アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

241 PTSD

 屁理屈屋は屁理屈屋でも、一緒くたに皮肉屋であるとは言い難い。

 ネガティブな思考の元、不快な屁理屈をごねるやつを世間一般では皮肉屋というが、一聞にポジティブでもその裏に別の意図が隠されていれば、それを皮肉と言うからだ。皮肉を聞いた人間がそれを理解できる人間かそうでないかで結論は変わりそうなものだが、それを発した本人からすれば、一様に皮肉とはネガティブなものである。
 一方で、純粋にポジティブな屁理屈というやつもあるのだ。それを人は都合がいいと言う。

 僕は元来ネガティブ側の屁理屈屋に分類されると思う。だけど、同時に天邪鬼なのである。天邪鬼とは故意に相手の意見に逆らったり、ルールを素直に聞かない事、つまりは自己観測できる対逆の性質を持つ因子。この対逆の性質を持つ因子が、マイナスの屁理屈屋因子に掛け合わされるとどうなるか。答えはプラスになるのである。だが、ここで単純に結果だけを見て答えがプラスだけであると決め付けてはならない。この場合、演繹的に見れば皮肉屋という前提があるからである。つまり天邪鬼な皮肉屋は演繹的に見て皮肉屋であり、かつ、帰納的に都合がいい人間ということになるわけである。ならば、さらにこの2つを統合してみよう。符号が違う2つの価値観、ただし、この2つは絶対値的に数直線上同じ位置にあるはずだから、合わせると結果はゼロになる。じゃあここでさっきみたいに、数式を演繹化、帰納化してみよう。この場合、演繹的に前提では皮肉屋かつ都合のいい僕は、帰納的に見れば皮肉も都合もないただのゼロ、即ちただの屁理屈屋となるわけである、∴ 収束。

 ここまで僕の自己分析に付き合ってくれた皆さん、ありがとう。さっと心を虚無の彼方に飛ばさずに熱心に一緒になって考えてくれた君や、自分には関係ないと明後日の方向を見ていた君は心理分析的に、屁理屈屋であろう。興味の本質として、自らに欠けているものに対してより強く惹きつけるものであるし、または自分に充足しているものを補おうとしないこともまた自然であるから。それと最後に、僕が天邪鬼の屁理屈屋であるという事をもう一度だけ確認しておきます。・・・自分でも何言ってるのかわかんないや!よしっ!今の全部嘘嘘! 僕は皮肉を言って励ましあったりできる、そんな良好な関係を誰かと築いたことがないだけのただの寂しい奴なのさ!だから皮肉を皮肉としてしか捉えられない。ヘッタクソだなー、説明も例えも。

「こんな感じで、失調型は論理的な風を装っておいても、最終的に曖昧であるし、そもそも内容が抽象的で具体性に欠けるきらいがあります」
「素晴らしいね。パーソナリティの減損における障害の分類か。・・・だけど、やっぱり君にはそこまでのパーソナリティの減損はないように見えるよ? そういう意味では、自分を卑下しすぎてしまっているから、回避性に傾いていると言えるのかな?」
「多分、全部ですね。そういう意味ではC群に当てはまりますが、そもそも僕は社会性においてCに偏り、プライバシーにおいてA、ただしこれまで対人関係の安定を図ろうと働いてきた演技的な素振りはBになります・・・これは偏見を与えないための配慮になります。どうか先生方には、これらの分類においてなるべくバニラに近い目での精神分析をお願いしたいので」
「しかし裏を返せば、何者にもなれると言うことじゃないか・・・やはり若さとは素晴らしいね」
「精神的な綻びや傷は薬だけではどうにも治せませんから、興味深いですね」
「悪いがやっぱり俺にはチンプンカンプンだった。だけど、生徒の一人が困ってるんだ・・・アラン、後で復習に付き合ってくれ」
「もちろん。・・・私もコレを学べば教師として、一皮むけそうだ」

 ちょっと・・・まさか僕の心の声を聞いたんじゃないよね?って思うくらい、ここにいる人たちはみんな優秀である。勉強会が開かれるこの教室にいるのは僕と繋がりが深いスクールの教師たち。ルキウスをはじめ、アラン、ケイト、フラン、ジェグド、ビッドである。

