アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

229 Foooo⤴︎!

「入ってろ」
「・・・ッ!」
「よっしゃー終わり! 酒酒ッ♪」

 独房。そこには部屋をに光を灯す蝋燭さえもなく、陽の光が差し込む小さな穴も当然ない。

「魔眼」

 暗黒の小部屋、だがリアムには魔眼もあれば光魔法で部屋を照らすこともできる。・・・魔力を吸う錠は嵌められなかったのかって? 確かにソレは拘束された時にまた嵌められたが、男が去って魔眼を発動したら魔力の超過供給で一瞬で粉々に砕け散った。
 
「これは想定外なんだけど・・・」

 ・・・まずい。まさか魔眼を発動しただけで砕けてしまうとは思わなかった。錠が砕けたということはここ1時間でそれだけ魔力も回復していたということだが、たかだかちょっと目に魔力を集中しただけで崩壊するほど作りが甘いとも思わなかった・・・まあそれもこれも全部、自分の魔力コントロールの甘さと失念が産んだ結果だから反省だけはしよう。

「ど・・・ドラゴン、あっ」
「はーいハイドの負けです」
「ウルセェ! 同じ文字ばっかで攻めてきたねぇ!」
「何が汚いんですか? 私が本気を出せば世の中に無数に存在するワードの中でも極めて少ない頭文字を検索し攻めますよ? 例えばぢ、とか」
「ぬぅ・・・では今度は、頭文字を統一してやろう。これならば純粋な語彙力で勝負ができる」
「望むところです。先手後手は交代でやっていきましょう・・・では参ります」
『敬具・・・っと、両方うるさい!・・・先手交代制って後何戦する気だよ』

 それから更に1時間後、折檻されるリアムがジッと膝を抱えながら、しかしどちらかというと30分程前からしりとりを始めてギャーギャーとうるさいハイドとイデアのノイズに利き手で何か手紙らしきものをしたためながら耐えていると──

「・・・アム! リアム聞こえるか!」
「ジョシュ?」
「へへッ! 助けにきたぜ!」
 
 二人のつまらない争いに辟易とし野暮用が済んだからそろそろ怒鳴ってやろうかと思えば、扉の外からリアムを呼ぶジョシュの声が聞こえる。

「見張りは?」
「大丈夫さ、花粉を使って眠らせたからな」

 独房の前を見張っていた警備は地下牢の時同様1人のみだったらしい。だから無駄遣いすることなく必要な分だけを有効に使えたのだと、奥の手をまだまだ温存できてジョシュは嬉しそうだ。

「遅くなって悪いな、何分さっき商館が始業たから人の出入りが多くなるタイミングを見計らってたんだ」
「全然大丈夫。それより・・・」
「もちろん! ほらよ、お前が貸してくれたバックの中に──」

 実は別行動を始める前にシレッとジョシュの肩にかけたディメンションバック。ジョシュはその中から現在ここに捕まっている奴隷全員分の盗んだ契約書類を取り出しリアムに手渡す。
 この書類は入金の際に最終確認に使われる大切な書類で、奴隷の所有権及び人権を集約させた大事な1枚である。ただ前述したとおり、この書類が使われるのは入金が確定したタイミングで入札のタイミングでは使われない。一般的に奴隷商は仲介業であるため出品者への入金が正式に確定されるのは早くても後日、身売りの場合大抵金を受け取る人間がいるし人の権利を取り扱う仕事であるからそれは誰も承知の一般常識である。

「本当ズル賢いよね」

 この一対一ではなく多対一のオークションシステムをうまく利用すれば、オークション中に奴隷が暴れて真実を話そうとしても往生際の悪い苦し紛れの嘘だと喧伝できるし、じっくりと書類を審査されるリスクを減らすこともできる。加えてここは商館でなんと地元民お断りの奴隷商会で客は旅する金持ちの道楽者や行商人ばかり、購入者が長くこの街に留まることもなくその間に奴隷と深い信頼関係を築かれるリスクヘッジとしては最適で悪い噂も流れにくい。もちろん原価はタダも同然、手数料どころかこの商会が金銭の受取人となり奴隷は3つの権利の中で最も重い人権までも売るよう設定しているからボロ儲けで、費用は人件費と設備費広告費ぐらいだ。またそこがミソで、元々出品者などいないから入金確定までの時間が最短以上(傍点)であることが客に人気なのである。失うものも少ないので仮にバレて逃げようものなら躊躇なくすぐにでも逃げられるだろう。

