アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

242 EMDR

 異教徒と石をぶつけられることもなく、あの後もアストル司祭とは良好な関係を築けていると思う。我が前世、地球では現代と呼ばれる時代でも宗教に深い信仰を捧げている人はたくさんいて、科学の発展もままならない時代など神を信仰しない者や異教徒に対する排他的な態度は相当なものであったと、だがこの世界では人々が魔法という奇跡とも呼ばれた力を行使しているためか、アストル司祭の様な聖職者方でもそう言った排他的な思想は少ない様に思える。これが正光教発祥の地にして教会本部のある本国ともなるとどうなるかはわからないが、100年前に聖戦が終わり世界各地にオブジェクトダンジョンが出現すると、人々は神への祈りを捧げる回数を減らし、ダンジョンへと繰り出し始めた。今でこそ精霊教との提携があって威厳を保っているが、実のところどうだったろうか。あの頃の僕は魔法への憧れに取り憑かれていたからな。意外と人の出入りはあった様な気もするが、僕が知らないだけで多くの人々が心の拠り所にしていることは、しているのだろう。ただ信仰を”捨てる”を通り越して、ダンジョンを崇めるダンジョン教なんてものも少数ながらあるのだとか、人間は往々にして現金なのである。

「えっと・・・リアムくんの方がちょっと・・・緊張する」
「・・・怖いですか」
「ごめんなさい」
「いいえ。謝ることないですよ〜」

 ただ今シンボルマークを使った面接の真っ最中、先日予想以上に長居したことが仇となったか、あの特徴的な帽子よりトラウマの順位が上であることはちょっとだけ遺憾であり不満だ。まあ彼女の体を内側から這うように支配し寄生した種子とそれを取り払ったのは僕であるから、致し方ないことではあるのだろうが。 

「これでいいのかなリアムくん?」
「多分・・・EMDRはPTSDの外傷要因である過去の記憶を追体験させる際に、眼球運動を介入させることでトラウマを脱感作し、適応的情報処理によって他の何ら思い出しても問題ない普通の記憶に近づけていきます。あと、これもどうぞ」
「これは?」
「これはヒーリングサウンドを収録した魔石です。と言っても、お恥ずかしながら中に録音されてるのは僕が弾いたピアノ曲集です。本当は自然の音を収録したかったんですけど、木々のせせらぎだとか事件があった森を思い出してしまうかもしれませんし、雨だとあれは線の集合体ですから念のため避けました」

 収録した曲はどれも、ゆったりとした曲調であり主旋律も比較的シンプルな曲である。オススメはミリアの評判も良かった『3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグニ長調』の第一曲からカノンを、通称パッヘルベルのカノンである。残念ながら、今回は中世のお城のパーティで聞きたい様なフーガ調のジーク部分は収録を見送ったのだが。

「アストル司祭は、試聴含めできればご遠慮いただいて」
「なぜですか?」
「その・・・あまり人に聞かせたことがないので、恥ずかしいんです」
「ハハハ。私は善意で戴いたものを嗤ったりしませんよ。全ては神の示されるがままに・・・アメリア」
「はい。フフッ♪」
「アメリア!?」

 アストルの合図から間髪入れずに、アメリアが魔石に魔力を流し始める。これって僕、自分で振っちゃったのかな? 本当に、人に聞かせるほどの自身はないんだけど。

「美しい・・・」
「先に断っておきますけど、これはヨハン・パッヘルベルという人が」
「シッ──静かに」

 あー恥ずかしいぃーーッ!急に始まってしまった観賞会、アメリアの心の傷を癒すために来てるってのに、僕の方が病気を拗らせてしまいそうだ。

「・・・素晴らしい!今のはカノンですね?」
「・・・知ってるんですか?」
「はい。存じておりますよ。作;ヨハン・パッヘルベル、通称パッヘルベルのカノン。彼のお方は国の改革をはじめ、魔国との戦争中、聖戦と凄惨なる戦いの日々を送る中、唯一、音楽を愛し自ら得意としたバイオリンの音色を癒しと鎮魂の音色としました。また、荒まぬよう心を濾過し努めていた。リアムくんが使ってるピアノも、我らがヴェリタス神に遣わされし神に愛された勇者ベルの発明ですよ?」

