刀使いと幻獣使いの異世界無双旅行

志水零士

EP1 試練は異世界転移

「……九百五十一、九百五十二、九百五十三……」

 大抵の人は寝ているであろう早朝。俺は一人、道場で刀を振っていた。
 俺の名前は『龍口啓』。龍口家の抜刀術を継ぐ者だ。

 因みに俺は高校生であり、そのため平日はあまり時間が無い。
 それ故にこんな朝早くから刀を振るっているのだ。
 
 父に強制されている、などいったわけではない。むしろ父は、俺のこれにあまり賛成していない。
 俺が修行をしているのは、徹頭徹尾自分のためだ。

「やっぱり、こんな朝っぱらからやってるの」

 道場の入口のほうから落ち着いた女性の声がした。刀を納め、体をそちらに向ける。
 すると彼女は、肩を竦めつつ言った。

「何度も言ってるけど、朝の修行はやめた方がいいと思うの」

「悪いけど俺はやめる気はない。俺の目標の為に必要な事だからな」

 彼女の名前は『ノイホワイト』。日本人と外国人のハーフなので白髪だが、髪以外は基本的に日本人よりだ。
 因みに身長は結構低い。彼女のコンプレックスでもあったりする。

 そして一番大事なのはそんな美少女が、俺の彼女であるということだ。
 
 付き合ってみると、性格などとても相性が合い、俺たちは平穏な日常を送っている。
 ノイが俺に対して不満を口にしてくることはほとんど無く、俺も彼女に不満が無いほどだ。

 しかし、唯一の例外がある。それが、俺が早朝に刀を振っていることについてである。

「まだ信じているの。あんなオカルトじみた話」

 ノイは呆れたようにそう言う。

 龍口家にはある伝統があった。
 龍口家の家宝である一振りの刀、『神刀白龍』。その刀は刀に認められた者のみが抜くことができる。
 そして同時に、刀はその者に試練を与える。それを達成することで、本当の意味で刀を扱う資格を得る、と。

 胡散臭いおとぎ話だ実際、この伝説を本気で信じている人間なんて龍口家にも一人しかいない。
 そして、その例外が俺だった。

 俺は少しも疑っていない。子供の頃に白龍を見た時に、内包する強大な力を感じたからだ。
 その後にその伝説を聞いて、俺はいつかこの刀を抜くと決めたのだ。

 そんな伝説があってもおかしくないと思わせる程、白龍は圧倒的だった。
 それに――

「オカルトじみた事を一度も見たことがないならこんなにも信じなかっただろうけど、毎日見てるからなぁ……」
 
 俺は口元に笑みを浮かべながらそう答える。
 ノイにはある『力』があるのだ。

 伝説上の、幻の生き物――言わば『幻獣』。その『幻獣』を見る『力』、そして従える『力』。
 それが、ノイの持つ『力』だった。

 彼女がオカルトじみた力を持っていたら、俺も使えるんじゃ……と言う気持ちになってしまっても仕方が無いと思う。

 しかし実際のところ、こんな話に意味は無い。
 何故ならノイは、嘘だと思っているから、俺にそんなことをやめるように言っている訳では無いからだ。

「……もしその伝説が本当なのだとしても、試練が安全なものとは限らないと思うの……」

 顔を歪めながら、ノイは俺にそう言う。
 そう。ノイがしつこく言ってくるのは、俺を心配しているからなのである。

 ノイから目線を外して体の向きを元に戻し、刀を振るのを再開しながら答える。

「もし試練が危ないものなら、それこそ修行するべきだと思うけどな」

 その言葉に対し、ノイは大きく溜め息を吐き出した。

 試練は白龍を抜こうとしなければ発生しないのだから、諦めてしまえば試練は訪れない。
 つまりノイの言葉が正論であり、俺の考えが間違っているという事は俺自身が一番理解している。

 しかし、やめる訳にはいかない。
 そのため俺は、そんなごまかしの言葉しか言えなかった。


 しばらく刀の風を切る音が鳴り響いていたが、突然ノイが堂々とした足取りで俺の前に歩いてきた。
 いつもはこの一言で諦めて引き下がるのに、どうしたのだろうかと思いながら、俺はノイを見つめつつ千回目の斬撃を放つ。

