アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

227 プリズンメイト

『起きろ』
「うーん寒い。あと少し」

 眠いし寒い。あとちょっとだけ寝かせて・・・毛布は・・・。

「本当に寒い!・・・っ?」

 しかし伸ばせども反対にまわせども、目を瞑りながら探れる怠惰な範囲に毛布はなかった。それどころか、体をゴロンと動かせば床は石で硬くて冷たいわ薄暗くて上からはポタポタと水滴が落ちてきて不衛生だわ、ほぼ天井といってもよい壁に空いた小さな穴から日の光がスポットライトのように差し込む始末。それに着ている物も縫製がかなり雑な麻の服とかなりチープでひどい。

『ようやく起きたか』
「君だれ?・・・イデアは?」
『イデア? はて、知らんな』

 上体を起こして背伸びをするや否や、唐突に頭の中に響く声。突如頭の中で声がして話しかけられる、この状況ももう日常茶飯事で慣れたものだが、どうにもいつも響いてくるいじらしくも憎たらしい音とは全く違った。

『だがお前の中にいるんだからお前は俺だろ?』

 だけど僕はこんな喋り方はしないし、俺っていう一人称を使うほどハイでもない。それこそ1年?だったかながらもダークサイドに落ちた前世の思春期以来・・・なんで期間が正確じゃないのかって? 別にいいじゃない穿り返したくない過去なんて忘れるのが一番なんだから・・・忘れきれてもないけど。それより今は今の話、これじゃまるで・・・

『いいなそれよし貰った。俺の名前はハイドでいい』
「いやよくないよ。そんな適当な・・・」

 二重人格モノで有名な小説から名前を引用するハイド。しかし僕はそんな精神的な疾患を抱えた覚えはないし、怪しげな薬を飲んだ記憶もない。それにまだ変声期が来ていないとはいえ、この声は確実に女の声だ・・・だー!デジャヴ!!!

「でもそれじゃあ君は僕から生まれたわけ?」
『そうであってそうじゃない。ま、運命共同体って言葉が一番しっくりくるかもな』

 だけど、確実にそれは他人じゃないと悟る。何故なら彼女は僕の考えを読んでいるから・・・こんなのイデアが自我を芽生えさせて以来の感覚だ。やっぱり精神がやられてしまったのか、自覚するなら早いほうがいいが──

「おいお前。目覚めるなり何一人でずっと喋ってやがる・・・うるさいぞ」

 そうまだ覚醒しきっていない脳を無理やり動かしていろいろ考えていると、再び突然叱りつけられる。しかし今度の声は、耳から確実に空気を伝ってきたもので・・・

「ご、ごめん」
「まだ夢心地か寝ぼけてんのかは知らんが気をつけろ。俺は今、精神統一中だ」

 うるさいと忠告した来た同年代の少年はそうリアムを叱ると、言葉通り目を瞑ってあぐらをかきながら精神統一を続ける。

「あの・・・つかぬことをお尋ねしますが」

 だが──

「あ?」
「えっと、ここはどこでしょう?」

 あり得ない連続に直面しているはずの僕はとてつもなく冷静だった。感情の起伏が乏しい。彼が寝ぼけていると言ったことも案外に間違っていないと思うし・・・しかしふともう一度周りをよく見渡せば、光のスポットライトが入る壁とは反対の壁には嫌な予感をバリバリに刺激する、頭の中に警鐘をガンガン鳴らす鉄格子があるわけであるのに、心がセーブされ背伸びし大人を演じようとしている。これは明らかに異常なんだと思う。まるで前世で死を受け入れかけた時のように・・・

「お前、今うるさいって言われて謝ったくせに直ぐにそのちっさな口開けて質問とか図太いな。それかただの馬鹿か?」

 彼が怒るのも無理はないが、ここがどこかを聞かずにはいられなかった。でも馬鹿はひどいのではないだろうか。

「まあ、お前が馬鹿じゃない方に賭けるか・・・俺の名前はジュシュ。お前は?」
「僕はリアム 。よろしくジョシュ」
「よろしくなリアム 。じゃあまずはここがどこかって質問に答えよう。牢の中だ」
「・・・それは見ればわかるけど」
「おっとすまない。正確には、ここは奴隷を売る奴隷商館の地下牢だな」

 ・・・え?

