アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

238 病んでしまう話

 ”リアム・・・なぜ、ブレスを試すのにアウストラリアの方に向けて放った。故郷へ帰る動物の帰巣本能なんてくだらない事言うなよ。コントロールされていて、山一つを吹っ飛ばした力だ。普通なら、制御できるかもわからない危ないとわかっている代物を、その矛先をなぜ西ではなく東に向けた”

 わかんないよ、そんなこと。

 ”なら俺が教えてやる。恐怖。ただし、ブレスを撃つ事に対する未知への恐怖じゃない。撃ててしまったらどうしようと言う事後の恐怖。お前には確信があったんだろう。だから、最も親しい者たちがいる方へと放ってしまった。合図を送るように、証を見せ付けるように。自分は怪物だと、違うって慰めて欲しかったからだ。寂しさ、お前はあの時何よりも、その恐怖を思い描きながら・・・”

 かもね。心の切り替えをするのがあまりにも下手くそだから。

 ”だが、あのブレスは美しかった。例えあの自尊心がハリボテであったとしても機能したのは、その裏に抱える恐怖への理不尽さに対する怒りがあったからだ・・・だから大丈夫だ。お前は怪物なんかじゃない。俺という怪物を中に飼ってるだけで、お前はちゃんと人だ”

 ・・・あのさ。僕って人間は、隠し事があってそこに触れられそうになると逆ギレして興奮して、ポエミーになりがちなんだけど、もしかして君もそうなの? なら今すぐ黙った方がいい。絶対後悔するから。堪え性のない自分への怒りでかなり抽象的になっちゃうんだよ。思考も感情も。



「嘘だ。怪物だ」

 昔から、人間性の欠如をずっとコンプレックスとして抱えながら生きてきた。自分は普通じゃないから、普通の人が辿る道から最初っから外れて生きてきたから。僕は悪い子じゃなかったけど優等生にも劣等生にも成れない存在だった。特別枠さ、独りだったから。だから想像で知った。普通がどれだけ素晴らしいことかも、どれだけくだらない枠組みなのかも、現実にはその枠組みにさえ入れなかったんだから知る由もなく、僕は最初から、欠陥品だったんだ。

 1世紀以上も前に書かれた文学書を読んだり作られた音楽を聴いてるとさ、ベットの上でみるテレビから如何に今の外の世界が歪んでいるかが会話の裏に見えてくる。

 ・・・くだらない。

 バラエティや新しい出来事とその情報を報道するニュースってやつでも、必ずそこにある誰かの意向が絡む。唯一純粋な目で見られたとしたらそれは自然のドキュメンタリーさ。それも海外のね。あれは僕らが情報の受取手に徹することができるから、プレイヤーとしてキャッチボールに参加できるし、自分から距離のある世界っていうのは距離があればあるほど未知に満ち溢れてる。僕が生まれ住んでいた日本ていう国では謙虚さは美徳なんて言ったものだけど、自らを蝕む美徳など徳なんて風雅な物じゃない。美しさはあっても、微かに毒々しい。それは毒々しい何かなのだから、曰く毒なのだと。
 同じように学ぶということは即ち強毒の摂取に他ならず、故に愛おしく、ついつい後にとってしまいがちである。なぜなら未知が既知変わった時、どんな異文化も人の介入によって汚れてしまうから。・・・昔はよかった、昔だからよかった。こうしてノスタルジーをレンズに現実を覗くと、現実は風化し、何をしても上手くいかない我が身の気休めとなる。だがそもそも、我々をあらゆる業で煮やすこの世界こそ毒の星だ。そうして己の失敗を少しでも美化しようとする若者もまた、これまで大人たちを侵してきた毒に捉われたこの美しい世界を汚す一人なのである。

「けど結局のところ、お国柄なんて原因になり得ても根本的な要因にはならない。問題の既発要因は僕の人間性にある。褒められても素直に喜ぶことができない、人の裏を覗く事に必死になる天邪鬼さに」

