光の幻想録

ホルス

#46 変獄異変 24.

 ──データ閲覧。

 file2.

 ──より提供された物質『闇』の投与により被検者の肉体に変化を確認、頭髪は白く眼球は充血により赤く染まった。血液循環には支障を来たしておらず、充血の原因は不明。また過度なストレスによる頭髪の変化ではないと確認されている。
 これは道の元素『闇』の効力であると証明され、我々は被験者から細胞を摂取し培養する事で新たな生命体の源を作り上げた。提供を受けた物質『闇』をそこへも投与し新たな人工生命体クローンの誕生を待ち侘びる。
 実験結果は被験者の妹と酷似していると被験者本人から確認を取れ、第1クローンには被験者の精神的サポートをするよう命じた。

 ──実験──日目。

 第2の生命体誕生に向け準備を行う。今回はより良い人工生命体を作り出す事を目標により鮮度の高い部分から細胞と血液、それから臓器の採取を行う。
 被験者の腹部を切開し腸を抉り出す、裏にある脊髄から液を抜き取る。更に腹部の切開部分を広げ胸にまで広げた後、心臓から直接血液を抜き出す。心臓の肉をピンセットで強引に掴み引き剥がした後に採取は終了する。
 麻酔が切れていた事もあって被験者には多大な負荷が掛かるのは承知の上である、それ故に今回はサポート役として闇色海色を被験者の傍に付き添わせ声を掛けるように命じた。
 闇色海色の声に被験者は命からがら反応しているようだったが、生きているのであれば問題ない。

 ──今回の日誌はここまでとする。

「借りだとは思わないでよね……貴方から作られる──は、この街に大きな進歩を促してくれる。素材提供料とでも思えば良いわ」





 引きちぎれた左腕と両足、それから腹部の欠損。こんな状態にはとうの昔なら慣れている、俺は文字通り戦場そのものの場に居たからだ。
 まあただ痛むし満足に動けねぇしで慣れたくはなかったんだが、それもこれも全てはひなの為だ。
 ──結局救い出せずに惨めたらしく奇跡にすがろうとしているその様がこれだから、これじゃアイツに笑われちまうよ。

「いい加減飽き飽きして来てんだよ藤淵……そろそろ決着付けようぜ──ッ!!」

 天空の大地を水の足で駆け抜ける。1歩を踏みしめる度に飛沫が散りばり大地を潤す。
 藤淵との距離を目視で約30m、聖人の力を有している俺からすれば離れているとすら思わない距離だ。だが果たして、アレが本体・・かどうかは分からねぇ。1つ1つ潰していくのも馬鹿らしいからな、だったら本体を見つけ出す他に手立ては無い。

「複製能力:フランドール・ツェペシュ」






──少し前にレミリアと話していたんだ、あの真紅目の怪物について。

「レミリアさん聞きたいことが──」

「お断りよ」

 言い切る前に断られるとは思ってすらいなかった、確かに作戦を練る上で私情を挟むべきでは無いのは理解している。だが数少ない戦力の中に少しでも加算されるものが混じれば勝率は上昇するものだ。だからこれだけは聞いておきたかった。

「貴方は真紅目の怪物について何か知っている事はありますか」

「それの名はフランドール、不用意に寄ればを潰されるから気を付ける事ね、それ以外は何を質問されようと答える気は無いわ」

 断られて質問する俺も俺だが、断った本人がここまで教えるというのもどうなんだろうか。

「そのフランドールを戦力に加えることは出来ませんか、現状の戦力ではかなり厳しく──」

「それは無理でしょう。アレは集団行動を知らない。ただ目の前にあるものが不快であれば壊す、興味があれば壊す、動けば壊す、そいつはそう言った理由で目の前のものを全て破壊する様な精神異常者よ、近付かない方が良い」

 吸血鬼の言葉に偽りは無いと思った、あの真紅目の化物は海色の助けが無ければ俺を殺していた。ただそれに興味があったからだろうか、それとも何か別の何かを感じて攻撃して来たのか……今では分からない事ではあるが明らかな敵意を持って襲い掛かってきた事実がそこにある。
 その化物に助力を求めようとしている俺もどうかしているのは理解している、だけど……今は猫の手も借りたいくらいには戦力不足なんだ。

「──何を言ってもダメそうね、私の負け。フランが頷いてくれるかは分からないけど話すだけはしてみるわ」

「ありがとう、えっと……レミリアさん」

「構いやしないわ。貴方が本当に幻想を救おうとしているのは私にも分かる事だから。あぁそうね、フランの力の説明をしておいた方が良いわよね。貴方がもしフランの力を借りる時に必要な事なんでしょう?」






 それは『あらゆるものを破壊する程度の力』、どのようなものにもとなるが存在する。そこの瓦礫にもそこの雲にも、どのような物体であれ等しく目を持つ。彼女の力はその目を自在に破壊する事が出来るものである。
 視界が移り変わる、紅に覆われ辺りが血泥で染まる中で藤淵を睨み付ける。あの藤淵が本体であれば目が存在する筈なのだ、夢宮の能力とはいえ所詮は劣化に劣化を重ねた代用品レベルの代物、核まで低複製でコピーする事は有り得ない。
 即ち核たる目を持つ者こそ本体である。

