アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

228 No_1432

「よし外れた」
「ありがとう・・・ありがとう」
「いいってことさ! ただし錠が外れてもこのままだと俺たちみんなお尋ね者だ。だからこれから俺とリアムでそうならないために契約書を盗みに行く。しかしいきなりみんなが脱走すれば、館内の誰かに気づかれる。だから・・・」
「蜂起するのはもう少し待って、もし僕たちの帰りが遅くなって商館の人間が君たちを連行しに来たら上手く手錠をかけられているフリしてそれから・・・」

 驚くべきことに、この地下には見張りの一人もいなかった。偽とはいえ奴隷紋が刻まれている上に、魔法を使えなくする手錠のおまけ付きだから逃走を考える者などいないと楽観的に高を括っていたのだろう。さらにいえば、ジョシュみたいに人攫いにわざと捕まる人間がいるなんてかなり稀なことだ。

「ジョシュ、妹さんは?」
「妹はここにはいない。実は妹は別口でな・・・さっき話に出てきた司教に賄賂として渡されることになってるらしいんだ」
「つまり特別だから別の場所に監禁されてるってこと? どうしてそんな扱いを」
「・・・おそらくそれは妹があるエクストラスキルを持ってるからだろうな」

 会えばわかるさ・・・と、地下の他の牢の扉の鍵も解いて潜伏解放状態にして待機させた後、ジョシュは上へと続く階段の前でリアムの質問に振り返りながら嬉しそう且つ少し自慢げに答える。

「だがその話はまた後だ。いいか、俺が事前に調べた情報だと階段を上がれば突き当たって扉がある。その扉の向こうに見張りが一人いるはずだ。まずは扉の隙間から外へこの眠り花の花粉を送ってその後扉をこっちから開ける・・・」

 気を取り直して1階へと続く階段を登っている最中、ジョシュが声を潜めながらこれからの行動についてリアムに指導していく。

「あのさ、その道具ってどんな風に収納してるのかな?」
「これか? 俺の右頬の内側には小さな魔法陣が刻んである差し歯が一つ仕込んである。といっても容量はそれこそ口に入る小物一つ二つ分だからこれだけでも一杯一杯だ・・・だがこうして仕込んどいて正解だったろ? 余程のことがない限り主人気取りの奴らは暗く見えにくい口の奥まで調べるなんてことしないからな」

 まさかずっと口の中に物理的にしまっていたわけでも、胃に飲み込んでいたそれを吐き出したようにも見えなかったから聞いた。ピッキング用の針金に花粉の入った小瓶、彼が口から出したそれらを見ていると、彼はこれまでどんな人生を送ってきたのだろうと興味も湧く。鴨がネギをしょってくるなどとんでもない。か弱いヒナでもなければ、血の絆をも欺く図太い托卵の所業(カッコウ)である。

「ストップ。扉だ・・・外は」

 地下牢への階段に背き登りきると目の前に現れた一つの扉。その扉には鍵つきのドアノブがついてはいるが、所詮一方通行の鍵穴だから外の様子は見えない。だからジョシュは耳を扉に当てて慎重に外の様子を伺う。

「見張りは調査通り1人ってところか。なら予定通りに・・・」

 人間の出す布の擦れる音や呼吸を敏感に感じ取って、ジョシュが見張りの存在を確認する。また確認が済み次第、花粉の入った瓶の蓋を外して扉の隙間から中身を口から吹き出す風と、手で仰いで生まれた軌道に乗せて徐々に丁寧に送りひたすらに眠るまで待って──

『んなの面倒だ。俺にやらせろ』
「はえ?・・・え!?」
「どうしたリアム? ちょお前何やって・・・!」
「わ、わかんないけど体が勝手に動いて・・・!」

 そうして扉を前に片膝をつくリアムの頭の中にハイドの声が響き渡った瞬間、僕のの全身は瞬時に霧となり、扉と壁のわずかな隙間をすり抜けて見張りのいる廊下へと出た。

「あーねむ・・・? なんだこの黒いもや・・・はッ!?」

 ・・・そして。

「ンーンーッ!?・・・・ンッ!!!・・!・・・・・・」
『やめろ! もう気絶してるだろ! このまま止め続けたら・・・!』
『ざまあない。俺の体をこんなところに閉じ込めた奴らだ。このまま殺してやる・・・!』

