アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

250 The Black Song

「トゥトゥトゥルルル♪」
「いつにも増して上機嫌だなリアムゥぅぅ・・・」
「ま、ちょっといいことがあってね」
「どんなどんな〜?」
「それは秘密」
「え、ケチー!・・・クシュン・・・サムッ!」
「言わないでラナ姉、本当に寒いんだから・・・ティナもう少し寄ろう」
「冷たいっ!」
「あっごめん」
「寒いです・・・うぅ」
「もしかすると、鼻歌歌うとあったかくなるのか?ふんぶふーん♪」
「ふふふふーぅぅぅウ・・・だめだ、声が出ないし無駄に空気吸って体が冷える」
「ミリア、私たちももう少しゆっくり歩きましょ」
「・・・え、ええ。寒すぎる」

 現在春の長閑な週末から一転、雪化粧の美しい山道を行く。因みに──。

「そうそう、はいコレ」
「これは、まさか例の?」
「そ。1ヶ月経ったしね」

 先日学長室からの去り際に、ルキウスから手渡された一つの封筒。それを今朝開けて中身を確認したのだが──。

 ”鑑定結果──正常”

 たった2文字の報告でこれほど嬉しいのはどうしてだろう、いや、今更振り返る必要もないか。嬉しい理由は明らかだ。

「僕は至って正常♪ 異常なのはか〜みさまッ!」
「私が言うのもなんですが、バチが当たってもしりませんよ」
「だな・・・あ、噂をすれば雪だ」
「フッ、そんな簡単にバチが当たってたまるかって・・・はぁ、雪が」
「・・・」
「綺麗・・・」
「・・・」
「だな・・・うそん! 吹雪いてきた!!!」
「ほら、言わんこっちゃない」
「ピト」
「あの、ヨンカさん?」
「はい。なんでしょうかダーリン」
「案内には感謝してます、が、なぜ僕にピトっとくっついてらっしゃってるんでしょうか」
「いやですわピトっただなんて。こんなの序の口、さあ、近くに洞穴があるのでそこで肌と肌で温め合いましょう・・・そのままくんずほぐれず」
「ちょっと離れなさいよ!」
「あら、嫉妬ですか? ・・・ふむ、ならばあなたたちも私たちの密事に混ざりますか?」
「へっ──?」
「・・・この際いっそドサクサに紛れて告白」
「ん、ミリア何か言った?」
「いいえ、なんでもないわ」
「なんでもないならいいんだ・・・」

 突然の吹雪に一行の足が止まる。一刻も早く対処しないと。

「兄さんブレイフ呼んでよ!」
「・・・呼んでもいいが、ブレイフを具現化している間は体力を・・・それどころじゃないか」
「待ってウォルター! だったら僕がみんなをフィールドで包むよ。実はこっそりウォームの魔法を使ってたんだよね」
「えぇッ!? ズルい!!!」
「ああ、だからこんなにあったかいんですね」
「だってみんな僕の助けには極力頼らないようにって言ってたじゃない」
「それは・・・そうだけど、こんなに寒いなんて」

 僕の助けを借りないこと。それすなわち魔力の節約を意味しているのだろうが、僕が僕自身に僕の魔力をどう使おうと自由である。正直魔力が有り余ってるし体をあっためるくらいの魔法を継続して使おうと1万分の1の魔力も消費するかどうか、体力優先した方が絶対に燃費がいい。

「ウォーミングウォール」
「い、生き返るーぅ!」
「なぜ最初からリアムに頼らなかったんだ。逆に無駄に体力消費してばかみたいじゃないか俺たち」
「そうだよな、このくらいしたってリアムの魔力は・・・これ以上は何も言うまい」
「だね。それが賢明だ」

 リアムの出現させた魔法の壁が一行を取り囲み、雪と風除けになる。雪や風が吹き付けなくなっただけでかなりあったかくなった。更に温熱効果もプラス、けど、ウォーミングウォールをリアムが貼ってから30分ほど山を登ったところで──。

──ザク。
「ん?」

 僕らの後ろの積雪が次々にひび割れていき、それは前、つまり高度のある方ある方へと伝播していく。

「雪崩だーっ!!!」
「あっ、式の構築と制御をケチって壁にしちゃったから」
「燃費は!?」
「いや、フィールドみたいに空間を満たしてるわけじゃないし風除けの壁に発熱及び保温の効果を付けただけだから見た目より魔力消費はしてない!!!だけど地面の雪にはしっかり接してるから!みんな僕の近くに!!!」