「質問です。なら真面目な講義中にもかかわらず、ずっと私の横で不適切なオーラを振りまいているこの子は一体どんなパーソナリティが減損していて、どの障害に分類されるのでしょうか」
「どのパーソナリティが・・・ってえぇっ!? 私ですか!?」
「フラン先生の場合、減損というより幸せが原因の増長ですよね。これはごく一般的な反応であり、平均値との差が多少見られても障害認定する必要はないと思います。ただし、結婚前にしばしば見られるマリッジブルーには要注意です」
「貴族同士の結婚にマリッジブルーなんてないと思いまーす」
「ひどいッ! 私だって一乙女、結婚するにあたり将来の不安くらいあります!」
「ほぉ、例えば?」
「・・・ごめんなさい。私は私のことを真剣に考えてくれる方と結婚できるのに、ツマラナイ意地貼って旦那様の優しさをコケにしそうになった愚かな嫁ですぅ!」

 拗ねちゃった・・・けれど幸せそうだ。2ヶ月後には街をあげた、いや、領地を上げて盛大に催されるパトリックとフランの結婚式があるんだよね。帰ってきてそのことを知ったときには本当に驚いたよ。まさかフラン先生が貴族家の長女だとは、それも公爵家と縁結びできるほどの大貴族の出身だとは知らなかった。リヴァプール家といえば、我らがノーフォーク公爵家も名を連ねるアウストラリアの4大貴族が一角である。国の南にあり海に面したリヴァプール領ではリゾートはもちろん、外国との貿易に欠かせない船の出入りが活発な港がある重要拠点である。 

「では先生方、残り1年、どうぞよろしくお願いします。カウンセリング代は現金でも現物支給でも可能ですので、ご希望があればご相談を」
「はいはいッ! 現物支給でお願いします!」
「えーっと、統計的に極端に大きな数値の差(ズレ)があると、標準偏差が・・・できればケイト先生には辞退してもらって、ご遠慮・・・」
「なんですか!確かに私は興味ある分野以外にはコレっぽっちも労力を割きたくないと思う研究者ですが、思うのとは別で、ちゃんと公私混同しつつも与えられた仕事はこなすティーチャーですよ! 報酬があるとなれば尚更・・・故に私がそんな私利私欲に塗れた社会生活を送る社会不適合者のような口ぶりはやめていただきましょうか」

 公私混同しながら仕事はこなすって意味不明なんだけど。しかしこの人はなんでこう、支離滅裂のようで郷に入ってるんだろう。自分の分析をさせたらピカイチだ。これはもはや、ケイト・イデア型という1つの精神分類型だな。自分にしたように、僕のことも冷静に分析してくれればいいけど。

「へぇー。マスターは私をそんな風に見てたんですか」
「一応褒めてるんだよ? まあ病的な人間の視点だから、正常な人からしたら褒めてるようには聞こえないのかもね」
「そう言われると言い返せないのがわかってて言うんですから、どう考えてもマスターは天邪鬼なんて高尚なものでなく、ただの皮肉屋です」

 変わったと言っても、当たり前だとわかっていても、君とは相変わらずだから不思議だ。ところでその白いイヤリングは?・・・かわいいでしょって、かわいいけど・・・リリィ?・・・ああ白百合ね。まあまあ、講義も一段楽したことだし精神学的な議論はもうそろそろいいだろう。それに今日はもう一つ済ませなければならない用事もあるし・・・もっと褒め称えそして崇めよといわれても、僕は未だに誰かを崇拝したりすることはしないのさ。

