アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

222 アリアドネの糸

「魂・・・とかじゃないよね」
『どうやらそのようです』
「嘘でしょ・・・」

 ゲイルから出てきたそれをソッと手の上に乗せ、ジッと凝視する。リアムの手に収まるほどの淡い光であるのに、中心は濃く、発光源を見つけようとすれば果てし無く深い底のない世界へと連れて行かれそうな危うさを秘めている。

「・・・どうしたのイデア? なんか声が・・・それに・・・」
「・・・私も驚きのあまり取り乱しまして、一瞬回線が混乱してしまって」

 さっきまで耳に届いていたイデアの声が、どことなく力がなく、また頭の中で曖昧に響いたために尋ねてしまったが──

「そう? ならいいけど・・・」

 どうやら大丈夫そうだ。

「・・・で、コレがゲイルの魂だって根拠は?」
「それは・・・後、2秒」
「2秒?」

  そしてイデアが告げた2秒後──。

『なんだコレ!?』
「喋った!?」

 改めて発光体を凝視しワンテンポ、そしてツーテンポと丁度良い間が空くと、なんとゲイルの魂=発光体が突然にして喋り始めたのだ。
 
『なんだなんだ!? もしかしてリアムか!? それにしちゃあ随分とでかいが・・・』
「ゲイル・・・? ハハ・・・ホント? 本当にゲイルなんだね?」

 それは確かにゲイルの声であった。あれ・・・? でもそういえばさっきまで、ボク、ゲイルと喋っていたような・・・。

『ぎゃーッ!!! なんで俺の体がそこにあるんだ!?』 
「とにかく、無事でよかったよ」
『ああ全くよかった・・・ってコレを無事っていうのか!?』
「いわゆる幽体離脱ってやつなのかな?」
『いや俺はそういうことを聞いてるんじゃなくてだな・・・』

 この時、リアムには不思議と焦りはなかった。あるのはもう一度ゲイルとこの場所でこの時に再会できたという喜びと、嬉しさ。

「コレは・・・完全にアウトだな」

 一方で、唐突に感極まったように何もないはずの掌の上を見て独り言を話すリアムに、ブラームスはコレはダメだと頭を抑える。

「何も見えないけど私にも聞こえる・・・ゲイルの声が・・・」
「なに?」
「エリシア・・・それは本当か?」

 だが、リアムをなだめるために側にいたエリシアまでもが、なんとゲイルの声が聞こえると言い始めたのだ。

『・・・あれ?』
「ゲイル・・・?」
『・・・てっ』

 そして、ゲイルの魂略してゲイタマが喋り始めて束の間。

『消えてる! おいリアム! 俺が消えかかってるぞ!』
「・・・? 別に発光体にはなんの変化も起きてないけど?」
『馬鹿! 肉体の方だ! 俺の体が消えかかってるって言ってるんだよ!』
「リアム!こっちよこっち!」
「えっ?」

 物理的にもエリシアに促され、リアムがゲイルの本体?にさっと目をやる。すると彼らの言った通り、魂が抜け出したゲイルの肉体が、リヴァイブの復活のために透け始めてしまっていた。

「ちょ! コレってもしかしなくともやばいやつなんじゃないかな!?」
『どう考えてもヤバいだろ! あれってリヴァイブに死んだ奴が送られる時になる奴だろ!? 待て・・・今俺って幽体離脱してるんだよな・・・だったらもし、このまま体だけが転送されたら・・・』
「復活しないか復活しても肉だけのセミの抜け殻、ですか・・・御愁傷様です。ゲイル」
『冗談じゃない! おいリアム! 今すぐに俺の魂を体に・・・!』

