アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

251 八咫烏の片翼

「先日の結婚式の賑わいがまだ尾を引いてるな」
「ものすごい人の数」
「あの、ありがとうございます。私も誘ってくださって」
「いいのよ、ね、みんな?」
「当然だニカ。お前は大切なウォルターの嫁で義理娘、加えて身重でもある。今日は私らがちゃんとエスコートしてやるから、しっかりと旦那達の応援をしてやるといい」

 まさかのサプライズで立て続けのような形になった今日(予定)のイベントのために賑わうテール中央広場。ダンジョンの真ん前に構えるカフェにてこれから始まる後進の晴れ舞台に花を咲かせ団欒する先輩達の集い。

「それにしても、なぁ、少し勇足すぎやしないか?」
「そうか? 寧ろリアムが戻って1ヶ月以上経ってる。遅すぎたくらいだと思うが・・・リゲスはどう思う?」
「そうね、たしかにちょっと勇足すぎるかも。誰かこの中であの子達に昔の戦いについて訊かれた人いる?」
「私は訊かれてないわ」
「ボクも・・・あ、でもリアムくんに命の属性について特徴をきかれたかな・・・けど、それだけだね」
「ほらな。教師になったエドにさえ尋ねてないんだ。だからと言って軽んじてるとは断定できないが、やはり準備不足だろう」

 挑戦の前には絶対にアドバイスを求めてくると思っていたのに、誰一人として頼ってこなかったことにカミラは不満げだ。ただお前が寂しいだけだろって笑ってやりたいが、たしかに、あいつらは俺たちを負かし破ったといえ、リアムとエリシア以外の戦いは2対1のハンデ付きであって更にあの子達はまだ子供。ウォルター、それからラナも成人はしたが、マレーネ、エドの血を引いてる分肉体は少し若めで、経験もここまでトントン拍子というか、一部、特にリアムがズバ抜けて強すぎるがためにラストボスに挑むだけの戦闘経験は十分にあるとは言い難い。

「あの〜・・・」
「あっ? なんだ注文はもうしてねぇ・・・ぞ?」
「いえいえ、私は店員ではありません」
「・・・スプリングフィールド卿? ハハッ、お久しぶりっす!」
「どうも、ウィリアム殿にアイナ殿」
「まさかあの少年の父親と母親があなたたちだったとは、自領に帰って手紙で初めて知ったときは腰を抜かして驚きましたよ」
「その事は、どうか内密に」
「はい、心得ておりますとも」

 カフェで駄弁るウィリアム達に声をかけてきたのはアルフレッド父、スプリングフィールド領辺境伯、アルファード・ヴァン・スプリングフィールドであった。どうやら彼は今週、パトリックのお祝いのために王族と入れ替わりで城を訪ねてきたらしい。スプリングフィールド領は国境に接する国防に重要な領であるから、内側の守りが不安定になっていた間は動けなかったようで、つまり彼がきたということは王都のゴタゴタはひとまず落ち着いたのだろう。

「皆さんよいのですか? 会場で待機せずここにいて」
「大丈夫だって。大抵は予定より遅れるもんだから。一番長い時じゃ予定より3日も遅れたことだってあるし、あいつらに限ってはまあないだろうが、登山中に脱落する連中も」
「おい、映像がつながったってよ!」
「急げ急げ! 世紀の瞬間を見逃すかもしれねぇぞ!」
「・・・おい、今じゃなくてもいいだろうがよ」
「カミラ!溢れてる溢れてる!」
「あらら・・・早いわね」
「早すぎだ! 過去最短記録じゃないか!?」
「流石じゃない」
「てことで会場にいなくても近くにいれば自然とわかるので・・・いこう!」

 どうやらもう、リアム達がケレス神殿に辿り着いたらしい。ラストボス戦のLiveは至って特殊で、神殿の門前よりそれは始まる。それからあの大広間に出て、剣を引き抜き、螺旋の水晶階段を登ると雷鳴とともに戦いは始まる。

