光の幻想録

ホルス

#14 槍公

 ──私は醜く産まれ落ちた。
「なんだこの化物は……!?」
 私は産まれながらにして種としての本能に従い行動した。
「ぎゃ……ぎゃあああッッ──!?」
 初めて口にしたソレは口内でまろやかに溶け落ち、私の胃袋を満たすには一口で充分だった。
「この……ッ!化物がァァァッ!!!」
 他のヒトが銃を構え発砲しようとも、それでも私はその体を頬張った。
 私の体が初めて感じる『食』という欲求に身を任せて貪りの限りを尽くす。
「くそッ!なんで死なねぇんだ!!くそッ!!くそッ!!!」
 最初の家畜から中身を全て喰ろうた後、背後にて発砲していた家畜に私は手を掛ける。
 マウントポジションを取り1番最初に極上の腹を、そして中身を喰らい尽くす。
 骨は中々噛みごたえがあってコリコリしていて、心臓は肉厚で噛みごたえがあった……。
 ──嗚呼、私は産まれ落ちた。
 1つの命として世界に根を張った。
 ならばあとは私が思うがまま好きに蹂躙すれば良い!この世の家畜共を恐怖に浸らせ肥えさせ、泣き顔を愉悦として傲慢に浸るのも一興だろう。
「やはり産むべきではなかったな」
 ふと我に返り、後ろから漂う嫌悪感を振り返れば、おぞましいものでも見るような眼で私を見下ろす『父親』の姿があった。

────

 私はこの館の主である。
 私はこの世界の解放を目論む者である。
 私は孤独である。
 本来の原因が何であれ、博麗の大結界に深いダメージがある今であれば、この世界はふとした事であろうと外の世界へと影響を及ぼす。
 行動するなら今しか無い、私は約500年という歳月を生きながらえてこの時を待っていた。
 ──もうすぐ叶う。
 私を追放した父親に復讐する機会を与えてくれるならどんな汚い手を使ってでも外に脱出してやる。
 例えばそう、この目の前に居る有象無象の一部を排除してでも。
「その名で呼ぶな穢らわしい、その忌み名はとうの昔に捨てた」
 「ッ……流石に効くなこいつは……はぁッ……。らく、聞こえてるかな……?後は任せて良い……よね……」
 私の体に突き刺さる男の腕並の太さを誇る紅の長槍は、ゆっくりと自然に引き抜かれ奴の手元へと帰り行く。
 出血多量で今にも意識が飛びそうだった。
 いや、そもそも体の2割が消し飛んだのだから死は覚悟出来た。
 ──そうだなぁ……私が今出来る事と言えば……なんて考えている時間も殆ど残されていない、闇色海色の人生はこんなに呆気なく終わってしまうのか。
「ッッ……弟を、……頼……ッだ……」
 私が成し得るソレは最後の力。
 私の体の機能を一部を譲渡する、聖人の力に耐え切れるのかなんて知る由もない。
 もし耐えたなら、きっと君なら出来る。
 ──後はホントに任せたよ……。