 体だけが持っていかれそうになり、激動の一日だった今日一番の焦りを見せるゲイル。そりゃあ目の前で自分の体がどこかへと行ってしまいそうになれば、焦るだろうが。

『おい何してるんだリアム! 早く俺の魂を体に入れてくれ!』
「大丈夫。大丈夫だよゲイル」
『・・・はっ? いやいや大丈夫じゃない! だいじょばないから!!!』

 しかし、リアムは焦るゲイルに反して落ち着いていた。

「なんかさ。今の僕にはゲイルの魂の他にもいろんなものが見えるんだよね・・・」

 さっきまでのアメリアの時とは違う。今度のリアムには何故か絶対と言える根拠があった。

「ゲイルの体を別の空間に引っ張って行こうとしているこの糸とか・・・」

 それは白い光の糸だった。見渡せばそれはリアムやウィルに仲間たち、あのシルクからもそして今尚燃え続ける森や遠くはるか別のエリアからも、何本もの束となってエリアEの谷の底へと伸びていた。伸びている糸はやがて収束し、幅がわからないほど大きな1束となって見えない暗い谷の底へと繋がっている。

『なあリアム・・・お前もしかしなくともその糸とやらを・・・』
「うん。切る」
『や、やめろ! やめとけって! それって絶対切ったらいけない感じの奴じゃないのか!?』
「逆だよ。もしこれがリヴァイブのシステムと関係があるもので、君の蘇生を邪魔しているのだとしたら・・・」

 どっちみち、この状態でゲイルを放置してなるように流れに任せるのは良くない。今判断を誤ったら、最悪ゲイルが元に戻れなくなる。・・・大丈夫。肉体の修復は完全に終わっているし、心臓を貫かれてからすぐに処置したから血もそれほど失っていない。呼吸と心臓が止まってからまだ時間は約5分。持続系の回復魔法もずっとかけている。だったら──

「それにほら、もう切っちゃった。さあ・・・生き返る準備はいい?」
『・・・嘘だろ。お前ってこんなに強引な奴だったか?・・・いや、だったか』

 リアムが手刀でゲイルの体の上をまるで蜘蛛の糸を払うように断つ。またその軌跡は、緑色の光で描かれて・・・ゲイルの『だったか』とは強引に彼を家から連れ出したあれのことだろうか? 確かにあの時の僕の行動は強引だったが、この先あの日のことはずっと彼にネタにされそうだね。 

「それよりさ・・・一個聞きたいんだゲイル・・・どうして君は、僕を庇ったりなんかしたんだ?」
『・・・俺はどっちみち魔力が限界スレスレで、碌に戦えるかどうかもわからなかった』
「嘘はダメだ。そんなの君らしくないよ」

 彼は自己犠牲をして戦いに参加できずそれでよしと、簡単に物事を諦めてしまえるような人間じゃない。ならば、彼はなんとしてでも最後まで残って、戦いに参加しようと粘るような人間である。

『はぁ・・・。わかったよ・・・。俺はな、あのクソ野郎に一矢報いるぐらい、してみせたかったんだ・・・!』

 彼の本音がひしひしと、魂を介して伝わる。

『だけど格好はつかなかったなぁ・・・まさか全部奴の掌の上だったなんて・・・』
「それがゲイルの答え・・・?」
『そうだ。だけど結果論としてはどう考えてもあれは必要だったろ? それにコレは停滞じゃなく、大きな一歩だ。俺にとってはな・・・俺はもう後悔したくない。これって普通のことだよな』

 大丈夫。彼は別に生きることを諦めているわけでも、捨てようとしているわけでもない。だからゲイルは生き返るとリアムは確信するし、その未来が確定したことを悟っていた。

「まさか幻想を見せるほど死をリアム様に惜しんでもらえるとは・・・泣ける! 素晴らしき友情がなせる業ですね・・・実に良い! 我らが神の子と親密な関係を築くということは実に・・・」
「黙れ──」
「はうぅ・・・!」