「きゃっ!」
「大丈夫かアイナ!?」
「え、ええ・・・」
「おい今ぶつかったやつ気をつけろ! 妊婦がいるんだ!それにうちの嫁は今日の主役の母親だ!」
「因みに私もその母親の一人、ついでに義理の娘も妊婦ときたもんで、捨ておけねぇな・・・テメェ、覚悟できてるんだろうな」
「あ、赤薔薇!!? ──フッ」
「ちょ、ガン飛ばされただけで気絶してんじゃねぇ! めんどくせぇ!」
「じゃあ俺らは先に行ってるから後始末はちゃんとして来いよ!」
「待てお前ら! クソッおい起きろ! 然もないと永遠に気絶さるぞガルル!」
「ヒィッ!?──フッ」
「気絶しなおすなぁ!!!」

 気つけの威圧のつもりがちょっとやりすぎたか、カミラ早く来いよ。そのままループが延々と続かないことを祈るッ。

「吠えろ筋肉ッ!」
「えー、テステス」
「・・・ちょっとナノカちゃん合いの手は?」
「コホン、みなさんこんにちわ!ついに繋がりました!本日はついに、あのアリアがついに!私がついにを連呼するくらい!・・・今、私、ついにを何回連呼しましたかね? へへっ、ついに我が街、我が領、いや・・・我が国で今一番ホットな期待の星と言っても過言ではないでしょう!あの衝撃的なデビュー戦、エリアAキングトード戦は今なお記憶に新しい!あれからもうすぐ2年でしょうか・・・実はここだけの話、このパーティーの歴史は私のMC歴でもあって、非常に思い入れがある・・・おっと、本音が」 
「──間に合ったかッ!」 
「でもそのことを抜きにしても、古参さんも、今日が初めての初見さんもきっと一丸となって応援したくなる、そんなパーティーなのです!」
「だがナノカちゃん、過去には初めてこのダンジョンに潜入して1年を切りこの戦場に辿り着いたパーティーもある。それなのに今日は満席どころか完全定員オーバー!どうしてこんなにこのパーティーは注目されてるんだい──ニコッ!」
「そうですね、ダリウスギルド支部長。過去の挑戦者でギルドに残る記録では、初のエリアボス戦からラストボス戦到着までの最短記録は11ヶ月と27日になっています。しかし本日の挑戦者たちは一概に経過した年数だけでは語れない、なぜならリーダーのリトルウルフが1年の休養をとり活動を休止していた期間もありましたし、さらにパーティーの平均年齢を考えれば異例中の異例でしょう!そんなアリアが、今日、これよりそのアリアが! 霊峰コルトの頂の番人、ラストボスのスコルとマーナに挑みます!!!」
「うぉおおおお!!!」 

 ウィルが会場に着いた頃、リアムたちはどうやらちょうど大広間についたところのようであった。

「ねぇ、ウィル・・・ちょっとアレ見て、リアムちゃんが」
「おいおいリアム、他のメンバーは別の色々に夢中だぞ・・・もうおっぱじめるのか?」

 ナノカの司会に集中していたらリゲスに促されて彼女の頭上の映像へと視線を移す。するとそこには大広間に着いて1分も経たぬ間に、自分の体の一部にして囚われし姫、烏丸閻魔に手を伸ばす息子の姿があった。

「・・・あれ、止まった? どうしたんでしょうか、今にも剣を引き抜こうとしていた手を止め、リトルウルフが一歩下がりました」

 しかし──。

「・・・ジュピター」
「きゃーッ! これまた熱い展開ね❤︎」
「リアムくんの視線の先にあったのは・・・そっか、ウィルの」

 あれは、ユノを攻略したときに手に入れたラストレガシーの一つ。俺とモグリのために最適化された異能を宿す魔の剣、曰く、囚われし俺の魂の一部・・・そうか、10年以上経った今でもちゃんとそこにいたのか。・・・本当にすまない。 