「じゃあ行こうか、リアムくん」
「はい、よろしくお願いします」

 アイナと無事和解して、ノーフォークに帰ってきたのは一昨日のこと。
 既に仲間たちや顔見知りの皆さんには帰省の挨拶を済ませてある。
 もちろん転生者のことは皆には伏せてあり、というか、それを言う必要性が無くなったから・・・未だ一人を除いてはね。
 だが今、馬鹿正直にぶつかる必要はない。この問題において僕の身勝手で誰かが必要以上に深く傷つくのはもうたくさんだ。彼女がちゃんとこの問題の本質を理解できるようになったその時、その時が来たら、真摯に打ち明けるのみ。それが今の僕にできる、最大限の尊重である。僕がこの選択に納得できなくたっていい。それは痛みに馴れた大人の論理なんだから。・・・あれだけの葛藤や事件があってそれだけ? と言われれば、それだけである。いきなり失踪して、4日の空白の後に再会を果たした。こうなれば一般的な反応としてみんながどういう態度で僕を迎え、どんな言葉を交わしたのか、想像に難くないでしょ? それより・・・。

「失礼。じゃ、僕はここまでね」
「ありがとうございました、学長先生」
「はいはーい」

 今は目の前の事に集中しよう。今から直面するはある女性の問題であり、僕の問題でもある。

「こんにちは・・・リアムくん」
「こんにちは・・・リアム」
「こんにちは、アストル司祭、アメリア」

 ここはノーフォークにある騎士団の隔離塔。そう、今日は重要証人として身柄を保護されているアストル司祭とアメリアとの面談の日である。

「・・・ファウストの件、残念な結果になって」
「聞きました。逃げたんですってね」
「まずはアメリアを救ってくれたお礼を。そして謝罪を・・・それにしてもリアムくん、なんだか雰囲気が・・・」
「もう妙に子供ぶるのは辞めました。コレが今の僕なんです。ちょっと鼻につくかもしれませんが、ご容赦ください」
「いや、いいと思いますよ。確かに容姿とのギャップはあるが、自信に満ち溢れている。何よりのびのびとしているようで、こう言ってしまうのはなんですが、少々不安定さが残る前の君のことが私は心配でした。例の件もありましたし、かといって強い今の君が無理して背伸びしているように見えない」

 どうしてアストルまでもがここにいるのか、事の顛末はここに来る前に既に聞いた。だから僕は今日ここに来たのだ。現在、重要証人としてアメリアと共に隔離塔にいるアストルはどこか、定職に就く大人特有の安定さは感じられるが、それ以外に少々無気力というか・・・アストルがここにいる間、孤児院の運営は領地が担っているが、教会の仕事は一時臨時的に休業している。ただし春にはまた洗礼式等の催しをこなさなければならないため、新たな事件、あるいは問題が浮上しなければ、それまでに彼は職に復帰する予定である。

「あ、ありが・・・」
「アメリア?」
「あ・・・」

 だが──

「なんで、なんでお礼も言えないのよ!」
「アメリア!? コラ、辞めなさい!」

 突如、アメリアが何か言葉を口にしたかと思えば、急に左の甲を右の掌で叩き自戒し始めた。まるで、上手く喋ることができなかった自分に激昂している様だが──

「・・・ごめんなさい。ごめんなさい」

 アストルによって自傷行為は止まったが、今度は行き場のない怒りのそのもどかしさに悶え苦しむように、アメリアは涙を流しながら誰かに謝り始めた。余りにも情緒不安定だ。見たくないとギュッと閉じられたその瞳に映っているのは一体誰なのか・・・多分、僕だ。

「イデア」
「はい。分析・・・完了。脳機能含め、身体に肉体的機能の障害は認められません。コレらから考えられるのは」
「PTSD、心的外傷後ストレス障害。ただし期間で言えば未だ急性。この様子だと、結構深いな・・・」

 僕の体を細胞レベルで改造してしまったイデアの分析に間違いはないだろう。かと言って、まだ断定できたわけではないがとりあえず撤退。


 ──アメリアとのあの対面から25日後。事件から1ヶ月が経ってもアメリアの心の傷は未だ癒えず、僕を見ても激しく暴れる様なことはなくなったが、僅かに怯えが見て取れる。今日はそんな状態での2度目の訪問になる。

「アストル司祭、アメリアはずっとあの調子で?」
「い、いや。時々何かに怯えた様子を見せるものの、ここまで取り乱したのはあの日が初めてで・・・」
「なるほど・・・つまりきっかけは僕と・・・アレかな」