 魔力で壁を強化し、物理的耐性を強化。

「ヒート・・・」

 そして──。

「まさか雪崩にあって無傷とは・・・さすがダーリン」

 あたり一面真っ白に舗装され直した雪原にボコっとヒビが入り、周りの雪がみるみるうちに蒸気となって溶けていく。やっぱり手間をかけないとダメだね。今度は省かずに一人ひとりにウォームの魔法をかけることにしよう。

「──ッ、動かないで」
「あれは・・・」
「ライヒョウです・・・まだ小さいですが」
「しなやかでありながら確かな獣の力強さを感じさせる。なんて神秘的かつ幻想的なんだ」

 それから──。約100m先、そこにいたのは美しい黒毛にビリッと輝く青い斑点が特徴的な猫、ついに噂に聞いたこのコルトに生息する大物の一種、ライヒョウの一匹に遭遇したり。

「ヨンカさんあれ、あれ!」
「ハイロウの群れですね」
「ありんこみたいに小さいが、あれが襲ってくると思うと・・・」
「恐ろしいな」
「ビビってどうする・・・俺たちがこれから対峙しようとしてるのは、あいつらの中でも異質な強さを持つ親玉(ボス)だぞ」

 中腹より7、800mほど見下ろした場所にハイロウと呼ばれる白い体毛を持ち雪と同化する大きな狼の群れを見つけたり。

「つきました。ここがケレス神殿です」

 頂上付近にて、そこには太陽の光に白く輝く雪で化粧したクリーム色の荘厳な建造物があったり、更に2泊、紆余曲折あったものの隠密第一に運よくモンスターとエンカウントすることなく、ついに僕らは最終決戦の地、その魔窟への入り口に辿り着いた。

「ほえー・・・立派な入り口」
「目の前にすると、のけぞらないと上まで捉えられないよ」
「うーん!・・・私の背じゃのけぞっても・・・」
「元々テールはケレステールと呼ばれてたんです。それがいつの間にか、略称でテールと呼ばれるようになった。尻尾だけに」
「へぇ、知らなかったな。それからここまでありがとう、ヨンカさん」
「ダーリンのためなら・・・お礼は唇への熱いキッスでいいですよ」
「ためなら、では?」
「見返りを求めないとは一言も言ってません。さ、万年雪も溶かす情熱的なキスを」
「あなたね、他の冒険者全員にガイドしてるんだったら、ちゃんとその他のパーティーからもキスの報酬を貰ってるんでしょうね」
「・・・チッ」
「・・・本当に油断ならないわ。リアムも簡単に流されちゃダメだからね」
「うん、ありがと」
「どういたしまして」
「・・・」
「・・・」

 神殿の入り口、ここから先はガイドはなし。つまりここでヨンカと別れることになる。

「では、あとの手順は昨夜説明した通りなので」
「この先、洞窟を奥に進むと大きな部屋に行き着くんだろ?」
「で、その大広間の中心にある儀式の台座に刺さってるモノを抜く。けど刺さっているのがなんなのか、それは見てのお楽しみ」
「そういうことです。では、いってらっしゃい」

 エリアFのボス戦では挑戦者によってレベルを変える相手(ボス)に、挑戦者が負けた場合力試しするため参加するヨンカ、しかしそんな実力者の彼女でもあえてエリアGのボス戦には参加しない。それがこのダンジョンのラストボスに挑戦する者への気遣いか、それともただ、──実力が足りないか。

「ねぇ、壁を見てリアム」
「壁画だね・・・どれどれ」

 エリシアが見つけた洞窟の壁に描かれた絵。その絵には大きな黒い狼と白い豹に壮大な宇宙、それと淵には見たこともない文字が添えられていた。だが僕には自動翻訳があるわけで、どれどれ・・・”スコルとマーナ。太陽の化身スコルと月の化身マーナ。出会わぬはずの2匹が空(シエル)にて介し地上へと降り立った”・・・ん? 