「喜べリアム。お前は肌は綺麗だし顔立ちも悪くないからオークション用だ。俺と同じでな」

 つまり今置かれている状況と彼の話を統合して整理すれば、ここは奴隷オークション会場の裏方、商品の奴隷を閉じ込める檻の中ということか。そういえば、人が会話している声や馬車の車輪が地面を這い叩く音など、微かに外が賑わっている音が光の差し込む穴の先から聞こえてくるような・・・

「ジョシュ。ここがどこなのかはわかった。だけど・・・」
「驚いた・・・お前ここがどこか聞いても動じないのな。だがせっかくの親切を無碍にしたな・・・マイナス2点」

 やっぱりただの鈍感な馬鹿だったか?と、ニヤリ口角を上げるジョシュ。しかし僕はそれでも動じない。さらにだんだんと彼の性格もわかってきた。背伸びしたがりのマセっぽい少年でリアリストを気取った理想家、つまり厨二・・・ゲフンゲフン。

「無茶だ。その手錠は魔力を吸い取るようにできてる。大体このサイズだと3千くらいまでの魔力を吸えるから、貴族でもない限り破錠は無理だな」
「へぇ・・・」

 奴隷オークション会場の檻の中だと言われ、ふと手に嵌まった錠を見たリアムにジョシュが警告をする。無駄に魔力を使うなということだろうが、100万近くの魔力量を持つ僕ならちょっと力むだけでこの錠を外せる。でも今は──

「ちなみに今日の日付は?」
「2月3日。因みに時間は夜が明けたばかりってとこかな。俺は三日前に拐われてここに売られた妹を助けるためにわざと捕まったんだ」

 2月3日。ウィルたちと決闘したのが1日だから、この日付が1年後か、数年後とかのことではない限り丸々1日と半分眠っていたということになる。

「問題はこの街を取り仕切る正光教会の司教だ。法に則らない奴隷証明書を偽造し攫った人間を正式な奴隷として・・・」
「ちょっと待って・・・どうして教会の司教にそんな法的文書の偽造とかできる権限があるわけ?」

 ここに入れられているはずの妹を助けるために自ら捕まったというジョシュが経緯を話す中で疑問が浮かび上がる。

「なんでってお前、ここは神聖帝国ユーロだぞ? 尤も、この街は国の端っこの方にあって軍事国家トロイや魔国が近いから多少やりたい放題やっても・・・」
「なんで僕は神聖帝国なんかにいるんだ・・・」
「疑問が多いやつだな? お前一体どこからきたんだ?」

 それからリアムは自分がなぜ異国の、それも奴隷商館にいるのかと頭を抱えながらも気を失う前のただしエキドナやファウストのことは隠してジョシュに話す。

「つまり気を失う一昨日まではアウストラリア王国にいたはずなのに、気がついたらこの檻の中だったと・・・ありえねぇー」
「でも本当なんだよ・・・ねぇジョシュ、もしかしなくてもアウストラリアからこの街って」
「まあお前の想像通りだな。この街からアウストラリアの国境まで確か3千kmくらいあるんじゃないか?」

 ・・・最悪だ。ノーフォークの街から一番近いユーロの国境までは大体千kmくらいだったはず。はぁ、どうして僕はこんなところにいるのか。

「なあ、お前馬鹿だって言われたから俺を馬鹿にし返してるんじゃないんだよな?」
「もちろんだよ! というか、この状況で嘘をついて僕になんの利益もないだろ?」
「ああ、だがそれは仮にお前の話が本当だった場合な。今言った通り、俺を馬鹿にしているんだとすれば更に手痛いしっぺ返しをくらうと思え」

 僕の今置かれている状況は確かに突飛だ。だが日付や場所から想像して、僕にとっても家族や仲間たちにも想定外のことが起こったのも確かだろう。裏切りなどもってのほかだし、だからこの状況で彼を馬鹿にするということ自体悪手であり得策ではないのだが──