 そういえばそうだった。100年以上前の聖戦で活躍した勇者ベルは転生者だったけ。まさか被るなんて・・・でも未だにこうしたクラシックは貴族の娯楽、あるいは教会等で開かれる集会や式関連の事、僕が知らなかったのも無理はないと開き直ろうか。

「EMDRは指定した時間、セット以上行わないようにしてください。それじゃあ、また来ますね」
「はい。リアムくんに神の与える安らぎがありますように」
「バイバイ」
「バイバイ」

 次に来るのは10日後くらいかな。ストレス要因である僕があまり頻繁に顔を出すのもよくない。

「この調子だと、結婚行進曲もありそうだな。一応マリア様に確認とっとこ」

 さて、もうすぐ春。花はこぞって蕾を開かせ風に揺られ歌い、そして、人々の間にも幸せを運ぶ風が吹く季節である。今日は午後から、パトリックとフランの結婚式に向けての出し物をエクレールに集まって、父さんや母さん、ヴィンセントやピッグにアオイ、新婦を除いたスクール教師含めみんなで考える。しかしその前にまず僕は、新郎の両親に気付かれないように主役達の中からお姫様を攫ってこないと。

「なあいっそのこと、リアム達はラストボスに挑戦したらどうだ?」

 午後。場所は約束通りエクレールにて、チルドレン、商人、元アリア&マレーネ、教師グループの代表者が集まるテーブルにて、カミラがそんな提案をする。それぞれの代表者は、僕、ヴィンセント、カミラ、ケイトである。

「ダメ。却下」
「えぇーなんでぇー」
「だってもし失敗したらどうするの?」
「大丈夫だろ。お前がいるじゃねぇの」
「めでたい式の席で、山ひとつが木っ端微塵に吹っ飛ぶ映像を流していいなら。最近やっと初級魔法が最上級魔法の威力くらいで使えるようになってきたんだから・・・戦略的に戦うのならもう少し魔力の制御がマシにならないと。せめて後もう2、3ヶ月はいる」 

 そうそう、ちょっと脱線するが、結局僕はダンジョンに繰り出してモンスターを狩っている。ただ、今の状態で魔法を撃つとほとんどのモンスターが灰になってしまうため、狩猟は刀に限定している。人と争うことを嫌う臆病者の僕は一定の道徳心を持っているつもりだけど、利己主義的か否かを問われれば答えは”Yes”で、生活に必要な物を手に入れるためにポイントを貯めて、素材を売っている。そして認めよう。結論からして同じことなのだがあえて分けて考えてみれば、一定の道徳心を持ちながら金も有り余っているのに狩を続ける利己主義以外のもう1つの理由には、快感があることを。とても漠然とした虚的な快感が。・・・それと、爆発オチなんてサイテー。

「・・・」
「私事で葛藤させてしまい申し訳ありません」
「いいや、そんなこと」
「マッタクデース。ナゼワタシガコウハイノケッコンシキノダシモノノタメニ」
「フィボナッチ数列」
「なんですかそれはッ!」
「美しい魔法陣を描くのに使えるかもしれない黄金比に関係する数列です。先生が真面目にやらないと、一生教える機会は来ないでしょうね」
「はいっ真面目にやりますッ!」

 フフフ。こういう時、この類の脅迫はケイトによく効く。ネタが尽きればそれまでだが、別に誰も教えるとは言ってない。教える機会を失うかもしれないと言っただけだ。生徒が教師を脅すなど好ましくないシーンだが、フランと一番親しいのはあなたなんだから、ちゃんとやってもらわないとね。・・・いや、そもそも初めからこんな脅しをせずとも真面目にやるべきでしょ。僕はなにを毒されて納得してんの。

「ねえリアムちょっと見て見て!」
「もうケーキのデザインできたの?」
「へへへーっ」
「うわっ・・・これまた随分と派手な」
「命名 ハッピーカップル。大きさはまさに、お城級」