「シエル・・・」
「ねぇみんな!こっちきてすごいよ!」
「あっずるいラナねぇ!」
「おい、いこうぜっ!」
「ってまだ途中なのに!待ってよ!」

 興奮を前に、いつも以上に落ち着きのないラナが先行し、それにつられてみんなが走る。

「ッテェー!」
「大丈夫アルフレッド?・・・まったくもー」
「すまん」

 ・・・──足元注意。

「綺麗ぇ」
「キラキラ」
「ですぅ」
「ねっ、ネッ! すごいでしょ!?」
「おいリアム! あの光ってるのは全部ッ!?」
「鑑定──魔水晶ってやつみたい」
「そうか! なら早速採集しようぜ!」
「待ちなさいよゲイル!抜け駆け禁止!」
「俺もニカへの土産に一つッ!」

 地面や壁から生える七色に輝く魔水晶に魅了された者たちが走って散らばる。だがこの美しさは水晶の輝きだけにあらず。上から差し込む光が水晶を照らさなければ美しく輝くことはなし、中央へと敷かれた石材の道と長い時の経過を感じさせる折れた柱たち。ここは位置からして火口になるのか、だがマグマがあるわけでもなければ、雪の一部が落ちて溶けずにそこら辺に積もっている。なのに天井は一面氷。どうしてその上に太陽の光を遮るほどの雪が積っていないのか、そこら辺の雪はどこから降ってきたのか、あれが割れたらどうなってしまうのか、なによりこんな形の火口は知らない。

「ねっ、リアムあれ見てよ!」
「あれ?・・・あれはっ!」

 エリシアの指差す方、それはこの空間の中央であった。そこには遠目に何本もの細長い謎の影がある。まるでつららを逆さに立てたような、落ちて刺さったような、ただし乱雑に交差したりしていなかったり。

「あれってまさか!」
「リアムのアレじゃない!?」

 周りもどうやら中央にあるソレに気づいたらしい。みんなが驚く中、僕の足が自然と前へ踏み出される。

「お前、ここにいたのか」

 いつの間にか僕は走っていた。そして、残り20mほどまでに近づくと力が抜けてラストを流す。・・・なんて、燃える演出なんだ。

『粋というか』
『いやってほど激戦の香りを匂わせてくるな』

 漂う伝説達の氣。つららの正体は無数に地面に刺さり自立する剣や斧、弓、盾、大剣など。だが、そんなのどうだっていい。それよりも台座の中央、天井より差し込む光のスポットライトが照らされたオマエを見て、僕は息を弾ませる。

「烏丸閻魔・・・僕の魔装の剣」

 魔装にして、エリアFボスのキマイラと戦ったあの日以来具現化すること叶わなかった変幻自在の夢幻の剣。そしてこいつは、僕の体の一部。

「ユノは人を返さなかったって言うけど、ケレスは武器(あいぼう)を捕らえるらしい」

 僕は相棒を取り戻すべく一連の所作でソッと手を伸ばすが、烏丸閻魔のすぐそばにあった別の美しい白銀の一本が横目に入り手を止めた。──もしやあの剣は、いや、これ以上の穿鑿は無粋であるか。危なかった・・・ありがとう、名も知らぬ無銘よ。君はまだ死んでないんだな・・・ここは秘めやかに想ったということで、しおりを挟んでコンマをつけておこう。いい土産話が一つできそうな予感だ。

「これまた、たくさん採ったね」
「へへーん!・・・ちょっと元気出たわ」
「必ず勝ってこのお宝も全部持って帰るのだー!」
「俺も、ニカともう直ぐ産まれてくる子供のために!」
「俺は、単に金のため」
「金の亡者ってやつね」
「・・・言うなよ」

 時は更に進み1時間、休息と各々のモチベーションアップのためにとった自由時間を経て──ちなみに僕は相棒の側でずっと寝そべって太陽光を美しく拡散させる天井を眺めていた。更に加えてあの無銘の剣や他の歴戦の猛者とたくさんのパワーに囲まれながら、おかげで僕の今のテンションは衰えるどころか最高に、黄昏れに全身を焦がされている。

「いくよ、みんな」
「ウズウズしてるね」
「まあね。まだ2度目とはいえ久しぶりに相棒と戦えると思うと無性に心が踊る」
「・・・私も、みんなと一緒で心踊って・・・ます」
「ティナさん・・・私もです!」
「俺もだ!」
「友に同じく!」
「私も!」
「レイアと一緒!」
「妹たちと同じく!」
「我が領地の民たちと同じくね!」
「つまり、愛すべき人たちと同じく!」
「ならば、大切な仲間たちと同じく──!」

 この剣を抜いた時、その時はついにやってくるだろう。どちらにしても、ここで決まる。  

「みんな、ここまで一緒に来てくれてありがとう」
「何言ってんだ。それはこっちのセリフだ」
「だな」
「ああ」
「そうね」
「ええ」
「はい」
「だね〜」
「うん」
「・・・うん」

 このノーフォークにて最高のパーティーはドレか、さあ、頂点を決めようではないか。

「「「いくぞ!!!」」」

 

 ・・・──ザシュッ!

