光の幻想録

ホルス

#38 変獄異変 16.

 当作戦は第2段階への移行を開始する、第1次作戦は霧雨魔理沙のスペルカードを使用した全力の囮、周辺の獄獣を纏めて館から離れさせる為のものだ。
 いつしか館に居た金髪の少女の助力もあり私たちには一切の被害は無い、これであれば少しの余裕を獲得したまま第2次作戦へと移行が可能だ。
 ──では第2次作戦の内容を此処に記す。
 まず当該作戦はこの異変(以後“変獄異変”と呼称)の解決を最優先事項とし、東風谷早苗の楽観的救出を目的としている。
 異変首謀者である外なる世界の者、藤淵閃の無力化、そして地獄と幻想郷を繋ぐ異界のゲートを閉じること。
 東風谷早苗が生きている状態ならばその力を利用し、幻想の生物を全て生き返らせる事は可能だ、故に東風谷早苗の救出も重要となる。
 だが生きていると確証を持てるような状況下では無かった、故に生きていると仮説した上でのサブミッションとなる。
 では第1次作戦遂行後の第2次作戦、生きている者全てで妖怪の山の頂上に忌まわしい奉られている神社に行くこと。
 あの場で藤淵は地獄に繋がるゲートを開けた事からその場に藤淵が居る可能性はある、また微弱な結界の存在を私が感知したことも含めた上での判断。
 とにかく負傷者を一切出さずに多くの生存者で異変を解決しなくてはならない、どんなに力が無かろうとどうか私と共に解決の手助けをして欲しい、それが第──代目博麗の巫女の願いよ。
 ──そう丸っこい字で書かれた紙を見直していた。
 霧雨が飛び出して行ってから数分が経っている、だと言うのに館周辺は以前と獄獣の奇声が蔓延って仕舞いには館内部に数匹の獄獣が侵入しているようだ。
 自身の役割を再確認した俺は海色の手を強く握り締め博麗が応戦している場へと走り抜ける。
 館はあの時来た時より強ばっていて、赤黒く光っている部分もあれば獄獣の鮮血が飛び散ったかのような気味悪い液体がベッタリと付着している、それがより一層館の不気味さを際立たせている。
 激しい轟音が近付いている、大広間の扉に手を掛けこじ開けた時には脳の処理が、そして判断がしきれずにその場で固まった。
 大きな巨体、数十メートルはあろうかという巨人の影が蠢き1人を踏み潰していたのだ。
 「……ァ…………」
 すり鉢みたく、そして人間が蟻をすり潰すように巨人はその者の肉体が完全に消えるまで足に力を込めて念入りに地面を蹴っている。
 それに応戦しているのは博麗と猫矢、そして深く傷付く金髪の…………こいつは……。
 あの時海色と戦っていた化物じゃないのか……?どうしてここに、という心の言葉は次の言葉で全てリセットされた。
「光!!!」
 博麗の言葉で改めて状況を把握出来たのは僥倖と呼べる、荒ぶる気持ちを冷静に抑えその目に焼き付けた博麗の力で大きく体勢を崩した巨人に放たれる光の稲妻。
 巨人の右足に大きな穴跡を作り出したあと、更に細かな電流が穴跡から全体へと流れ込み巨人の動きを停止させる。
 ──叩き込むなら此処だろう。
 改めて説明する、俺の“能力”は複製能力ボローアビリティ
 『相手の名前』、『コピーする本人の能力』、そして『その能力を視た』、以上3点を全てクリアした場合にのみ初めて行使可能とする。
 以前は能力のみコピー可能だと思い込んでいたが、どうもこの世界においては“力”のコピーも可能らしい、厳密には博麗の使う飛行の力や霧雨の使う星の力などがそれに該当する。
 体内エネルギー曰く生命力を炉心として発動させる捨て身の能力、いずれ朽ちる我が身だとしても妹を救うため……その過程としてこの場面を切り抜ける──!
「複製能力:霧雨魔理沙──ッ!」
 体現せし示す名は“彗星”、闇色の剣を空から抜き取り砲台の如く滞空させ刃の先に星々の力を一気に収束させる。
 「あの極太の光線とはまではいかねえけど!」
 剣に全力で殴り込みその力を刃の先に伝え、星々の力の全てを射出する。
 刃の先から穿たれた輝ける星の光線は巨人の頭部を貫通し完全に破壊した、加えて熱量の余波が体の蝕みを開始し巨人の体内を駆け巡るとそれらは爆裂四散した。
 巨人の巨大な肉塊が辺りにゴロっと吹き飛ぶ、ドス黒い血飛沫は空気に触れると鮮血に戻り始めて、よく見ると血液の中に蠢く蟲のような生物が居た。
 思わず気味悪過ぎて振り払ったがアレは何なんだろうか。
「先を急ぐわよあんた達。守矢神社がゴールだってこと忘れないで」
 血肉に見向きをせず博麗は破壊された館の入口から跡を立つ、残っているのは沈黙を続ける吸血鬼と猫矢、俺の3人のばずだ。
 3人の筈なのに……何処か“4人目”の残滓を感じる、悲しみの感情が辺りを覆われていくのを肌で感じられる、それは体感した事のない寒気そのものだ。
「ちょっと1人にしてくれるかしら……」
 俯く吸血鬼はギュッと拳を握り締めていた。
 ──そして吸血鬼の目をふと視界に映した時、すぐに理解した。
 電流が流れるように自分の中の疑念が晴れ、結論へと辿り着いたそういう感覚だ。
「……外で待ってる、行くぞ猫矢」
 あの時襲いかかって来た化物の目は真紅だったんだ、あの吸血鬼とどこか似ていると思ってたけど……まさかあの子が……。
「良いの楽……」
 その問いの答えは猫矢の手を握り締め館を出るだ、もしかしたら博麗は既に気が付いていたのかもしれない。

