刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP3 『神刀白龍』の力

「単刀直入に言わせてもらおう。君に、上級冒険者になってもらいたいんだ」
 
 目の前のオジサン、ギルマスのそんな言葉に、俺は面倒事の予感しかしなかった。

 オッサン冒険者を倒した後、俺たちは冒険者登録をしようと受付の人に話しかけた。
 しかし受付の奥から出てきたギルマスに応接室に呼ばれ、今に至るというわけだ。

 断ろうかとも思ったのだが、万が一ギルマス権限か何かで冒険者になれなくなると困るので、渋々許可したのだ。

 アリシャは応接室に入れてもらえなかったのでそこで別れた。
 礼を言えなかったので、次に会った時にでも言うことにする。

「それで理由は? さすがに、突然そんなことを言ったら怪しまれることくらい、分かってるだろう?」

「……それはそうだな」

 ギルマス顔を顰めつつ、そんな歯切れの悪い言葉を返した。

「一応言っておくが、『君の将来に期待したから』とかの返答は無効だからな。どう考えたって嘘だし」

「……分かった正直に言おう。君に小細工は通用しなさそうだ」

「好評価嬉しいところだが、ぶっちゃけ俺は交渉とか得意じゃないんだ。だから、ノイと話してくれないか?」

「? ……分かった。いいだろう」

 俺は相手に啖呵をきるのは得意だが、交渉は全く得意じゃない。
 最初に俺が啖呵を切り、後はノイに任せる。これが何か交渉するときの俺達のやり方だった。

 ノイはあからさまに顔を顰めたが、耳が震えているし、口元には薄い笑みが浮かんでいる。
 不機嫌そうな様子を装っているが、実際は俺に期待されて喜んでいるらしい。

 本当に俺の彼女は甘い。
 もっとも甘いのは俺に対してだけなので、特に問題は無いのだが。

「じゃあまず一つ目、啓を上級冒険者にしようとした理由は?」

 ノイは他人と真面目な話をする時などに、語尾の『の』が消える。
 ノイの癖の一つである。ぶっちゃけいつもの方が好きだが、どっちにしろ可愛いので問題は無い。

「上級冒険者は中級冒険者に比べて色々と融通が利く。しかしその代わりに義務があるのだ」

 ギブ&テイクという訳か。とても分かりやすい仕組みだ。

「その義務の一つに、滞在中の町・村が魔物に襲われた時に護るというのがあるのだ。数日中に大量の魔物がこの町を襲うだろうと予想されていてな……」

 そう言って、ギルマスは深い皺を顔に浮かべた。
 緊急事態だからではあろうが、人を無理やり戦闘に参加させようとするとは、中々に腹黒い人である。

「魔物の数は?」

「約二万だ。何人もの冒険者に確認に向かわせた。間違い無い」

「冒険者の数は?」

「下級六百四十八名、中級百三十四名、上級十七名、最上級はいない。総七百九十九名だ」

 単純計算で一人二十五体。どう考えても無理がある。

「勝てるとは思えないけど?」

「既にこの町は、魔物に囲まれている」

「逃げる場所は無い、と」

「ああ、その通りだ」

「啓が参加した程度で、状況は変わらないと思うけど?」

「そうかも知れない。しかし、こうするしか手段が無いんだ」

 ギルマスは苦渋の表情を浮かべている。どうやら彼は、単純にこの王都を護りたいだけのようだ。

 力を貸してあげたいと思ったが、今の交渉権はノイにある。
 故に、俺は口を出したりはしなかった。

「残念だけど私達はお金が稼ぎたいだけ、肩書きなんかに興味は無い」

「……そうか」

 残念そうな表情を浮かべるギルマス。そんな彼に、ノイは呆れた声で言う。

「まだ断わるなんて言ってない。交渉の余地はある」

「……どういう意味だ」

 そう言って、ギルマスは呆けた表情を浮かべた。表情が豊かなオジサンである。

「対価が欲しい。私が求めるのは今から言う二つ。一つ目はお金。私たちにはお金が足りない。生活の基盤を整えるために必要なお金だけでいい」

「……二つ目は?」

「啓の持つ刀の情報。物品を調べる装置みたいなのが、あればでいいけど」

 確かにその二つは必要だ。
 白龍の情報は今すぐではなくても問題ないが、お金は今すぐ必要である。

 もっとも白龍の情報もなるべく早く手に入れたいので、ノイの対価は妥当なものだと言える。さすがはノイである。
 俺は後で、ノイを甘やかすことに決めた。

 しかし、この文明の発達具合でそんな装置があるのだろうか。そう疑問に思ったが、よく考えたらノイが想定しているのは例の魔術みたいな未知の力による装置だろう。
 若干ノイの目が煌めいて見える。これは、未知の何かに期待している目だ。

「お金の方はすぐに用意しよう。その刀の情報の方は……緊急事態だからな。『鑑定台』を使うことを、ギルドマスター権限で許可しよう」

「鑑定台? なんなの、それは?」

「冒険者ギルドの宝だ。遺跡から見つかったアーティファクト――魔法の力が込められた道具の一つで、かざした物の全てを読み取る力がある。本来は、特別な手続きを踏まないと使えない物なのだがな」

「……分かった。じゃあ、そういうことで」

 魔法という単語を聞いた瞬間、ノイの瞳が一際強く輝いたのを俺は見逃さなかった。
 やはり、ノイはこういうことには興味がありすぎる。
 俺は生活が安定したら、ノイと情報が集められる場所に向かおうと決意した。

 ギルマスから名前と級が書かれたギルドカード(名前は『ケイ』と『ノイ』で登録した)と十分な硬貨を小包に入れて渡してもらった後、俺たちは手をつなぎながら、ギルマスの案内で冒険者ギルドの地下室に移動した。
 見るからに魔法関係の遺物がたくさん置いてあり、ノイは目移りしていた。

