光の幻想録

ホルス

#26 変獄異変 4.

 此度の災厄は幻想において史上最も悪質で、故意に発生させられた人為的な異変である。
 外の世界より追放された何者かが幻想に入り込み、守矢の巫女の力を用いて引き起こした大災害。
 それこそが今回の異変、地獄に生息する化物共を地上に呼び寄せ本能のままにヒトを、妖怪を殺し尽くす。
 幻想を創造した者の1人として到底見過ごす訳には行かぬ、今回のは想像以上に目に余る。
 だがそもそも何故奇跡を願った人間は幻想がある事に気が付けたのか、重点をそこに合わせる必要がある。
 例え此度の異変を解決したとしても大まかな原因を排除出来ない限り、このような異変は永続的に行われる可能性すら浮上する。
 幻想とは幻想であるからこそ幻想なのだ、そこに現実が加われば幻想は幻想として機能せず“幻想が現実に落とされる”。
 それだけは避けねばならぬ、我らが種の存続の為にも幻想に住まう者の為にも。
 
 ──だから私は動き出す、この異変を解決に導き、原因となる者の削除を誓って。



────


 闇色海色は泣き叫びながら無事……に山頂へと辿り着いた、その先に待ち受けていたものは神社に奉られる“神”そのもの。
 治療をしに来たと主張する海色の言葉に偽りを決定付けた神は、守矢の巫女を守る為に戦い抜くと覚悟を決めた。
 対して海色はその神の猛攻に水を使って受け流したり耐久しつつ会話を続けようとしているが、あまりの話の聞かなさに半ギレを始める始末だった。

「“水流操作”!」

 海色の能力“水流操作”は水を自在に操る事だけではなく、その場に水を発生させる事すら可能な万能の能力だ。
 その能力を使い、守矢神社の付近に佇んでいる湖の水をありったけ自身の真上に対空させると、小刻みに分断させ槍の形状へと次々に変化させていく。

「先程の盾と言いその槍と言い、お前の力は水を操る事か」

「そうだよわからず屋。君が私の言う事を信じてくれればこうはならなかった」

 神はそれを聞いた途端に軽く失笑した後、不穏下に俯くと両の手の平を空へ掲げた途端、文字の通り空が割れた。
 空に裂け目が出来るのは紫の力を見ていたから知っているけど……これはあまりにもそれを凌駕している途方も無い絶大な力。
 裂け目からは光り輝く陽が差し込んでいて、そこからは無数の弾丸型の飛来物がこちらへ向かって落下して来る。
 私はそれを水の弾丸で相殺すると同時に、土煙舞い散る神社の庭を早足で駆け神の懐へと接近し……。
 ──水で創られた水の槍を掴みつつ武装された右手を神へと近付けたその時、不意に視界が白色に切り替わった。
 キーーンと耳鳴りの様な音が永続的に響き渡り続け未だに視界そのものは快復には至らない、寧ろ何の感覚すら得られていなかった。
 身体ほぼ全ての感覚が麻痺していると見て間違いないと確信した、何せ能力の使用感覚すら無いのだから。

「やあ海色ちゃん。弟君とは仲良くやっているかな……って言っても聞こえないか。まさか君までこんな世界に居るなんて思わなかったよ、いやだがとても似つかわしい。落ちぶれた聖人はこの様な廃れた場所がさぞお似合いだ」

 未だその感覚は快復せず。

「どうせ海色ちゃんが居るって事は楽の野郎も居るんだろ?妹、妹、妹。考える事は真っ先にソレだ、どこまで行ってもあのクソ野郎は縛られたままだろうになぁ……」

 未だその能力は戻らず。

「だがまあ楽には用はぇが、“ゾロアスター”の方には用がある。遂に奴らを分離させる薬品の試作段階が出来たんだ、アイツらの体で効力を試さねぇと勿体無ぇからなァ!!?」

 未だ、未だにその感覚は戻らず。
 だが……だが、だがだ。
 この世界に根を下ろす前に感じ取れたこの気配は間違いない。
 この気配は“アイツ”だ……。

「そのフラッシュバンは俺特性の一級品だ、数時間はそのままで居てもらおうか海色ちゃん。ついでにそこの野郎もな」

 音も無く視界も無く、ただそこにあるのは気配のみ。
 ならばその気配を辿り敵を穿つ、それが出来なければ私は聖人としての誇りは守れない。

 ──手を上げる体の動作をするが感覚は一切伝わらない、だが体自体は間違いなく動いている筈だ。
 ならば体がマトモに動くと仮定して自身の肉体に染み付いた全ての動作を感覚無き今再現する他に無い。

「“水流操作”」

 湖の方角は覚えている、ならそこを中心にして水を吸い上げ能力を使用し攻撃に転じれば良い。

「“水槍”!」

 気配の根源へと投擲を開始するがそもそも能力が使用出来ているのか自体五分五分だ。
 感覚が無い以上、自分の経験をフルに活かして今は凌ぎ潰すしかない。

 ──が、突然その気配は私の目の前へと現れた。

「大したモンだよ海色ちゃん。でも聖人としての力を使わないのは何でだろうな。俺をナメてんのか、“そもそも使えない”のか。海色ちゃん程の聖人を相手にするからにはそれ相応のアイテムを持ってきたんだが必要無ぇみたいだな」