『抜けた!』

 ──キィィィイン。

 引き抜かれた剣は一瞬リアムの瞳に紫の輝きを与えたものの、霧散してあるべき場所へと戻った。また、勢いよく引き抜かれた剣とともに飛び散った石片が周りの剣刃へとぶつかり反響した。その音はこの空間全体へと広がり、仲間達に取り尽くされなかった水晶たちにも伝わり共鳴する。

 ──ガコン。

 頭上から何かが組み合う音。先ほどまで真っ平だったガラスの天井の一部が突き出していた。間違いない、あそこにあんな出っ張りはなかったはず。

 ──ガコン、ガコン。
「・・・おもしろい」

 規則性を持って次々と最初の出っ張りを最低の点として真上に円を描画する。無限に増殖する天井が螺旋を描き、頂上へと続く道を作り出したわけだ。つまり、登れってことだろう。

「・・・」

 階段を登るとそこは殺風景な平らだった。雪のように白く美しい平、霊峰の名に恥じない頂の闘技場。標高は相変わらずでこの環境でまともに戦うとなると、相当の限界へと臨まねばならなくなるだろう。

「雷雲だ」
「私のためにあるようなもの、調子が上がってきた」

 彼女の独占場となるのか、ミリアはこの環境に武者震いしている。薄い空気、肌を突き刺す凍てつき、それに上空は暗転して荒れ模様。黒影を明瞭にする雷鳴が唸っている。このまま、雨でも雪でもなく灰や雹が降り注ぎそうな悪天。そう、僕らはまだこの頂上を制した訳ではない。

『伏線回収だな』
『乙です』

 そして悟った。先日の結婚式でのこと、王族の登場、あの演出はこの演出を参考にしていたのだと。

「──くる」

 だからあえて予言しようではないか。月並みな言葉で「来る」と。・・・──そして、次の瞬間。

「空からッ!」
「落ちてきた!」

 いや違う!アルフレッドが落ちたと言ったがあれは落ちてきたのではない。あれはまさに、駆けてきたのだ! 激しくぶつけ生まれた雷を覇道として宇宙の息吹をも止める絶対零度吐き出す白豹、同じく雷を操り覇道とし、辿り着いた終着にてこの熱さこそが自身の狡猾さを現す智恵の象徴とせん焦がれる炎の黒狼。しなやかな四肢、獣らしいずっしりとくる体躯。

「アオォオオオオンンン!!!」
「シャアアー!」

 亜種にして最強の逆転した”黒”と”白”よ。威勢よく完全に視線を外して喉元をこちらに晒し遠吠える黒の貴様に、爪は立てているものの種族特有のあの頭を低く尻上がりな無様な姿を見せず凛として悠々と品を取り繕う白の貴様。・・・覚悟しろ、そして聞くがいい。臨戦態勢をとる素振りもなく我らを軽んじている貴様らからこの霊峰の頂を奪うパーティーの名は、アリアだ。

「──名詮自性ッ」
「フゥシュウウウゥ」

 さあ、玉座を明け渡

──ぼとり。

 ・・・せ・・・今、何が起こった?

「ブート」

 リアムは考えうる限り最高のスピードで魔眼を発動させる。だが、魔眼を発動させるまでの反射におけるたった0コンマ何秒の間に、ソレは奴の口の中から覗いていて、過ぎ去ると同時に地面に無造作に落ちた。

「・・・」

 これは・・・腕だ。手の甲と平、そして指から察するに、左腕。喰いちぎられた、左腕、なぜそうわかるかといえば、僅かに捻られたような痕を残す伸びた皮、その断面からは今なお赤く新鮮な血が流れ出していること、そして刹那に見た、あの牙と瞳に写った自分の姿。

「リア──ッ」

 今、何が起きたんだ?・・・ウォルター? アルフレッド、ゲイル、フラジール、ティナ、レイア、ミリア・・・それに──エリシア! 