「クソッ・・・年甲斐もなく、目頭が熱くなってきたッ!」
「いつか、あの剣が取り戻せる日が来ればいいのだけれど」
「・・・それは無理だアイナ」
「ごめんなさい、今蒸し返すことじゃなかったわ」
「いいんだ、兎にも角にも、あいつがリアムの間違いを諭してくれた・・・申し訳ない半分、残りはほんと誇らしい限りだ」

 アイナが言ったように、いつの日かお前を胸を張って迎えに行ける日が来ると嬉しく思う。だが俺にはその実力も、成長も・・・。

「さて、えーっとたしか関係者ってことでステージ上で馬鹿やってるダリウスが特別席を確保してくれてるはずなんだが・・・」
「ウィリアム! こっちだこっち!」
「・・・なんでダンジョンの前で待機してた俺たちより早く会場にいるんだあのジジイは」

 本来なら城にいるはずで、ダンジョン前でスタンバッてたウィルたちより遅れてくるだろう人物が既にそこにいた。”ミリアLOVE”と刺繍された扇を両手に持って手招きする中年が、きっとすぐそばで”GOリアム、GOリアリア!”と手製の布地を持って激しく振っているパピスに作らせたんだろうが、ほんと何やってるんだあのジジイ。 

「イヤな、ダンジョンから映像が繋がったと通信が入った瞬間に新しくできた優秀な我が娘に空間魔法で送ってもらったんだ」
「通信って・・・貴重な魔道具そんなことに使っていいのかよ」
「よいのだ! なぜなら我はノーフォーク領領主にして、テール攻略は街の主産業の一つ!そしてこれから始まる戦いはその攻略の最前線に終止符が打たれる世紀の1戦になるやもしれん! いやなる! だからこそこれは私用ではなく公的な目的のために使われた」
「はいはい、もうどうでもいいよ親バカジジイ」
「ぬぅう、それは褒め言葉として受け取っておこう」

 ポジティブだな、まあいいけど。

「1時間、映像で言っていたようにどうやら自由時間のようで・・・アナウンスした手前なんですが、一時休憩とします」
「なら今のうちに出店で何か買ってこようぜ〜」
「だな。俺は串焼き頼むよ」
「んなっ! ここはジャンケンだろ!」

 剣を抜くのを止めたリアムが仲間たちに1時間の自由時間を与えた。つまりこれから1時間は観客たちも暇を持て余すということで、さっきの雪崩れるような客の流入から一転、ほのぼのとした時間が流れる。

「エクレア、コロネこっちよ!」
「はぁ・・・コロネったら足が速くて」
「あらそれはたいへん・・・それで着いたばかりでこんなこと聞くのもアレだけど、お店の戸締りはちゃんとしてきた?」
「ちゃんと閉めてきたよ父さん!」
「そう、よかったわ」

