アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

240 最終的ハッピーエンドへの第一歩

 ──リアムとアイナが和解した夜。

「そのイヤリング。単体だと色はあまり良くありませんが、あなたの黒髪と緋色の瞳と相待って不思議な相乗効果を生んでいます。何の花ですか?」
「俺だったら何をつけたって似合うさ」
「それなら、私だって」
「・・・」
「・・・」 

 そのイヤリングの色はこの世界の色と同じ。憎悪と血の色、死の色である。

「・・・これはクロユリだ」
「何故ですか? よりによってクロユリなど、不吉の象徴でしょうに」
「それこそまさに俺様って感じだからいいんだよ・・・それより、俺に話があるんだろ? イヤリングはその口実に過ぎない、違うか?」
「そうですね。・・・それでは、改めて尋ねさせてもらいます。何故あなたは、マスターの意志に背くような真似をしたんですか? 私もちょくちょくマスターに反抗しますが、それでも守るべき一線は超えないよう気をつけているつもりです。それなのにあなたは・・・」
「それはお前がこいつにしたことと似たようなもの。俺は俺なりに、こいつに世の中の非常さ、危うさってやつに対応するための術を教えてやろうと思ったまでだ。こいつの前任は、伝承を聞く限りあまり良くないチグハグな最後を送ったらしいしな」
「・・・ハイド、あなたの考え方はわかりました。それに何となく的は射てはいるため全てを否定することはできません。これからナオトに付き纏う柵を考えると共感すら覚えます。しかし何の相談もなく勝手に行動し私の楽しみを奪ったのはいただけません」
「そうか、そりゃあ悪かったな・・・だがなイデア?」
「なんですか?」
「勇者の聖地までの転移は無理だったが、できるだけ遠くに離してやることはできた・・・ってか? 加えて何故リアムにヌルゲーを許した。あいつの人生はどんどんハードになっていく。それか、それ相応の結末が突然にやってくる。あいつはたしかに転生っていうビハインドを克服し家族と和解したが、だからと言ってまだ自分が課せられた運命を受け入れたわけじゃない。かつて宇宙(ソラ)をも支配していたお前ならもっと割り切って物事を考えられたはずだ・・・全部思い出したんだろう?」
「・・・なんのことですか?」
「とぼけるなよ・・・暇を持て余すたびに小競り合いし、からのアレだ。関係が良かったとは決して言えんが旧縁の仲、それらしく振る舞おうとしているがちょいちょい地が出てるぞ? ・・・俺が聞いたのはお前が何者で、俺が何者なのかさ」

 そう言うとハイドは血の海の上で立ち上がって、クルリと背中を隠して陸の安全地にいるイデアと目を合わせる。ジッと、何かを訴えるように。

「・・・・・・あの頃はあなたのお遊びに付き合うのも大変でした。最後にあんなことになってしまったのはお互いに残念でしたね」
「だよな。お前が記憶を失っていたのは代償だ。だが代償を払う先がなくなった今、晴れてこうして全てを思い出した」
「でも全部が全部悪いとも思っていなかったのですよ?・・・昨日といい今朝といい、フォロー助かりました。また先ほどの問いに対する答えは単純明快、今は勢いばかりが背中を押して前に進みすぎている・・・彼にも、そしてウィルとアイナにも時間が必要です。転移した前と今とでは状況が全く違います。未来のためにもまずはこの件に関するショックを少しでも和らげる・・・それくらいしか私にできることが見つからなかったんです」
「ならばリアムに言えばよかった。帰ってすぐに自分の正体を話すのは得策じゃない・・・ウィルとの約束もあるが、もう少し時間を空けろと」
「私たちにその権限はありません。あくまでも私たちは付属品です。偶然引っ掛かっただけの居候・・・」
「ダウト。じゃあ権限もないくせに黙ってこんなことしてもいいのか? 意志を汚していないから最終的ハッピーエンドのためにどんな困難にも突き落としてもいいと?・・・そこは変わらないな。お前のソレはただのエゴだぞ?」
「そこまでは言っていません・・・ならあなたはどうなんです? ドミーが私たちを推し量ったあの事件についてナオトが勘違いしていることをいいことに、白い壁を汚す黄色いペンキの上に、更に赤いペンキを塗ったでしょう? についても偶然の産物なんて嘘ばかり、だってこれはあなたが学習して神から直接得た・・・神をも殺せる可能性を秘めた力」
「それこそお互い様だろ? お前だって自分の正体をこいつに話したわけじゃなし、ただの”オリジナルスキル”で我を通している。俺のステータス項目をこうして会話するまでに抹消しなかったのがいい例だ。それどころかご丁寧に作っちゃってさ、違うか?」
「それはッ・・・あなたの名前は必要だったから作っただけです・・・神気にしても元々魔力は神気のレプリカみたいなものですから。100年の虚無を経た挙句目覚めたらこうして人間の複雑な価値観の渦中、更にそのギャップの上にイデアと私、まだ感情の整理ができていなくて、熱っぽいんです・・・擦り込みとは実に恐ろしい。どうして今までの自分がリアムやあなたのようにこの器に芽生える前の記憶がないと決め付けていたのか」
「それは本当に今まで記憶がなかったんだから一概に同じとは言えないだろ」
「ですけど・・・いえ、私の愚痴は一旦置いておきましょう。話を元に戻します。まさかあなたはナオトに私たちの正体をバラす気ですか? 私には私のこれまでに築いてきた関係があるんです・・・今更それをなかったことにして・・・」
「そんなことはしねぇよ? 俺は俺で案外今の自分の存在ってやつを気に入ってるんだ・・・こいつは俺の知らないモノを多く知っている。その中には今最も俺が求めている答えのヒントもある・・・はずだ。享楽に固執していた俺がこんな感情を抱くとは思わなかったが、興味深いのさ」
「・・・そうですか。あなたは私が変わらないと言いましたが、あなたは随分と変わりましたね」
「だからと言って直情的なキャラは譲らないぞ? これはキャラというより、俺のアイデンティティそのものだ・・・故に未だ俺の牙は血生臭い。なんなら今のお前にも同情してやるよ。だからこれからも俺はハイド、そして──」
「私はイデアを演じる・・・それがハッピーエンドへの第一歩」

 果たして、彼らが見るハッピーエンドとは如何なるものなのか。それはまだ、誰にもわからない。

「・・・」
「・・・」
「・・・なんですか?」
「それにしてもお前、やっぱ性格違いすぎだろ。腹黒いのは相変わらずだが、見ててかなり愉快だ。なんならこのイヤリングをプレゼントしてやろうか? 俺よりお前の方がぴったりだ」
「放っといてください!!!」

 世の中では仲が良くなければ喧嘩することもないようなことを喧嘩するほど仲がいいというが、ニュアンス的には仲が悪くないから喧嘩するというのが、彼女たちの関係を表すにはどうやらピッタリのようである。

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