 ギルマスが言うにはここにあるものは鑑定台のお陰で効果は分かっているが、使い方が分からない物らしい。
 ノイが試したいという意思を秘めた瞳を向けてきたが、頭を撫でながら首を横に振ると、とても満足げな表情をしながら諦めた。

「あの、奥にあるのが鑑定台だ」

 そう言って、ギルマスは一つの道具を指差した。

 不可思議な紋様が刻まれていることを除けば、ただの黒い台だ。
 そしてノイは俺の隣で、その紋様に対しての様々な考察をボソボソと呟いていた。 

「すまないが、あまり時間が無い。早くしてくれないか?」

 そうギルマスが急かすので、俺はノイと手を放して一歩近づき、鑑定台に白龍をかざす。
 その直後、鑑定台が光を放った。



 神刀白龍
 全てを分断することが出来るようにすることを目的として神が作った刀の完成品。

 技……技の名前を声に出した後に抜刀することで発動する。
 ・暴君の一撃
  切った物体の構造に強制的に矛盾を発生させ、構造に負荷をかけて崩す。
 ・斬撃の結界
  無限に等しい数の斬撃で障壁を張る。発動したあとに形を変えることは出来ないが、刀の所有者を中心として発動している為、移動すると障壁も移動する。
 ・冥界の門
  刀身が非実体化し、あらゆる物体をすり抜ける。そして生命体の肉体を切った場合、その生命体の冥界の門を操る権利を得る。

 奥義……この刀が所有者を認めた時に顕現する。試練の合格条件
 ・???


 
 白龍をかざした瞬間、俺にこれらの情報が全て流れ込んできた。
 すごい刀だとは思っていたが、全てを分断することが出来る、神の作った刀だったとは。

 しかも桁違いの力を秘めた技が三つもある。
 オッサン上級冒険者の魔法なんか、これと比べたら塵と同じだ。

 何より大きな収穫は、試練の合格条件が分かったことだ。
 具体的に、何をすればいいのかはさっぱりだが。

 俺は後ろを向き、心配そうな表情を浮かべているノイに対し、大きな笑みを浮かべる。
 するとノイは、満面の笑みを浮かべた。

 とてもほっこりしてずっと見つめていたい気持ちになったが、俺はその気持ちを押し殺してギルマスのほうを見て言う。

「これで交渉は成立だな。それじゃあ魔物の襲撃が来たら言ってくれ」

 そして、俺たちはギルドから出た。もう、日が沈み始めていた。

「随分遅かったですね」

 その声が聞こえた方に視線を飛ばすと、そこにはアリシャがいた。もう、帰ってしまっているものだと思っていたので、驚きだ。

「二人とも、まだ宿は決まっていないでしょう? 私が利用している宿に、案内しますよ」

「なるほど。確かに寝る場所は必要。盲点だったの」

 ポンっと手を叩きながら、そう言うノイ。可愛い。

「すまん。結構待たせたな。……ありがとう、アリシャ」

「いえいえ。……こっちです」

 アリシャに続いて横道を何度も曲がり、着いた先には一軒の小さな宿があった。ノイとアリシャが受付で硬貨を数枚渡すと、女将さんは部屋に案内をしてくれた。
 アリシャが一人部屋で、俺とノイは二人部屋だった。俺とノイを一人部屋二つにしなかったのは、偶然か必然か。必然だとしたら、ノイがそう頼んだ以外ありえないが。

 女将が持ってきた夕食を食べた後、ノイに鑑定台を使用して分かったことを伝えると、彼女は真剣な表情で言った。

「桁違いに強い力だと思うけど、まずは使い慣れることを優先すべきだと思うの」

「同感だ。しかし、生活必需品をそろえることが先じゃないか?」

「なら、明日は別行動にするの。啓は適当な魔物で刀の技の確認をし、私は生活必需品の買い物をするっていうのはどうなの?」

「分かった。お金の管理はノイに任せるから、頼むぞ」

「了解。終わったら、ここに戻るの」

「俺も確認が終わったら直ぐに戻る。じゃあ、そろそろ寝るか」

 ベットは、しっかり二つ用意されていた。俺はろうそくの火を消し、ベットの片方に潜り込む。
 ノイも、もう一つのベットに潜り込んだが、布団が大き過ぎたせいで、彼女は布団を顔まで被ってしまった。とても、微笑ましい。

「あううー……」

 一回顔の下まで布団を下げたのだが、俺が見ていたことに気付くと、結局彼女は布団を顔まで被ってしまった。
 恥じて紅色に染まった顔が、とても可愛らしかった。

 ノイは成績優秀で頭も良い。そしてあまり感情を面に出さない。
 それ故に、傍目からは完璧少女のように見える。

 しかし実際は、知識欲が豊富で、少しドジなただの可愛い少女である。俺以外の前でそんな様子を見せることはほぼ無いが。

 俺がノイと付き合い始めたのは、俺から告白したのがきっかけでだ。

 ノイを初めて見た時、俺は目を疑った。自分のでは無い。周りの人の目を疑ったのだ。
 何せ、途轍もなく可愛いのに、みんなが避けていたのだから。

「ねぇ、啓?」

「ん、なんだ?」

 突然ノイにそう話しかけられ、俺は少し動揺しつつそう言葉を返す。

「手を、握って欲しいの」

 そのささやかな願いを微笑ましく思いながら、ベットから出たノイの手を握ると、彼女は満面の笑みを浮かべ、小さな手で確かに俺の手を握り返した。

 異世界転移初日の夜は、ノイの手の温もりを感じたまま過ぎていった。

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