 通知を聴いて店を飛び出してきたエクレアとコロネ。

「ご機嫌ようみなさま。・・・さて、挨拶もすませたところで唐突ですが、ちょっとごめん遊ばせ・・・ウフフ、先に一人だけ抜け駆けするなんてね」
「ま、マリア待て・・・助けてくれフラン、パトリック!」
「・・・ごめんなさいお義父様。お手伝いした私も一緒にお叱りを受けるので」
「父よ、無理言わないでくれ。それからフランは気にする必要はないよ」
「旦那様・・・」
「ご歓談中失礼! パトリック様、会場内に不審な仕掛けは今のところ見当たりません」
「そう、報告ありがとう。それじゃあジュリオたちと連携して引き続き警戒を頼むよ・・・あっ、でも始まったら戻っておいで。妹さんも来るらしいから一緒に観戦するといい」
「御意ッ!」
「さあ、観念してそこに直りなさい」
「そ、そうだ! そういえばフランに伝えようと思ってたことがあったのだ!私はウィリアムたちが到着するよりも早く着いたのでな、パーティーが神殿に入って通路を進むところもバッチリ観ておったのだが、その途中リアムが通路の壁画の言葉を読んでおったぞ!」
「それ本当ですかお義父様! なんて、なんて言ってたんですか!」
「えーっと・・・正確には読んでいたと言うか、ほぼ黙読していたと言うか」
「でもほぼということは、何か溢したんですよね!?」
「ウーン、それはそうなんだが、これまた微妙な事で」
「やっぱり、黙読していただけで何も言ってはなかった。話を逸らすためのでっち上げですか・・・」
「ち、違うのだ! ただ、国家機密レベルの情報にもしかしたら関わるッ」
「これ以上の見苦しい言い訳は無用! さあ、直りなさい!」
「・・・すまぬ」
「はぁ・・・違ったんですか」
「ため息か、意外とフランってケイトに似たところがあるんだよな」
「あ、ジェグドさん! それにッ!」
「ジェグド、フラン様だ」
「おっとこりゃあ失敬、まだ癖が抜けなくて」
「私とこの子が似てるですって? 私の方が人生研究に捧げてます!」
「どこで張り合ってるんだよケイト」
「黙りなさい、これ以上生意気言うと舌引っこ抜いてマンドラコラの肥やしにしますよ」
「そうすると叫ぶしかできないマンドラコラが喋れるようになるらしいね。それも饒舌に、ね、ビッド先生?」
「ホッホ、紛れもない真実ですね」
「マジかよッ!? 」
「ダメですよ学長、ビッド先生。ジェグドに嘘を教えて子供たちにまで伝聞したら大変なことになります」
「嘘なのかよッ!」
「ハッハッハァ!」
「ホッホッホ」
「皆さんお久しぶりです!」
「久しぶりって、まだ1週間しか経ってない・・・」
「ノーフォーク夫人。まだ新しい生活が始まったばかりでお忙しいこととは存じますが、あなたの籍はまだちゃんとありますからいつでも顔を出してくださいね」
「もちろん、お仕事が落ち着いたら是非伺わせていただきます!」
「いつでも歓迎ですよ、特にケイトなど最近は城を見るたびため息ばかり吐いて」
「ほ、ほんとうですか?」
「なっ、適当なこと言わないでくださいアラン!」

 馬車に乗って会場まできたマリアに捕まり軽はずみな行動を絞られるブラームスに、1週間とはいえ彼女(フラン)のいない職場を経験した同僚たちの再会。それから──。

「間に合ったぁー!」
「間に合いましたね」
「アオイさん、リンシアさん、ヴィンセントさんにガスパー殿・・・」
「こんにちは皆さん」
「ふぅ、何とか間に合ったようで・・・業務計画に3日間の合同企画会議を無理やりねじ込んでおいて良かった。ご協力に感謝いたしますガスパー殿」
「子供の晴れ舞台のためとはいえ3日間ただ休業するのは忍びない。ならば新規外部受注を一旦止めてその間身内での話を進めれば幾ばくか建設的というもの」
「実質、休業していたようなものですがちゃんと利益を出す話もできてコンテストにも対応できた。まあこんなこと滅多にできるはずもないから次に同じようなことがあった時にまた使えるかどうか、それらを考慮すると及第点でありましょう」
「ガスパー殿、そちらは・・・」
「何度か機会はありましたもののご挨拶できませんで。わたくしゲイルの母のテム・ウォーカーと申します。その節はうちの子がそちらの息子さんにご迷惑おかけしたようで、更にはこれほど大変な人気を博すパーティーに誘っていただきお世話になってばかりでもう、面目次第もございません」
「いえいえ、こちらの方こそ息子が日頃よりお世話になって・・・よければご一緒にいかがですか?」
「はい、是非・・・ご予定は?」
「ああ、予定は8月頃になりますわ」
「そうですか。今から楽しみですわ」
「ええ」

