光の幻想録

ホルス

#25 変獄異変 3.

 光と海色を妖怪の山まで送り届けた後、私は紅霧異変の元凶たる吸血鬼の館、つまりは紅魔館と呼ばれる場所に来ていた。
 理由は単純で異変を起こした罰というかそんな感じで首を絞めてきた、それと軽く痛い思いをして貰ったのも追加ね。
 あんたの従者に1回殺されたんだからこれくらいは許されるでしょう、涙目になろうとお構い無しに本気で絞めてやったわ。
 それとこっちは本命の理由ではないのだけれど、森近霖之助もりちかりんのすけという人間に作らせた吸血鬼用の日焼けクリームを手渡すってのもあったわね。
 これで少しは陽が出ていても出歩けるでしょうし、あいつらはそこらの人間だけは襲わない事で一応有名だし、そこだけは信頼する事にしましょう、不本意だけど。
 後咲夜とかいう従者は人里で暮らす事を提案したのだけれど、生憎拾われた身である彼女に知り合いは居らず、主人はこの吸血鬼だと言い張っているので無理強いはしない事にする。

「はぁ……分かった分かった、んじゃ私は帰るわ。もう用事も済んだしスッキリしたしね、何度も言うようだけど次異変起こしたら念入りに叩き潰すからね」

「はいはい……。また違う方法で人様に迷惑を掛けない抜け道を見つけてみせれば良いんでしょう。理解したからとっとと私の館から失せなさい、今は虫の居所が悪いのよ」

 そんな事を言っていたからさっさと館を抜け出たわ。
 にしても今日はやけに空気が悪いし天気も悪いわ、なーんか気持ち悪いのよね。
 虫唾が走るっていうか……まあともかく嫌な感じだわ。
 こういう時こそサクッと妖怪退治してスッキリするに限るわね!

 そう博麗の巫女は妖怪退治に精を出し、行く道中に遭遇した妖怪たちは、まるで化物を見るかのような形相で逃げ惑い泣き叫んでいた。

「全く……あの子もいい加減にして欲しいのだけれど、霊夢にもうんざりしてきそうだわ。咲夜も私になんか仕えず人里へ降りて学ぶという手もあるのよ。貴方には貴方の人生がある、運命がある。決めるのは貴方よ咲夜」

「命を救ってくださったレミリア様に仕えるのは当然のこと、恩を返しきるまで私はここを離れるつもりはありません」

 曇り無き純粋な眼でそう言うのだから間違いないでしょう。
 運命を操る吸血鬼が他人に運命の選択を握らせるなんて面白おかしい話がある訳ないだろうと思っていたけれど、これはこれで良いものね。
 他の皆もそうなんでしょう、私になんか仕えているのは嫌々なのではなく、心からの尊敬からの服従であると。
 こんな私にね。
 私は父親に逆襲してやりたいと思っているだけの哀れな者に過ぎないというのに……追放された異分子であるというのに……。
 本当に馬鹿で自慢の従者達ね。
 ただ、あの子に限っては本当に馬鹿ね。

 事実に埋もれ産まれた事すら無かった事にされ私と共に“世界に追放”された我が妹。
 あの子だけは本当に、本当に救えない。



──────


 紅魔館付近に佇む湖、その付近には湖の水を十分に蓄え成長した木々が連なり小柄な森を形成している。
 村の子供達が大人に隠れて妖精達と遊んでいる姿を見ることができ、中には人喰いの妖怪もチラホラ混ざってはいるが、子供達には害は無いそうだ。
 どうもその人喰い妖怪曰く仲良くしてくれるなら食べたくないと豪語しているらしく、子供達もそんな人喰い妖怪の寂しさを汲んでか仲良くしているという。
 そんな森の中に一際生い茂り陽が差しにくい暗い場所がある、そこに深く木を背に座っているのは美しい虹色の色を各色備えた羽を持つ正真正銘の怪物。
 幻想の賢者と云われる強者達でさえ刃を向けるのを躊躇する程の実力を持ち合わせ、紅霧異変において元凶となったレミリア・ツェペシュ様の実の“妹”に当たる。

「アイツのばか……」

 彼女の言う“アイツ”とは姉の事であり、姉妹揃って血は通っているという事がよく分かる一面を見せられていた。
 いくら姉を嫌おうと妹を嫌っていようと、その血は通い続け、姉妹という楔からは決して逃れる事は出来ない。
 そう思うと私にも家族というものが欲しかったな。

「妹様、お迎えにあがりました」

「アイツはどうしてるの?まだ館に居るなら私は戻る気はないわ」

 本当に困ったお方です。
 いやまあ私が門番の仕事をサボっていなければ妹様もこうやって外に出る事はなかったんですが……。

「そう仰らず帰りましょう、陽が傾いてこの先ここも陽が差してしまいます。傘をお持ちのようですがそれでも危険な事に変わりはありませんのでどうかご一考を」

「嫌、絶対にね。もうアイツのとこで幽閉され続けるなんて懲り懲りよ。私には私の生があるの、生き様があるの。なんでアイツにそれを縛られなきゃいけないのか分からないわ」