 僕らと並行してウェディングケーキのデザインを担当していた女子組がその設計図を持ってきた。一体何段・・・段数は3段だが、その上にはお城が建てられており、更に時期が春であるので周りはど安定のピンク色で彩られている。デザイン図といっても正面から妄想と欲望のままに要望だけが描かれているためもっと詳細を練らねばならず、できたらできたで実際に作るのが大変そうだが、まあそこはエクレア含め城のお抱えパティシエたちが頑張ってくれる事だろう。・・・多分、この案はエクレアを通して一旦ブラームスやパトリックたちにも伝えられるはずだから、城の代わりに段数を増やすなりしてそこに色々な装飾を施す普通のウェディングケーキになると思う。造形美はともかく、飾りすぎずの方が美しいということもまた、この手の話ではよくあることだ。あくまで切りやすく、お客さんたちにちゃんと分けられる様に。

「次は式場の飾り付けのデザインね」
「ほら男子ども、ちゃんと手動かす!」
「ううう・・・手が」
「気が滅入る・・・」
「耐えろみんな・・・これが終われば神楽での晩餐が待ってる」
「指が腱鞘炎になりそうだ・・・エドは相変わらずこの手の作業はお手の物か」
「研究で普段から細かい作業には慣れてるから・・・けど」
「・・・次」
「待ってティナ早すぎ・・・あれっ?・・・うそ」
「上には上がいるね。ほらレイア、父さんが手伝ってあげるから、もう一回最初からだ」

 その光景はまるで主人と奴隷である・・・否、絵を描くのは苦手なのだが、黙々とした作業は大好きなティナとそれに付き合って一緒に飾りを作ってるレイアが混じってるので、主人と2人のシンデレラとその他といったところか。それと天然さん、輪っかは閉じるときに繋がないと・・・閉じた後じゃあ繋げませんよ。

「ところで、もう出し物は決まったの?」
「ん?いやまだだけど・・・何か良い案ある?」
「えっとえっと、お兄様が喜んで、みんなでできること・・・できること」
「なら解体ショーとかどうだ! それなら俺らにもできるし」
「その後は解体した肉を使って料理をするってか?・・・案外良いかもしれない」
「うるさい! 今私が考えてるんだからあんたたちは黙ってなさい!」
「は、はいッ!」

 口を挟んだウォルターとゲイルが萎縮する。だけど僕は2人を庇ってあげられないよ。結婚式にてそんな血生臭い演目一体誰が見たいんだか。当日には城が一般開放されて、貴族平民問わずたくさんの客が2人を祝福するためにやってくる。だが僕らはミリアの友人として、大人たちはブラームスの客として式に参加する予定である。披露宴中にはたくさん豪勢な料理が出る予定だと聞いてるし、その後の記念パレードを立ち見で見にいくわけでもないんだ。式を1ヶ月後に控えて、今ダンジョンのクエスト市場では、卸業も含めて公爵家からの素材調達が約5%ほどの割合を占めている。パトリックは次期領主であるし、それほどの規模なんだから僕らが作らなくても腹一杯食べられるって。

「私、みんな、私、みんな、私、リアムとみんな、私、リアムと・・・ねえリアム、音楽会なんてどう?」
「音楽会? それはどういう内容で?」
「当日はたくさんの人が来る。貴族、平民問わず楽しめるものって言えば音楽でしょ?」
「音楽・・・その手があったか」

 本当、これは目から鱗である。僕が前世で聞いた結婚式のいい話的な噂では、主に父親が結婚式で息子、娘を祝うためにピアノやギターを弾くっていう話をたしかに聞いたことがある。

「城に楽師団がいるから、楽器を貸してもらったり、教えてもらうこともできるはずよ。私に楽器を教えてる先生のほとんどもそこの人だし」
「なるほど・・・それは素晴らしい案です、ミリア様」
「そう? フフッそうでしょー」
「でもなー。主役は貴族階級だから、面子を考えても大衆音楽ってわけにもいかないし」
「私、曲はカノンがいい!」
「カノンか、確かに無難だけどもう少し掘り下げてみようよ」

 こういう時、その場の勢いだけで決めてしまい後になってなんか違うとかなったら嫌だからね。音楽っていうヒントをくれたミリアの意見も尊重したいが、安直には決められない。クラシック、賛美歌、結婚式、入学式、卒業式、葬式、式という名が着く場で使われる音楽には、それぞれ目的ってものがあるから。

