刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP2 啓の実力

「さてと……ノイ。今、俺たちがしないといけないことはなんだと思う?」

 俺はノイに、そう尋ねる。こういう事は、ノイに任せるのが一番いいと知っているからだ。

 プライド? そんなものは無い。
 それに、最善の選択をしただけなのだから、文句を言われる筋合いも無い。

「やっぱり収入源の確保。何も知らない世界で生きるのだからお金は必須なの」

 なるほど、確かにお金は必要だ。

 今の俺たちは全くお金を持っていない。持ち物も、服と白龍と修行に使っていた刀だけだ。
 白龍は流石に売れない。服も代えを手に入れるまでは売れない。つまり売れるのは、刀一振りのみ。

 となると、手っ取り早く稼げる収入源の確保は確かに重要だ。

「そこのお二人さん。何かお困りですか?」

 後ろを向くと猫耳を付けた少女が立っていた。 身長はノイより少し高い程度だろうか。
 最もノイの身長はかなり低いので、平均よりは低い事に変わりはないのだが。

 猫耳は、見た直後はコスプレかと思ったが、よく見ると手には毛が生えており、爪も心なしか長いように感じる。
 獣人という奴なのだろうか。やはり、ここは異世界のようだった。

 そしてとても嬉しい発見。少女が喋ったのは、確実に日本語だった。
 もし異世界特有の言語だったら、生活するのはなかなかに困難だっただろう。

「その通り。私たちはとても困っているの。手っ取り早くお金を稼げる場所を知らないの?」

 俺がそんなことを考えている間に、ノイが猫耳少女にそう質問した。

 とは言ってもそんな都合の良い仕事があるのだろうか。
 俺はそう疑問に思ったが、猫耳少女は予想に反して答えを返した。

「それならいい仕事がありますよ」

 まず、この世界には『魔物』が存在するという。
 そして魔物を倒す『冒険者』という職業があり、普通の仕事よりは収入がいいとのことだった。
 因みに先程の馬車らしき物を引いていた動物は、人間に飼い慣らされた魔物だとの事だった。

 危険を伴う仕事なので、俺は一応ノイに確認をとったが、ノータイムで許可が貰えた。

 彼女によると、冒険者になるためには『冒険者ギルド』に登録しなくてはいけないらしい。
 猫耳少女も冒険者で、ギルドに用があるらしいので案内をしてもらえることになった。
 
「あ、そうだ。私の名前はアリシャ。二人の名前は?」

「俺の名前は啓。こっちはノイだ」

「よろしくなの」

「ええ、よろしくお願いします」

 そんな感じで自己紹介をした後、俺たちはギルドに向かって歩き出した。
 そして道中で、アリシャに冒険者には『級』があると教えてもらった。

 級は一から十まであり、
 十から八……『下級』
 七から五……『中級』
 四から二……『上級』
 一……『最上級』
 という風に分けられているとのことで、モンスターも一から十まで級があり、倒したモンスターの級と数によって級が上がるという仕組みだという事だった。

 つまり護衛を沢山雇う、弱い魔物を沢山を倒すといったことでも、級が上がるということだ。 
 穴の多い冒険者の仕組みに、ノイは不満げな表情を浮かべたが、手をつなぐと少しずつ表情がほぐれていった。

 アリシャは格上の魔物に挑んだ事はあまり無いらしく、八級だった。主武器は短剣らしい。
 少々失礼だが、小柄な体系を生かすにはベストな武器だと思った。

 因みに、この都市はこの国の王都だとのことだった。国の名前はキニカ王国らしい。
 ギルド以外にも色々な施設があるとのことで、特にノイは図書館に興味を示していた。さすがは知識欲の塊である。

 しばらくすると、一際大きな建物の前に着いた。どうやらここがギルドのようだ。
 そうは言っても他のギルドはこんなに大きくはないらしい。アリシャによれば、こんなに大きいのは王都のギルドだけだとのことだ。

 大きなドアを開けて入っていくアリシャに続いて、俺たちがギルドの中に入ると、中では屈強な男たちが騒いでいた。
 アリシャが特に反応していないところを見るに、どうやらいつも通りの光景のようだ。

「おい、嬢ちゃん。俺と一緒に遊ばねぇか?」

 予想はしていたが、ノイがおっさんにナンパされた。絶世の美少女なのだから、ある意味当然だが。
 しかし、こいつは命が惜しくないのだろうか。……俺たち二人の実力を知らないのだから、仕方が無い、か。

