、へとへとだ。早くノイのもとに帰りたい。



 俺は疲れた体に残った、微量の力を振り絞って宿に着いた。
 
 冒険者ギルドで角を置いて来たのだが、対価として昨日貰ったお金以上のお金を貰った。思いがけない収穫だ。
 俺の判断は間違っていなかったと、ギルマスに泣き付かれて少ない体力をもっと消費させられたが。

 泊まっている部屋のドアを開くと、ノイはベットに腰掛けて、白黒模様の猫のような生き物の毛の手入れをしていた。

「……大丈夫なの?」

 さすがにノイの目は誤魔化せない。かなり疲れていることが、バレてしまった。

「ちょっと、無茶なことをしてな……」

「何をしたの?」

 俺は『冥界の門』を利用した蘇生のことを話した。
 ノイは俺の話を聞くと少しムッとした表情を浮かべ、毛の手入れをしていた生き物をベットに置くと俺に近づいて来る。
 一体、なんだと言うのだろうか。

「新しいことに挑戦する時は慎重にやるの」

 俺の顔に人差し指を向けながら、ノイは俺にそう言った。
 俺は苦笑を浮かべ、両手を頭の上に挙げて降参の意を示す。

「悪かったよ。次からは、気をつける」

「それならちゃんと約束するの」

 そう言いながら右手の小指以外を曲げ、俺の前に突き出してきた。
 俺は苦笑を微笑に変え、自分の小指を絡ませる。

「ああ、約束だ」

「ふふっ」

 絡ませた俺の小指を左手で包み、大きな笑みを浮かべるノイ。本当に可愛い。

 ……ノイにベットに置かれたそいつが、呆れたような表情を浮かべていることに、俺たちはしばらく気づかなかった。



 しばらくして、俺たちは双方の今日の成果の確認を始めた。
 ノイは俺の持ってきたお金に満足していた。そして俺も、ノイの買い物の腕に満足していた。
 彼女はこの世界の文化に合った服をうまく選び、非常食なども含めた必要な小物を完璧に買ってきていたのだ。
 
 確認が終わった時には、もう夕方だった。
 ノイが買い物をしながら集めた情報を聞いていると、王都中に設置してあるスピーカーから、ギルマスの大きな声が響き渡った。
 
『冒険者の皆さん、魔物の大群が王都の周りから攻めてきています。魔物の大群と戦おうと思う冒険者はギルドに集まってください。また、上級冒険者の皆さんは絶対に参加してください』

 俺たちは顔を見合わせて双方の意思の確認をし、俺は手荷物を纏める。
 そしてノイはベットからあの生き物を抱き上げ、両手で抱えながらなんらかの意思疎通をしていた。

 女将に事情を話して宿を出ると、宿の前でアリシャが待っていた。

「遅かったですね」

「荷物を纏めるのに時間が掛かっちまってな」

 背中に背負った荷物を指差して俺はそう言う。

「今日は、この宿に泊まらないんですか?」

「ああ、そうだ」

 俺たちは魔物の討伐が終わったらこの王都、いやこの国から出て行く予定だった。
 その理由は、ノイが買い物中に手に入れた情報だ。

 この国は、あらゆる魔物からの侵略の対処を、冒険者に任せているらしい。
 それ故に軍などの組織も無く、魔物のことは全て冒険者に任せているとのことだった。

 そんな場所で生活したいなどと思うはずが無い。
 この国から出ることは俺とノイ、双方一致で可決された。

 冒険者ギルドに向かいながら俺たちはアリシャにそのことを話す。
 話が終わった後、アリシャは少し悩んでいるような素振りを見せたが、やがて顔を上げて俺たちに言った。
 
「私も、連れて行ってくれませんか?」

 聞くところによると、アリシャもこの国の仕組みに不安を覚えていたらしい。ノイに聞いたが快く承諾してくれたので、俺たちはしばらく三人で行動することになった。

 まぁ、この戦いに生き残れたらだけどね、と言うアリシャ。その顔にはやはり恐怖が滲んでいた。
 
 俺は手を繋いだノイとアイコンタクトで今後の予定を再確認する。
 返って来た答えは、予定通り、というものだった。

 俺たちはこの戦いの中で一人も殺させはしないつもりだった。
 それどころか、俺たちは少し楽しみにもしていた。
 
 俺たちの、特にノイの力を存分に振るえる機会はそうそう無い。ノイが本気を出した事があるのが今まででに一度しか無いほどに、ノイの本気は広範囲に絶大な威力を持つ。 
 そんなノイの力は、今回の魔物の討伐に最適だった。

 俺とノイ、そしてアリシャはそれぞれの思いを胸に、冒険者ギルドに急いだ。
 

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