「結婚式の催しは、新郎新婦を祝福する。そこには幸せ、喜び・・・喜び、喜び、J.Sバッハ作『主よ人の望みの喜びよ』」
「なに、その曲?」
「えっ、楽譜ないの?」

 まさか。かなり有名な曲だから、音楽を愛したベルなら絶対に弾いた曲だと思ったんだけど。しかし音楽マニアのミリアが知らないとなると、ピンチだ。だが、逆に目新しさという点では・・・。

「アストル司祭に一度聞いてみるか」
「どんな曲なの?」
「うーん。演奏して聴かせようにも、楽器がないし」
「ならば、私が代わりにマスターの記憶からスキャンして流して差し上げましょう」
 
 よし釣れたっ。君ならそう言ってくると思ってたよイデア。

「100MP」
「差し上げますとはこれいかに」
「で請負います。タダとは言ってませんよ。それに格安でしょ」
「そう来たか」

 あの一件から、イデアは魔法の行使と引き換えに別途報酬として膨大な魔力を要求することはなくなった。また、彼女のプライバシーってやつを尊重するために僕の亜空間に作られているという実験場の全容はまだ確認してはいない。大陸という規模表現が非常に気になるところだが、絶対に迷惑をかけないと約束したから、ならばと妥協した。

「確かに、いい曲だと思うけど・・・」
「これを1ヶ月でやるの・・・ムリー!」
「ティナ、どうしよう」
「・・・どうしよう」

 何か1つ楽器ができるっていうのが、貴族の嗜みである。だから今、絶望に打ちひしがれているのはウォルター、ラナ、レイア、ティナなど楽器に触れてこなかった子供たちを除き、ここにいる人間は結構良家の出が多いから、パートわけしてシンプルになったこの曲くらいならなんとかなると高をくくってる。・・・あれ、どうして君が頭を抱えてるのさアルフレッド。

「アルフレッド?」
「なっ、なんだリアム・・・」
「・・・」
「リアムさん・・・アルフレッド様はその、よく音楽のお稽古をオサボリになるので」
「おいフラジール! 余計なことを・・・だがフルート! そう、あれなら吹けるぞ!」
「へぇ、十分凄いじゃない。音出すだけでも一苦労なのに」
「あれ、リアムはフルートも吹けるの? 吹いてるところ見た事ないけど」

 嫌な予感がしていただけに、ついつい感心して口が滑ってしまった。フルートって結構口周りの筋肉使うんだよね。安定した音を出すためには相応の肺活量も必要だし、キイを押さえる指の器用さもいる難しい楽器だ。

「いや、音を出すまでで挫折したんだよ。僕の専門はあくまでもピアノ。後はちょこっとバイオリンが弾けるだけで、他はティンバニなんかの打楽器とマリンバやヴィブラフォンなんかの鍵盤打楽器くらい」
「うそ・・・知らなかった」
「お前なんのためにリアムを家庭教師につけてるんだよ」
「だってリアムとはピアノばっかりで、他の楽器には他の先生がいたし」

 本当は他に、美しい和音のCodeをより詳しく学ぶためにかじったクラシックギターやその発展でエレキギターやベースもできるとか言えない。クラシックギターは爪問題があったから一時期でやめちゃったけど。
 さて、この世界で魔法の存在と肩を並べて価値があると言ってもいいほどのこと、僕の知ってる楽器がこの世界にはほとんどあるということである。ピアノのような持ち運びが難しい楽器はやはり珍しいのだが、どうやらこの世界には本当に神がいるらしいから、教会の賛美歌を中心に音楽の発展が文化の発展に対し前世よりも大きな割合を占めている。流石にPOPやEDMみたいなジャンルはまだできないけどね、寂しいけど、でも知ってる曲ならイデアにお願いすれば聴けるはずだからさっきみたいにお願いしてみるのもいいかもしれない。