 僕の中にはまさしく、鬼が住んでいるんだ。さしずめ、昔話の青鬼から道徳心を奪ったような厄介な奴が。
 謙虚さに惑わされてはいけない。それは、自分に一体どんな利益をもたらしてくれるのか。ここは日本じゃない。それに謙虚なことが美しいのではなく、美しくあって初めて謙虚と呼ばれるべきだ。 
 ──地球より、常識とは何か、物理学者アルベルト・アインシュタインは言った。 

 ”Common sense is the collection of prejudices acquired by age 18" 

 偏見は先入観から生まれるエレメントである。つまり自分には偏見はないなんて思っていても、先入観が強ければ、結局のところ偏見があることになる。本のタイトルや表紙、書き始めで選り好みするように。
 僕は羨ましかっただけだ。どんなに箱の中で悲しい出来事が報道されようとも、恐ろしい事件の詳細と解説でも、この世界の一員となっている人々が羨ましくて嫉妬してた。もしこれが今僕を蝕むこの感情の同類なら、ライ麦のホールデンが欲したように、僕を守ってくれる無垢なる世界が欲しい。僕の場合なら、それはどんな場所になるだろうか。山に囲まれた湖畔、昼には居眠りしながら釣りをして、夜には満天の星空を眺め自然の雄大さに浸る・・・爺むさいな、だけど子供を卒業した僕らが童心の頃、世界を輝かせて見せていたあの時に還る事ができるのはそんなちっぽけな贅沢を死を間近にして叶えた時なのかもしれない。自然は安らぎを与え、安らぎは自然を魅せる。そして死こそが、究極的なノスタルジーを備えたこの世界を最も美しく魅せるレンズであると思うから。

「これは明らかに後天的で、環境が生んだ錯覚で、ソシオパスの一種で、・・・だけど前世で僕はある出会いを経てこの微睡に嵌る半歩手前で助けられたんだと思う。かつて自分が社会病質者かどうかを自己判断することは物理的に不可能だって教えてくれた人は、僅かな夏の思い出だけを残して先に逝ってしまった。普通とは何か。反社会性パーソナリティ障害の診断基準は、所詮多数が決めた強迫的な病気の枠組みである。民主主義の投票で支持者の民意が完璧に反映できないのと一緒、人間のいない世界でネズミがどんな病気にかかっても、それが自然なのだ。・・・普遍的無意識の減損と敗北、あるいは優位。だから偏見は悪い意味ばかりで存在し得ず、したがって嘆く必要もない。要は内向きか外向きかの問題だ。そして僕みたいな弱い奴は外圧に負けないよう内側を固めるべきだ。これで無難、でなきゃあまりにも頼りない牙を剥き出しに、放り出された大自然の中、僕の価値観に当てはまらない人みんなを病気にしなきゃいけなくなる」
「なら・・・耐え忍び、そして勝ちましょう・・・マスターがいままでやってきたみたいに」
「・・・無理だ。あっち側で僕はこの脅しに勝てるだけの心を育んだつもりだったから自分は人だと世界や運命を差別する自信があった。誰にも明かさず口にもしなかったけど、色んな苦難を経て19歳まで生きたって自信があったんだ。・・・だから押し殺して、殺して、殺して、殺されても潰れずにあんなに素直で単純なリアムを演じることができた。わかるかい、この違いが? 今まで演じてるなんていつもの些細な自己嫌悪で、これまたいつものしょうもないループに呑まれながら一生そのままなんだと思っていた。それなのに急に一人分の袋では到底対流できず破裂してしまうほどの責任(みず)をバケツをひっくり返したように注がれて、究極的な人間性を植え付けられたために罪悪感が生まれた。都合のいい話だけど、この2度目の人生はギフトだと思ってた。19まで別の世界で右往左往踠きながら、人生に生き甲斐を見出すこともなければ呆気なく死んだ僕への次元を超越した世界からの贈り物で、しかしこうしてナオトに回帰してしまった今、当然の如くこの欺瞞を基礎に組み込んだプライドは音を立てて崩ずれてしまった。常識を身につけた表彰状かと、自分はまだ幼いと悟りながらも、なんでも卒なく上手くこなせる大人になったはずだったのに・・・今では人間としてのアイデンティティも失いつつある。所以人もまた自然の一部で、医学や後学のためにネズミに病を植え付けても自然的なことだと思ってしまうほどに」

