アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

224 想起

「だんだんと麻痺が効きづらくなってきてる。このエキドナってもしかして・・・」
「ああ。だんだんと、俺たちとの戦い方を学習しながら状態異常に耐性を持ち始めてる・・・戦いが長期化すると益々厄介だが・・・」

 リアムがイデアとブラームスの手によって改造されている間、復帰したエドガーも加えてエキドナを足止めする防衛戦線にて──

「雷神の籠手、雷神の鉄靴」
「うほぉミリアちゃん!ガントレットに加えて、サバトンも出せるようになっていたのか?」
「足と手じゃバランス悪いからあんまり見せたくなかったけど、これが私の今回の奥の手だったの・・・どうアイナさん? 驚いた?」
「ええ驚いたわ・・・でもやっぱりさっきの勝負、勝っていたのは・・・」
「眷属化が進んで精霊に近づくにつれて、アイナさんとの力の差がよく分かる・・・また、機会があったら私と戦ってよね!」
「いいわよ。でもその時も手加減はするつもりはないから、あなたも本気でいらっしゃいね」
「当たり前よ!」

 戦いの中で成長するエキドナに対し、長期化するにつれて皆苦しいはず・・・なのだが──

「ちょっとあなたたち! エドが戻ったからってのんびりしすぎよ!」
「大丈夫だよリゲス。後もう少ししたら、リアムくんが来る。それに僕はこれ以上足を引っ張るわけにはいかない。この僅かな時間くらいは、みんなの命を必ず繋いで見せる」

 この戦いの要が戻ってきたことで、チームの雰囲気が緊張感に欠けているというか、緩んでしまっていた。

「シャアアアア!」
「ふぅ・・・もう同じ手は・・・」

 ・・・いや、緊張が緩んだと言うのはやはり語弊があるか。
 状況に合わせて力を抜いた。心身ともに、より長く戦場で持久させるために。

「通じないよ」
「キシャア!!?」
「ハートウォール・・・心から信じれば、どんな攻撃からだって仲間を守れる」

 エドガーが自分とエキドナとの直線状に作り出したハート型に何層にも分厚く集中された壁が、鋭い尻尾攻撃を見事ドンピシャで弾く。

「そして信じるために大事なことは、まず自分と向き合って信じてやること。そのことを教えてくれたのは、アリアの仲間たちと・・・」

 そう、彼らは信じていた。一度は確かに倒れてしまったが、それがなんだ。未知の相手を前にすれば誰だってわからないことに四苦八苦する。例え命がけで望もうと、そこには確率という不確定な要素が絶対に介在する。
 
「いくぞエド! リミットブレイクしろ!」
「了解カミラ! リミットブレイク! 第一段階ソピアー!!!」

 だから本気で臨む。後悔しないように、ギリギリのスリルを絞り出してそれを糧に変えて・・・。

「合技! 紅光薔薇(レッドフラッシュ)──!
「合技! 五感略奪(ナイトレイド)──!」

 そして本気で望むんだ。自分がボロボロに崩れて立てなくなってしまっても、いつも側にいて支えになってくれる存在を・・・──

「光をもって光を奪う」
「命を天秤にかけて人生の幸福の一部を奪う・・・僕の研究は家族のための自己探究であり、償いなんだ」

 ──心の底から、支えたいと思える家族(パートナー)を。

「見事! 久しぶりにお二人の実力を拝見させて頂きましたが、現役を退こうと衰えることなく寧ろ技が研ぎ澄まされている・・・感服致します」
「まだまだ私たちは現役だっての! まああんたの言う通り、こんな風にスリルある戦いはご無沙汰だけどな」
「なになに!? 急にエキドナがボーッとして動かなくなったんだけど!?」

 ミリアの言った通り、カミラの放った赤い光と、その後に間髪入れずエドガーから放たれたエキドナを包み込むように襲った緑色の光が全身に染み込むと、途端にエキドナが体の動きを止めて動かなくなってしまった。