「指揮はもちろん、この曲のことを一番知ってるリアムよね」
「そう?・・・なんかちょっとむず痒いな」

 やることが決まったので、次は経験ある楽器、または希望の楽器を一人ひとりに聞いていく。音楽経験者の僕はできれば楽器側についた方がいいのであろうが、如何せん、指揮者の役割は誇張しすぎたメトロノームの様に大層に腕を振ってるだけじゃない。常なる3花形だけに、全体の構成を作り上げていくには全パートの譜読みは欠かせないし、本番はもちろん、練習でも音の強弱や表現までを緻密にコントロールしなければならない。・・・バラバラの癖を1つの個性に纏め上げる、これは大役だ。

「ヴィンセントさん、リンシアさん、ピッグさん、アオイさん」
「私はクラリネットだな・・・」
「私もクラリネットかしら・・・お家でできるリハビリとして管楽器をよく吹いてたの」
「トランペットなら吹けますぞ」
「私は琴。和製楽器なんだけど」
「琴・・・なら縦琴(ハープ)をお願いできますか?」
「リアムの頼みじゃしゃあない! やってみる」

 商人グループ・・・

「ルキウス先生」
「コントラバスだね。専攻はチェロだったんだ」
「アラン」
「ホルン」
「ジェグド」
「・・・俺、楽器なんて触ったこともなくて」
「じゃあダンスでも踊ってなさい。最後、ビッド先生」
「ファゴットをお願いします」
「ちょ、ちょケイト! そりゃあないぜ!」
「ファゴットと・・・」
「因みにお前は何をやるんだケイト」
「私は今回裏方に回ろうかと。魔法陣を使った音響の調整を・・・」
「じゃあお前はジェグドと一緒にトロンボーンだ」
「えぇ!?」
「”えぇ!?”じゃない。フランは大事な同僚だ。なのに一番親しいお前だけ参加しないのはないだろう。どうせあと少しで春休みに入るし、経験者として私がみっちりとカバーしてやるからイヤでも完璧に吹ける様になる」
「本当か?」
「ジェグド騙されてはなりませんよ!なるじゃなくてできる様にしてやるでしょ!? イヤですよそんな!」

 教師陣・・・

「私たちも参加したかったんだけれど」
「いいんだ。エクレアとコロネが一番忙しいのはみんな知ってる。その代わり今まででいっちばん豪勢でうまいケーキを頼むよ」
「さっきのあれは・・・ミリアちゃんたちには悪いけど多分通らないと思うの、けど精魂込めるわ」
「私も今回は降りるよ・・・流石にこの年になると新しいことを覚えるのが難しくてね・・・エクレアたちの方を手伝うことにするよ」
「そっか、ならお義母さんを頼んでもいいか、エクレア?」
「ええもちろん! マレーネさんが手伝ってくれるなら100人力、ご一緒できて嬉しいですわ」
「よろしくお願いしますマレーネさん」
「よろしくねぇエクレア、コロネ。今の言葉が世辞にならないよう努力するさね」
「よろしく・・・で、ウィル。お前はどうせコンバスだろ?チェロやってたから」
「・・・だな」
「アイナは?」
「そうね、オルガンはないしオーボエがいいかも」
「リゲスは・・・」
「ホルンね。うふっ楽しみだわ〜❤︎」
「なんでそんな楽しそうなのか知らんが、了解した。で、エドは?」
「ファゴットを頼むよ」
「やっぱり横じゃなくて縦でいくのか?」
「うん・・・それで、カミラはどうするの?」
「そうだなぁ。私はビオラやってたから、できればコンバスだがちょっちゴツいんだよなぁ。何せ華奢なもんで」
「どこがだ」
「だから私もオーボエだな。アイナもいるしエドにも教えてもらえるし、で、全てが終わった後にこの品のない馬鹿のケツの穴にぶち込んでやるには手頃な大きさだ」
「どこがだ! あんなの打ち込まれたら腹破れて死ぬわ!それにお前の方が品がないぞ!」
「あんだと馬鹿野郎!」
「カミラ、オーボエは流石に太すぎると思うの。せめてピッコロくらいじゃないと」
「ピッコロ!?チョッ! ピッコロってどんなヤツだったけ!?」
「チッ・・・アイナに救われたな。しょうがないからピッコロで勘弁してやる」
「面白そうな話してるわね❤︎」
「アハハ・・・そうだね」