「グラウッ!」
「ヤメロォおおおおお!」

 一瞬で食われた。みんなが、エリシアが・・・目の前で。ダンジョンっていう場所の非情さを僕は知っているつもりだったのに・・・このパーティーの誰よりも。だが、何よりも息苦しく喉元を熱く焦がす疑問が、何故、奴らは僕だけを残したのか。集団、長期、数で劣る、不意をつけた、こうした場合最も強い敵を最初に叩いてしまうのが定石ではなかろうか、それが今この瞬間考えられる限りの最善である。

「・・・」

 日々の命の略奪によってすり減っていた生き物としての僕の時間への敬意は無くなり、曰く獣となりて景色が明瞭になる。つまり、この二匹はこの瞬間を持ってして、はじめてリアムの中で狩の獲物となる。

「──生きるか死ぬかの死闘にカウントダウンなどあるはずもなかった」

 目の前に落ちた腕とその他にもいくつも周りにできた血溜まりが光の粒子となって分解されていく。だが異変は、ダンジョンという環境が成す神の御業だけにあらず。リアムの周りの雪が一瞬で溶けてなくなり、蒸発し、湯気を巻いており水が雪崩れ込む様に表面にぶつかって蒸発していく気体によって、バリアの様にリアムの周りを囲む球体が顕になる。人工的な現象が、自然に猛威を奮い始めた。・・・一体何が起こっている?

「ふぅ・・・」

 逆上もまた、怒りなり。ただし、まだ噴き上がっていない。静かな怒り、でもギリギリ。食った? 僕の目の前で、仲間たちを。だけど、死んじゃいないんだよな・・・なんて、許せるわけない。ならお前らを同じ様に食ってやる・・・食っていいよね? 

「月姫」

 バリアが一気に黒く染まり、そこにいるはずのリアムの魔力が消えた。──そして、もっとオゾマシイナニカ、ニ。

「神(シン)喰(ショ)曲(ク)」
「ガルル──!」

 2頭の獣は脅威を察知し頂上から退き山の麓へと走る。ようやく俺を侮った己の愚かさを知ったか、だが、──ニガスカ。

「ブラックバースト」

 水晶の地面にヒビが入る。あの床は対を為す冷を失った時に灰靇が発する一定の温度の上昇を感知しないと崩れないようにできていたはずなのに──。山の岩は砂となり、大気は真空になる。リアムが吠えると山の頂は塵となり、なお拡大し続ける球体が二匹の幻獣たちに迫る。この追随にたまらず二匹はスピードを推進力としつつ地面を異常に強く蹴り、この一瞬の体に掛かる全エネルギーを足に集中させて飛躍し、後は高低のエネルギーを重力に託すこととした。・・・しかし中腹からの超跳躍を経て、大地に再び4本の脚を着けられたのは一匹のみ。──称号、『神喰い』『激怒』『狩人』獲得。

「ステージが──なんて無茶苦茶しやがッ!」
「シエル様、言葉遣いです」
「ソロネ。こんな時に言葉遣いなんて・・・ドミナティオス、前回あいつに甘い顔したお前の責任だ。ちゃんと直せ」
「はっ。迅速に」
「・・・激怒したか。まるで小さな幼竜だ」

 魔の拡大が止まると大気に空いた巨大な真空に大量の空気が流れ込むとともに引力を生み出し、その影響は渓谷を超えてエリアDの森の木々を疎らに引き抜き、方向を変えた風に至っては転送陣やリヴァイブの門のあるマザーエリアまで届いていた。しかし驚くべきは、真空にいて、あの圧力の禍の中心にいて平然と残った狩りとるべき獲物をリアムが見据えていることである。見た目が変化したわけでもない。肉の破壊と再生、ケルビムはどんな化け物にあいつの体を改造したのか。あの眼光、そして傷つく全身から放たれる熱気は、まさにこの世界に生きるあらゆる生物の中でも至純至高なる食物連鎖の頂点に立つ種族すらにも、牙を突き立て喰らわんがばかりの鋭さ、熱量、岩漿。

「マーナを失いスコルが冷飢餓状態に入った──だがあいつもまた、負けないほどの熱量を放っている」
「・・・すごい。闇とはまた違う黒き幼魔が、エデン最高傑作の一つと負けじと向かい合ってる。これが精霊と竜の魂を宿した人間の力」
「初期簡易試作版の”ユノ”と違って、”ケレス”は元々人間には500年はクリアさせるつもりのないよう作ったって言うのに、相変わらずの馬鹿げた力に威圧・・・喰いついて離さない、取り殺してやると脅迫されている・・・映像越しでも心臓に牙を突き立て離さないッ!」