──

「あの子はほんと……あぁ、いつも面倒かけるんだから……」
 この世界に追放され咲夜と放浪していた日々を思い出す、あの時は飢えを凌ぐので精一杯だったな。
 そういう生活を外の世界時間でいう5年が経過した頃、血の繋がった吸血鬼がこの世界に追放されたのだ。
 父親の血を受け継いだ私と同じ吸血鬼は狂乱に満ちていた、その美しい金髪は常に返り血によって赤く染め上げられ、可愛らしい顔は狂気に歪み戦慄を促す。
 それでも、それでもあの子は私の妹なんだ。
 この世界で2人目の家族も同然なのだ。
「フラン……貴方は何処にいるの……」
 冷たく肌が凍り付く。
「…………くっ……」
 涙が止まらない……。
 腕で何度も何度も拭っても溢れ出る涙は止まらない、私に悲しみの感情があったなんて驚くことだと思う、でもそれよりも今は……悲しい……。
 私にちゃんと言ってくれれば良かったのに……そうしたら2人でアレを安全に倒せたでしょうに──。

──

 啜り泣く声が聞こえる、分厚い壁越しに背を預け周囲の安全を確保しているからこそ待っていられる訳だが、どうにもさっきの俺の考えは最悪なことに当たっていたらしい。
 俺が以前襲われた真紅目の化物は、あの吸血鬼の家族なんだろう、それが恐らくはあの巨人によって……。
 「ねえ楽……本当に良いのかな……その、あの子は……」
「家族を失う辛さは痛いほど分かる、特に兄妹なら尚更にな。今は心の整理がつくまでの時間は作ってやるべきだと思うよ、まだ時間はあるしな」
「本当に変わったね楽って……都市に居た時はいつも何かに怒ってるようでいて怖がっているようにも見えた。その癖話掛けられると強めの口調で開発者さんたちを一蹴してたのに、今の楽からはそんなことしてた〜なんて雰囲気全然無いんだよね」
「……なあその“都市”だったか?そこってどんな場所なんだ?高層ビルでも建ってるの?」
「えっとね、能力者が能力の向上を目的に住まう、“隔絶海洋都市”。世界中から能力研究者が集まって新たな能力の開発、サンプルを使って世界の為に役立てる……まあ能力者たちの街って覚えてれば良いと思うよ!」

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