 元アリア&マレーネ&エクレア&コロネ・・・

「ウォルター」
「ティンバニ」
「ラナ」
「ティンバニ」
「・・・レイア」
「ティンバニを・・・」
「ティナ・・・」
「ティンバニを・・・」
「・・・ウォルター、ラナ、レイア、ティナとは後でじっくり話し合おう。次、アルフレッドはフルートでいいとして、エリシアは?」
「クラリネット。よくママと一緒に触ってるから」
「フラジール」
「フルートを・・・よくアルフレッド様のお稽古にご一緒させていただいているので」
「ゲイルは・・・」
「お前が音楽を嗜んでいるってのは知ってたからな。ドレミファソラシドくらいなら色々触った・・・身の丈に合えばどれでもいけるぞッ!」

 わお。ストーカーかよとツッコミたくなるが、まあそれも今となっては昔の話だ。素直に彼の向上心が成した努力の結果だと、そういうことにしておこう。

「ミリアは?」
「・・・私もなんでもいいわよ」
「そう・・・よしっと」

 ・・・さて、パート分けが済み大体が出揃った。経験があるものにはないものを引っ張っていってもらって、経験のないこれからの者には申し訳ないが、彼らには今回の音楽を曲ではなく作業として覚えてもらうことにしよう。強制は苦手意識を植え付けるし、自発的に楽しんでもらうためにも余りしたくはないが、今回は致し方あるまい。・・・だけど。

「ちょっと足りないかなやっぱ、人を補充しないと」

 人手が足りない。今日はどうしても都合がつけられなかったダリウスと副ギルド長のハニーを含めても足りないだろう。合奏において楽器の数っていうのは、一番重要な要素である。できれば1パートにつき2人以上の複数の演奏者が欲しい。メインは3人。でもそれ以上の贅沢は言わない。この曲は独奏もないし、やっぱり合奏の良さ、趣を引き出すんだったら重奏が望ましいんだよね。

「店長やパピスさん、マクレランドさんやアストル司祭にも声がけしてみるか・・・それでも」
「なら、城に仕えてる人間を巻き込めばいいのよ・・・使用人や門番も王立学院の出が多いから、一度は何かしらの楽器を触ってると思うし。ほらジュリオなんかは騎士科出身だから、チューバしてたらしいし・・・」
「マーチングか・・・!」

 みんながみんなとは言わないが、騎士過程でも一部の人は行進曲の稽古があったはずだから、何かしらの楽器の経験がある人間も相応にいるというわけだ。当日は城の警備もあるだろうから1人か2人だけ、その時間だけでもお願いできるとありがたいな。よし、この後ミリアを送っていくついでに騎士団に掛け合ってみるか。

「わかった。後で掛け合ってみよう。それでも足りない人数は楽師団から余裕のある人たちに手伝って貰えばいいかな?」
「そうね」
「・・・」

 城お抱えの演奏者たちは当然の如く、結婚式当日は忙しいはずだ。その日努める仕事こそが彼らが雇われている理由と言っても過言ではない。だが、手伝ってほしい。普段から楽器を触っている彼らからすればそこまで難しい演目にはならないはずだから、是非、音楽家の意地を見せてくれるとありがたい。・・・それにしても、ミリアはどうやらお気に入りのカノンが選ばれなかったことがちょっとだけ、不満なようである。・・・しかたない。

「ねぇミリア」
「なに?」
「せっかくだから、カノンもやろうか」
「えっ・・・本当?」

 今回この案を出してくれたのはミリアだ。それに何より彼女のお兄さんの結婚式、なら友人として、自分のやりたい全てを出し尽くしてその祝福したい気持ちを汲み取らないこともない。

「ちょ、ちょっとまって!」
「早まるなリアム!」
「お願いだから、ちょっと・・・ね?」

 ふと、リアムから告げられた言葉を拾った瞬間、ウォルターとラナとレイアが待ったをかける。駆け寄ってきた皆が僕の服の端を掴み、またティナはブンブンと大きく首を縦に振って、誰よりも僕の顔に迫って他のみんなの意見に賛同している。
 しかし僕も初めて触る楽器をたった1ヶ月で1曲丸々演奏できる様になれと言っていることがどれだけ無謀で、自分の言ったことが鬼の所業であるかは自覚しているつもりだ。音の楽しみ方は人それぞれ、この曲が如何に素晴らしい曲かと、だからわかれよ、わかったらやれよとそこまで彼らに僕の価値観を押し付けるつもりはない。