「だがこうして書類は手に入った。これを燃やせば俺たちは晴れて自由の身、首の紋も連動して消えるはずさ」

 また、ステルスミッション中にそれらの情報を提供してくれたのはジョシュで、書類を手にした右腕を僅かに上下に動かし、今か今かと解放の時を待つ彼からソレを預かり検証ために書面に目を通す。

「でだな、このブルネッロってのが」
「司教の名前?」
「そうだ」

 奴隷申請を提出すると取り下げられるのは落札後にその地区の責任者が書類にサインをするまで、今のタイミングでサインが入っているのは明らかにおかしい。上記のルールは無闇な悪戯を避けるためのもので、実はこの手のことはティナを買った時にマクレランドに色々と尋ねた際の副産物だったりする。ティナの場合、マクレランドが彼女を購入したという街の責任者のサインが契約書にはあった。だが作成してもらった譲渡状にサインしたっきりそれと一緒に亜空間に放り込みっぱなしだから名前も覚えてはいない。

「それともう一つ ・・・実は妹の監禁されている部屋がどこかまだわからなくて・・・」
「えっ? それでどうして僕の方に先に・・・」
「そりゃあせっかくできた友達(ダチ)を犠牲にしたまま助けたとなりゃあ俺は一生胸を張って生きられなくなる。そんなのは御免だな」
「・・・」
「・・・ほら、やっぱり筋を通してから行動するのって大事だと思うんだよ」
「・・・」
「わかった! わかったからそんな疑いの眼差しを向けて沈黙するのは辞めてくれ! 本当はお前なら探し人を見つける魔法とか使えるんじゃないかっていう期待がありました!」
「なら最初からそうやって素直に頼ればいいのに」
「だけどな、確かにそういう下心はあったが今しがた言ったこともあながち嘘じゃないんだぞ? お前のことは一人の男として尊敬してるし、ダチだと思ってる」
「へぇー」
「ほらみろ、だからおかげでこうして書類も盗めたじゃないか」

 慌てた様子で、今一度自分が持ってきた成果は確かだとアピールするジョシュ。別にその程度の下心なら可愛い者である。僕もこれ以上この件で彼を責めるつもりはない。

「妹さんの名前は?」
「おっ? やっと機嫌直したか」

 何とかお許しを貰ったとホッと胸を撫で下ろし、調子を取り戻すと──

「そうだな、お前になら教えてもいいか」

 そう前置きをして、ジョシュは妹のことについて話を始める。

「チェルニー。妹の名前はチェルニーだ」
「へぇー」
「おい」
「なに?」
「さっきのことはちゃんと謝る・・・だから」
「いや違うよ。チェルニーっていい名前だなって思ってただけ」
「そ、そうか?・・・そうか。まあ妹のことで褒めてくれるのは嬉しいが、妹の前では褒めてやるな」
「なんで?」
「それは・・・俺があまり気に入ってないからだ」

 それから僕たちは後もうちょっとだけこの話題を深掘りする。聞けば妹さんは自分の名前を気に入っているらしいが、ジョシュは気に入らない。捕まった妹のためにここまで潜入した彼のことだから確かに愛してはいるはずだと、だがどうやら彼が名前を褒めて欲しくない理由は名付け親にあるらしい。その名付け親が話題に上がったところでジョシュの表情が一気に険しくなったしそこのところは流石に今話すには複雑すぎるから触れるのは避けておく・・・が、だから名前を褒められて喜んでいる妹を見ると内心あまり気分は良くないらしい。