 ノイは俺の瞳を見て言う。

「もしもその刀が与える試練が危ない試練だったら、私も参加させるの。」

 刀の軌道が、ぶれる。手から刀がずれ落ち、道場に音を響かせた。
 ノイは床から刀を拾い、威圧の混じった声で言う。

「それが出来ないというのなら、私は全力で啓を止めるの」

 ノイは今までに無いほど本気で、そしてその言葉はとても重かった。
 人間社会を、人生を流されるように生きているものには理解のしようが無い。しかし一つの目的を持って生きる人物、その一人である俺にとってはとても大きな意味を持つその意志。

 ノイの覚悟の言葉に対して俺はこう返した。

「何故それほどまでに俺の事を心配するんだ?」

 俺はその答えを知っていた。しかし俺は、わざわざ質問をした。
 答えは、即座に返った。

「もちろん啓の幸せを願うからなの」

 俺はその答えを聞いて肩の力を抜く。そして同時に、ノイも力を抜いた。
 彼女の瞳を覗くと、そこにあるのは俺への信頼だけだった。

 ノイの横を通って道場の端に置いてある家宝の白龍に近づく。
 様々方向からの斬撃をそれぞれ千回ずつ放ち、最後に白龍を抜けないか試す。それが俺の毎朝の日課だった。
 
 白龍を手に持ち、構える。
 龍口家の抜刀術は流れるように斬撃を放つことに重みを置く。故に力ずくではなく、刀身の形を意識して力を掛ける向きに注意しつつ抜く。
 
 白龍に力を加えながら、俺はノイに返答した。

「分かった。俺はノイと一緒に試練を受ける」

 ………………一閃。

「「えっ 」」

 俺とノイは、同時に声を上げた。理由はとても単純だ。
 ノイの覚悟に答えながら白龍に力を入れたら、当然の様に抜けたからである。

『生を共にする覚悟を持つ者共よ。我は汝らに試練を与える』

 突然そんな声がしたと思ったら、刀身から全方向に波の様なものが生まれた。
 そして、その波に呑み込まれた場所は姿を変貌させていく――

「おいおい……まさか、仲間と試練に参加すると言葉にしながら力を込める事が条件なのか 」

「……これは予想外なの」

 そんな俺とノイの言葉に、反応する者は誰もいなかった。






「――なあ、ノイ。ここは何処だ?」

 俺は隣に立つノイに、そう問い掛ける。

「日本どころか地球上ですらない。分かるのはそれだけなの」

 いつもよりテンションの下がった声色で、そんな返答が返った。
 完璧な答えを導き出せなかったからだろう。ノイは結構、完璧主義なのだ。

 俺たち二人がいるのはどこかの町の中だった。
 中世ヨーロッパ風の町並み、そして服装。

 少なくとも、日本の何処にもこんな場所は無い。

「ちなみに、地球上ですら無いという言葉の根拠は?」

「明らかに、地球上には存在しない生き物が車を引いているの」

 確かにノイの言う通りだ。目の前では、カンガルーとアルマジロを足して二で割ったような二足歩行の生き物が車を引いている。
 どう考えても、地球には存在しない生き物だ。

「つまり別の惑星、もしくは異世界ってことか?」

 誰かが試練の為だけに作った空間の可能性もあったが、文明を作ることより転移させることの方が簡単だろう。
 最も転移させるのも簡単ではないだろうだ、それくらいなら白龍はやってのけるだろう。

「おそらく異世界。パラレルワールドみたいなものだと思うの」

「その根拠は?」

「別の惑星なら進化の方向が大きく変わるはずだから、人間がいるのはおかしいの」

 ノイの言葉に俺は頷いた。
 おそらく、ノイの考えは当たっているだろう。

「それじゃあノイ、一番大事な話をしようか」

「ん? それは何なの?」

 頭の上に疑問符を浮かべながら首を傾げるノイ。
 彼女がこんな反応をするのは珍しいので、俺は思わず微笑を浮かべた。
 
 そして俺は微笑を浮かべたままノイの瞳を覗き込み、訊ねる。

「ノイ、俺たちが試練に失敗する確率は?」

「それは、二人一緒の場合の確率を聞いているの?」

 ノイは俺の質問に対し、そんな確認の言葉を返した。

「無論」

 そう言うと、ノイは大きな笑みを浮かべ、答えた。

「もちろんゼロパーセントなの」

 その答えを聞いて、俺も大きな笑みを浮かべた。

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