 外界からリアムの様子を観察していたシルクの要らぬ感想を、完全にシャットアウトするリアム。拒絶されたシルクは叱られた子供のようにビクビクと怯える。

「お前みたいな奴と友達の友達になった覚えはない。ゲイルは既に、君から自立している」

 リアムの言っていることに違いはない。それにことあるごとにリアムとの繋がりを持とう確認しようとするシルクの言動は、鬱陶しいこと極まりない。

「ゲイルは命がけでボクを助けようとしたんだ」

 だったらこのままノコノコと逝かせてたまるか。

「リアム・・・今は目の前に集中しろ」

 透明になって消えていっていたゲイルの体が、だんだんと今目の前に再び存在し始めている。体はすでに修復した。

「彼にはここにいる権利がある。そして助けてくれたゲイルをボクが全力で支えてみせる。だから消えるなゲイル・・・」
『ああ・・・なんかわからんが、俺も絶対に助かるって思えてきた』

 だからあとはこの魂を戻して──、もう一度・・・

「そして・・・」


 そ
 し
 て
 ・
 ・
 ・
 
  
 



 な
 お
 れ
  ゜ 



──救命(リヴァイブ)。そしてリアムが魂をゲイルの体に押し込み、魔法鍵(スペルキー)を唱えた次の瞬間──・・・!

「ガハッ! けほっ!」
「────ッ!」

 ゲイルが息を──

「・・・うそだ」

 吹き返す。

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!」

 スゥーっと体がはっきりとした現実のものへと戻り、色を、生気を取り戻していく。

「嘘だ! 死んだ人間が! エバが齎す生命への冒涜、彼女の輪廻に捕まった者を奪い甦らせるなど・・・!?」

 リアムの左目の魔眼・・・がメラメラと緑色の光を燃やしている! いや、だがそれよりももっと驚くべきことは──

「あの段階は最早死なんて生易しい業じゃない!」

「そんな! いやしかし──!」と、リアムの様子を見て情緒不安定なシルク。また──

『彼は今、死を・・・コントロールした・・・のか?』

 横目に、ウィル達のサポートをしながらに状況を見ていたエドガーは、シルクが取り乱すほどに驚愕している本当の理由を理解する。

「憎きエバの強欲からは誰も逃れられない! それは人間の命なんて魔法じゃ逃れられないはず! 本当の命の魔法を使えるのは、我らが父とエバのかつての・・・ッ! 危ない危ない。いずれ使徒のしもべとなるシルクとしたことが・・・取り乱しすぎて・・・を口走ってしまうところでした・・・!」

 ・・・惜しい。取り乱し次々と重要そうな情報を漏らしていたシルクが、ファウストの核心とも言えそうな情報を漏らしてしまう直前で、踏みとどまってしまった。あと一歩のところで・・・と、ブラームスが内心舌打ちをする。

「ですがそうなのですか〜・・・そんな余計なおまけがついていたとなると、当てが外れましたね。しかし──リアム様が、やはりイドラ神の使徒であることに変わりはない・・・いや、それどころかこれで確信。まさかの重大情報の入手! 私お手柄です!」
「ファウスト! 貴様らは一体何を持ってリアムを破壊の使徒であると断定する!」 
「ヌフフーそれはもちろん秘密ですよ〜」

 結局、ブラームスのその最後の足掻きも初めから予想された通り、当然のごとく軽く遇らわれた。

「ねえイデア・・・」

 しかし──

「はい。なんでしょうかマスター」
「イデア。さっき君はボクが間抜けてた時、当然君のことだから、アメリアがエキドナに変態した時点で生き返りはしないってわかっていたんだよね・・・?」
「・・・はい」