「で、探せるんだよな?」
「うーんそれは・・・無理?」
「やっぱりな!よっしゃ流石俺のダ・・・え?」

 話を切り替えて妹さんを探す話に戻ろうか。大きかった期待を裏切るような解答が返ってきて、一瞬ジョシュの目が点になる。

「・・・そ、そうか。そうだよな・・・流石にお前でも無理か」
「いや、全くできないわけでもない。実はもう可能な範囲でやってはみたんだ。今妹さんの話をしている間にジョシュの魔力を解析(スキャン)して質の似た魔力情報をイデアに探知させたんだけど、どうにも見つからなくて」
「どういうことだ?」
「それで・・・こう聞きにくいけどジョシュと妹さんはその、血は繋がってるんだよね?」
「・・・なんでそんなこと聞くんだ?」
「えーっと・・・そうだね、うん今のは忘れて! 何でもない!」

 うーん、デリケートな質問なだけあって曖昧な返事が返ってきたために思わず尻込みしてしまった。こういう質問が必要なことだからと割り切って躊躇なく聞ける人間になれたら・・・今度頑張ろう。うん、次から本気出す。
 
「コホン・・・で、話を続けるけど一つだけ可能性がありそうな場所があるにはある・・・イデア」
「はい。ジョシュ、私は同じ話を何度もするのは好みませんから、一度だけしか言いません。いいですか? 今マスターに命じられこの建物内の魔力反応を片っ端から検索してみたのですがそれらしき反応はなし」
「あ、ああ」
「そこでです。なぜかサーチが弾かれ届かなかった場所がこの建物内の一角にありました。魔力の反響から四角い部屋のようですから態々魔力を遮断するように作られた場所かと思われます」
「すると」
「ええ。一番可能性があるのがそこです。この商会は地元民お断りを謳って詐欺商売していますから、司教にだけ融通する予定の奴隷が見つかれば何かとまずい・・・ 念には念を押していればこその理論と仮説になります」

 果たしてイデアの仮説が当たりそこにチェルニーが囚われているのか、それとももっと隠して置きたい何かがあるのか、どちらにしてもその部屋が一番怪しい事に変わりはない。・・・それにしても、僕がした話を何度も同じ話をするのが嫌いとか言いながら早々にもう一回してるじゃんとかつまらない屁理屈は今は空気を読んで言わないでおこう。

「お前さ」
「何ですか?」
「何回も同じ話するのが嫌いとか言って早々にリアムが言ったこと繰り返してたじゃん。何なの?」

 あっ・・・ハイドの奴折角僕がイデアを立てて控えたのに言いやがった!

「それは ”自分がした話をもう一回してるじゃん” とか ”早々に被せてきたよ” とか思っちゃうマスターの素直さを見て遊んでいたのですよ。つまり手玉にとったわけです。事実、マスターはそう思いました」

 ・・・えっ?

「なるほど・・・思考にアクセスできるとそういう楽しみ方もできるわけか」
「はい。因みに私は何度も何度も同じネタを使ってネチネチイジるのが大好きです。また一ついい材料が増えました」

 ・・・このッ! なんて奴らだ!態々今僕のイジり方講座なんて開かなくてもいいだろう! この短時間でどこまで仲良くなってるんだよ!

「あのさ、それで俺はこれからどうすればいいんだ?」
「はいはい。それでね・・・実は・・・」

 妹の居場所もわかりなるべく早く動き出したいジョシュがリアムにこれからの自分のとるべき行動についてアドバイスを求める。

「ふんふん・・・はッ? いくら何でも冗談だろ?・・・本当にそんなことまでできるのかお前?」
「僕って言うより・・・ほぼイデアがするんだけど」
「もちろんできます。サーチするにあたり障害となり得るのは今のところその部屋くらいです。魔力が弾かれれば、外部から魔法で影響を与えることもましてやチャンネルを接続して伝えることもできません」
「加えてジョシュには他のプリズンメイトたちにこの魔石を配る役目も担ってほしいんだよね。なにせ・・・」
「なにせ・・・?」
『こんなふう・・・』
「うわッ!・・・何だ!?」
『・・・こんなふうにいきなり頭の中に声が響いてきたらビックリするでしょ? いきなりこんな幻聴っぽい不確かなものに指図されてみんな信じてくれるか・・・』
「今更だがお前の人間離れした一面を見た気がした・・・」
「だからジョシュには危険だけどもう一仕事頼みたいんだよ。今から転送マーキング用の魔石を生成するから、僕が貸したバックの中にそれを詰めて地下牢のみんなに配ってきてくれないかな? 何も全部話す必要はない。ただこれをずっと隠し持っていれば助かるとだけ伝えてくれればいいから」
「その方が現実味があるか・・・なんか可笑しな話だな」
「フフッ確かにそうだね。兎に角手渡しの方が状況を飲み込みやすいし、みんな君の顔は知ってる。だからこの役目を君に果たしてもらいたい」
「わかった、任されよ・・・」