 悲しいかな、その原因は僕と来たもんだ。だが、気に入らないからと怒りに任せて対象から自分を除外するような真似はしない。リアムは自分がきっかけの一つであると言うことに目星をつけると、今度は紙とペンを亜空間から取り出して、テーブルの上で作業に取り掛かる。
 描くのは、丸、筋、枝・・・。  

「あ、アアッ!」
「アメリア、大丈夫、見ててね・・・」

 アメリアが動揺しはじめたタイミングを見計らい、迅速かつ一瞬にして紙を裏返しにする。

「丸の時点で大きな動揺は見られなかった、だけど筋を描きはじめた頃に散漫、僅かな集中力の欠如が見られ、枝をつけた瞬間に完全に無秩序に陥った。連想を引き起こす鍵は線の集合、あとは枝葉のように密集する集団物には注意だね。色については、今のところなんともいえないけど」

 リアムは冷静にアメリアの行動を分析してみる。放っては置けない。ただしプロじゃないから、あくまでもコレは観察記録。精神的な傷に素人が手を出す危うさは十分に知ってるし、だからこれ以上の探求はもうしない。

「君はいったい・・・」
「アメリアの異変はほぼ確実にトラウマによるものです。原因がはっきりしていて、かつ心傷を追ってから日もあまり経っていません。この障害の治療には、まず心を癒す時間が重要であり、次にカウンセリングを伴ったリラクゼーション等の治療が有効です。その入門としてはEMDRと呼ばれるものがいいんじゃないかなと・・・というか、それくらいしか思いつかないんだけど」

 診断はPTSD。今はそれしか言えない。また、異世界で地球の医療が通じるかどうか常に心配されることは百も承知であるが、発作が慢性化して仕舞えば、それこそ完治は難しくなるのではないかと。

「今日はもう疲れたでしょう。ストレス要因にはどうやら僕も含まれているようですし、よければまた日を改めさせてください。何より自然に落ち着くのが一番です」
「か、神に祈るのは・・・」
「確かに、罪悪感を転嫁する行為は有効でしょうが・・・」
「いや、祈りは別に責任転嫁をするわけでは・・・」
「・・・ごめんなさい。僕、奇跡に肖りたいとは思っても、心の底から神様に祈ったことがなくて」

 リアムは辛辣にも、アストルの説く祈りの意義を跳ね返す。神の存在を認めたからといって、今更彼らに祈ったり信仰を持つ気は更々ない。敬うなどもっての外である。そんなの反吐が出る。

「でも神の存在は最近信じるようになりました。ただ、教会に席を置くアストル司祭には余計不躾になることを承知で言わせてもらうと祈るのであれば、善神だけじゃなくてイドラにも祈ったほうがいい。邪神といえども神は神であり、悪魔じゃないんですから平等に信仰されるべきです」
「君は正光教会が最も悪とするモノを崇拝しろというのですか? それでは邪神教とどう違うのか」
「崇拝しろとは言ってません。ただ、祈りは平等に。誰もが平等に持てる無形、無償の愛が生み出すもの、だからいつの時代、どこでだって人さえいれば祈りは生まれてきた・・・神がそこにいなくても相手には必ず思いが届く。手を合わせ、誰かを思って祈りを唱える。祈りって、そう言うものではないですか?」

 最近の僕は、彼の善神様に少し懐疑的なのである。だって本当に正光教会が掲げるような素晴らしい神様なら、僕にあんな辛い試練を与えたり、詐欺師みたいなことはしないさ。世界を隙間なく満たす神もまた、神話において対等に描かれるのであれば教会のプロパガンダに囚われずに我々は悪とも対等に向き合うべきである。結局のところ、それが一番の平和への近道に思えてならない。・・・元々懐疑的であったことは、この際いいっこなしの方向で。八つ当たりしてごめんなさいアストル司祭。

「この子をこんなにしてしまったのは、最も過激な邪神教の一つなのですよ?それなのに・・・」
「だからってやられたらやり返す。この理屈で正当化された報復行為が如何に際限ない憎しみを生み出すか。報復が平和をもたらすのは抑止力になり得る時だけで、実行された時じゃない。それでも一時的な平和に他なりませんが」