 僕は死ぬ間際、このまま死にたくない、生きたいと思った。本当に虫のいい話だけど、これは紛れもない奇跡で、傲慢にも僕の強い意志がこの奇跡を手繰り寄せたんだと思わずにはいられないほど、リアムの体には幸せを感じた。・・・けど、その考えが甘かった。いざ、その中には望む物が入ってるに違いないと疑わないクリスマスの日の子供のように無邪気に差出人不明の箱を開けてみれば、中に入ってたのは書いた覚えもない僕の署名がされた神との契約書だ。契約書の内容はこう、お前に2度目の人生やるから代わりに世界を救え。内容が理不尽だし、何より捏造してその不正を指摘できないほど引き返せなくなった時に後出しなんて酷すぎる。せめて、事前に説明するか物語の勇者や英雄のように行きずりの足跡を辿って神話にしてくれないと。でなきゃ、ウィルやアイナと、カリナ、アルフレッド、ウォルター、ゲイル、ティナ、ミリア、レイア、フラジール、ラナ・・・エリシア、みんなとあんな風に接することはなかっただろうに。平等なる正義執行のため、優しさに触れたくない僕は使命感にかられて孤独を愛するマゾになっていたことだろう。両立する自信がないんだ。
 勇者なんて如何にもヒーローだろ、で、ヒーローはまさしく勇者だ。
 しかし僕には人間らしい大義名分はなく、本能のままに、それこそが自然。
 もし勇者が孤独を愛したりヒステリックになるのがいけないっていうんなら、別のやつを当たってくれ。正義を堕落させないようIsolationismに走る僕には絶対に、向いてない。

「果たしてこれまで通り、なるようになる、何事も程々に、問題が起こったらその後に処理すればいい、全ては予言できない未来故に。・・・こんな考え方で生きていいのだろうか。・・・いや、きっと許されない。・・・けど、そう考えると結局僕は楽をしたいだけなんだな」
「そんなことないですよ・・・」
「・・・自重で、潰れてしまいそうだ」

 父と母は僕が肉体を病んでも心までを病まないほどの愛を注いでくれた。たった一人の友人はそれに気付くための時間をくれた。・・・が、故に僕は罪悪感知った。だから苦しんでいるわけだ。
 しかしそう考えると、愛に満たされていたっていう贅沢な話じゃないか。・・・でもやっぱり苦しい、苦しいものは苦しい。この罪を受け入れる以外に、どう清算すればこのしこりは無害な瘢痕へと変わってくれるのだろうか。まさにこれは悪性の癌だ。放っておけばどんどん体を蝕み、やがて自らを死へと誘う。この癌を根治させるには、切って取り除くしかない。わかるよね、その意味が。

「・・・旅に出よう」
「それで本当にいいんですか?」
「それがいい。ただし、あそこでやることやり遂げてからだ。過去にあるのは失敗ではなく成功の方が好ましい。みんな、栄光に浸って過去に囚われるにはまだ若いし、道を逸れない様社会と関われる環境がある。純真さ、それがせめてもの救いさ。きっと僕みたいな捻くれ者は・・・ゲイルくらいかな?」

 こういう時、人は旅に出るものだという偏見を僕は前世で収集した。ただ、残される者に僕みたいな捻くれ者はいないと言いたかったが、どうにもゲイルだけはそう言うわけにもいかない。だが彼にはやはり未来があり、領地1の商家の看板を持つ実家の環境と仲間たちがいる。既に大人になったウォルターも、もうすぐ大人になるラナも然りだ。もう心配ない。いくつかの約束を破ってしまうことになるが、みんながちゃんと自己の獲得ができた頃にまた再会しよう。その時こそ、僕はみんなの中のリアムを殺す・・・ただ、一人の中のリアムを除いて。