 リンシア、ヴィンセントにガスパーとテムも着いた。あとは・・・。

「みんなもうそろってるじゃん!なんで建物の前でずっとスタンバってた私がビリけつになるんだ!」
「カミラ、お前ちゃんとあの人の面倒みてきたんだろうな」
「あれから10回同じこと繰り返したんで、無責任とは思ったが救護室に投げてきた。後は知らん!」
「あー・・・でもその選択が最善というか、賢明というか・・・」
「だろ?」

 大人としての常識的な対応、責任なんて知ったこっちゃない。あいつがアイナにぶつかって、挙句ニカにもぶつかりそうになって、それで声をかけたらこれまた勝手に気絶しただけのこと・・・後の10回? はて何のことかな、とにかく全部あいつの自業自得だ!

「皆さん揃ったところで、コレどうぞ! メンバーの名前がそれぞれに刺繍してあります!」
「スゲェ・・・これパピスちゃんが全部作ったのか?」
「えへ・・・実は店長さんにも手伝ってもらったんです。店長さんはみんな今日のコンテストを観たいだろうからってお店番をピッグさんと2人で引き受けてくださってて」

 パピスの言う店長とはテーゼ商会ノーフォーク本店を仕切るグラバー・ブレーク・トーマスのこと、ただしこれだけ立派な名前があろうとも、店長は店長なのだッ! ・・・と、リアムが珍しく根拠もなく力説してたなぁ、懐かしい。それから今日来れなかったピッグ、エドと同じく教師にまでなっちゃって、かなり忙しいはずなのに従業員のために・・・大した人だ。

「若が作ってくれた配信の魔道具をあらかじめ会場に設置させてもらったんですよね・・・あっ、アイスいります会頭?」
「もらいましょうか。さて、しかしこれはまだ試作品。ギルドとブラド商会との共同開発になりますが、今のところ性能は十分ですね・・・またしても革命が起きそうな予感です」

 噂をすれば、今日は客も従業員もまばらな商業区にて、比較的空いている店内でとあるボード型の魔道具を置いてピッグと店長は商品のアイス片手にカウンターに座っていた。混雑する会場よりこっちの方が案外よかったりして。

 ──1時間後。

「オーエーオ!」
「さぁ、ついに時針が約束された時を刻みました!会場は既に一丸となって熱の嵐に包まれています!そしてこれぞラストボス戦に挑戦する猛者たちへの礼儀であります! さあ皆さん、盛り上がっていきましょうっっ!!!」
「うぉおおおお!!!」

 自分の剣の側で寝そべっていたリアムが体を起こしたことで、長かったり短かったり、とにかく逸って待ち遠しかった今ここに始まる戦いの時針が時を刻んだ。

「頂の回廊」
「水晶舞台(ステージ)、懐かしいね」
「戦う前からなんだけど、あの子たちどっちから攻略する気かしら?」
「まあ、スコルだろう。素早さと隠密性、凍てつきを増したマーナを残して視界が悪くなるのも十分キツイが、スコルを残せば蒸し風呂行き。あそこでまともに動けるのは精霊同化したアイナぐらいだ」
「そんな、みんなもちゃんと動けてたわ」
「魔力を纏って何とか・・・な」

 時針が時を刻むと同時に、反転して古い過去の記憶が呼び起こされる。

「ちゃんとわかってるといいんだがな・・・お前が灰かぶりの狼なんて汚名をきせられた原因を」
「そんなの汚名とも何とも思ってないさ・・・俺はただ負けたんだ。当然の称号、今は愛着すらある」
「・・・燃え尽きた云々はこの際おいておいて、最善は奴らを同時に狩ること。まあそれが難しすぎるから、誰一人として未だ攻略者がいないわけだ」