 部分的に霧化を解除して見張りの首を右手で絞め、左手はグーにして口深くに突っ込んだところで実体化させ喉を塞ぎ窒息させる。あまりの苦しさに見張りはガチガチと上と下の歯を何度もぶつけるが、いくら噛もうと喉の拳とリアムの体を仲介しているのは実体をもたない霧であるからそこに本来あるはずの腕の肉も骨も皮膚も傷つかない。加えてハイドはその見張りが気絶した後も、首を絞め気道を潰す右手を緩めることと喉を塞ぐ左手を口の中からひっこ抜くことはしなかった。

「・・・・・・」
『やめろ・・・いますぐやめろ・・・!!!』
『さあ受け入れろ。お前みたいな雑魚が俺の手にかかって死ねるなど光栄に思え? ははは! 生と死が俺の手の中にある! ああこれこそが現世!!! さあさあさあさあ・・・死』

 僕は一気に恐怖の世界へと引き摺り込まれる。全身を霧にする事自体ほとんど初めての経験だというのに、ぬるく絶妙に反発する圧迫感と少しテカリとした男の首肌を掴んで離さない手から伝わってくるあったかいダブルで不快な感触がたまらなくグロい。
 
「やめろー--ッ!!!」
『・・・チッ! またかよッ!!!』
「息は!・・・ある。よかった・・・」
『ここまで覚醒しても主導権はお前か・・・厄介だな』
「何がだよ・・・! お前いきなり何してるんだよ! 自分が今何をしようとしたのかわかってるのか!!!」
『ハンッ! わかっているさ!! これでもお前のおかげでちっぽけだが俺は共感ってものを覚えたんだぜ? だが今はただ俺とお前に不利益を齎すこいつを排除しようとしただけだ。気に入らない奴はねじ伏せる。ねじ伏せても抵抗する奴は殺す・・・弱肉強食こそが不変の俺の真理だ』

 大人しく抵抗を止める選択肢を考える時間(ま)は与えただろうと、リアムに殺しを阻止されたハイドが不機嫌そうに鼻をならす。しかし右手にべったりついた男の皮脂と唾液に塗れた左手から立ち上る臭い湿った空気。食われる前に食うの理論はわからなくもないが、今のは完全に僕のセオリーではカバーできない。
 ・・・チクチクと吹き出す緊張が胸を刺す。突然告知もなく奇襲し首を絞めておきながら何故・・・僕からちっぽけな共感を学んだとハイドは言ったが、どんな価値観を持っていればそんなことが言えるのかリアムは理解に苦しむ。

「たく・・・せっかくの俺の作戦が・・・」
「ごめんジョシュ。発作・・・みたいなものかな。立ち直ったつもりだったんだけどまだちょっと精神的にまいってるみたいで」
「・・・いいさ。こいつを温存できたのはでかい。隠せる武器は多い方がいいからな」

 目も虚に気絶する見張りの男とその男の身に着ける服でゴシゴシと両手を拭うリアム。リアムを追って急いで解錠して出てきたジョシュはその惨状を目撃しながらも左手を腰に当て、右手の人差し指でピッキングツールをまとめる輪を器用にクルクルと回しながら結果オーライだと一人突っ走ってしまったことを咎めはしない。だが彼は結果だけを尊重し過程を蔑ろにしているわけではない。決して嬉しそうではない彼の複雑な表情を見て、再びリアムの心にはチクリと針が刺さる・・・きっと心の中ではひいてるんだろうな。

「次は執務室のある3階にいくために階段のある方へ、そこからは雑だが一気に駆け上って野となれ山となれ・・・」

 当初の印象よりかなり広いジョシュの懐に救われたその後は、3階まで続く階段を目指して再びジョシュ先行の元2人は複雑に絡み合う廊下を走っては壁に張り付いて、あくびしながら見回りする警備が通り過ぎるのを待つ。視界がクリアになるまでは積極的な行動は控えつつのステルスミッションをこなす。ラッキーなことに牢へと続く地下への扉は商館の隅っこにあったらしいから、僕らが下手打ったり見張りの交代でもない限り人が活発に出入りする始業時間まで他のプリズンメイト達が既に準・解放状態であることに気づかれはしないはずだ。