「だけど・・・そうだな。わかった信じてやるよ。どうも俺を馬鹿にしたいだけだとお前にとってのメリットが少なすぎるしな。それに俺は他人の嘘に対してはちょっと敏感なんだ」

 ジョシュはどうやら僕の潔白を信じてくれるらしい。やっぱりさっき感じた彼の印象は訂正しておこう。彼のしてくれたように、先入観だけで人を見るのはよくないしね。

「さてと、で、自称ジャンパーのお前はこれからどうする気だ?」
「どうするって・・・もちろん、何日かかってでも故郷に帰るつもりだけど」

 何日か、何千日かかろうと僕には帰らなければならない理由がある。それは父さんとの約束・・・しかしとりあえずの目的を軽く口にしたのはいいのだが、周りを見れば現実とは残酷なもので向かいや同じの檻の中にいる他の奴隷仲間たちの姿が目に入る。膝を抱えて震える彼らの目はまるで、この世に生きる希望などないような絶望し虚っている。

「こいつらを助けるのはいいが、それだと逃亡奴隷として指名手配されるぞ?・・・偽造された契約文書があれば話は別だが・・・」

 ちょんちょんと、自分の首に魔法で刻まれた奴隷紋を指差して見せるジョシュ。鏡がないため確認できないが、おそらく僕の首にも同じ奴隷紋が入っているのだろう。

「その文書は誰が持ってるの?」
「それはここの商館のオーナーだろうな。オーナーの部屋は建物の3階、まだ出勤してきていないだろうから書類は金庫の中。そして館内は警備員だらけだから・・・」

 ならば一刻も早くその偽造契約書を盗まなければならない。唯一の救いはまだ、奴隷契約が完全に成立していないということ。だから現在、僕たちが盟約に縛られることはないしオーナーには所有権はあっても命令権はない。尤も、その所有権自体が偽造された違法に基づくでっち上げなのだが。

「あれ? 魔力が・・・」
「だから言ったろ? その錠は魔力を吸うって」
「ナハハ、まさかね。いやねジョシュ、僕が驚いたのはそういうことじゃないんだけど・・・」

 話も大体把握できたところで頃合いかな?とリアムが魔力の過剰供給で錠を破壊してしまおうとするが、何故か魔力を感じられない。これは予想外の事態だが、なにせ既に理解不能ではちゃめちゃな事はもう起こっているし、これらの原因がなんなのかそのアテもあるにはある。

「だったら──」

 だからリアムは取り乱さなかった、1ミリ足りとも・・・1ミリは言い過ぎか。

「こっちは大丈夫みたいだね」
「・・・! お前魔族か!?」
「いや違うよ。よく見て」

 突然ストンと手首をすり抜けて落ちた手錠を見てジョシュが目を丸くする。そんなジョシュを宥めるため、リアムは魔族の血胤によって契約紋が浮き出ているはずの右目を指差す。

「契約紋か?」
「うん。これは僕の大切な人の力。そしてこの霧化に関しては、魔族の種族的な性質に起因して発動するから魔力を使う必要がない」

 魔装ではなく霧化。魔力で仮想的な黒霧を作り出す魔装ならまだしも、ただ体を霧に変えるこの技ならば魔力がなくても使える。尤も魔装に関しては、出したくても今の僕は烏丸閻魔をまだ上手くコントロールできていないのか扱えないのだが・・・ありがとうエリシア。3千キロも離れた異国の地でも、君はもちろんみんなは僕の心の支えだ。

「状況が変わってきたな」
「風向きがね。さあ、みんなでここから脱出しよう」
「おっとストップだリアム。俺は人に借りは作らねぇ」
「えっ?」
「・・・ペッ。確かにこの錠は魔法を使えなくする。だが、だからと言って解錠できないわけじゃ・・・」

 口の中からそれらしい道具を吐き出したジョシュ。そして──

「ピッキングか・・・すごいね」
「こんなの俺にとっちゃ朝飯前だ・・・いくぞ!」

 ひょんなことからプリズンメイトとなったジョシュ。対して現在魔法が使えないリアム・・・ただし全く魔力が感じられないわけではなく、徐々にじわじわと回復しているのは感じる。

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