 だが、今回は俺のスピードも捉えた圧倒的な視覚の広さと反応、それから防御力、攻撃力を備えた最高の狩人が相手になるんだ。だから簡単に結果の予測はできないし、近年マンネリ化し盛り上がりにかけていたラストボス戦にもこうして大勢の観客が詰め寄り長い敗北の戦歴に勝ち星がつく瞬間を待ちわびている。

”・・・くる”

 リアムたちの立つ水晶舞台の上空、即ちコルトの霊峰頂上に暗雲が纏わり付き雷鳴を唸らせている。

「いつか、彼らにお礼ができる日が来れば・・・」
「そうですね」

 映像の中、リアムがそう口にした瞬間に空から太い雷が落ちる。それを見たパトリックは、つい先日にも見た光景からその日の幸せな記憶も想起して、いつかその幸せを作る手助けをしてくれたリアムたちに恩返しができればと切に願う。・・・だが皮肉にも、ノーフォークにて今最も幸せな夫婦の願いとは裏腹に、リアムたちの幸せはこれから一瞬にして崩壊することになる。

「相変わらずの貫禄だ」
「黒狼スコルに白豹マーナ・・・通常の雷雹(ライヒョウ)も灰靇(ハイロウ)もどちらも十分に強いが、やはりあいつらは次元が違う」

 ──落雷の中を駆けてやってきた2頭が猛り唸る。片矢見ているだけで体が震え上がる白い冷気を漏らし、対を為す狼もまた牙から熱気を放ち口周りの大気を歪ませている。

”──名詮自性ッ”
”フゥシュウウウゥ”

「なりたいからなるのか、なれないからなりたいのか。・・・なれなかったから、だ」

 俺が女々しく憧れを捨てきれないステージにお前は立っている。諦めきれない答えは明白だ。頼むリアム、そしてアリア。俺に今一度希望を、そして夢を観させてくれないか。

”・・・ブート”

 だが──、”──ぼとり”、・・・と。

「えっ・・・」

 一瞬で映像が切り替わり、そして妙な場面でスローダウンした後にまた映像は元の速度を取り戻す。

「・・・」

 リアムだけが立つ戦場に──つの点を始まりとする血飛沫が散っていた。とにかく複数、・・・それから、リアムのすぐ隣で血溜まりを作る1本の腕も。

”リアッ──”
”ヤメロォおおお!”

「っ──」
「しっかり、リンシア!」
「テム!?」

 いったい何が起こったのか、遅れて脳内に浸透したリアムの叫びによってそれを理解した頃には、リンシアとテムは気を失い隣にいた旦那に支えられていた。

「・・・一瞬だった」
「・・・相変わらず、ムカつくケダモノだ」
「ミリア・・・」

 一方で、アイナにカミラ、それからダンジョンの頂に挑むということはどういうことなのか、昔のアリアの活躍を通じて知っていたマリアは覚悟できており、この結果もまた、覚悟していた。

「どうしてリアムだけを残して・・・ッ!」

 妻を支えるガスパーが苦々しい言葉を漏らす。
 
「・・・遊んでるんだ」
「遊んでいるだと?」

 あの小僧とはなんだかんだ周りが丸く治ったから私も便乗したし、大切なビジネスパートナーの秘蔵っ子でもあるから深く追求はせなんだ。だがこれは、納得できない。どうしてウチの息子が喰われ、ヤツだけが残った・・・その疑問に答えたのは、噂の英雄にして逃亡者、ウィリアム・ギルマン・ハワード。

「・・・」

 だが、それ以降ウィリアムがガスパーの疑問に口を出すことはしなかった。あえて言えばこの沈黙にて答えとし、これから先の展開を予測し取り残された自分の息子の未来を物語っていた。そう、残された者が辿るより複雑で悲惨な物語の語りを、結末を。