『君は一体何者なんだ』
『いっただろ? 俺はお前だ』
『意味がわからない。僕がお前なはずがない』
『実ははっきりと否定もできないんだが決めつけは良くないな・・・つい今もそれをひしひしとお前は感じているはずで尚且つ意味がわからないのになぜ否定できる? それともやっぱりお前は望まない現実をねじ曲げられるほどの強者なのか? だがやはりそれじゃあお前の筋は通っていない』

 それからもジョシュが先導してくれるおかげで、こうして頭の中でハイドと会話する余裕も生まれた。だがああいえばこういう。矛盾に矛盾を重ねて指摘、否定してくる。こういう脆い部分をネチネチ責めてくるやり方はどこかの誰かさんに似ている。

『・・・マスター?』
「あれ・・・起きたの?」
『おはようございますマスター。しかしなんというか、夜通し装備を作らせ深夜テンションというやつに堕ちた時のマスターのように、あまりすっきりとはせずされどクリアなどっちつかずの感覚が私を襲って・・・』
『もう起きたのか』
『・・・!? あなた誰ですか!? なぜ私のテリトリーにいるのです!!? マスター不審人物です! 不審者です!!!』
『不審者じゃねぇよ・・・たく。お前とは昔いろいろあったが、これからは器を共にする同居人だ。水に流してやるから仲良く行こうぜ』
『してやるとか何様ですか? それに初対面なのに何を水に流すと・・・ちなみに私はイデア様です』

 リアムの悪口にすかさず反応するかのようにイデアが目覚めた!・・・なんて自尊心の高さ。

『じゃあ俺はハイド様か? 一応お前とは対等なはずだ』
『言ってる意味がわかりません。私はイデア。マスターと共に生まれた存在です・・・マスター! 私が眠っている間になに他の女連れ込んでるんですか?・・・やらしい』
『好きで連れ込んだわけじゃないっての! 僕も意識を失っているうちにいつの間にかいたっていうか、芽生えてたっていうか・・・』
『意識がなかったとか・・・どう考えても不貞を隠す言い訳にしか聞こえません』
『・・・僕もそう思った。けどイデアならわかるよね? 僕が本当のことを言ってるって』

 さて、ここからはおふざけはちょっと休憩、イデアが今になって起きれたのにもきっと理由がある。そして多分それは魔力である。なぜ多分なのかと言えば、魔力を吸収するという錠を外してからというもの、グングンと反比例して1秒単位の魔力回復量も従来のものへと戻ってきている。だが普段の僕魔力回復量ならそもそも容量に対して尋常ではないから、高々3千程度しか吸えない魔力錠ならば10分と経たぬうちに自然といっぱいになって壊れるはず。つまり僕が起きたときに魔力を感じられなかった原因は錠だけにあらず、僕自身が気絶していたことに起因するはずで結局その原因は謎のままである。

『・・・わかるから最悪なのです。あなたは何者で、なぜ私のホームにいるのですか?』
『ふはッ! あーお前らおもしろいな。俺の名前はハイドだ。今日からお前とここに同居してリアムの愛人仲間になる。よろしくな』
『えっああご丁寧に。こちらこそよろしく・・・ッて誰が愛人ですか! 私はマスターのパートナーです!』
『だけどこいつにはもう婚約者がいるんだろ? だったらパートナーってのは無理だわな』
『どうしてそれを』
『知ってるか? 俺もお前と同じでこいつの思考にアクセスできるんだ。もちろん、記憶にもな』
『んなッ! マスターのプライバシー侵害・・・もとい限りなくリテラシー的なプライバシー侵害アクセスは私の特権ですよ! そもそも私の言うパートナーの意味自体ももっと広義的なもので、あなたの言う婚約者などという限定的なものではなく、つまり私にとって一番の楽しみであるマスターいじりの特権を犯すとはなんたる無礼千万にも程があります!』
『おいおい先駆者だからって既得権益に縋るなよ。そこは先輩らしく懐がでかいところを見せて同じ土俵に降りてこい・・・立見席から吠えるだけなんてみっともないぞ?』
『なんですって・・・マスター。このハイドとやら超ムカつきます。今すぐ私の体の中から退去を求めます』