 ──私の思考はそこで停止した。



「神奈子に何をした!!」

「……あ?」

 海色ちゃんを殴り飛ばした後、煙草に火を付けていた所をちんちくりんな餓鬼によって邪魔された。
 んだコイツ……この世界の妖怪の類は一人一人が馬鹿げた力を所得していると言うが……楽を探す前に見学でもして行くかね。

「あそこで踊ってる野郎の事か?んなら俺がやった。見物だろう、感覚が無くなって戸惑いながらさまよい続ける姿から、俺はアレをゾンビと呼んでいる。くく……実にセンスが良い呼び方じゃ無ぇか!?お前もそう思うだろ糞ガキ!!!」

「貴様……」

 大地が揺れる、その強大な揺れに大地は裂け始め近くの巨木は倒壊を始める。
 これは別に力を使っている訳ではなさそうだな、類似した力が暴走している状態に近いものか。

「貴様ァァァ────ッッ!!!!」

「来いよ糞ガキが」

 唐突に大地がうねる。
 それは生きているのかと錯覚する程のものであり、生身の人間が立っているなんて事は間違いなく不可能に近い。
 だが奴は何の阻害も無いまま何事も無かったかのように振る舞い立ち続けている。
 そして大地の裂け目から現れるのは白き大蛇、顔と尾のみが露出しており、遠く離れた裂け目からは尾が。
 そして付近の裂け目から巨大な顔が出現しており、それを把握しただけで全長は50メートルを確実に越すものだと確信出来た。
 大蛇は身を大地へと這い寄らせながら確実にその者へ近付き、神社を丸ごと飲み込むことも可能な程の大きな口を開き喰らう。
 だがその者は口内には居らず、大蛇の上をスタスタと歩いて諏訪子へと近付いていた。

「振り落とせ!」

 神の使いたる大蛇は命令通りに振り落とそうと身を畝らせるが、瞬間に奴は常人を凌駕した脚力で飛び上がり空中で新たに武装し、重力に任せた落下の衝撃で大蛇を大地ごと砕き粉砕した。
 肉は弾け骨は砕け、嫌らしい不気味な肉塊音が殴打によって更に発生し続けている。

「握り潰れろ!」

 殴打している者に対して大蛇の一部を巻取りながら、大地を丸め込み巨大なボール型の牢を瞬時に作成する。
 諏訪子はそのまま大地の牢を圧縮させ、内部に閉じ込められている者ごと握り潰そうと試みるが、大地は突然光を発光し、切れ目が出来た途端に牢全体は破壊される。

「何なんだお前……」

「この世界を壊す研究者、糞ガキにはこれくらいで十分だろ」

 気が付けば大地を常に畝らせているにも関わらず私の目の前にソレは居て、鈍い痛みに気が付いた時には私の腹には拳程の大きさの穴が背中まで貫通していた。

「んー神なんだろお前。なんで人間と同じ構造してんだ。俺の意欲を返せよ糞ガキが」

 意識……が……。

「おっとまだ倒れるにははえぇ。奇跡の力を持つ人間が居るだろう、何処に匿っている」

 ──諏訪子はその時、脳にまで指を突っ込まれ瀕死の状態で包み隠さずに答えてしまうような常態化にあった。

「ソ…………コ……」

「はいご苦労」

 奴は指を脳の中心部にまで落とし彼女を絶命させる、奴は冷酷だ、そして残忍だ。
 奴と戦うからには全てを棄てる覚悟を持て。
 奴はそれ程の者だ、人間を掛け離れている。
 そして私の弟を創り上げた者でもある。
 数々のアイテムを用いて敵を翻弄し、結束させた化学の力で粉砕する。
 その者の名は──。

「死体は邪魔だからボイコット。ゾンビも海色ちゃんもその辺で棄てて置くとしようか。遊んでやりてぇ所でもあるが、ソレは願いを叶えてからでも遅くはねぇだろう」

 奴は3人をそこらへ放り投げ、神社へと踏みよる。
 その時不意に感じた視線に目を向けた時、即座に理解した。
 あぁ……楽じゃねェか……。

「久しぶりだな楽」

 今にも死にそうなツラして藻掻くじゃねぇか。
 対能力者用の阻害電磁波を食らってよう立つわな。

「お前かァ──ッッッ!!!」

 だがまあ電磁波の前にゃ無力。
 あの都市のトップでもこのザマとは……嫌々自分の才能が恐ろしいねェ!

「体弄り遊ばれてるじゃねぇか楽!!これァ愉快なもんよな!!!いやいや傑作だわハハハハハッッ!!!」

「ぅぐ……ッ……どうして、お前が……お前が……ここに……ッ……!」

「なんだ“中身”には気付いてんのか、つまらねぇ野郎だよお前は。理由としちゃあそうだな、ここを殺しに来た。それ以外に理由はねぇ、お前には一生実験動物として生きてて貰わねぇと困るからな!!」

 嗚呼……気分が良い。
 ゾロアスターの面影は無いがまだ良いだろう。
 ゆっくりとその“闇”引きずり出してやる。

「まで……ッ!!行かすッッ…………」

「お前はここに来れねぇ。力も干渉しなければ体は疲弊するだけだろうよ。まあそれ以外にも理由はあるかもなァ!!?」

「やめろ……!やめろ……!!!やめろ────ッ!!!!!」



 ──奴の名は“藤淵閃ふしぶちせん”。
 光があの世界に来た時、初めて会ったのが奴で……それで騙されてあんな……。
 あんな事になるなんて……。



「──この世界を滅ぼせ」

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