 よし! これで大体の目処が立ってきた。商品の奴隷たちが一瞬にして霞のように消えるんだ。これで詐欺人攫い集団に一発重いの食らわせてやろう。

「待て待て待て! でもそれができたとしてやっぱり妹はどうなる!?」
「確かに部屋は魔力を弾くようにはできていますが、反響したことから吸収しているわけでも魔力を無効化しているわけでもなさそうですし、目印さえあれば後は遠隔からでも大量の魔力をぶつけることで部屋の壁を壊してから転送はできます」
「・・・なんか色々と凄すぎて意味がわからないんだが」
「ですが果たして部屋の材質自体がブロックに関わっている一体型なのか、または別の仕組みかまでは直接見ないことには把握できません。仮に前者であった場合必要以上に強い衝撃を加えないといけないため最悪建物の一部が崩壊しかねませんから迅速な転送のためにも目印を・・・ベストなのはこの魔石を持ってその部屋以外の場所に潜伏すること。特別にチェルニーの分だけは別途番号を振っておきましょう。もし転送のタイミングで部屋の外に出られていなかった場合には今の最終手段を使うか、後から再度助けに来るかになります」
「そこは命優先で行きたい。そうじゃなきゃ意味がないから最終手段は保留して失敗した場合には後からもう一度助けに来るとしよう・・・僕もその時は手を貸すさ・・・ジョシュもそれでいいね?」
「も、もちろんそれでいい!・・・ありがとなリアム」
「礼を言うにはまだ早いよ? これだけ念密に計画立てできるのも君が持っていた情報のおかげだし・・・それじゃあとりあえず書類をジョシュに返・・・」

 だがリアムが偽造書類の確認も終わり、それを盗ってきたジョシュに返そうとすると・・・

「待て! それはお前が持ってろ!」
「いいのそれで?」

 ジョシュはその返還を拒み、リアムに全ての書類を託す。

「自由を得るときはみんな一緒に・・・いいな、忘れるなよ?」
「わかった・・・でもやっぱり」
「やっぱりなんだ?」
「やっぱり万が一ということもある。君を信じるよ・・・これから館内を行ったりきたりしなきゃいけないなら奴隷紋(コレ)はない方が都合がいい。ジョシュとチェルニーの分だけは君に預ける・・・兎に角2人分、されど2人分。これくらいの賭けならしてもいいかなって」
「リアム・・・」

 そもそも違法に権利を奪われた彼らの権利を僕が握るというのも何だか変な話だ。だがジョシュとチェルニー以外の仲間たちには無事にここから脱出するための担保という名目で勝手に預からせてもらおう。一回助けはしたんだし、結局今はまた捕まってしまっているであろうが、行動を制限する魔法を使ったわけでもないから単独行動をしようと思えば出来もしたはずなんだ・・・その選択を持ってして同意とさせてもらう。ずるいのは分かってるけど許してね?

「ありがとう。俺も全力でお前の期待に応える! 自由のために!」
「うん、自由のために!」

 気分はまるで法を無視し職権を乱用する権力者を糾弾する反逆者。下克上する民衆の反乱。ただ──

「・・・時間はあまり経ってないはずなんだけどなんか」
「やだマスターったら可愛い」
「乙女だな」
「・・・何で君たちは一々そう水差して茶化すんだ!!!」
「フフフ」
「ハッハッハ!」

 とある仕掛けのために使う魔石も生成し終わり、時間もあまりないためにさっさとジョシュが後にした独房でちょっぴりハイになっていた自分を思い出して赤面するリアム・・・とそれ茶化す2人の同棲者(ルームメイト)。この2人には人を茶化す前に気遣いと言う言葉とその意味を覚えてもらってだね・・・さて、気を取り直す意味でもみんなで仲良く脱走(ハンギャク)といこうか! 景気付けに追いの魔力回復ポーションで乾杯! チアーズ!