 どの体が君の体だって? でも今のイデアはちょっと正常じゃないというか、冷静じゃない。いつも僕を悩ませるそれらしい彼女の屁理屈(オハコ)は前後が噛み合わず互換性が曖昧で、何よりキレがない。いつもの彼女ならそれこそ同じ土俵に立つことはせずネチネチと口撃し弱点を攻めるはずだが、今のイデアはかつてないほどのアイデンティティのピンチに陥り自らポジションを明け渡していることにも気付いていない。
 ・・・僕を逃げ道として頼るなど実に人間らしい。ハイドの存在は僕たちに初めての事ばかり齎す。さすがのイデアも自分の領域に侵入する未知の存在は怖いようで、彼女がここまで取り乱すなどまず今までになかったことであるが、果たしてこれが良い兆候なのか悪い兆候なのかはわからない。 

「・・・アム! おいリアム! ボーッとしてんじゃねぇ!」
「あ、ジョシュ・・・ゴメン。ちょっと頭の中が煩くて」
「頭の中がうるさい? ・・・ちょっと何言ってるかわからんが、それより今は目の前に集中しろ』

 僕は果たして今日何回彼に叱られただろうか・・・いや、後何回叱られるのかを考えるべきか。・・・あれ? でもイデアが戻ってきたということは・・・。

「服よ、出ろ」
「・・・!? お前空間属性使いだったのか!?」
「あー・・・まあね。さっきはさ、魔力がつきかけていたらしくて魔法が使えなかったんだけど、これくらいならできるくらいには回復してきたみたい」

 そう、さっきも一度確認したが、体内に魔力が戻ってきている。少し心許ないが亜空間から物を出し入れする程度のことは出来そうだと試してみればできたから、今なら他にも初級から中級程度の魔法であれば使えるだろう。 

「ものの十分で亜空間にアクセスできるようになるとかどんな魔力回復力だよ・・・今日でお前に驚かされたのは3度目か? しかしこれでばったり警備と鉢合わせしてもとりあえず脱走奴隷だってことはパッと見わからないな・・・ナイスだ」
「いや・・・僕も自分のサイズ以外の服が亜空間にあったなんて今知ったし・・・」

 礼を言うジョシュに彼に合うサイズの服が亜空間にあったことに驚きを隠せないリアム。だがどうして自分でも把握していない物が亜空間の中に入っていたのかというと・・・

『私に感謝ですね』
『うっさい』

 つまり、そういうことだ。いっそのこと今度全部中身をひっくり返して亜空間を整理するか。

『プライバシー侵害反対! 断固反対を叫び主張します!』

 おいおい、さっき思いっきり僕のプライバシーはないみたいなこと言っておいて自分のだけ主張するとかどうなってるんだ。しかし君の心緒について尋ねれば、『マスターの物は私のもの、私のものは私のもの』とか言い出しそうでつまらないから口にはすまい。

「階段の近くはやはり警備が手堅いな・・・3人か」
「流石に見られず・・・ってのは無理だね。さっきの花粉は?」
「これは匂いを嗅げばまぶたが重くなり、一呼吸も吸えばたちまち睡魔に襲われるから敵を無力化するのにはかなりオススメの逸品だが・・・」

 ジョシュが取り出してからずっと手に握ったままの小瓶を凝視し複雑な表情をみせる。

「だめだ。ここだと充満させるのには広すぎる。果たして効果を発揮できるほど盛れるかどうかわからん。リスクが高すぎる」

 それにしてもこの商館、商館というだけあって中は広いし僕の知るマクレランドの商会とは申し訳ないが比べればかなり差がある。上手く瓶を投げ込めたとして3人を効果範囲に巻き込むのは難しい。加えてここは建物の中で風はなく、瓶が割れる音、そこから蔓延する怪しい粉に迷わず叫ばれたり対処されたらそこまでだ。爆発効果をエンチャントして拡散させるのもナンセンス、理由は同じく隠密性に欠けるためだ。
 
「それに俺の手札は実はこれで全部だ。あとは現地調達でなんとかするつもりだったんだが・・・リアムお前剣持ってない? さっき拾った剣(コイツ)はちょっと俺には大きくてさ」
「あるよ。大きさは・・・これくらい?」
「バッチリだ・・・今のところはまだプラスだな」
「まぁ今の僕が危なっかしいのは認めるけど」
「冗談だ。だからむくれるなよ? めんどくさいから」

 サラッと皮肉を言って冗談だと笑いながらも自分で話題を振ったくせにめんどくさいからむくれるなと釘を刺す。ちょっとそれは我儘じゃない?・・・まあ逆にそれくらい僕に心を許してくれていると言っていいのか・・・複雑。

