光の幻想録
#12 闇の片鱗
 館の最奥、そこに座する者は紅の館の主。
 深々と溜め息を零すその姿から、誰しもがソレを主だとは思わず、また恐れ慄く事は無いだろう。
 寧ろソレを前にしたのであればそれが唯一の救いとも言えるだろう。
 ソレを前にして生きて帰ったヒトは誰一人しておらず、また『生きた』ヒトがソレの前に辿り着く事は滅多に無く、『死亡』しているヒトであれば容易くソレの前に顔を並べる事が出来ようというもの。
 紅魔の主、その本質は吸血。
 生きとし生けるもの全ての運命を握り動かし、苦悩させ、傲慢し、高らかに笑い飛ばし、ヒトから何もかもを奪い取った後で……ゆっくりと嬲り殺す。
 それが過去にソレに辿り着いてしまったヒトの最期でもあり栄誉でもあり、誉れであろう。
 ──ただ1人、咲夜を除いて。
──
「ゲホッッ……」
 目の前の同じ姿をしたパチュリーが一斉に吐血した。
 私が何をしたという訳でも無く、全てのパチュリーに対して攻撃を行っていた最中にそれは突如として起こった。
 間違いなくこちらの攻撃は当たっていない、手応えどころか感覚すらも無いなんて何処まで幻影を侮辱した魔法なんだろうかとイライラしていた矢先の事だ。
「まさか……本体がッ……」
 それだけ呟き尽くすと一斉にその幻影達は倒れ込み、その場で融解して血泥と化す。
 本体……いわば幻影を生み出していた生身の自分に何らかの危害が加わったから幻影を操るだけの霊力を生成出来ず融解したのだろう、なんて単純明快な仕組みで滑稽な事なんだろうか。
 私はこんな野郎に『闇』を解放したのかと思うと……いやよそう、今は彼を救い助ける事が私に課せられた自身の宿命だ。
 幸いに見ていたのはアイツだけの様だし、アイツなら他人に口を滑らせる事もないだろう。
 ──さて。
「今行くからね」
 私は館内へとひた走る。
 血塗れた廊下は惨たらしく何者かの残骸を撒き散らし、幾つか白色の欠けを見つける事が出来た。
 戦場を見て来た我が身にとって、それは見慣れた光景に過ぎないのかもしれない。
 何人も死んで来た、何人も目の前で殺して来た。
 そんな平凡な人生を歩ませてくれなかった我が身を怨み呪い殺したい……そう思っていた時もあった。
 そんな堕落した人生の中でようやく見つけた希望の『光』、それが彼だ。
 彼が居てこその私、私が存在してこその彼なのである。
 まあようは……私の弟みたいなもんなんだろうね。
「はぁ……はぁ……見つけたよ」
 廊下の最奥、その扉を開けた先に居たのは身長20cm程の妖精に喰らい付く獣の姿。
 コリコリと不気味な音を奏ながら貪り食う姿から取れる感情は1つのみ。
 
 ──『歓喜』。
 歓喜……歓喜である。
 私は彼の姿を見て喜びに打ち震えている。
 嗚呼……ようやく会えた。
 嗚呼……やっと巡り会えたと。
 常人からすれば異常と見なされる私のこの感情も、私からすればこれが平常なんだ。
「──、私だよ覚えてる……?」
 問の答えは帰って来ず。
「──お姉ちゃんだよ……貴方は私の弟。思い出せないかな?」
 問の答えは帰って来ず。
 いや否である、その答えは次の行動で返答された。
「グルゥッアアッッ──!!!!」
 天井の壁にまで彼は飛翔すると、それを足場にして私に生成したであろう鋭利な剣を突き立てて、勢いを最大限に活かした突撃を行って来た。
  容易くそれを横に動いて避けて見せると、怒りそのままに乱暴に剣を乱舞して発狂がてら咆哮をあげる。
「貴方も幻想に来る時に記憶が飛んだのね、そして……いいえ、避しておきましょう。貴方の姉である闇色海色がその行いを正します。どうか抵抗しないで受け止めて」
 嗚呼どうか……どうか神の名のもとに私が嘆き私が誓います。
 この者に救いを、私の全霊の力を以て貴方を正気に戻します。
 どうか、どうか死なないで……。