「大丈夫大丈夫! これは別にみんなにやれって言ってるわけじゃなくて、僕とミリアでやろうって話だからさ」
「本当に?」
「ホントホント、だから一旦手を離して、深呼吸しよう」
「わかった・・・スゥー、はぁ」

 はい吸って〜・・・吐いて〜。

「でも、2人となると寂しいかもね・・・」
「できれば四重奏でやりたいわ」
「弦楽?」
「そう・・・どう?」
「うーん。僕もそれは好きだな〜・・・でも仮にミリアと僕がバイオリンをやるとして、残りはどうする? ビオラとチェロだけど」

 入門するに当たって、弦楽器は特にセンスが必要とされる分類だと思う。ピアノの様にこの鍵はこの音というはっきりとした境もなければ、弓を弦に正確に当てる、運弓(ボーイング)のしなやかな腕、肘、手首の捌き、これらを同時に行いながら、音の選択、伸び、強弱などの要素を筆頭に心得て演奏しなければならない。ただでさえ1動作における情報量が多すぎるから、馴れていないうちは音出しすらままならない。音に相当のめり込まないとダメだというのに。その分、紡ぎ出される音の豊かさはトップクラスであり、優美繊細であり、至福である。
 それに、ミリアにはできればピアノで参加して欲しいかな・・・これは彼女のピアノの先生として。

「それにミリアにはできればピアノで参加して欲しいな」
「それじゃあ主役にならないじゃない」
「だから、ピアノとチェロを主役に添えたカノンをやるんだ」
「それだとどうなるの?」
「非常に、優美になる。チェロの落ち着いた音色とピアノの音っていうのはものすごく合うんだよ」

 そもそも、全てが調和するカノンに主役がどうとか言うのは辛いが、第一、第二、第三のようにパートが分けられているのも事実である。からして、ミリアがそう言ってしまうのも致し方ない。

「ならブラームス様とマリア様を誘ったらどうですか?」
「お母様はバイオリンやビオラ、とにかく色々できるわ!それで・・・たしかお父様はチェロ!・・・でも、この催しはあくまでも秘密のサプライズだったんじゃ・・・」
「私たちが何をするのかは当初の予定通り秘密にしとけばいい。ただ自分がやりたいから家族でパトリック様を祝福しようと誘うんです。それに人数合わせでリアム君がゲスト参加する。プログラムにはどうしても新郎新婦の友人らよりって出るんですし。だからその後にでもと・・・どうでしょう?」

 唐突に、僕とミリアの会話に入ってきたルキウスからそんな提案がなされる。・・・うん、それは悪くないかもしれない。2人が良ければだけど。

「いいじゃないルキウス! 採用!」
「お褒めに預かり光栄です」
「へー・・・」
「リアム君、なんでそんな意外そうな顔して僕を見てるんですか?」
「いや、学長先生がまともなこと言ってるなって」
「まともも何も、私はいつもまともですよ?」

 ピャー! これまで散々痛いけな少年を捕まえては弄り倒してきたってのに、その様なことを言うのはどの口であるか。化けの皮とはこの人のためにある様な言葉である。

「・・・ただ、友人として彼には幸せになって欲しい。それだけのことです」

 春。それは別れと出会いの季節。僕がこのノーフォークのスクールに入学したあの日のことは、今でも忘れられない。アルフレッドと出会って、魔力切れで倒れてしまった彼の代わりにこの人に代表挨拶をさせられて、散々な目にあって・・・etc。

”こんにちは。はじめまして、ルキウスといいます”
”こんにちは・・・パトリックです”

 でも、どうしてだろう。桜の花びらが目の前を通り過ぎる様な瞬きの間、窓から差し込む光に魅せられ垣間見えた学長先生の穏やかな微笑みは、混じりっ気のない白日の肖像であった。

「スゥー、はぁ」

 ・・・あの4人は、いつまで深呼吸しているつもりなんだろう。

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