「何処行こうってんだ楽よォォ──ッ!!」

「幻にしちゃよく喋る」

 闇色の剣で一閃、胴と別れた首を地に転がし振り返ることなく突き進む。眼前に広がるのは大地全土に立ち尽くす藤淵の群れ、おぞましい光景だ。
 必ず視界の内に幻影が映り込む。不敵な笑みを浮かび上げるだけで攻撃そのものはして来ないが不快の極み、虫唾が走る。
 一体一体に攻撃を入れるだけでも体力や力を使い消耗する、本体は何処だ──。
 
「複製能力:────」

 検知の能力、オリジナルは周辺数百メートルの広範囲に自身の感覚を共有しあらゆる情報を脳内にインストールする。その実範囲内でその能力に感知されていると気が付いた能力者による反撃により手痛いダメージを負う事もあるリスキーなものだと聞いている。
 俺の場合検知の範囲が狭まるか感知されやすいのどちらかにランクダウンすると思う。また藤淵との戦闘以前に何度か使用した能力の残存力が相当切羽詰まっている状態で能力の使用は最低限に留めておく必要もある。
 これだけ幻を展開するには藤淵自身も相当の膂力を注いでいるはず、いつ何処から本体の攻撃を受けるかの危険に晒されて動き回るよりかはさっさと見つけるに限る。

「包囲網拡大」

 今の俺に索敵出来る範囲は精々10mかそこら、動きが鈍る事を承知で更に範囲を拡大しなければ奴を見つける事は困難を極める──故に、

「見つけたッ!!」

 南西後方28mの大岩、索敵による包囲網とあらゆるものを破壊する力の応用による『目』が間違いなくそこだと告げている。

「握り潰しやるよ藤淵ッ……!!」

 大岩を透かしたその先、その内部、核たる目を握り潰す。目に手を合わせ強く深く握り締める。
 ──程よい肉感の手触りでそれを潰した感触を手で感じる事が出来た、目の破壊は成立したのだ。だがどうしてか不安が拭い切れない、藤淵はこの様な事で死ぬ筈は無いと心の何処かで思っている俺がいる。

「低複製:────。肉体そのものを分身させ囮とする能力があるそうだが、お前程度であればふざけた能力でも役にたつことが証明されたなァ……?」

 背後から忍び寄る不穏の気配、気が付けば俺は空を見上げ地に伏せていた。一体何の冗談だと、目元に深く濁った藍色の槍のような武器を構えられそのまま身動きが取れずに、ただ藤淵の邪悪な笑みを見上げている。

「どうだ楽思い出さねぇか?俺たちァこうして仲良くしたんだよなァ?良い思い出じゃねえのか?またあの生活に戻してやるよ楽……海洋都市の発展にはァ異界の素体がいる、てめェにも分かってんだろ?」

「っ……俺と藤淵、てめぇの願いは似ている、だから俺はてめぇの願いを否定するッ!!俺はお前を潰してひなを救い出すんだよ──ッ!!」

 振り下ろされる藍色の槍、眼球を貫く寸前にアイリスの障壁能力が起動。眼球前方に小規模の障壁を展開し槍の穿ちを阻止すると同時に軽い衝撃波を放って藤淵の姿勢を崩す。
 その一瞬の隙を突いた時間を利用して俺の体勢を整え直す、そして来たる藍色の槍の突き。
 再びアイリスの障壁能力で攻撃を阻止し、海色の剣を懐から抜刀する。同時に、

「複製能力:霧島楓──」

 楓の能力はあらゆる斬撃武器を持ち主の技量と同等の力で扱えるというもの、こっち・・・に来る前に海色から貰ったもんだから技量は聖人の力を完全に奮った海色として──ッ!!

「水薙──ッ!!」

 渾身の力を振り絞った横に閃光を描いた水色の横斬、不安定な体勢ながらも藍色の槍で受け止めた藤淵は威力を殺し切れずそのまま大きく2.3メートル吹き飛び地に倒れ込む。
 そこに大きく飛び上がり瞬時に藤淵の喉元に剣を突き付け複製能力を使用可能とするチョーカーを破壊した。

「ちっ……殺れ」

「……」

 哀しい風が空を切る、辺りはその時妙に静かで慢心も無かった。なのに俺はこいつにトドメを渋った自分に驚いたのだ。
 慈悲なんぞくれてやる価値すら無い、こいつはこの世界を、都市を破壊する、そしてひなを救う手立てさえも奪い取る俺の怨敵だ。今すぐこの場で首を斬り落とす事が最も最善だと知っている、知っているんだ……なのに何故こうまで時間が掛かる?

「殺れ──ッッッッ!!!!!!!」

「っ……ぅあァァァ──ッッ!!!!」





 戦いは奴が勝利を収めたようだ。私が出来る事は彼女の救命くらいでそれ以外をすれば私は私で無くなる。間もなく事実上地獄の指揮系統を獲得していた藤淵閃が死亡した事により指揮系統が四季映姫に移る、地獄及び地上での異変は終了し平穏となる。
 私は賢者、この世界の裁定者。そしてこの世界の行く末を見守る道を進んだ俺。私は奴が為せる事を陰ながら祈るとしよう、私には彼女もついている事だからな。

「何よニヤニヤして」

 ──私とした事がフードを取っていたようだ。

「……」

 彼女と話すことは何も無い、私はただこの世界を見守る者に過ぎない。だが、そうだな……今日は数百年振りに機嫌が良い、

「奴を頼んだよ海色」

「──」

 彼女は間隔を開けて返答に困ったかのように戸惑いながらも、

「えぇ、私も祈ってるよ光」

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