「さて、武器も新調したところで・・・お前どのくらい戦える?」
「えっと武器もあるし今の魔力だとゴブリンを80匹くらいは余裕」
「わからんわからん!」
「でも対人戦はあまり慣れてないんだ・・・殺人なんてもっての外だし」

 うーん、風魔法を使って彼らに的確に花粉を届けて盛る方法も出来なくはない。だがさっきも言っていたように花粉は彼にとって切り札、これほど隠密性に優れた道具はまだまだ先が長いからここで使うのは躊躇われるし、ゲートを作ったり姿を消す高度な魔法を2人分数分維持できるだけの魔力は回復していない。80匹と言うのは精々ブーストを駆使し節約しながら剣をメインに戦った場合の数字で、右肩上がりで回復しているとはいえ本調子には程遠い。

「ならばマスターを囮に使えばいいんじゃないでしょうか? ほら、人柱として」
「見つかったか・・・!?」
「・・・落ち着いてジョシュ。これは」
「はじめまして・・・えージョシュ。私はイデア。マス・・・リアムの独立型スキルで体を共にするパートナーです」
「えっ・・・ああ・・・ろしく・・・???」

 すると、とりあえずハイドとのこれからの付き合い方を保留し先送り、いつものように裏で状況を見ていたイデアがそんな提案をする。それにしてもイデアが自分から話しかけるとは。きっと僕の記憶を読んでここまでの流れを把握したのであろうが、助けてくれたジョシュへのそれなりの礼儀のつもりなのか。だが──

「やだよ! まだ魔力もろくに回復していないのにそんな・・・」
「それでもそこらへんの雑兵の魔法を防ぎ切るくらいの魔防はあるでしょう? 何もアルフレッドやエリシア、ミリアのような貴族家系の魔法を防げと言っているわけではありません」
「それにお前さ、ここに飛ばされる前に体を改造したんじゃなかったのか? ビビるなよ。多少の傷を負っても肉体は再生するんだろ?」
「でも実際には一度もまだその真価を検証したことはないわけだよ・・・ぶっつけ本番なんて嫌だね」
「ぐずぐず言ってないでさっさとやれ! 痛いのがなんだ! それでもお前は俺の見込んだ人間か!? 俺を失望させるなよ・・・!」
「私も右に同感です。さっさと突っ込んで人柱となりなさい」

 人柱とかそんな不穏なワード、嫌な思い出しかないからね? それになんで急に2人仲良く僕を急かすわけ!?

「また変な声が・・・」
「ああ、俺はハイドだ。リアムの愛人な」

 注意;リアムたちはあくまでもステルスミッション遂行中のため周囲には気付かれないほど小さな声で喋っています。

「はっ? ・・・ジトー」
「ちょ、そんな目で僕を見ないでよッ!2人の言い方だと確かにやらしく聞こえなくもないけど、揶揄ってるだけでそういう意味じゃないから! イデアはね、ある日自我を持った僕の自己学習型のスキルでハイドは・・・なんだろ?」
「だから愛人だ」
「あーうるさい! 君は僕なんでしょ!? なんでそれで愛人になるんだりょッ!・・・イタイ噛んだ」
「世間体ってやつかな。つまり世を忍ぶ仮の姿ってやつか」
「ゼンッゼン世間体を気にした立場じゃないからねそれ! 愛人はないでしょ愛人は!」
「隣人であって隣人でない。だが俺たちはいま同じ穴のムジナなんだ。仲良くしようぜ」
「それなら私もこれからは外面は愛人になるわけですか・・・よろしく2号」
「お前が先にここにいたんだからそれもいいだろう・・・1号」

 1号2号と言って互いに手を取り合うイデアとハイド、姿は見えないがそんな妙な絆が生まれた光景が連想される。だーれとだれが同じ穴のムジナだって?・・・ああ、今この時に大声で叫べないことのなんたるもどかしさか。感情に反しあまりにも複雑に口をコントロールしようとしたせいで舌を噛んでしまったではないか・・・クソッ!
 