 ・・・やっぱりコレもちょっと恥ずかしい。この世界に転生して、それなりに演じてきた部分があることも自覚あったんだけど・・・

『父さんに話しただけでこれだけ枷が外れるものなのか・・・それともイデアと融合したから?・・・それはないか』
『ですね。私の心は鋼の心、ガラスのハートのマスターと混同して欲しくありません』
『因みに俺もそんなに柔じゃない。一緒にはしてくれるなよ?』
『それはそれでなんかちょっと寂しい言い方だね』
『何を・・・みんな違ってみんないいって詩があったでしょう?』
『それはそれ、これはこれ』
『ならやっぱりガラスのハートなんじゃないか?』
『ヴ・・・はぁ、2対1とは卑怯な』

 ジョシュが訪ねてきてそこから更に1時間ほどが経った頃か──

「ふあぁああ・・・あれ? 俺寝ちまってたのか?・・・ヤバイ! そろそろ品定めの時間だ! おいガキ部屋から出ろ!」

 眠りから覚めた警備員が日の傾きを窓からでも見て現在の時刻に気付いたのだろう。慌てて独房の扉を開けて手に嵌められた錠の鎖を乱暴に引っ張ると、そのままどこか違う部屋へとリアムを連れていく。因みに魔眼を発動して壊れてしまった魔力錠は外にあった予備を拝借し、自分で嵌め直した。もちろん鍵もちゃんと頂いたから、これで予備が一つなくなっていることに気づかれない限り残量数的に数合わせに問題もない。きっと男は自分が持っている錠の鍵が現在僕に嵌められている錠の鍵だと思うはずだ。

「大人しくしてろよ。泣き喚いたりすれば変態の嗜虐心を刺激して気に入られちまうぞ」

 時間は10時ってところかな? これから正午までの2時間は客が商品を品定めするためのお披露目タイムでこれも予めジョシュから聞いていた。競りは午後から、嫌な捨て台詞をケラケラ笑いなながら吐いて行った男に従業員用の通路を歩き連れてこられたのは、1面だけガラス張りの壁と、その向こうに薄く光を透かすカーテンのかかった部屋。ここはおそらく展示用のショーケースといったところだろう。

「1432番・・・目立った傷もないし状態も良好だな。良い肉付きだん。これで今晩の楽しみが・・・グフフ」

 案の定、それからものの5分も経たぬうちにガラスの向こうのカーテンが開かれると、赤い絨毯の轢かれたバロック様式に近い豪華な部屋に 次々と見るからに金持ってます飾りオーラを垂れ流しにした客たちが入場する。 
 今ガラス張りの壁の向こうでリアムが入っている部屋を覗き込んでいるのは見た目30代後半といったぶくぶくと贅肉を体中に巻き付けた男。ここまで着飾っていると態々外見を批判する気もおきないが、1432番・・・これは嫌な呼び方だな。人を人として見ない、客もやはり僕たちをモノとしてしか認識していないのではないか。

『なら徹底的に人形を演じてやるさ』

 この1432とは僕の奴隷番号、つまり商品番号でありオークションにおける商品名である。奴隷法では奴隷も人間であるとあれやこれや遠回しになんとでもとれそうな役人用語を使うことでギリギリ最低限のラインは守っているが、倫理的な観点から明確に人であると深く突っ込むことは書かれていない・・・決して”客を外の金持ちに限定しているオークションのわりには品数が多いな”・・・とか、”普通オークションって言ったら超過需要を利用して物を売るシステムだよね”・・・とか、”クローズド?でもオープンでも商品はほぼ横流しだから人気がでそうな奴隷の入札開始価格設定さえ間違えなければニーズ重視で仮に超過供給になっても最悪ボロ雑巾みたいに捨ててしまえば懐は痛くないか”・・・とか考えながらこの非常な世界に絶望したよう目を虚にし、隅っこに座ってるのは現実逃避じゃない。
 牢に入れられ見せ物にされて気持ち悪い下衆の視線を向けられようと僕は至って冷静です、はい。