 地球では報復が抑止力となり得る場合、その規模と強大さに効果は依存する。例えば核、だが核でも銃でもナイフでも、拳でも、暴力に訴える行為は悪であり、精神疾患等の特例を除いては、常に行為の結果の悲惨さが罪の重さを決める。抑止論は社会学であり心理学でもある。そして核なき世界の魔法あるファンタジーでも罪悪感こそが抑止の正体であるという皮肉は変わらない。だから大衆にしてみれば過ちである行為を彼らは邪神によって正当化し、そして実行できるのである。

「恥ずかしながら、20年以上神に仕え奉仕してきましたが、教会の教えを疑問視して試練を投げかける君に送る言葉が見当たらない」
「それは僕にもわかりません。長年教会に従事されてきたアストル司祭がわからないのであれば、僕が知る由もない」
「しかしどうして君は、結果に訴えないのでしょうか。祈りに縋ろうとする私を責めるには、一番有効であり何よりも堪える。頭のいい君なら尚更にと、その疑問が目まぐるしく私の信仰を惑わし、疑わせる」
「縋ることは別に悪いことじゃない。縋ることが悪なのであれば、僕は一体どうすればいいんでしょう。僕はその点プロ級ですよ。アストル司祭なんて、僕に比べたらまだまだアマチュアかも」

 だが、一応アストルの疑問にもう少し具体的な理由を述べるとすればなんてことはない、アストルは正光教会に所属する善神ヴェリタスを崇める教えのもとに神と人々に奉仕し、アメリアもまたアストルに同じであるが、邪神イドラを崇めるファウストが敬虔なる正光信徒に接触し介入したのだから自然に善と悪のぶつかり合いが起こるのは確実であった。所詮、純粋悪の定義はできはしないのだというのが僕の持論であるが、あえて善と悪という表現を使えば、今回は正義が負けた・・・そんなところだろう。

「君のトラウマに触れる僕の顔なんてもう見たくないだろうに、疲れているだろうけどあと少しだけ、僕に時間を頂戴ね。アメリア、僕も今ね、自分の弱い部分を克服しようとしてるんだ。この弱さは、いざという時僕だけじゃなく大切な人まで傷つけてしまうから。だから僕は決して君のことを虐めたり、責めたりする気はない、一緒にこの苦難を克服しようね」
 
 まだ9つの僕が、椅子に座るアメリアと視線の高さを合わせるために膝を曲げたり、しゃがんだりする必要はなかった。・・・ただ、歩み寄るだけ。

「・・・怒ってない?」
「怒るわけがない。僕は君の友人だよ?・・・敵じゃないんだ、寧ろどんどん頼ってよ。僕も仲間として君に縋るから、君も僕に縋ってくれ」

 ・・・幼い。今、こうして誰かと手を重ねてみると、その幼さが一層際立つ。僕は途中まで差し伸べただけだけれど、彼女が自ら手を取るには適当であり、十分な距離だった。だけど肌を伝い、視覚を通して感じられるアメリアの震えを治める術を僕は知らない。コレばっかりは、本人次第。しかし本人にもどうしようもないのだから、まさに、どうしようもないのである。

「・・・本当に、今日はここまで。お疲れ様でした。また来ます」
「バイバイ」
「バイバイ」

 だけど幼いということは、これからまだまだ成長の余地があるってこと。前世があるっていうズルをマイナスに捉えずに前向きに捉え生きていくって決めたんだ・・・慎重に、冷静に。

「・・・アストル様?」
「・・・ああ、少し気が緩んでしまって」
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよアメリア」

 思わず魅入ってしまいボーッとしていた。・・・私は今、奇跡を目の当たりにしたのか。なんと美しい光景であっただろう。彼がこの空間を去った今でも、未だに目に焼き付いて離れない。奇跡は必ずしも神の御業のみにあらず、悪魔は度々奇跡を演出し狂い踊る人間を嘲ける。だが私は神との仲介人であり、そして曇りなき信仰心を持って目撃した。差し詰め彼は悪魔憑きにあらず、アメリアを救う救済の天使であった。

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