「わーったやればいいんでしょ!」
「やっとかよグズが」
「全く手のかかる」
「・・・君たちちょっとひどくない?」
「「ひどくない」」

 あーあ、もう知らない。一度彼女らのターンになったらもう僕には自分を弁護するターンも与えられないんだぁ。

「いいかいジョシュ! 今から君に5分だけ機能する光学系(ステルス)迷彩を施して、僕が騒ぎを起こすからその内に3階まで行って金庫破ってきて!」
「・・・は?」
「ステルスエンチャント!」

 これはカミラが使う屈折と反射を応用した光魔法のエンチャント版。小さく、しかしかなり複雑に練られた魔法陣がジョシュの体に魔力でペーストされる。

「うわッ! ・・・体が消えた」
「本当は消音の効果もつけられるといいんだけど、今の僕だとこれが精一杯だから・・・もし僕が捕まっても後ろは振り向かず書類の入手を優先して、ただし成功したらなんらかの形で僕に連絡してね? できる?」
「・・・分かった」

 30分という短い付き合いであるが、この文脈から瞬時に制限時間があるという部分を冷静に抜き取って判断できる彼の能力は信用できる。あまりにもムシャクシャしていたせいで事後承諾になってしまった事は、僕が囮りになることでイーブンとしてもらおうか。

「誰だ!」
「ヒッ・・・!」
「子供・・・なんだ迷ったのか? だったら正面玄関の受付は今君がきた道を引き返してずっとまっすぐ行ったところ・・・」

 それから、僕は廊下の影から一人階段近くを見張る警備達の前へゆっくり、ゆっくりと近く。なるべく興味を誘うため、怪しまれないため怯えたフリをして・・・

「・・・子供? なぜまだ店も始まっていないのに子供が・・・?」
「だな、この格好まさかお偉い方の・・・職場で子守なんざするなよな」
「君名前は? 親御さんはどうしたの?」

 シンプルだが見るからに作りのしっかりとした服を着ているから、警備員達はこの時商館の従業員か誰かの子供なのかと首を捻りながらも優しく震えるリアムに語りかける。だが──

「その首の紋!」
「まさか脱走奴隷か!?」
「・・・ッ!?」

 よく観察すれば、どうせ首に刻まれた奴隷紋に気付くから遅かれ早かれバレる。しかしこうして警戒を引き揚げずできる限り敵を僕に集中させ引きつけた。この時点で僕の目的は一つ達成され、後はなるべく騒ぎを大きくして館内全体を混乱させれば姿の見えないジョシュはかなり動きやすくなる。また僕が発見されれば、現在牢に残った仲間達がどうなるかは想像に難くないが、絶対に後からみんな助けるからそれで許してほしい。

「か、館内警備へ! こちら中央階段1階で脱走した奴隷を発見! 他にも脱走した者がいる可能性あり!」
「地下牢前、応答しろ! 商品が一人逃げてるぞ!」

 ──奇襲。そのためにも雇われ常日頃から不測の事態に対する心構えをし念頭においているとはいえ、脱走したはずの奴隷がわざわざ自分たちの前に大人しく現れたことに彼らは多少なりとも混乱していた。ガチガチに拡張しの武装し固められていても、空から地面から常識の壁外から不意を突けば案外脆いものだ。  

「脱走奴隷発見!直ちに捕獲する!」 

 それにしても、マニュアルでもあるのかシステムは案外しっかりしている。報告、情報の共有がきちんとなされ統制が取れている。通信系の魔道具はかなり貴重で高価なのだが、それだけ彼らを雇う商館が儲かっているということだろうか、それとも・・・

「この奴隷が! その服どこで盗みやがった!」
「どうせ意地汚い孤児かなんかだったんだろ? だから根っこまで腐ってんだよ!」

 やっぱりグルか。そうだよね、これだけヤバイ事やってるんだから、大事な商品の警備をする奴らもどこまで深く足を突っ込んでいるかは知らないが少なくともここにいる奴隷の事情くらいは知っているはずだ。彼らにとって奴隷の僕の扱いはやはり酷いもので捕獲か・・・僕は商品(モノ)でも獣にも犯罪者にもなった覚えはない。さすが違法に攫った子供を食い物にするゲスが経営する商館、選民意識と奴隷となった人間に対する差別が激しい。

「ん? よく見りゃあイジメがいのありそうな顔してんな・・・どっかの金持ちに売られる前に私がチョロっと味見してやるか?」
「馬鹿これだけの上物なら物好きが金貨10枚くらいで買うさ」
「それを傷物にしたとなると・・・やっぱやめとけ」