 ただ、これまでの寸劇が無駄であったのかと言えば──

「じゃあなんで君はボクと茶番を演じた?」

 ──違った。リアムにとってこの時間は、何よりも感情を高ぶらせ、かつ、この苦しい状況に活路を見出すエネルギーを獲得するためには十分な役割を果たしていた。

「今ならわかる。やっぱり君には何か策があるんじゃないの?」

 ・・・今ならわかる。何故かはわからない。しかしこの感覚は、過去にも1度か2度、体験している。

「確証はありませんが、一か八かアメリアを救う可能性が一つ・・・」

 そしてそれはきっと、イデアとの ──・・・の共有。

「・・・それは?」
「はい。今回アメリアがエキドナとなってしまった原因はほとんど明らかで、あの種子が病巣と考えるのが妥当です。ですから考え方はいたって単純で、いわゆる悪性腫瘍の外科手術と同じです。血管に巻きついたケースで癒着した腫瘍を剥がすように、根と原発巣である種子を完全に剥離し、アメリアの体から慎重に取り除けばあるいは・・・」
「・・・エキドナを動けないよう拘束した上で、相当細かい魔法操作を行い、さらには死んでしまわないようバイタル管理しながらアメリアの体を回復もさせる・・・」

 シンプルだが、思いつく限りを並べてみただけでもこれだけの手順だ。もちろん実践にはこれ以上の手順や臨機応変さが求められる。特に、剥離段階においては相当な数のアプローチと緻密さが求められる・・・か。

「外科手術・・・? 一体なんの話をしてるんですかリアム様ぁ〜?」
『マスター。ここから私は、裏のチャンネルでのみ発言をすることにします』
『その方がいいか・・・わかった。ただし、みんなの回線とはまた別の回線にして・・・下手にボロを出せば・・・』
『了解です』

 下手にボロを出してしまって自分が転生者であると墓穴を掘ってもつまらない。この中でまだ僕が転生者であることを知っているのはウィルだけだ。

「まさかあれを取り除いてしまおうと? 僭越ながら、あの種子がもたらす加護はただ元に戻せばいいとか剥がしてしまえとかそんな単純じゃないですよ〜? それにそもそもそんなことができるのであれば、誰も不治の病には苦しまない・・・って」
『再建・・・というか、足りない部分は回復魔法で構築し直して移植すればいいとして・・・』
『ええ。ただし拒絶反応が起きないようリスクヘッジのために、彼女の組織を分析してする合成ですので、その分、より大量の魔力が必要となりますが・・・』
「・・・無視ですか〜?」

 今からしようとしていることは、単に回復魔法をかけて回復してしまえとか、そんな簡単な話じゃない。自分の体の情報であれば、これまでに何度も回復魔法をかけ続けているために、自然とストックもある。だがアメリアの原始的なDNA然り、臓器の大きさや骨格、体格まで全ての情報が不足している。つまり、彼女の侵食された部分を剥がす工程で、同時に分析をし、計算や培養をして新しく足りないものを足していかなければならない。

「これはもしかしなくともチャーンスですね・・・是非私の初めてをもらってください・・・」
『だけど一応は足りるんだろ? だったら・・・』
『計算上はギリギリ足ります。ある方に途中一つの手順の段階で手伝ってもらわなければなりませんが・・・』
「ンー」

 この時、リアムは目の前にテレポートして、逆さに顔を合わせるシルクに気づいていなかった。言葉や仕草だけで、生物的な気配を全くさせないシルクの瞬間移動はそれはもう見事で、まるでリアムは森の中の木にでも向かって喋ってしまっているかのように、ただそれだけの認識で・・・

「離れろイカれ野郎!」
「キャッ!・・・ちょっとゲイルくん・・・思わず女の子っぽい声が出てしまったじゃないですか〜」

 いつの間にか、リアムと自分との間に割って入ってきたシルクの顔をゲイルが後ろから握って、思いっきり払いのける。

「お前みたいな女の『キャッ』・・・など、不快だ」
「そうですか? 私もせっかくのキッスチャンスを妨害されて・・・ものすごーく不快なんですけれど」

 くるくると、数回転しながら空中を飛んだ後、体を静止しさせて再び浮遊し始めたシルク。

「ええ不快です・・・不快ですとも」

 すると、彼女はリアムとのキスを邪魔された不快感を露わにして──

「不快だ・・・今すぐ私の視界から、音から匂いから味から気配から・・・」

 より顕著に、膨らませると──

「消えろぉぉぉお!」

──爆発させる。

「半径5km以内から・・・いいえ。不可能です」

 しかし──

「マリア!?」
「これは・・・大物が釣れましたね。まさか私のニードルワークスを撃ち落として防いでしまうとは」
「言ってなさい。これから先は、私も戦いに参加します」