「それは妹様の力を根本から薄くする試みがある為です。お嬢様に黙っているよう申し付けられていましたが……あの地下部屋は幻想に携わる力を徐々に薄める効果のある“術式”が組み込まれています。なので……」

「だからまた入れっての?絶対にお断りよ美鈴。貴方も私を閉じ込めたいってのなら容赦しないけど……」

 妹様の目は本気だった。
 私があと何か口走れば即座に肢体は裂けミンチになると、妹様のあの紅に輝く美しい目で分かった。
 もうこれ以上の会話は危険ですかね。
 まあ連れ帰らなかった時もお嬢様にお叱りを受けるのも嫌なのでどうしたら良いものか……。

 ──その時、不意に聞こえた耳を犯すようなおぞましく気持ちの悪い音が辺りから聞こえ始めた。
 果実を潰して果汁を啜り出すような近いイメージを持つことが出来る不気味な音は、私たちがいる陽の差さない木々の隅で発生していた。
 あまりの気味悪さに妹様の警戒に当たろうとしたその時、妹様はその力を使用していた。
 妹様は力を使われる時、目が深く紅色に輝きそれはそれは美しい色を発光する、この暗い森の中でそれは一際輝いて魅せていた。

「下がって美鈴。地獄の化物が這い出てきてる、それもすごい数ね」

 虹色の羽を揺らしながら妹様はその場で立ち上がると、握りしめた手を緩め外の世界に連なるとされている神話上の武器をその手に掴み取る。
 それは棒状のステッキに変化したかと思うと先端がナイフのように鋭利に尖り、そこからステッキ全体に炎が瞬く間に広がり、まるでそれは炎の剣と呼べるようなものに仕上がった。
 それを妹様は吸血鬼としての力をフルに使い横薙に振り払うと、扇形の真紅の弾幕がその場に発生し振り払った方向へと突き進む。
 弾幕に触れた木はその場で瞬時に燃え上がる途端に青くそして白く炎の色を変えて炭すら残さず燃え尽きる。
 そしてそこに居た“何か”も扇形の弾幕に被弾した瞬間おぞましい声をあげながら恐らくその場で燃え尽き絶命した。

「す、すごい……」

 破壊力もさながら炎は他の木々に燃え移るということはなく、対象を確実に燃やし尽くした後その場で鎮火し始めているのだ。

「さっきまで晴れていたけど、良い感じに曇ってくれたから加減せずに殺せたわ。少しスッキリしたわね」

「は、はあ……」

 そう言われるとそうだ、さっきまで陽が差している箇所がチラホラあるくらいには快晴だったのに雲が異常に発達している。
 吸血鬼にとって陽は銀に次ぐ弱点、既に曇っていると判断したからこの様に力を振るわれたのですね。


「──────────ッッッッ!!!!」


 途端新たに聞こえた先程よりもより強く大きな例えようのない叫び声は、重たい衝撃波を振動させながらズシズシとこちらへと迫っていた。
 木々が倒れミシミシと音を立てて倒れていく音がだんだんと近付いてくる、何やらヒトの声らしきものが混じっているのは気のせいか……?

「あーあ面倒くさい……地獄の化物が少し栄養を蓄えたからって私に勝てると思ってるのかしら」

 そしてそこに現れたのは……。
 音が止み私の前に巨大な何か。
 見上げてもそのてっぺんが見えないほど恐ろしく巨大な体躯を持つそれは、辺りに死臭を放ちながら佇んでいた。
 それはよく見ると剛腕、足は一切見当たらないが四足歩行で腕のみを使ってこちらへと這い寄って来ている。
 その1メートル以上ある剛腕からは小さな腕が小刻みに生えており、一つ一つがウネウネと蠢いている。
 更に化物は剛腕の関節を曲げて顔を地面に近寄せ私たちを視認した途端、その顔にヒトの顔を何個も何個もお面のように浮き出させた後、様々なヒトの声で聞き取り難い音を発生させる。

「醜いよ……」

 化物は妹様の声に反応したのか、その剛腕を妹様に向けてフルスイングで叩きつけようと……

「妹様!!」

 私は庇うような形で妹様の前に立ち、その剛腕を武術にて受け流そうとしたその瞬間、目の前の化物は死に際に赤ん坊の声をあげながら爆裂四散した。
 私にはその返り血が山ほど飛び散って来て、そのまま大量に浴び続けて髪はおろか肌にさえ気持ちの悪い異臭が付きました。

「ん、傘ありがとね」

「……」

 帰りたいです、お嬢様。

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