 おっさんがノイに向かって手を伸ばしたので、俺は容赦なくそいつの手を捻った。

「くっそ! いってえなぁ……おい、お前何様のつもりだ?」

「それはこっちの台詞だ。汚い手でノイに触ろうとするとはどういう了見だ?」

「なんだとてめぇ。上級冒険者の俺に歯向かおうっていうのか」

 そのオッサンは逆切れしてきた。
 それにしても『上級冒険者』か。『最上級冒険者』ではないんだな。

 なら……大丈夫か。

 モンスターがどれほど強いのかは分からない。
 しかし、頂点に到達していないのに、威張るような奴に負ける気はしなかった。

「……戦ってみるか?」

「待ってください、ケイさん! ノイさんも止めてください!」

「アリシャ。焦る必要は無いの」

「おもしれぇ。受けてやる」

 上級冒険者のオッサンは俺の挑発に引っ掛かった。やはり単細胞のようだ。
 脳筋だともっと楽なので、脳筋だと嬉しいのだが。

 俺はそう願いながら、ギルドの外に出る。
 ギルドの外で、俺とオッサンが自らの武器を持って向かい合うと、すぐに周囲に他に冒険者が集まった。

 冒険者というのは暇なのだろうか。それとも、人がいたぶられるのを見るのが好きなのだろうか。
 この世界の常識がよく分かっていないので、俺には判断のしようがなかった

 オッサンの主武器は、両刃の大剣だった。
 ある程度の実力はあるようだが、「まだまだだ」というのが俺の本音だった。

「ノイ、あの大剣の素材は?」

 オッサンが眉をひそめた。確かに普通の人間には、見ただけで相手の武器の金属の種類を当てる事なんてできない。
 しかし、ノイは普通ではない。

 通常時と戦闘時の姿勢の差、例えば肩がどれくらい下がっているかなどから重量を導き出す。
 それに体積と見た目を追加して計算することで、素材が何なのかをほぼ割り出すことが出来るのだ。

「ただの鉄。しかもあまり純度が良くないの。」

 どうやら白龍どころか、修行に使っていた刀でも負けそうにない。モンスターがいるこの世界だが、あまりそういう技術は発展していないようだ。

 そういえば、周りの冒険者の中に、いわゆるローブを纏った人がいる。
 この世界には、もしかしたら魔法が存在するのかも知れない。
 
 とても、興味深い。
 もしかしたら魔法技術を発展させることに力を入れ過ぎているために、武具の素材に適した素材の研究が進んでいないのかもしれないが。

 あまりに他の事を考えていると負けてしまう可能性もあるので、俺はそこで戦闘に意識をシフトさせる。
 そして俺は、オッサンに今のところ動く気配が無いことを確認して、白龍を鞘に納めた。

「おいおい。戦いの直前に戦意喪失かぁ?」

 オッサンのその挑発に便乗して、周りから俺を嘲笑う声が上がる。
 俺は彼の挑発に、ただ無言の笑みを返した。

 言うまでも無いが、戦意を喪失した訳ではない。
 俺が、もっとも得意とするのは抜刀術。剣術ではない。
 刀を抜いたのは、白龍の刀身を一応確認するためだったのである。

 結果は満点。むしろ、俺の使う技を更に高めてくれそうなほどだった。
 もっとも、うちの家系の技はこの刀を使うためのものなのだから、当然かもしれないが。

「自慢じゃないが俺はブラックベアを倒した事もあるんだ。降参するなら今のうちだぜぇ」

「そのブラックベアと言うのは、どんな奴なんだ?」

「岩を腕の一振りで破壊する三級の魔物だ。お前じゃあ十秒も持たねえだろうなぁ」

 倒した奴が腕の一振りで岩を破壊する魔物だからと言って、お前が岩を腕の一振りで壊せる訳じゃないだろ。
 そう言おうと思ったが、この自信を打ち砕いてやるのも悪くないなと考えて、俺は笑みを深くするだけに留めた。
 
 先に動いたのはオッサン。だが、予想に反して動いたのは口だった。

「『フレイムソード』っ!」

 そう叫んだ途端、大剣を炎を纏った。やはりこの世界には、魔法のようなものが存在するようだった。
 後ろでノイの瞳がキラリと光る。予想はしていたが、ノイはそれに異常なほどの興味を見せた。

 もし図書館にでも行こうものなら、一日中魔法に関しての本を読んでいてもおかしく無い。
 そう思わせるほどの光が、ノイの瞳には宿っていた。
 
 オッサンは炎を纏った大剣を、俺に対して踏み込みながら、容赦なく振り下ろしてきた。
 間違い無く、殺す気である。しかし周りの人は、何も言わなかった。
 どうやら彼らがわざわざ見に来た理由は、新人がいたぶられるのを見るためだったようだ。

 俺はその火炎の斬撃に対し、たった二つの動作だけを返した。

 抜刀――納刀

 オッサンの大剣の上半分がずれた。その直後、炎が消えた。
 どうやら剣として形を保っている間しか発動しない何かだったらしい。
 今後もフレイムソードにはこの対処法で対抗しようと、俺は決めた。
 
 そして勿論、上半分が無くなった大剣は空ぶった。
 俺は少し迷ったが、結局オッサンのみぞおちを殴って気絶させる。
 大剣が空ぶった瞬間の、オッサンの呆けた顔がとても見ものだった。

「……なにをやったんですか?」

「高速で刀を抜いて大剣を切って、直後に刀を鞘に戻しただけなの」

「それ、人間業じゃありませんよねぇ!」

「そんなことより私は炎の剣のロジックが気になるの。一体どんな仕組みで……」

「あんたの彼氏の方がどう考えてもすごいでしょうがぁ!」

 アリシャとじゃれているノイだが、表情は全く変わっていなかった。
 しかし、俺が見ていることに気付くと満面の笑みを浮かべた。
 正直に言ってノイは俺に対して甘すぎると思う。先が思いやられる。
 
 そんな事を考えながら、冒険者登録をするために俺たちはギルドの扉をもう一度開いた。

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