 シルクから放たれた無数の魔法の針を、リアムたちに降り注ぐ部分だけであるが、梅雨を払う感覚で、マリアが同じような無数の魔力弾幕で全て防ぎきってしまった。
 また──

「あなたたち・・・」
「俺たちも一緒に戦う」
「クソッ・・・まさかゲートで飛ばされるなんて・・・」

 マリアの前には、ゲイルの蘇生の最中、実はシルクにゲートで20kmほど離れた場所に転送されてしまっていたウォルターとアルフレッドの姿と──

「私もお手伝いします・・・ぅ!」
「・・・ッ!」

 フラジールとティナに──

「ちょっとここどこー! アルフレッド〜、フラジール、エリシアウォル兄リアム〜!!!」

 ・・・約1名、燃えている森の中心をめがけて帰還したウォルターたちとは裏腹に、空を飛ぶ手段がないばっかりに、かといって魔力探知には距離がありすぎて現在自分がいる位置が把握できず、森の中を彷徨うメンバーもいたが・・・まあ彼女も、まだ遭難と戦闘中ということで。

「あいつには2度もおちょくられたんだ・・・3回目に仕返しできたっていいだろう?」

 リアムによって蘇生され、3度目のゲームに挑むゲイルが立つ。

「リアムのことは頼んだ・・・エリシア」

 ゲイルのここぞとばかりの頼みに、任せてと頼もしく答えるエリシア。なんとなくだが、この時パーティーの一体感がより強固に──

「可愛らしい騎士ですね」
「ええほんと。でも、この見た目に油断していると痛い目を見るわよ」
「怖い怖い。それじゃあ私は・・・」

 だが、そんな一体感がチームに流れていた矢先──

「おっと・・・危ない危ない」

 エキドナと戦闘中のウィル達のいる方から、偶然にもシルクめがけて、エキドナの攻撃を受けて吹っ飛ばされたカミラが──

「クソ・・・あいつ・・・私たちが魔法で自分を傷つけるつもりがないことに気付きやがった。・・・囮ガン無視で強烈なのを一発、もらっちまった・・・」

 直前にシルクに避けられ、そのまま森の大木に背中を打ち付けて尻尾に打たれた腹を抑えながら息を切らす。

「カミッ・・・!」

 また、ヒーラーのエドガーは思わず飛ばされたカミラの方へと顔をそらしてしまい──

「カハッ!」
「まずい・・・陣形が崩れた!」
「私が同化して2人分のカバーに入る! リゲス!」
「ここが正念場ね・・・燃やしすぎちゃダメよアイナ! アメリアちゃんも私ももたないから!」
「エドッ・・・ヴッ! ・・・クソ馬鹿みたいな力で蹴りやがってッ!」

 十分に距離は取っていたはずだった。しかしエドガーの油断を驚異的な獣の勘で察知したエキドナは、よそ見をしたエドガーめがけて尻尾を鋭く伸ばし、重体を負わせた挙句に気絶させる。

「気をつけろお前ら! 魔力量のフェイクまでしていなかったとはいえ、私の本体を正確に狙ってきたってことは魔力か匂いか・・・熱を探知して・・・!」

 ウォルター達との戦いで見せたように、カミラは光を操って騙す戦いを得意とする。それは今回も例外ではなかったのだが、唯一、使っていた光の種類だけが違っていた。エキドナとの戦いは防衛の消耗戦だ。シンプルな光の魔力因子は極力熱を持たない。熱を強く光に持たせるためにはそれ相応の魔力が必要であり、そのためにカミラは分身に体温に似せた温光ではなく、冷光を使って魔力の消費を抑えていた。致命傷を避けるため保険を売っていたのだが、それが逆に仇となった形だ。