『なぁところでさ、魔力錠について一つ質問があるんだが』
『何でしょう。分析できる範囲でならお答えしますよ?』
 
 第2人格がイデアで第3人格がハイド。この辺の格付けは先に芽生えた順としてしっかりと決着がついたらしい。質問? もちろんウェルカムなんでも聞きなさいとちょっとイデアの機嫌がいいのも、そのためで・・・

『なら遠慮なく聞くが、そもそもコレをもう一度嵌めたメリットってなんだ? 例えば光の魔法でダミーを作って縛られてるように見せるとかさ、隠蔽を使って魔力の起伏を隠すとかいくらでもやりようはあるだろ? だが態々また嵌めちまえば魔法を使おうとすればすぐ壊れるから念話も使えない、デメリットしかない気がするんだが・・・』 

 ・・・あれ?

『あっ・・・』

 ・・・あれれ?

『そ、それはですね! もし競りの前に一度取り替えとかされればバレちゃいますから! 錠の交換があるかないかは予測できない不確定要素であり避けるべき事態なのです・・・ふぅ』
『なるほどな・・・でもやっぱり念話が使えればジョシュと連絡が取れるしな?態々チェルニーの魔石に別途番号を振るなんて面倒なことをする必要もなかった・・・そもそもあのオーナーはこいつの魔力を1200と計測したんだぜ? だったら3000まで魔力吸収できるこの錠を半日程度で取り換えるなんてするか? それも最後の悪あがきで錠が外れた瞬間に舞台裏で暴れられたりしたら事だぞ?』
『・・・・・・』
『イデア・・・』
『何ですか? 今更遅いんですよ! 過去を振り返ってこうすればよかったねぇ〜・・・とか取り返しもつかない時に言っちゃうのは無意味同然! つまり全員悪い!』

 ・・・a、開き直っちゃった。でも確かに、イデアが再び念話が使えなくなるという前提でチェルニーの魔石に番号を振ると提案した時、ハイドも僕もその認識の甘さを指摘しなかったわけだから何も言えない。

『そんなもんなのか・・・』
『そんなもんです』
『そんなもんなんだよハイド。だから次からは言い訳できる隙を与える前に滅多打ちにしてあげてね』

 今回は上手く逃げられてしまったが、ハイドはいい線いってる。マージしていない時の僕はそれも情けない話だが、イデアと口論になって勝てた試しはほとんどない。こうなれば存在意義をほとんど失いかける今にも失われそうなプライドは捨てて、ハイド党に移ろうかな。



──しかし、魔力錠の過ちに気付いてから30分後。

『・・・どうするよ、コレ』
『待て・・・ひたすらに』

 突然だが、ここからは魔法錠&魔力錠の豆知識。豆なのに長ったらしいし読まなくてもあまり本編には影響しないと思われるから飛ばしても・・・なんだリアム? 誰に向かって話してるのかって? 気にするな・・・これも一種の現実逃避みたいなものだ。