 深々と溜め息を零すその姿から、誰しもがソレを主だとは思わず、また恐れ慄く事は無いだろう。
 寧ろソレを前にしたのであればそれが唯一の救いとも言えるだろう。
 ソレを前にして生きて帰ったヒトは誰一人しておらず、また『生きた』ヒトがソレの前に辿り着く事は滅多に無く、『死亡』しているヒトであれば容易くソレの前に顔を並べる事が出来ようというもの。
 紅魔の主、その本質は吸血。
 生きとし生けるもの全ての運命を握り動かし、苦悩させ、傲慢し、高らかに笑い飛ばし、ヒトから何もかもを奪い取った後で……ゆっくりと嬲り殺す。
 それが過去にソレに辿り着いてしまったヒトの最期でもあり栄誉でもあり、誉れであろう。
 ──ただ1人、咲夜を除いて。
──
「ゲホッッ……」
 目の前の同じ姿をしたパチュリーが一斉に吐血した。
 私が何をしたという訳でも無く、全てのパチュリーに対して攻撃を行っていた最中にそれは突如として起こった。
 間違いなくこちらの攻撃は当たっていない、手応えどころか感覚すらも無いなんて何処まで幻影を侮辱した魔法なんだろうかとイライラしていた矢先の事だ。
「まさか……本体がッ……」
 それだけ呟き尽くすと一斉にその幻影達は倒れ込み、その場で融解して血泥と化す。
 本体……いわば幻影を生み出していた生身の自分に何らかの危害が加わったから幻影を操るだけの霊力を生成出来ず融解したのだろう、なんて単純明快な仕組みで滑稽な事なんだろうか。
 私はこんな野郎に『闇』を解放したのかと思うと……いやよそう、今は彼を救い助ける事が私に課せられた自身の宿命だ。
 幸いに見ていたのはアイツだけの様だし、アイツなら他人に口を滑らせる事もないだろう。
 ──さて。
「今行くからね」
 私は館内へとひた走る。
 血塗れた廊下は惨たらしく何者かの残骸を撒き散らし、幾つか白色の欠けを見つける事が出来た。
 戦場を見て来た我が身にとって、それは見慣れた光景に過ぎないのかもしれない。
 何人も死んで来た、何人も目の前で殺して来た。
 そんな平凡な人生を歩ませてくれなかった我が身を怨み呪い殺したい……そう思っていた時もあった。
 そんな堕落した人生の中でようやく見つけた希望の『光』、それが彼だ。
 彼が居てこその私、私が存在してこその彼なのである。
 まあようは……私の弟みたいなもんなんだろうね。
「はぁ……はぁ……見つけたよ」
 廊下の最奥、その扉を開けた先に居たのは身長20cm程の妖精に喰らい付く獣の姿。
 コリコリと不気味な音を奏ながら貪り食う姿から取れる感情は1つのみ。
 
 ──『歓喜』。
 歓喜……歓喜である。
 私は彼の姿を見て喜びに打ち震えている。
 嗚呼……ようやく会えた。
 嗚呼……やっと巡り会えたと。
 常人からすれば異常と見なされる私のこの感情も、私からすればこれが平常なんだ。
「──、私だよ覚えてる……?」
 問の答えは帰って来ず。
「──お姉ちゃんだよ……貴方は私の弟。思い出せないかな?」
 問の答えは帰って来ず。
 いや否である、その答えは次の行動で返答された。
「グルゥッアアッッ──!!!!」
 天井の壁にまで彼は飛翔すると、それを足場にして私に生成したであろう鋭利な剣を突き立てて、勢いを最大限に活かした突撃を行って来た。
  容易くそれを横に動いて避けて見せると、怒りそのままに乱暴に剣を乱舞して発狂がてら咆哮をあげる。
「貴方も幻想に来る時に記憶が飛んだのね、そして……いいえ、避しておきましょう。貴方の姉である闇色海色がその行いを正します。どうか抵抗しないで受け止めて」
 嗚呼どうか……どうか神の名のもとに私が嘆き私が誓います。
 この者に救いを、私の全霊の力を以て貴方を正気に戻します。
 どうか、どうか死なないで……。
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