──

 ……目の前で1人の子供が死んだ。
 それは俺が殺そうとしていた者だ。
 然し今になって何で殺そうとしていたのか、それが俺には思い出せない。
 彼女は何回か俺に呼び掛けてくれていたんだ、弟だの兄だのと訳の分からない単語ばかりだったが今なら分かる。
 こいつは俺の姉ちゃんだ……。
 その姉ちゃんが……俺の目の前で殺された、あそこに居る……。
 クソ野郎に──。
「ウ"ア"ア"ア"ア"ァ"ア"ア"────ッッ!!!!」
 ──の死によって彼は大きく咆哮を轟かせる。
 それは正に獣王と呼ぶに相応しい程の猛々しいもので、この世界を観測し得る者にさえそれは感知された。
 彼は変わった、否それは違う。
 博雨光という人物はとうにこの場には居ない。
 あれなるは博雨光というヒトの皮を被って変質した『獣』である。
「──殺すッッ!!」
 ──ぶ。
 館内の天井にまで容易に飛び上がったソレは、天井を大きく蹴り飛ばして速度を更に加速させながら闇色の剣を突き立て猛突進した。
 その肉体が高台の地に着地すると同時に、辺り一帯に悍ましい程大きな地響きと瓦礫によって発生した煙が蔓延する。
 その煙が一瞬にして晴れたかと思うと、彼ら2人は闇色の剣と紅色の長槍を打ち付け合い、殺意と殺意がその館に響き渡っていた。
 一刀、更に一刀。
 武器と武器を一刀毎に打ち付け合う度に、彼の手は破損して行く。
 既に彼の手は肉が見え骨が見え、とうに剣を持って打ち合える様なものではなかった。
 だが、だからどうしたと言うのか。
 彼は何のために戦っているのか、彼は何故ここまで吠え叫び嘆き……何故泣いているのか。
 私はそれを思うと──胸が痛くなる。
「らァッ!!!」
 剣を縦に振り被り、逆に彼女は長槍を横に持ちその攻撃を受け止める。
 一進一退、文字で表すなら正にその通りだったが、彼はヒトとして体力に限度がある。
 反対に彼女には種としてヒトの何倍にも及ぶ腕力や敏捷、それに蓄えた知恵や体力が有る。
 ヒトが彼女たちに敵うのだとすれば……それは奴らの弱点を明確に突く必要がある。
「はぁッ……はぁッ……」
「幾ら何でもスタミナ切れが早すぎるんじゃないかしら、貴方の人格・・とそのとでは相性が悪いのかしら?」
「黙れッ……!お前は、……俺が殺すッ!」
 理性を取り戻したかと思えばこの体たらく、私の心情を擽り開花させる様な男だと見込んだ上で私は今ここに立っている。
 それは即ち私の恩情その物である。
 期待した私が愚かで嘆かわしい……。
「とうに貴方の運命は定まっている。その結果を今この場で死と共に体感しなさい」
 ──運命……?
 運命だと……?
 ふざけるな、ふざけるな……。
 ッ……ふざけるな!!
 俺はこうなりたいが為に自らの運命を認めた訳じゃない。
 こうなる運命を避けようと避けようと必死に必死に……。
 そうして掴み取れた復讐を邪魔だて……。
 ──いいや。
 この記憶は俺のじゃないな……。
ね」
 グサリと鈍い音が響き渡る。
 それは長槍が彼の腹の皮膚を突き破り、腸を突き通り背中へと突き破る音に過ぎない。
 その意味こそが彼女という絶大なる化物が定めた彼の運命であり、結果である。
 レミリア・ツェペシュ、彼の者の力は『あらゆる運命を自在に変える』というもの。
 彼女に勝ちたいのなら運命をも乗り越えた絶対的な強さを持つ他無い、故に彼女に挑んだ歴戦の者達は全て彼女と出会う前に従者によって殺害されている。
 無論それは運命によって定められているからである。
「まだ……だ……ッ……」
 彼は突き刺さった槍をものともせず、ドヤ顔で彼女を睨んで見せた。
 それは単なる強がりか、それとも死を悟った者の哀れな命乞いの一種か。
 否、それはどちらでも無く、それは未だ戦意を削がれていない男の顔である。
「そこまでにしておきなさい、光とは違うヒト」
 聞き覚えのある声が後ろからした。
 いや厳密には俺と別の男が聞いた誰かの声。
 その言葉と声に俺は深く安堵してしまった。
 死に際だからか……またはその声の主に深い信頼を寄せているからか。
 どちらにしろ俺はその声を聞いた瞬間に深い眠りに堕ちた。
 死という眠りでは無い、別の男に後は“全て”託す、そう言った意味合いで俺は眠った。
 あらゆる俺の力、その──全てを。

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