光の幻想録

ホルス

#6 妖怪の本質

 悪鬼や邪念それらは普段目に映ることのない恐ろしくはあるが儚き亡霊の類の者。
 それが目に視えてしまうのが亜空間。
 普段無視され行くそいつらは可視化されてると気が付いた途端に攻撃して来るのだ。
 認めてほしい、もっと見て欲しい。
 そういった人間と似たような感情を持ち合わせて攻撃して来る。
 この亜空間もその例外では無い。
 鋭利な爪、鋭い牙、邪念を飛ばす、そういった数多の攻撃が彼という男に向かって来る。
 彼に防衛と言った手段は無い、無いのなら私が護れば良いと……彼に気が付いて貰う必要は無い、礼を感じる必要も無い。
 それはただの私のエゴ。
 私が今成したいと思えた事を成している。
ただそれだけの事であって、決して……。
  『彼』のことでは無い。

────

 八雲の出した恐ろしい空間……アレは亜空間だろうか、話には聞いていたが、あれ程魑魅魍魎が潜んでいるとは思わなかった。
 それ所かあんな場所に放り込まれて無事だという事自体に不安を覚えかねない、八雲が俺を護ってくれたんだろうかと疑心暗鬼になる程には不思議で堪らない。
だがそんな事を考えている時間は無い、俺の目の前に聳え立つ異様な雰囲気を醸し出す紅の館。
 その頂きには紅霧を散布していると思われる機器を見つけた。
 絶え間なく排出される紅霧は恐ろしく赤く、そして美しくもあった。
 だが思惑通り故意に散布しているのだと分かった瞬間に恐ろしく腹が立った。
 その苛立ちを込めつつ館の中へと赴いて散布している本人へと交渉を申し込みたい所だが館の前に1人。
「迷子かな?見知らぬ殿方。ここ一帯は妖怪の出没地域だ、生身の人間が出歩いて良い場では無い。我が身可愛さを重んじるなら早々に里へと向かうが良い」
 巨大な門の前を背もたれに立つは中国風の女性。
 覇を感じさせる彼女の立ち振る舞い、そして口調からの雰囲気。
 間違いなく只者では無いと直感で理解した。
「館主に会わせてくれませんか」
「アポイントメントはお持ちで?」
「──持ってない……だが話くらいはさせてくれ!この館から紅霧が色んな人に被害を生み出しているかもしれないんだ!そうなる前に止めて欲しいんだ!」
 告げた瞬間に彼女が俺を見る目が変わった。
 ──彼女が俺を見る目が……『虚無』から純粋な『殺意』へと。
「なるほどそうでしたか。実は私はこの門を守る際にお嬢様からこう申し付けられております。『邪魔立てするなら処分せよ』と」
 俺と彼女の間合いは目視にして凡そ5m。
 それを彼女は僅か1秒程で、半歩掛からずしてその間合いを確実に狭めゼロ距離の懐へとその身を潜め隠す。
 それは理解する間も無かった、理解した時には既に俺の体は激しい鈍痛に襲われその身を小さく丸めていた。
 何が起きたかなんてそんなもの知らない、そんな事を考える前にこの痛みによって思考は完全に途絶え、ただ悶絶する。
「失礼、一撃で仕留め損ねました。すぐその痛みから解放して差し上げます」
 そんな声が聞こえたと思ったのは束の間。
 ──俺の意識は完全に途絶えた。

──

 彼の意識が完全に途絶え……もとい瞬間的に瀕死になった直後に、まるでピンチの時に現れる王子様の様に彼女達がようやく異変の元凶たる館の前へと到着した。
 来る途中に訳の分からない妖怪に襲われたせいもあって微妙に霊力を消耗しているのは痛いが、彼女達にとってそれは微々たるものだ。
「アレね凄く濃いわ」
「まあ大元がここだし当然だろさて突っ込むか霊夢?私はいつでも構わないぜ、というか突っ込みたいな」
 無茶に突っ込んでも輩の罠が有るとも限らない、加えて徐々に濃くなる紅霧のせいで視界は最悪。
 光曰く毒性があるみたいだけど本当らしいわね……どうにも動きに制限が掛かっているみたいで動き難い。
「仕方ない正面から行きましょうか。下手に回り込んでもこの際仕方ないわ。一応砲撃で援護する用意はしておいて」
「あいよ〜」
 正面の木陰から私は颯爽と抜け出し全力で走り抜ける。
 狙うは一点からの突破。
 多少なりともダメージは負うだろうが紅霧の毒にやられ続け後々に響くのだけは絶対に御免だ。
「っ……!誰!?」
 妖怪の気配……それも只者じゃない!
 何らかのサポートを得て怪物の類にまで強制的に昇華させられている……?
「おや、また邪魔者とは……やはりお嬢様の仰る通りに今宵は滾る日だな。要件は何かな博麗の巫女」
「分かり切ってる癖して図々しいのよさっさと後ろの霧止めなさいよ。このままじゃ幻想のみならず外の世界にまで干渉し兼ねないわよ」
「その権限は私には無い。それと外の世界の事になんぞ私やお嬢様は何の思い入れも無い。そこはただ有象無象の人間が蔓延っているだけなのであろう?」
 こいつ……腐ってる……。
 妖怪といえど人間と共存せねば生きていけぬ種であると自覚しているはずなのに、何なのこの扱いは……? 
 これじゃ本当に怪物の思考と変わりはない。
 寧ろやはり怪物か?
「そうだ博麗の、これはお前のか?」
 そう告げ取り出して目の前に捨てたのは……。
  …………人?
 ……ッ!!
「そんな……!光!?」
「やはりそうか!こいつは私が妖怪と知らずして立ち向かって来た無垢なる勇者だ。無論丁重にもてなしてやったぞ?なに死んじゃいないさ 今はな!」
 化物は笑いながら言い終わると目の前に転がる瀕死の彼に向け思いっきり足を振り下ろした。
 風をも切り裂くその速度は時間に換算して一瞬と言う。
 無論そんなものは目の前に居ようと止める事は出来ない。
 
 ──今この場にいる彼女以外は。
 血飛沫によって撒き散る鮮血。
 それは突如箒に跨がり猛進して来た魔女の体当たり。
 化物は突進の被弾と同時に大きく体勢を崩しつつ、勢いそのまま城壁へと吹き飛ばされる。
「魔理沙!」
「光を安全な場所まで退避させろ!──私がやる……!」

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