「ありがとうイデア。こんな暗い話に付き合ってくれて・・・」
「なんだかんだで、私はマスターの相棒ですから」
「そうか・・・お願い。イデア。もしこれから僕がどんな苦難に巻き込まれようと、君だけは側を離れないでいてくれ」
「それは、プロポーズですか?」
「ちょっと違うけど・・・そうかも」
「なら答えは、”Yes”です」

 もし僕があの枠組みに入れられていたら、きっともっと早くに僕は殺されていただろうな・・・社会に当てはまらない自分を嫌悪する僕に。

 若者が博物館や美術館をあまり好まないのはなぜか。
 その理由は、まだ彼らは自分に何ができて、何ができないかを見極められないからである。自分に何ができて何ができないのかを見極められないのであれば、それは即ち、有限である自らの人生の時の残りを見極められていないのと一緒だ。
 また、成熟した大人がそれら公共の施設に足を運ぶのはなぜか。
 それは、自分にもできるはずだという願望と、できたはずだという後悔が足を突き動かすのである。
 自分に何ができていないのかと欠けていることを実感した者は、その足りないモノを積極的に取り入れ補おうとする。然もなければ彼らは物語の世界へと、現実から乖離した世界において次の夢を探し、試みるのだ。
 まだ願望に縋る事ができる者は、若者と同じように将来に夢を見る。また、他者の作品をみて感銘を受けられる者も同種の夢を見て、嫉妬する者は憤り、潰れ、溺れ、沈み、踊る。・・・自分の得意に飽きてしまわぬように、あるいは諦めがつくように。
 さて、これだけ雄弁に語っておきながら今更で本末転倒な話になるが、そもそも興味がなければ博物館にも、美術館にも、図書館にも、映画館にも、大人になっても足を運ばない。我々は人生が有限であることを知っているからだ。全てを体験している時間はないのである。ならば何の意味があったのかと本稿におけるこじつけの裏を返してみれば、若者には無限の可能性があり、情熱に燃ゆるその時間を大切にしなければならないということである。

 だが成熟した大人でありながら、奔放な子供である僕はブルグミュラー25の練習曲Op.100-20『タランテラ』をはじめとする、ギロック、ショパン、リスト、ロッシーニ、ラフマニノフ・・・最後のはちょっと凶悪過多でかっこ良すぎるけど、名だたる音楽家たちが題材にした様に、タランテラの如く狂い踊りながら夢を見てる。これが1度目に甘んじて2度目の時間を無駄にした代償である。きっと僕はこのタランティズムからずっと抜け出せずに微睡から睡眠、そして昏睡と、最後には夢を見ながらまた窒息して死ぬ。死の間際、生きたいと願ったあの時のように、今度こそ3度目を望み果てず本当に終わるだろう。

「自分が暗くなる話は嫌いだ。暗い話じゃない、暗くなる話が嫌いなんだ。例えば自分がどれだけ平凡なのか打ちのめされる話。ただ、これはまだマシ。もっとダメなのが、病んでしまう話」
「病むという概念があるなら、同時に癒えるという概念が生まれます」
「ダメだ、決着をつけないと。どんな風に転んでも、区切りをつける。既に僕はみんなを愛してしまった」

 1人は1人、2人は2人。僕は僕だけを見て欲しいのだが、所詮他者の心に同一にして2つの人格は存在できずどちらも残るんだ。僕はこれからもリアムであって、リアムでなくなる。物理的に不可能なためナオトに戻ることはもうないが、消えてしまったリアムも、これからこの世界を生き抜くリアムも、どっちもリアムなのだから。そして純粋なリアムを殺す罪を犯した僕にできることは皆への償いであり、それは死んだことにすら気付かないほど徐々に、ゆっくりと実行される。遠回りしているようで、僕らに不可逆なる唯一を齎す時間という偉大な力に頼ることこそが喪に服すみんなを傷つけない一番の方法。そうして僕がリアムの、──死の天使になる。


 ──『アルターエゴ』、並びに『死の天使』の称号を獲得。

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