「あれはねミリアちゃん。まずカミラの光の奇襲で外部に対する情報をカットすると同時に不安と混乱を与える。そうして相手の精神状態が不安定になったところを、エドの持つ特殊な属性の魔法で対象の感覚を侵食して奪う2人の合わせ技なのよ」
「生き物が本能的に最も危機感を抱きやすい色は赤だ。隙を突きつつ精神的なダメージを与えるのであれば、赤い光が有効だからな」 
「加えてエドのナイトレイドはエグいぞ〜・・・解呪されるかエドの魔力がなくならない限り効果は続く。ただ今は安定してるが、エドのリミットブレイク状態は色んな意味で良くも悪くも不安定だからな・・・」
「失敗すれば反動もそれなりなのよね?」
「・・・うん。ナイトレイドは状態異常系の闇魔法から発想を得たもので、リミットブレイク時じゃないと使えない技なんだ。そして失敗したときの反動も大きいから、少しでもすんなりと敵の抵抗をすり抜けて干渉するために、何か敵を混乱させるような補助があれば御の字なんだよ」

 そして今、一体目の前で何が起きてどうしてエキドナが動かなくなってしまったのか、初代アリアのメンバーたちが自慢げにミリアとヴィンセントにその説明をする。

「? ちょっと待って。そもそもリミットブレイクって何? なんで不安定なわけ?」
「あ・・・それは」
「それになんでこんな便利な技もっと早く使わなかったの? それとも使えない理由でもあったってわけ?」

 しかしここで、リミットブレイクについて疑問を持ったミリアからの鋭いツッコミが入る。この疑問に、ツッコまれたメンバーたちはついつい子供のように力を自慢してしまったことを悔やむが、

「父さん!・・・今の父さんは」
「もちろん僕(エドガー)だよ。安心してレイア」
「よかった〜」

 ふと、回復したカミラの後に遅れてエキドナ戦線へとやってきたレイアが、エドガーとそんなやり取りを交わす。

「・・・うん。どうせ君のお父さんも知っていることだし、それじゃあミリアちゃんの疑問に答えるとしようか」
「・・・良いのですかな? 私も昔一度、お聞きしたことがあったと思いますが、その時は頑なに拒まれていたと・・・」
「いいんです。ミリアちゃんのお父さん・・・と言わず、ヴィンセントさんももう、僕らの立派な身内でしょう?・・・僕は今この時死戦を共にしているあなたたちが、無闇矢鱈に言いふらさないと信じます」

 そしてレイアを優しく迎え入れたエドガーは、彼女の頭を優しく撫でながら、リミットブレイクの秘密についてヴィンセントとミリアに語ることにする。

「アニマは悪い奴じゃないんだ。ただ、悪い奴じゃない・・・そういった善悪がアニマにもあるってことは、こいつにも一つの自我があって人格があるということ。2つの違う人格が境界もなく、妖精族と人種の混じった血という最も剥がし難い形で1つの体内を巡り存在している。
 最初はお互いの自我は強い形を持っていて、それが境界の役目を果たすんだ。けど、だんだんと同じ時間を過ごすにつれて、互いの自我はやがて収束を始める。決して混じってはいけないものが混じるということは、それは相応のリアクトを示すはずだ。そしてこの時点で、当然に一つの矛盾が生まれる。僕はこの矛盾を正当化するために長い間苦しんできた・・・それこそ長い間、何度もエドガーという一人の人間と向き合うことで自我を再確認し、今はやっと心の形を保って境界を維持している。ただし、一度僕の中にあるアニマの存在を許せば、再びアニマとの人格の混ざり合いが始まって、強い拒絶反応を起こす・・・故に不安定、精霊の純粋な力をこの上なく引き出せるようになる一方で、精神は限りなく不純なものとなり、やがてXOR(こたえ)を求めて激しく形を変えながら暴れ始める」
「・・・? そのアニマというのは・・・」
「エドの中に宿ってる精霊の名前だよ」
「宿ってる? そんな馬鹿な・・・精霊とは、一つの存在です。その精霊が宿るなど、ゴーストが人に取り憑く現象とは訳が違う」
「元々種族上精霊と人間の間にあるような妖精族は、種族としてはかなり微妙なバランスの上に成り立っているんです。そこに、精霊と契約を交わし力を共有する人の血が濃く入り込んだら・・・」

