光の幻想録

ホルス

#7 奮い立つ魔女

 霧雨魔理沙と名付けられた金髪の少女は目の前の妖怪に対して深く激昂していた。
 理由はただに1つ 加えてそれは単調なものだ。
「お前は私が倒す……!」
 無力な人間に妖怪の力を用いて蹂躙し、命を嘲笑ったこと、私はそれが許せない、許してなるものかと自身に深く言い刻む。
 この妖怪は生かしちゃおけない……!!今すぐにでも焼くべきだ!!!
「っつ……効くね君の攻撃。ただそこで見ていただけのか弱い人間風情がよくも私に泥を塗ってくれたもんだ!──来いよ。まずはその可愛らしい顔から歪めてやる」

 右手の先を差し出し指を曲げ挑発をかますその妖怪の弱点は一つだけ。
 その慢心である。
「来い星々!」
 その呼び掛けは攻撃開始の合図。
 彼女が告げると同時に先程妖怪が吹き飛ばされた城壁から無数の星々が出現すると同時に、妖怪の方へと飛びゆき背後から体当たりという形で次々突撃して行く。
 ただの煌めく星々と侮るなかれ、それの硬度は鉄に匹敵し速度は時速にして70km。 
 ──弾数は『無限』である、それは現代風に言えば『機関銃』、数多ある弾丸を敵に向け放ち相手を殺める兵器の1つ。
「っ……猪口才な!!」
 かの化物は星々を生身の体で受け続けたかと思うと、その星々を諸共しないかの様に両腕掴み取ると彼女の元と豪速球で投げ飛ばす。
 その間妖怪の星々の被弾は限りなく0に近く、数多の星の突撃を恐ろしい身のこなしで回避し続け合間を塗った豪速球で攻撃するという常識を覆す程度のレベルの芸当を駆使している。
「化物が……!」
 生身の人間が鉄の硬度を誇る物体に豪速球で『かすり』でもすれば命の保証は何処にもない。
 彼女に取れる選択は1つのみ、その身を後方に聳える森林の中へと身を隠す事のみだった。
 紅霧が深く浸透した視界の悪い森の中を全速力で走る訳にも行かないし、ほぼ視界が途切れた状況下では悪手だったかもしれない。
 だがこうしなければ今頃私は化物の餌食となっていた。
 我が身可愛さを重視した結果とは言え、この状況から反撃の気を狙うのは相当難しいな……。
  彼女は暫く走り続け森林の巨木へと辿り着くとそれを背にして身を隠す。
 妖怪はヒトの匂いに敏感に反応出来るとはいえ、霧に阻まれてそうも行かないだろう。
 反撃の糸口を探るにはこの森を利用する他に無い。
 奴が上手く森へと入り込み次第仕掛けるしかない!
「みぃっ……」
 妖怪の声が私の真ん前から聞こえた。
 木々を背に隠れたから後方から迫っているものとばかり踏んでいた私のミスだ。
 振り向いた時には化物は既に両腕を振り下ろす寸前だった。
「けぇッッ!!」
「──レヴァリエ!!!」
 咄嗟に叫んだのは『スペルカード』と呼ばれ、それに示された呪符の名。
 単語に反応した懐にしまってある『ただの紙切れ』は『強力な攻撃手段』として昇華し彼女へと力を与える。
 それはより強力な幻想の民にのみ渡され認められた者の証。
 手に持つ箒の筆部分にセットされていた八卦炉と呼ばれる火力機器がスペルカードとの連鎖反応を引き起こして熱を発生させ、強力なエンジンの役割を持つ。
  それはとどのつまりロケットになる様なものだ。
 彼女は手に持つ箒を化物へと突き付けると筆に付けられたエンジンが点火、恐ろしい速度で木々の合間を突き抜ける。
 2人にとってこの程度の事は造作もない。   
 その状態が時間にして20秒ほど経つが依然として箒の突撃をくらい続ける化物、それに乗る様な形で攻め続ける彼女。
 木にぶつかればそれはへし折れ倒壊し微かな土色の煙を撒き散らすが、こうなってしまった世界ではそれすらも深紅の色へと染め上げる。 
 化物は未だ倒れず、突撃を続行する箒を逸らそうと必死にもがき続ける。
「……お前まだやるってのか」
「この程度屁でもないわ……!!」
 流石だな、それが妖怪の本質である。
 ならば人としてその本質を撃ち抜き、倒してみせる。
 そして私にはその力がある、ようやく習得した私の奥義……それは私の全霊力を用いた魔導砲。
「ならその身を高く上げてくたばれ」
 箒の軸の角度を上へと調整する。
 それはつまりエンジンが下になり箒自体は高く空高くへと突き抜け舞い上がる事を意味する。
 アレに残した霊力も切れる頃合いだし撃ち時はここしかないだろう。
 外せば終わり、当てて倒せなくとも終わり。
「貴様アァァッッッ──!!!」
 今は箒と共に空へ浮いた化物。
 それは落ちてくるまでは無力だ。
 ならばそれまでに仕留める、私の手に持つもう1つの八卦炉。
 これは筆にセットしてある八卦炉とは訳が違う特注品の物で、通常の物とは比べ物にならない程の火力を生み出す私の奥義……。
「じゃあな化物……!」
 全身の力を全てこの八卦炉に詰め込む。
 その力に反応して蠢く今は小さき無数の光の数々、辺りの星々は深紅に煌めきを放ち異様な空間を漂わせながらその準備は化物が地上へと落ちる寸前に完了した。
「穿て!マスタースパーク──ッッ!!
 ──見た者全てがそれに見惚れるだろう。
 空へと放たれた一射の光線は辺りに煌めく光の星々を落としながら深紅に染め上げられた世界を一瞬ではあるが元の色へと戻したのだから。
 それが幻想の民に取ってどれ程の希望になり得たものだろうか、少なくとも彼らは前向きな感情を抱くであろう。

 『もしかしたら博麗の巫女が異変を解決しているんじゃないか』

 『博麗の巫女ならやってくれる』

 そう昂る期待を持ち始め彼らは祈る。
 どうかこの幻想に平穏と平和を再び取り戻す様にと、微かな……微かな恩赦を込めて。

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