 とある場所より、リアムと熱さを増した灰靇との対峙を見ていた観戦者達は汗をびっしょりと映像に釘付けになる。我の愛しき人が愛する憎き人間が、我らの愛する現象を宿し手籠にする更に憎い人間が、我らの際限ない悲しみと憎しみを生んだ張本人の魂を宿した更に更に憎い人間が、今回は無様に負けてひどい目にあう所を見て笑ってやろうと観戦していたのに、これじゃあとんだ誤算だ。悪い意味で期待を裏切りやがって。

『──フフ、あなたは私のもの、そしてその力も!!!』

 薄れ行く理性と暴力の狭間で声が聞こえる。リアムの背中をゾワリと何かが駆け巡る。この感覚には覚えが──けど、そんなのどうだっていい。円環を宿そう、そして、・・・全てを蝕め。

「ぁぁぁあアアアアァアアあああ!」
『そんなッ──私の叡智が消さ・・・れる・・・』

 背中には煮えたぎり肉体を侵食する黒の片翼、リアムの瞳につい先日も発現した円環が現れる。──ブラックシャウト。影の烏が黒であるように、黒は黒、今この場所を支配する絶対的なボクの色! 邪魔をするなら、お前も喰らウ!!!

「まさかこの私が──・・・畏怖したッ?」
「どうしたのんっ♪」
「・・・私の叡智が消された」
「ああ、あの背中から呪う陰気で姑息なヤツ〜? バックドアって言ったっけ、あのマリオネットプログラム」
「神経の伝達信号を模倣しパトス・パワーズ兄弟の魔力感知にも引っかからないほど精巧に作られた人体科学と魔法の融合です。しかし、刷り込まれたプログラムを見つけかき消したのは彼に迎合する全く異質の力・・・あの力が欲しい! 例えそれで自我が崩壊しようともッ、私の叡智にあの暴力性が加わればッ・・・あなたが面倒ごとを起こさず慎重に事を運べば私はあの子の側にもっといられたものを」
「それはご愁傷様。けど見てよ! 彼は私みたいな混血なんて気にしない、だから尖った耳から注意を逸らすためにもうおっきな帽子をかぶる必要もない! だから前の帽子はニケにあげて、代わりに彼を取り巻く環境を参考に、赤い薔薇に黒い羽根を添えたちっさいシルク帽子(ハット)をチョコン、欲情を喚起するため髪もピンクを基調に染めたのさ!オシャレ、オシャレ、魅力爆発のシルク・ハッター!だからあなたには2度悪いけど、あの力をおいしくいただくのはワ・タ・シ♪」
「黙りなさいシルク・ハッター。わたくしの質問に答えてないじゃない。それからあの子を先に頂戴するのはわたくしです・・・ああ、軽く想像しただけで体が疼きます!──アッ」

 今回のボス戦は前回のものともまた一味違っていた。もう一つの渦巻く陰謀。ファウストのメンバーは基本2人1組でバディを組まされる。で、アウストラリア担当の私がこいつと組まされるのは仕方ない。だが、生まれながらの支配者が聞いて呆れる。私を律したくせにお前は人目構わず自慰を始めるなんて、はしたないのはどっちだよと、シルクは悪態を吐きながら再び闇に紛れる。

「キエタキエタ、もうジャマするヤツハいない」

 ”迎合する異質の力。私の叡智にあの暴力性が加われば”。グフフ・・・誰か知らないが、いいヒントをくれた。混ぜる、混ぜ混ぜ、なら、渇欲エネルギーの暴力でエネルギーを奪い構造を破壊するメテオと、あらゆる物質、生物の活性を衰弱させ加速させる死の属性魔法を融合させて放ったら、どうなる・・・?

「ヒステリシス調整、死の要素を追加・・・ハハハこリャアいイ!逃れられヌ絶対の死を宣告スル流れ星ノ出来あガり!くラえ!ブラックメテ」
『メチャクチャだな、多少耐性を得たと思ったら次はこれか・・・キレたからってなんでこんなに扱い上手くなってんだよ、俺の立つ瀬がねぇ』

 ──ッ! カラダ、ガ、うごカなイ! ソレからヒダリのメが開か、ナイ!!!
 