 魔法を封じる錠には一般的に2種類あり、魔法式の構築を妨害する無効化(キャンセル)型、時間あたりに吸い取る魔力を設定して対象の魔力を魔石などのタンクに溜め込む吸収型、まあ世間ではごっちゃになりがちだが魔法錠と魔力錠の呼び名の違いもこの辺にある。前者は単体属性に強く魔力を蓄える魔石などのアタッチメントも必要ないため何より安い。ただ対象とする属性を増やしていくほど高度で多くの式が必要となるためブラックリスト方式のような脆弱性があるのが欠点、一般的に魔法未熟者に有効である。一方で一般に魔法初級者から熟練者に使われることの多いオールマイティな魔力錠は持続吸収型、無力化した対象の魔力を枯渇一歩手前に維持することで根本的な魔法の行使を阻止する。欠点はタンクとなる魔石などの追加コストがかかることだが、魔力を放出すれば魔石は再利用可能だし長い目で見ればかなりお得なのである。完全一括吸収型なんかもあるにはあるのだが捕虜や奴隷を拘束するのに使えば魔力枯渇で人間が倒れるか錠が壊れるかになるからあまり実用的ではない。それこそ、持続型を嵌める前に敵を無力化するのには使えるだろう。
 さて、リアムの手に今嵌っている錠は後者が持続吸収型であるのだが、タンクの最大容量が小さすぎるのもさることながら、拘束対象者とタンクを繋ぐ橋渡し的な役割を担う魔法陣の構成があまりにも杜撰で欠陥だらけなのだ。特に制御系統が酷く変数を使わず1時間キッカリ50の魔力を吸い取るようにとだけ指定されている。こうなると持つ魔力が大きすぎるのも考えもので、さっき魔眼を発動した時のように慎重に魔法を使おうにも必ず起こる微細な起伏がどうにも時間あたりに吸収する量を決定する魔法陣(フィルター)に反応しピシッと壊してしまう。このフィルターは魔力を溜める魔石との仲介をなす部分で本体に掘って刻まれてある、つまりこの魔法陣が壊れるというとは本体の連鎖崩壊を意味しており、本来の設計が意図するアルゴリズムが違う面で効果を発揮し現在潜伏中のリアムの魔法行使を阻止している。ここの奴隷たちは平民の子供ばかりで入荷から出荷までが数日から1週間ほどと早く、魔力も千以上あるもの自体少ないからこの激甘調整で良い具合に無抵抗状態となる。そもそも本契約もなされていないのに契約違反を盾に刻まれた奴隷紋と偽書類によって行動を縛られると法螺吹いてるから、こういうところで手間(ジカン)と費用をケチっているんだろう・・・で、一部反骨精神逞しい者は内外2つの意味で雇っている警備員に捕まえさせて一石二鳥。溜まった魔力は魔力で別途商品化することもできなくはない。

『だけどねイデア、つまり余計な変換式を使ってないおかげで嵌めた瞬間魔力錠が弾けることもないわけで・・・』
『大体この錠の作りがお粗末すぎるからいけないのです。ポーションの効果が残っているのもありますがちょっとお漏らししただけで吹っ飛ぶとか魔法陣の計算と調整が甘い! もう少しそこが頑丈なら錠を嵌めたままでも魔力が吸収されないよううまく調整して初級魔法くらいなら使えるはずなのに ・・・ぶつぶつ』
『ほら、ここはポジティブにいこうよ! コストカットっていっても限度があるのに目先の小金に囚われてばかりいるからこれから店も潰れるし、名声も名誉も傷つく大損害を被るんだからバッカだよね〜・・・て・・・』 
『私だったらマスターの余った魔力を有効活用する意味でも新たに魔石を生成し圧縮過程でありとあらゆる魔法に機能する様に・・・データ量が限りなく膨大になりますがそれが実現できればあらゆる魔法を無効化できるアブソリュートキャンセル型を作れるのでは ・・・ぶつぶつ』
『僕、泣いていいかな・・・?』
『ん? 悪いリアム考え事してて聞いてなかった。もう一回頼む』
『これが完成した暁にはご褒美として自由に使える魔力を5万、いえ10万ほどいただきましょう! マスターいいですか?──”いいよ”  はい了解しました。では無事家に帰れた時でいいですから試作のために50万ほど魔力の提供をお願いしますね』
『・・・・・・』

 イデアがこうしてぶつぶつ文句言いたくなるのも無理ないけど、それでも最後の自作自演は酷すぎる。一応僕の魔力は僕のもので共有財ではないのだが、体を共にする者としてこんな強引な手に出られるのであればいっそ共有してしまった方が・・・いやだめだ。そんなこと許可すれば魔法線を知った時のケイトの様に歯止めが効かなくなる可能性がある。

「・・・グスン」
「Fooooo!!! 超タイプですますわ! まぁ〜家族のことでも思い出して泣いてるのかしら、いじらしい・・・決めた! 今日からこの子を私のペットにして思う存分可愛がってあげるわ!」
『あ、ちょっと演技が過ぎるんじゃないですかマスター? Sッ気ムンムンのマダムの嗜虐心を煽ってしまってますよ?』

 ・・・やっぱり僕はこれからの君の活躍に期待するよ。とりあえず同盟を結ぶから僕をこの悪魔の呪文から匿ってくれハイド・・・内と外どっちの悪魔かって?・・・両方。

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