幻獣保護センターで働くことになりました

山椒魚

5話 管理者

 エレベーターから降りると、そこには何もない空間が広がっていた。ドーム状の部屋で、学校の体育館と同じくらいの広さだ。
 部屋の真ん中に、40代くらいのおっさんが胡座をかいている。最上階にいるって事はおそらくあれが管理者だろう。にしても、ボサボサな髪、整えられていないヒゲ、汚れた服、見た目からしてとても頼りなさそうだ。

「やあ。君たち見ない顔だね。試験を受けにきたのかい?」

「はい」

「君たち、名前は?」

「あたしはテイラといいます」

「俺は星降聖夜や」

 俺が自己紹介をした瞬間、少し管理者の表情が曇ったように見えた。

「じゃあ早速君達が従えた幻獣を見せてもらえるかい?」

「出ておいで!ツッチー」

 テイラの髪に潜んでいた幻獣が姿を現した。蛇のような姿をしているが、胴体が太く短い。

「ツチノコか。飼育難易度2だね。合格だ!」

「やった!」

 テイラはツチノコを両手で掴んでぴょんぴょん跳ねた。

「じゃあ次は俺の番やな」

「ぴー!」

「それはペガサスじゃないか!試験で飼育難易度9の幻獣を連れて来たのは君が初めてだよ。君も合格だ!」

 案の定合格できた。テイラが俺の合格を聞いて残念そうな顔をしている。相変わらずムカつく女だ。

「どこに配属したいか希望はあるかい?」

「どんなのがあるんですか?」

「飼育部、環境部、医療部の3つがあるんだけど…、出来るだけ君たちの希望を優先したい。」

 新人の希望を受け入れてくれるなんて。素晴らしい職場に就職できたようだ。

「あの、環境部ってどんな仕事をするんですか?」

「あー、まあ楽しいとこだね」

 ん?説明雑すぎないか?まあいいか。そんなところ興味ないし。

「俺は飼育部で。」

「あたしは医療部がいいです!」

 管理者は少し俯いて考えている素振りを見せる。

「何故君たちはそこで働きたいの?」

「楽そうだから」

「怪我や病気をした人を助けたいと思ったからです!」

「そうか…、じゃあ二人とも環境部で」

「「はい?」」

 俺とテイラは互いに顔を見合わせた。

「ちょっとあんた。楽しそうだからって理由なんなの?あんたの雑な理由のせいで変なとこに配属されちゃったじゃない!」

「は?お前こそなんやねん!取って付けたような志望動機やんけ!」

「ぴー…」

 ペガサスが俺とテイラの仲裁に入る。落ち着きを取り戻した俺は、管理者を睨み付けた。

「俺そんな訳わからん場所嫌やで」

「あたしもです」

「他の部より数倍楽しいから!心配しなくて大丈夫」

「知らんがな!俺は飼育部で働きたいねん!」

「君になんの権限があるのかな?決めるのは管理者である私だよ。環境部事務室に行って身分登録してきてね。それじゃあ」

「おい待て!」

 突如白く濃い霧が管理者室全体を覆った。管理者はどこか嬉しそうな表情を浮かべて、霧の中へと消えて行った。

「あいつ!どこ行ったのよ!」

「…。逃げたな。」

 霧が晴れ視界が戻ると、そこにはもう管理者の姿は無かった。にしても最後の管理者のあの表情はなんだったのだろう。
 俺たちは不満を抱えながら、渋々環境部事務室に向かう事にした。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く