『確実に、修羅場と化すだろう。これは勘ではなく経験による、推測、・・・一気に苦しくなった。どうするリアム』

 約2秒間、映像が乱れ止まった。なんて絶妙なところで止まりやがった。束の間に映っていたのは剥き出しになった牙の間から除く腕、それからこちらをじっと見る眼球に写った”あっ”と口を開けたままの間抜けな息子の姿、あんな印象的すぎる光景なら一般人も目に焼き付けるには十分な時間だった。

「あー・・・」
「・・・」
「イツカ・・・」
「私は何もしてない・・・ヤな予感」

 あー・・・としか言えないダリウスに、ステージ上で固まるナノカ。それから裏方のサブディスプレイにて映像をモニターしていたイツカがリッカの質問に答える。血が撒き散らされた今の悲惨な状況もだが、同じくらいあの一瞬はかなりショッキングな場面であった。モデル対象を自由に切り替えるためにカメラワークは半分マニュアルにしてある。スローにしたってそうだ、これは生配信だからそもそも速度を遅くしたり、態と切り取ったりの編集もできないはず。なのに映像はあの一瞬をしっかりと捉えて誰もが認識できる速度に高度に調整された、それも勝手にだ。これは毎日この部屋に篭って魔道具と寝食を共にしているイツカからしたら、相当に嫌な感じだ。こんなこと、過去には・・・。

”──生きるか死ぬかの死闘にカウントダウンなどあるはずもなかった”

「あたりまえのことを今更、言ってんじゃねぇよ・・・帰る」
「カミラッ!?」
「だってさ、私の子供達は然も呆気なく無残に退場したんだ。チームの戦いだからとか綺麗事を言えるような状況でもない。・・・どっちみちもう負けだ。これから始まるのは2頭の獣による残された、それも私の親友の息子で、一時期だが我が家で過ごしもした子供を拷問する残虐ショー、見知らぬ子どもの虐殺じゃない・・・まあ、それも十分に辛い場面だが、だから・・・私がここにいる理由がまだあるか?」

 この悲劇の結末を見届けずに帰るというカミラ。覚悟していたとはいえ、やはりそれには都合の良い願望が多少混じるもので、ショックを受けたことに変わりないカミラはいつになく悲観的である。しかし、カミラが再び振り返って会場を後にするべく歩を進めようとした途端──。

”・・・ふぅ”

 さっき実に苛立たしい発言をしたリアムが、深く息を吐き出す音が会場中に染み渡る。

「なんだあれ、・・・バリアか?」

 そしてそれを見たカミラは映像に釘付けになる。

「ヤベェぞあの球体、映像越しでも・・・」

 外向きに風を発生させ、大気を逸する境界線。

「みろ! スコルとマーナが背を向けて逃げ出した!」

 観客の誰かが言ったように、たしかにスコルとマーナは逃げ出していた。それも彼らとの戦いを知る者が知っている限り最も速いスピードで、背を向けて──。

”月姫”

「・・・漆黒の月」
「あれは──魔装の形態変化」

 半魔で魔装の使い手のヴィンセントが急激に変化したバリアの正体を評価する。アレの正体が魔装、つまりリアムの烏丸閻魔が形態を変化させた姿であると認めた。そして──。

”ブラックバースト”・・・──プツン。

 映像はリアムの黒い暴殺の宣言と共に、いつの日かの悪夢の如く途切れた。

「いやぁああ予感的中したぁああ!!! でもブラックバーストって・・・まさかリトルウルフが意図的に切断したの!?だとしたら許さない!」
「そんなわけないわイツカ。リアムくんはいい子よ、ほら私も手伝うから集中なさい」

 会場にいて異変を察知した長女イチカがモニタールームへときて、イツカと共同でダンジョン備え付けの魔道具の制御を試みる。

「映像が途切れた・・・」

 カミラのつま先が完全に出口へと向いた。ただし、今度は現実から目を背けるためでなく、現実に正面から向かった結果だ。クリアできるかどうかとか、これじゃただのソロ戦だとか、映像が途切れたことで話が変わってきた。リアムたちの安否が心配である。まただ、これと同じことが前にも起こって、その後リアムは1年間眠り続けた。