「め、メテ・・・ッ!」
『黒か、たしかにいい色だ。だが暗黒で輝くあの美しい群青はどうした? あれこそがお前の色だろう。激情さえも制御する器をお前は持っているはずだ。力に呑まれるな・・・ここは一旦代われ。俺がお前を仲間たちのところまで送ってやる』

 カエセ、アイツヲコロシテヤる。ヨウヤク手加減しなくていい敵があらわれた。だから、オレのカラダをかえせ──。

「お前の取り柄は人間か怪物かなんてくだらないことで悩める人間性だろうが。あの蓄妾共をどうにかしたいんだったら、また挑戦するんだな。今度は気を抜かず、最初から本気でだ」
「アラード・・・私とてあなたと再び顔を合わせるなどごめんでしたが、これも全てはケルビムとベルのため。あなたに取り憑かれてしまった彼を、正気に戻し秩序を取り戻さねば」
「今の俺のどこが無秩序だっていうんだ。もうあの頃の俺とは違う・・・俺が今も邪悪に見えるか?」
「・・・僅かながら」
「・・・正直だな。だがこの激情もリアムと俺の調律が取れ始めてる証なんだぜ? 前はただ気を失ってただ俺と交代するだけが、今じゃ繋がりが明瞭になっていくごとにこいつは俺に反発する。大きな進歩じゃないか、このまま行けば俺もやがてイデアと同じように調和するだろう」
「それか、暴走によって世界を破壊し始めるか。見なさいこの景色を、これが現実です・・・しかし内実、確かにあの頃のあなたではもうないようで。それに3年前は少しやり過ぎた。私のエゴのせいでケルビムを再びこの世界へと連れてきてくれた彼を苦しめてしまった・・・」

 ──仮面、は今回はなしか。それにアラードまで具現化しちゃって、さてはもう既に映像は切ってあるな? 勇者がこんな不安定で凶暴なところを見られるのは、お前らとしても都合が悪いわけだ。

「イデアならコレのバランスをとるために気を失ってる」
「イデア・・・もうあの方はこちら側へ戻る気はないということか」
「全部見てるんだろうからわかってるだろ?結論が出てるのに質問し直すなどお前らしくない。・・・それにしても、あの犬っころとドラ猫は相当に強いな。・・・悪かったな、お前らの財産を壊した。きっと特別性なんだろ?」
「・・・そう気にする必要はありません。確かに彼らはそこらのモンスターとは比べ物にならない幻魔傑作集の1つですが、所詮エデンによって創造された存在に過ぎない。魂が腐りかけでも疲弊しているわけでもないので忘却(レテ)にて洗う必要なし。故にアマティヴィオラがなくともまた再生できます」
「いいのか? 星の生命全てを管理するシステムをこんな人間の娯楽に使っちまって」
「それも全てはこの世界のバランスを保つため、尤も本来のエデンの管理者が不在であるために、今はエバがシステムを管理おりますが」
「エバ? 誰だそ──」
「あなたが知る必要はありません」

 ドミナティオスがパチンと指を鳴らした瞬間、暴走するリアムの魔力を制御するハイドは薄気味悪い青白い光が床を照らす暗がりへと転送される。

「あのクソジジイ!・・・おっと俺が怒りに支配されそうになってどうする。リアムに説教したばかりだ。・・・ここは、そうか。これがリヴァイブの門ってヤツか・・・今回はもっとお前に構ってやれると思ったのに・・・あいつらが戻れと煩い・・・そろそろ寝るか・・・」

 話を強制的に中断されたことに怒りを覚えつつも、冷静さを取り戻したハイドが周りを見渡すとそこには気を失って横たわるリアムの仲間たちがいた。そしてハイドもまた、吸い込まれるように地面に膝をつけると、そのまま気を失う様に仲間たちとともにまた、暫しの眠りへとつく。

「・・・あなたと和解しようと名実共に仲良しこよしとはいかない。私の憎しみと怒りはやはり一生消えることはない・・・ただ稚拙な行為を反省します。しかし、このピンと張られた糸をなんとか保っている状態、糸が切れれば私は底無しの怒りに呑まれ、また再びあの日の様に牙と拳を交えねばならなくなる・・・お許しを」

 アラードと呼ばれた謎の本。その1ページに手を翳すと、リアムが破壊した山、自然がみるみる内に元の雄大で偉大なる姿を取り戻していく。しかし果たして再構築されたのは、この自然だけなのか。ドミナティオスは己の中で移ろう感情に気づき、暫し沈黙に耽る。

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