光の幻想録

ホルス

#17 能力

 こんな代物が使えるようになってしまってから狂い始めたのを覚えている。
 第一、似たような事は覚えていたが、大した力も使わずに他人の『能力』と呼ばれる特異な技を扱う事が出来る様になってしまった。
 自覚したのは──の世界に入って間もない頃だった、放浪として訳の分からないいざこざから、通りを走った電撃を放電していた人の事を不意に思い出した瞬間、俺の周りに居たであろう『何か』は単なる『焦げた肉塊』に変貌した。
 辺りの施設や住宅街は軒並みショートを引き起こして一瞬にして暗転したのは鮮明に記憶している。
 以降俺は研究に研究を重ねて、この特異な『能力』と呼ばれる異端の代物を大まかに体得する事が出来た。
 『相手の名前』、『コピーする本人の能力』、『その能力を視た』、以上3点を成しえた以降、俺はそいつの能力を若干ながら扱うことが出来る、それが俺の『能力』だと……妹の顔をしたこいつで深く……浅ましくも思い出した……!
「あぐッ……ァアッ……!?」
 当たり前だがそんな奇跡染みた特異なモノを持つからにはそれ相応の対価が支払われる、自身の体内エネルギー、云わば寿命を削って使用する捨て身の能力。
 対象となる能力が強大であればあるほど、その  身体に降り掛かる負荷はより重たくのしかかる。
「ぐぅッ……しゅッそくしろッッ!!!」
 身体全体に広がる痛みを堪えつつ掌に力を入れ思い出すは『海色』、その能力は『水流操作』。
 水をあらゆる形、水圧の変更、その他水に関連するものであればあらゆる事を行使する事が可能な優れた能力だと記憶している。
 俺はその力を応用し掌に力を収束させ、──で水を生成した後、鋭利な槍の如き武装へ変化させ突き飛ばす。
「当たるかァァ────ッッッ!!!!」
 化物は高速で飛来した水槍を頬スレスレで回避し、速度を殺すこと無く殺意全開で紅槍を突き立て上空から滑空して飛来する。
 その速度は目視にして推定200Kmを超える、着弾した余波ですら瀕死の海色にとっては致命的な一打に成り得る事は明白だった。
 この隕石みたいな奴を止める算段、ロクな事を思い付かない俺にとってはソレこそが救いになった。
「覆えッ!!!」
 掌から顕現させるは先程の槍を生成した時よりも更に密度の高い水の塊、それを俺の周りと周辺全てを覆うような形で防壁を張り、飛来する化物の刺突を軽減させる。
 当然、幾ら密度を高めた所で隕石染みた攻撃を完全に防ぎ切るなんて事は不可能に近い、完全に防ぐにはこれに加えてもう1つ手間を加える必要があった。
「囲え──ッ!」
 水壁に激突し速度が殺されたその僅かな時間、化物を中心にして辺り一帯を全て水へと変化させ内部へと完全に封じ込める。
 『水流操作』で内部に極大な渦を作り上げると同時に、化物の肉体を引き裂く形で大きく畝り狂い、水圧が極度へ到達したその時に化物の体は水から放り出され空を舞う。
 腕は千切れ足は喪失し、頭部に至ってはもげていると言っても過言でないほどの重症を加えたにも関わらず、アレは渦から放り出された勢いを利用しつつ再び紅眼を光らせ猛攻する。
「かこ──」
「遅いッ……!!」
 ──腹にまた鈍い痛みが広がっていく。
 この痛みを何度経験すれば気が済むのか……。
 気付けば奴の手足は再生し、こちらのダメージは計り知れない程のモノになっている、腹の皮膚、臓器を貫いて背へと渡って、その紅槍姿を現している。
「──ッ!」
 目の前の歪んだ笑顔を見せた化物はゆっくりと俺の顔を眺めた後、喉仏へと噛み付つく。
 ………………痛い……。
 意識が飛んでいく……感覚…………が……
「お休みなさい?家畜さん」
 腹の槍を引き抜かれ、喉仏から口を離されると俺の体は重力に身を任して紅の地に倒れた。
 意識が保たない、だが確実に死が近付いているのが本能で分かった。
 死にたくない、死にたくない、死にたくない……死に……たくない……。
 だがそれより前に…………ひなとの約束が……。
「……」
 声を出そうにも喉から空気がヒューヒューと音を鳴らして漏れ続け、上手く発音をする事が出来ない……。
 もう視界は一面暗く、これ以上何かを考える事すら不可能に…………ひな………………?
「それにしても、家畜の分際でよくもここまで私の体を傷付けたものよね。そこだけは私から貴方を評価してあげる、光栄に思いつつ私に看取られながら逝ける事に感謝なさい」
「レミリアァァァァァ──ッッッ!!」
 私は何も出来なかった、聖人としての力を差し出して力を十分に出せないから、とかそういう問題じゃない。
 普通にやられて普通に殺されかけて、彼に救いを求めた結果……私は彼と弟を失おうとしている……。
 私の責任だ、私が悪い……私が居なければ彼はまだ生きていたのかもしれない……。
 絶望の感情が私の心の中を染め上げていく最中、唐突に響き渡る紅の世界。
 その声の主は幻想に住まう者であれば誰でも聞いた事のあるであろう者の声、彼女が怒れば妖怪は恐怖し後ずさる。
 それがどんなに強い妖怪であろうと、どんなに威厳があろうと……その怒りに含まれた殺意に気が付けば誰だろうと畏怖する。
「博麗の巫女……!?なんで……ここは私の作り上げた世界よ……!!貴方にこの世界に入る承諾を私はしていないのに何で!?」
「そんなモノこじ開ければ何とでもなるわ、それをやろうとしたけどこの世界の1部分に細い穴があったからね、そこから入らせて貰ったわ。 ──吸血鬼、覚悟は出来てるのよね」
「ここまで来たのよ邪魔される訳には行かない……ッ!もうすぐ私が居た世界に復讐を!お父様に捨てられた私の悲しみをぶつける為に私は…………!!」
 ──まぁ、そんな事だろうとは思ったけど……。
「どんな理由であれ、貴方はヒトに手を出し殺害した。この事実を認めた上で尚私に歯向かう気なら、私は貴方を完膚無きまで滅ぼす」
「くどい博麗の巫女!私はお父様に復讐したいだけなのよ……!私の邪魔をする奴は……する奴はッッ……!!誰であろうと排除する──!!!」
「──永い夜になりそうね」

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