 男2人に女1人。計3人の警備員。

「わかったよ。だったらさ・・・」

 そのうちの女が、突然こんな提案を他の2人にする。

「誰が一番最初に”許してください”って泣かせられるか勝負しようぜ!」
「のった! 負けた奴は一杯奢りな!」
「まーた始まったよ2人の賭け奴隷イジメ」

 いの一番に女の提案に乗った馬鹿そうな男と、テンション低めに一線を引いた気怠げな男。

「パラライズ!」
「あっずりぃぞ! 私が魔法苦手なの知ってて!」
「早い者勝ちだ!」

 先手必勝早い者勝ちと賭けを受けた男が不意打ちの麻痺の魔法をリアムに放つ。賭けを持ち出した女はずるいと男に抗議し、あー終わったつまらないと落胆の表情を見せるが──

「な、なんだこいつ! なんで俺の雷魔法を受けてケロッとした顔で立ってるんだ!?」
「おいおい嘘だろ・・・今の私でも数分痺れるくらいの威力だったろ?」

 仕事上がりの美味しい一杯のために気持ち強めに放ったはずのパラライズ。 

「苦しんでる顔が見たくて手抜いたのか?」
「あ、ああそうだな!今度こそ! パラライズ!」
「わかってはいたけど、やっぱりミリアのパラライズに比べたらこの程度か」
「パラライズパラライズパラライズパラライズ・・・!クソッ! なんで効かないんだ・・・!」

 ジョシュはどうやら3階にまで無事到達したらしい。自分の魔力を込めて作った魔法陣だから、効果が持続し離れすぎない限り大体の彼の居場所はわかる。つまり僕の役目はほぼほぼ達成されたというわけだ。そして今の僕にとって一番の脅威は魔法が効かないからと物理攻撃を繰り出されること。イデアとハイドは再生するからと言うがやっぱり怖いものは怖いし、実験は安全を確保しじっくりとしたい。だが彼らは商品の僕に傷をつけるような真似はしないはずでその辺はあまり心配していない。だから、熱が入って彼らが滅茶苦茶に剣を振り回し始める前に──

「食らえぇぇぇ!」
「ギャァアアビリビリ!」
「ギャァアビリビリ?」
『・・・下手すぎた?』

 急なあまりの下手すぎる演出に首を傾げる警備員たち・・・君たちも0点0点と裏で評価しないの!

「・・・効いたん、だよな?」
「・・・体が!うご・・・!」
「ははぁんったくびびらせるなよな! ヨッシャ俺の勝ちだ! ちゃんと奢れよな!」
「クソッ! わかったよ! ただしいっちばん安いやつな!」
「なに?」
「僕は元々参加した覚えはないから、奢る義務はない」
「はぁーッ!?」

 そうそうそれから、ジョシュがどうやら例の部屋に入ったらしい。つまりもう偽造された書類は奪取できたも同然で、このまま歩いて外に出れば堂々と陽の光を浴びれもするだろう・・・だが約束がある。それにジョシュにも書類はすぐに破棄しないよう伝えた。

「あと報告、それまでの監視もお前の担当な? お前の手柄なんだからちゃんとやれよ」
「謀ったなお前!」
「謀ったも何も、お前が勝手に餌に食いついただけだ」
「ナハハざまあないね! 抜け駆けするからそんな目にあうんさ!」
「チクショー! だが約束は約束だからな! 俺の仕事が終わるまでお前らちゃんと待ってろよ!」
「ゲッ」
「だるい」
「待ってろよ!!!」

 自分の報告が終わるまで先に上がることは許さない、他の2人がブーブーブーイングをかますが、男は痺れて倒れる(フリ)をするリアムを担ぎ上げると、もう一度仲間に釘を刺し拘束具のある部屋へと向かう。

「あーとんだ災難だったぜ。せっかく魔法使ったのに報酬は安酒一杯か」

 オーナーが出勤してくるまでの間、男は愚痴を溢しながら気絶する(フリ)をするリアムを縛り見張りつつ、休憩室にて干し肉をかじる。

「このガキしゃんとしろ! オーナーの前だぞ!」
「こら! 子供を乱暴に呼ぶのは体裁が悪いからやめろと常日頃から言っているだろうが!」
「はっ! 申し訳ありません!」