 エドガーの言う通り、そこに人の血が混じれば精霊と契約できる妖精族の誕生だ。ただ逆の視点から見れば、それは精霊により近い魔力を持つ人種の誕生でもある。精霊と存在的に近い妖精族でも、契約して力を引き出す人種でもなければ、精霊と彼らが契約を結べば何が起こるか。・・・答えは今まさに、ここにあった。それが人と精霊が混ざってしまうという奇怪を引き起こした。エドガーのように、肉体に精霊を宿した混じりである。

「さて・・・エドもリミットブレイクしたことだし・・・」
「大丈夫エド? 気分は悪くない?」
「大丈夫だよアイナ。まだ第一段階だから・・・」
「そうだぞアイナ。私の旦那は優しくて強い!・・・どっかの根腐れ男と違ってな」
「あんだと? 言っとくけどな、ウチの嫁もどっかのアバズレと違って強くて優しい上に気品もある!まずはその粗暴な態度を改めてから土俵に立ってもらおうか」
「はぁーい二人ともそこまでよ? もう子供もいるっていうのに、相変わらず成長しない自分をまずは恥じてから出直すこと。相手のことをとやかく言うのはそれからよ」
「それじゃあ結局とやかく言えないだろ!」
「あらやっぱり息ぴったり。やーねーもう」 

 人という漢字は、人と人とが支え合って、という有名なドラマのセリフがあるが、彼らの場合も案外にそう言える。人格の排他的論理和に苦しむエドガーも、彼らという人集合(グループ)の中に一度加わることで、なんとか矛盾を回避した。諸説果たしてそれを正当化と言っていいのかとは疑問であるが、やはりそれを想像=創造できることが、人間の良いところであると、

「もう最終確認はないだろう? さてと・・・それじゃあ僕たちの出番だね」
「はい。マスター・・・行きましょう」

 遂に人体改造が終わってコッソリと聞き耳を立てていたリアムは信じたい。

「・・・チロッ」
「・・・!?・・・みんな、あまりほっこりと団欒している暇がなくなりそうだ」
「なんだと?」
「見ろ・・・エドの魔力も意識もまだはっきりと残っているのに、エキドナの体の一部が少しずつ、動き始めてる・・・」
「なんて対応力だ・・・まさか生物の根幹に影響を与える僕の魔法に、こんなに早く抗い始めるなんて・・・」

 やっぱりギリギリまでこの技をセーブしていたのは正解だったと、エドガーは自分自身の判断に少しホッとする。なぜなら──

「あとは任せたよ・・・リアムくん」
「はい。みんなお疲れ様でした・・・あとは僕が、エキドナを引き受けます」

 ゴールは目前なのに、その道のり遠かった。遂にこの戦場を終戦へと導く英雄の到着である。

「勝つか全滅かですね。確かにこの戦いを終戦へと導く英雄です」
「やめてよ縁起でもない。ほら、華やかな選手交代だ。やるよ」
「期待には応えねばデスカ・・・了解です」

 ただし英雄の証となる剣においては、かなり性格的な不安も多いが。

「それでは、コードを発行します。コードは・・・、また起動のコードは・・・です」
「粋な計らいをどうも」
「いえ。こういうことは、手順というものが大事だと私も思います」

 全くどこに気を使っているのかこの子は。でも、こうやって皆が作ってくれた場所を歩いて、道を開通させる最後の役目を務めるというのは、不安もあるけど物語の主人公になったような既視感を感じてなんだか楽しいかも。

「期待に応えないとね」
「ちゃんと決めてくれないと、何度でもテイクさせますよ」
「そこはほら、忖度してよ」
「イヤです。私は派手好きなんです」
「・・・あんまりグダグダ言ってるとそれこそグダるから、もう始めるよ」
「・・・しょうがないですね」

