光の幻想録

ホルス

#20 水の工房

 椛の枯葉が嵩張ってクッション代わりになった事が幸いし、風圧で骨が軋んだ事以外はダメージは無かった。
 脊髄から出た言葉が未だ山彦して聞こえてくるのが如何にも山らしい。
 辺りはもはや山の景色とは一切呼べるものではなく、台風が一過した被災地の景色さながらだった。
 その景色はいつぞやの街でテレビ越しに見ていたもんなんだが……。
 それに比べたらこっちはハリケーンと呼んだ方が良さそうだ、木々は横倒しになり木の上に木が置いてあるという目がおかしくなりそうな光景の数々。
 何の冗談か空に伸びる白い渦は目視にして2M程の小さな竜巻すら発生している。
「海色は大丈夫なんだよな……」
 この有様を見て心の中は不安で埋め尽くされていく、そもそも妖怪の事を信用しても良かったのだろうか。
 妖怪が話したルールの中に、こちらが攻撃しなければ妖怪側も攻撃しないとあったが、俺たちが山に入る際に感じたのは間違いなく『殺気』に他ならない。
 そんな謎めき、ハッキリとしない違和感が俺の中で迷走していた、そんな時だった。
「おーい盟友!!」
 遠くから聞こえてきた声は徐々に近付いて声の主が倒壊した木々の間の空間から、ひょこっと顔を覗かせる。
 ……子供?薄水色の合羽を着込み緑の帽子と青髪が特徴的な子が、こちらに顔を覗かせていた。
「おーい盟友?大丈夫か?」
「……俺のこと?」
 自分を指差し確認すると首を縦にブンブンと振り回して、力強く『そうだ』という意志を送り付けて来た。
 この山に居るからには妖怪だと思うんだが……人々が巫女を求めて登山をし始めているという事実もあるから…………どっちなんだこいつは。
「怪我は……うん、無いかな。そっちは風に巻き込まれたりとかしてないか?」
「私はこの特性風避けハイテクマシーンがあるから大丈夫さ!それより怪我が無くて良かったよ盟友、ここで会ったのも何かの縁だろうし私の工房に寄ってかないか?」
 ツッコミたい、なんだあの体の半分以上の面積を占めている巨大なバッグは。
 そしてそこから何の脈絡も無しに現れた巨大な機械は特性風避けハイテクマシーンという名前があるらしい。
 いやいや、なんでバッグより大きいサイズの物が出てきてるんだ。
「どうせ暇だし付き合いますよ、妖怪さん」
 俄然興味が唆られる。
 この子のこの技術は目に惹かれるものがあった。
 あのバッグに興味が湧いたからついて行くという訳では無い、あの技術力を間近で見て学びたいだけだ。
「よく分かったじゃないか!あ……すまないな盟友名前を教えるのを忘れていた」
 ──辺りに散乱していた木々は一瞬にして木屑へと変わり果て空気と同じようにして漂い始めた。
 新たにバッグから現れた長木よりも長いノコギリが、刃を電動させ振り回されると同時に全てが切り刻まれたのだ。
河城かわしろにとりって言うんだ、よろしくな盟友!」
 そんな無垢な笑顔で手を差し伸べた。
「博雨光だ、よろしくな河城さん」
 手を握って分かった事がある。
 妖怪とは強大な力を持ち人間に仇なす存在かと思えばそうでもない、その力を用いて蹂躙する事もなければ嫌悪的ですらない。
 妖怪とは、人間に友好的であり秩序的で、この子に限ってはもはやただの女の子でしかない。
 ただの女の子がバッグから器具を取り出して木々を木っ端微塵にするかと言われると否定出来ないが、それ以外の要素は全て語った通りだった。
 「よしじゃあ行こうか盟友!私の工房は凄いぞ!他の河童たちもそこにいるからきっと仲良くできるよ!」
「……河童、河童なのか!?」
 河童って言ったら日本に伝わる伝統的な妖怪じゃないか……! そんな存在が本当に居るとは、幻想ここは本当に侮れない。


──

 …………なんだここは。
 道無き道を手を引かれながら案内され、浅瀬の川に浸かったかと思うと足元が突然開いて落下して……。
 そして気が付いたら部屋の中にポツンと立っていた。
 訳が分からないし理解もしたくない。
 これも幻想だというのなら根本から全て間違っているとしか思えない、全部機械じゃないかこれ!
「ようこそ我らが工房へ!っと言っても工房内にある私の部屋なんだけどね、ほらそこに腰掛けて休憩すると良いよ」
 「なあ、これらも全て含めて幻想だったりするのか……?」
 部屋は機械、機械、機械、機械とあらゆる場所に謎めいた現代風の機械が陳列されており、各々は謎めいた動きを連続して火花をチラつかせていた。
 無論それはガラス越しにて使用されこちらに飛び散ることはないのだが、部屋の中でするようなもんだとは到底思えない。
「あ〜勿論だとも!ここは幻想の名のもとに作られた至高の数々、制作された物はある所へと経由されて盟友たちの元へと販売されているんだ!」
 幻想の定義って何なんだろう。
 幻想ではなく確実に現実リアルの類だろこれ。
「それにしても河童ってもっとこう水の中とかに住んでるのかと思ったけど、案外人間みたいな一面の方が多いんだな」
「そうなのかな?盟友たちがどう暮らしているのか私は知らないからね、日々こうやって制作してはある盟友の所へと持って行って売ってもらうの繰り返しだし、そういうのにはちょっと疎いんだ。良かったら教えて貰えないかな盟友!」
 多くはないが基本的に人間と妖怪という種族は互いに相容れる事はないのだと事前に博麗から聞いていたが、俺がこの子に興味を持ったのも、この子が人間というものに興味を持ったことは同じ意味として捉える事が出来た。
 互いに知り合い事は多く、知っておけば今後の幻想郷での生活も多少マシなものになりそうだし……。
「あぁ良いよ河城さん」
 そう笑顔で答えた。

──

「いやああああ──ッッ!!!!」
「あぁ!?暴れないでください!この速度で手を離したら流石に死にますって!」
「いや無理!!無理だって!!止まって!!!お願いだからああああ!!!!!」
 この幻想において、天狗という種族は最も速く移動が可能な特異な生物だ。
 その天狗が私の手を引いて言葉にするのすら恐ろしい程の速度で超低空飛行で山を全速力で駆け抜けている。
 天狗が通った場所は無惨に木々が宙を舞い、地はめくれ上がり跡地と化す。
「徐々に速度を落とさないと止まれないので止まるのに1分くらい掛かりますよ!でもそれくらいあれば山頂には辿り着くので我慢ですよ我慢!」
「いやあああああ──ッッッ!!!!」
 その日、妖怪の山登頂に挑んでいた殆どの里の者たちは叫び声を『人間が妖怪に襲われた』と勘違いし下山を開始したという。
 いらぬ誤解を与え兼ねぬ状況故、八雲の使いが対応に当たったという。

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