「ニカはここに残ってろ!」
「カミラ!?」
「俺たちもいくぞッ!・・・アイナはここでニカと待っていてくれ」
「わかった、リアムたちをお願いね」

 旦那(エドガー)の襟首掴んで妊婦のニカにここで待機してろとだけ言い残して行ってしまったカミラ。ウィルも同じく妊婦のアイナに待機を告げてリゲス、また他の保護者たちを引き連れて会場を後にする。目的地はリヴァイブの門、勝利の栄光も、敗北をやりなおすチャンスもくれる奇跡の場所。

「なんだこの騒ぎわっ!」
「突然強い風が吹いて屋台がいくつか倒れたんだっ!」
「もしかして・・・その風ってのはエリアGの方から吹いてきたのか!?」
「いや、風はその真逆だったと思うが・・・」

 転送陣に乗って進入、それからダンジョン広場に出ると、これから探索に出る冒険者たちを捕まえて商売する活気のあるのみ市屋台がいくつか倒れていてちょっとした騒ぎになっていた。・・・子供たちが、ティナが、リアムが心配だ。
 
『突風の原因は言わずもがな・・・しかし百キロ以上離れた場所の影響がここまで、それが転生者で勇者に選ばれたリアムだからとあり得ることなのか?』

 リヴァイブの門は転送陣のある建物から出てすぐ隣の建物の中にある。兎にも角にも、子供たちの安否を確かめなければならない。

「ウォルター、ラナ、レイア!」
「ん・・・うーん、苦しい」
「反応してる。どうやら眠りっぱなしってわけじゃなくて、倒れていたのはいつもの生き返りの影響みたいだ」
「──ッよかった、3人とも無事で」
「白パンに潰されるゔ、ぐるじい・・・」

 神聖な魂を司る部屋に一歩踏み入れると、一足先についたカミラとエドガーが呼びかけに反応した3人の子供達を大事そうに抱きしめていて。

「リアム」

 ──そして。

「父さん・・・」

 膝を地面について、うつらうつらと俺の声に反応して・・・今回は逆に1人だけちゃんと意識を保って。だが、またも1人だけ──。

「よかっ・・・ッ」

 俺を見て穏やかに笑ったリアムをぎゅっと抱き締めると、丁度リアムの右肩あたりの背を抱えた右手にヌメっとした感触があった。

「何だコレ・・・どうしたんだこの怪我ッ!」
「どうってことない。これはたぶん自分でつけた傷だから」
「自分で?・・・いや、エド!」

 ウィルが違和感を覚えて手を離してみると、そこには真っ赤な血と黒いすす、そして粘液らしきものがベットりとついていた。

「どういうことだ、リヴァイブを通れば転送陣同様傷は回復するはずだろ」
「例外なくそのはず、どんな傷だろうと・・・これは・・・残り香、呪いの残り香かな?」
「呪い? だが残り香ってことはもう解呪された後ってことか?」
「そうらしい、だけど・・・全体的な症状は褥瘡か熱傷に近くて更に所々出血もしてる。酷い傷であることに変わりない」
「父さん、ボク・・・負けたらしい」
「そ、そうか・・・だが今はいい、今は何も言うなリアム」

 傷は本人手製のオリジナル防具を広範囲に渡って破り、黒く焦げた破り目の間から覗いていた。イデアの魔改造によって得た超人的な回復力を持ってしても完治までには相応の時間がかかりそうな、表皮は完全に捲れて出血している場所からは粘液が分泌される痛々しい傷。また、傷を取り囲む皮膚の裂け目が隆起していて、まるでそこから何かが生えていたような、患部をじっとみるエドガーにそんな不穏な妄想を抱かせるような傷でもあった。

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