「そんなこたぁわかってる! それより早く傷を治して復帰しやがれ!」
「わかっているが・・・ちょっと直ぐには無理だ!」
「ヴィンセント。私の警護はもういい。お主も加勢してやってくれ」
「わかりました・・・では──」

 前線で戦っているウィルからの復帰を求める皮肉を込めた期待への煽り。しかしカミラはいつものように、減らず口で対抗できない。・・・立ち上がることもままならない。ダメージが内臓にまで達している。これだけの傷となると、いくらエドガーの優秀なポーションでも、それだけで即復帰は難しい。ヴィンセントが代わりに加勢に向かってくれたが、普段商人の彼がどこまで追い縋れるか。そんな葛藤の中、カミラは一瞬、リアムを見るが──

「おいジジイ! こんなこと頼むのは癪だが・・・ちょっとばかし手伝え・・・痺れさせて動きを鈍くするだけでも、それなりに効果はある」

 今一番あってはならないことは、リアムの手を煩わせること。ゲイル?・・・あいつは例外。あれが敵の思惑通りだったとしても、リアムを守った事実から差し引きすればむしろプラスだ。・・・精霊化したアイナでも私とエドガーの分の穴を埋めるのは厳しい。ならば、ポーションを飲んで再び戦闘に参加できるようになるまでの間、少しでも時間稼ぎできる手段がいる。

「まさかお前から、こんな風にまた助けを求められるとは・・・」
「女子供までもが・・・出張ってるんだ。こんな時だからこそ、貴族が動いてもバチは当たらん・・・だろ?」
「なるほどな・・・いい口実だ。それにミリアを谷に突き落とした元凶に、妻までもが動いている。なればこそ、公爵である私が参戦せねばならぬというも・・・」
『ダメです。その案は却下します』

 だが、ブラームスがカミラとのやり取りの末、参戦を承諾しようとした瞬間──

「なに?」
『ブラームスには、これからマスターと行う作戦に参加してもらわねばなりません』
「作戦・・・だと?」

 イデアが、ブラームスのエキドナ戦への参加を却下する。

「それは・・・そのジジイじゃないとできないことなのか?」
『はい。他に安定して、一発威力10万MPの雷を数回も生み出せる存在がいますか?』
「そりゃ無理だ・・・安定したそんだけの雷ともなれば、確かにそれをできるのはこの場にジジイしかいない・・・だが──」

 唐突に、イデアから告げられた莫大な魔力を使った超高威力の雷の必要性。しかし──

「一体・・・ヴッ! それだけの魔力を使って・・・何をするつもりだ?」

 カミラが、痛む腹を抑え息を切らしながらも尋ねる。痛みを抑えるために反射的に丸められた背中を押しながら、鋭い眼光をリアムに飛ばして。

『イデア・・・僕も早く聴きたい。一体君は、何を経てエキドナをアメリアに戻すオペをするつもりなんだ?』

 だが、イデアがこれから何をするつもりであるのか聞きたいというのはリアムもまた同じで・・・。

『・・・マスターは、私が構築したロジックで即興と恒常の両方の性質を持つ魔法として発現できる一方で、私はマスターよりも魔力操作が堪能で上手いですから、より感覚的に、高度で複雑な両特化の魔法が使えます。しかしどうやら体術や剣術の方では、マスターの動きより一歩遅れているというか・・・』
『力を出し切れていない・・・? まさか──』

 珍しく重い口調でこれから彼女がしようとしていることを話し始めるイデア。彼女のことだから、あえて不器用であると言わないあたりそれらしいが・・・

『はい。それで思ったのですが、あくまでもこの体の持ち主はマスター。私ではおそらく、この体の本当の最後の最後まで気を振り絞ることができない・・・そしてそれは、私を使うマスターも同じです。ならば──』

 可能性。それは決して剣術や体術に限った話ではない。しかしもし、1だと思っていたものがそもそも1じゃなかったのだとすれば──

『私たちも少しだけ・・・混じってみませんか?』

 その可能性は、無限にあり得る。

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