 そして、場所は変わって約1時間後。男は出勤したオーナーに逸早く報告し夜勤明けの一杯を楽しみに3階の執務室へとリアムを連れ顔を出す。

「お前のパラライズを受けても多少だが耐えたと?」
「はいっ! おそらくこの坊、子供は掘り出し物です。俺が最初のパラライズに込めた魔力は大体100ほどでした。しかしそれを耐えて威力が上がり続けてもしばらく平気な素振りを見せたことから・・・」
「計算から導き出されるにこの年齢で既に千以上の魔力を保有していると、単純に言えばそう言うことか? おい! 今日の商品が身につけていた装備はどこへやった!」
「自分だって子供を商品って言ってるじゃ・・・」
「なんか言ったか?」
「いえっ! なんでもないっす!」

 体裁が悪いからと男を詰る細身だが紫を基調とし金色のラインの入った高価そうな衣服に身を包むオーナーの男。そして部屋にはあと一人、彼の秘書らしき女がいる。頬杖をつき座る彼の横に邪魔にならぬよう立っているから、尋ねずとも上下関係がはっきりと見える。

「ナンバーは?」
「1432番であります!」
「そうですね・・・1432、今日出品される奴隷の身につけていたものは既に梱包し各店に発送済みですね」

 が──

『売りに出した!?』

 No.1432は僕の首に刻まれた管理番号の数字であり奴隷紋そのもの。だが今はそんなことはどうだっていい! まさか夜鍋して作ったあの装備をこのオーナーが運営しているのであろうリサイクル店に卸したと言うのか・・・許せん。

「それじゃあ身元の確認はできぬと。仕方ない・・・ならば──」
『ヤバッ! 隠蔽!』
「鑑定」

 が、怒りにふつふつ燃えるのも束の間、育ちを分析する素材が手に入らず、何故か鑑定を唱えたオーナーの目を欺くためにリアムは急いで隠蔽の魔法を唱える。

「名前はナオト・・・ん? 変わった名だな、こんな名前果たしてあったか・・・まあ名などどうせ今日までの付き合いだからどうでもいい。で、年齢は9歳で魔力は・・・1200か、確かに平民にしては高めだな」

 リアムは急いで頭の中で隠蔽を唱え、一度自分のステータス情報に白紙をイメージし貼り付けるとその上に嘘の情報でザッと上書きした。因みにナオトは前世の名前を引用したものである。 

「特別なスキルもなく魔法も・・・雷のみでレベルがⅢか」
『ん・・・?』
「なるほど、だから俺のパラライズにも一瞬だが耐えられたのか・・・」

 魔法は確かに雷のみに設定しておいた。これならパラライズを僅かに耐えた理由になるかと、案の定警備員の男が勘違いしてくれたのだがしかし・・・

『鑑定・・・あ、なるほどね』

 オーナーの男の鑑定に疑問を抱いたリアムは鑑定をこっそりとし返す。そしてある事実とオーナーの発言との齟齬について確かめる。ついでに部屋に置いてある家具や道具、目に付くものも一応全部鑑定しておいた。

「特別なスキルはないがこれだけの魔力がこの年齢であればバッテリーになるから高く売れるな。だが脱走したのはいただけない・・・大方当番が錠の交換を忘れたとかそんなところだろうが、仕置きも兼ねてこいつは独房に閉じ込めておけ」
「はっ!ではこいつを独房に閉じ込めた後は、私も上がりのためしっかりと交代に引き継がさせていただきます!」

 それから──

「・・・ほら、これで仲間と良い酒でも飲め」
「あ、ありがとうございます! ご好意感謝します!」

 欲丸だしでそれを隠して伝えるとことに慣れていない言葉はあまりにも拙かったが、男はオーナーから見事に臨時の特別報酬をせしめる。因みにバッテリーとは魔力の供給源になるということである。奴隷の魔力を自由に使えるというのも主人となったものの特権、枯渇状態にさえしなければ虐待とも取られない。

「失礼します!」

 そして──

「傭兵はお金にがめついですね」
「ふん・・・あれくらいの端金で潤滑油になるなら安いものさ・・・はぁ」

 リアムを独房へと連行するべく男が部屋を後にすると、秘書からのそんな一言にオーナーの男は鼻を鳴らすが、最後はどことなく疲れた表情でため息を一つ吐くのであった。

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