 今回助手であり、オペレーターでもある彼女は派手好きである。最早そういった系統の一人の演出家と言ってもいい。

「いくよイデア・・・コード ”アナムネーシス” 準備開始!」
「コード ”アナムネーシス”の申請を確認、受理しました。これより対象との接続及び、融合(シンフォニア)に伴うインスタントプログラムを作成し実行します。マージする対象を選択してください」

 だからこそ頼もしい。彼女はここ一番に失敗するとはないし想像できない。つまり口にするのは小っ恥ずかしいが、信頼している。

「イデア」
「対象の選択 ”イデア” を確認。また、対象イデアとの適合を確認及び、承諾を得ました。続けて魔法式プログラムの作成を開始。・・・」

 次々と、融合に必要な処理を済ませていくイデア。なるがままに身を任せるばかりでこれが終わった後、彼女に体の主導権が奪われているとか、立場が逆転していないことを願うばかりだが、そう言った心配は多少あってもいいだろう。なぜなら心配や不安の裏付けがなければ、信頼という言葉は存在し得ないのだから。

「終了。・・・よって最後に、最終確認ですマスター。承諾を」
「アナムネーシスを実行する」
「了解、承諾を確認しました。では、起動コードの号令をお願いします」

 それに、この子の場合完璧に信頼しているなんて言った日には、プロポーズ?・・・セクハラですか?とか言って一線引いたようでひいていないような屁理屈がましい僕が一番嫌う対応をしてくるとか、とにかく揚げ足をとって調子に乗りまくることが予想される。だけど──

「ブート!」

 彼女が何気に一番のリアムの性格をわかっていて、尊重し合う隣人であり、切ろうとしても切れない一蓮托生の腐れ縁になることは間違いなくて。

「起動コードの発令を確認。プログラムの実行、及びインストール開始・・・Reacting イデア・・・」
「な、なんだこの風・・・!?」
「強い風なのに、寒くない・・・そして・・・」

 突如、リアムの体が眩い光の繭に包まれると、それを中心に強いのに寒くも暑くもなく、ぬるく肌を舐めるような怪しげな風が吹き荒れる。

「・・・森が!?」
「燃えていた森の火が消えた・・・いや、それよりも・・・!」

 唐突にエキドナたちのいる方から吹いてきた怪しげな風に、シルクと戦闘中だった別動隊も戦いの手を止めてそっちを見る。そして同時に彼らの目にはとてもではないが信じ難い光景が映る。風景として変化するリアムを捉えていた彼らには、先ほどまでアイナの引火させた炎で燃えていた森の炎が風によって鎮火される現象どころか、

「ハッハッハ! よく見ていなさい下等な人間たち・・・あれが神に選ばれるということ、リアム様が神イドラの使いであると裏付ける証・・・のはずです・・・!」

 その光景を見てシルクは一筋の汗を額から垂らしながら笑う。ただし直ぐに、黒く焦げた木の幹から次々と芽を出し緑に彩られる森を見て、誰も見たことがないようなお伽話のような世界を前に、夢を見ているのではないかと現実さえ疑いながら固唾を飲むと後は静かに成り行きを見守る。

「あれは・・・リアムなのか・・・それともイデアちゃんなのか・・・」
「わからない・・・でも、怖い者じゃない___むしろ」

 ・・・優しく愛おしい。光の繭から姿を現した人間は、まだ残光を体に宿していたが、それでも、あの怪しげな風を生み出していた事とは真逆の安心感を、シルク以外のその場にいた全員が覚える。

「マージ=第一段階(Op.1-1)」

 毛先だけが白くなったツートンのカラーの黒髪に、閉じられた左目の隙間から、大きく緑色の命の魔力が吹き出し始める。だが何故か、その左目からは一縷の涙が頬を伝っていて・・・そして──

「想起」

 ゆっくりとまぶたを持ち上げた人物はまだ・・・。

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