アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

219 通りすがりの帽子屋

「その・・・ミリアさんは勝負の途中であの人に谷に落とされちゃって・・・」
「谷・・・エリアEに!?」

──時は戻って現在。フラジールにミリアのことを教えられたリアムは彼女が落ちたという谷に目を配るが、そこはただの奈落でミリアの存在は感じられない。

「リアム!?」

 死か生か。どちらにしても今やるべきことは──

「母さん?」
「あ〜その・・・この格好ってほら、露出が激しいというか・・・生地が薄いから」

 目の前の問題を速攻で解決する。

『イデア。裏チャンでコンタクト』
『はい』

 また、敵に気づかれないように・・・。

「そうだね・・・パッと見たときは母さんだってわからなかった。まるで太陽から降りてきた天女様かと思ったよ」
「まあ嬉しい!」
「母さん!? あれ?・・・熱くない」

 アイナがリアムに抱きつく。戦闘前の時とは違いまるで神話の登場人物が着ているような格好で、麻のいわゆる古いギリシャの衣服キトンのような衣類と炎を彼女はまとっていた。

「ウィリアム・ギルマン・ハワード・・・お父様と炎熱卿はお元気?」
「家族ともパワーズとも絶賛絶縁中だよ・・・テメェなんで俺の本名知ってやがる」
「フフフ。この国の王下権力の中覇権を握る4大貴族派閥の中でも最も強く、侯爵家ながらに火の精霊王と契約し、そこにいる公爵ブラームス・テラ・ノーフォークとも実質肩を並べる力と知恵の象徴・・・そんな家に3男として生まれ、国内で初めてオブジェクトダンジョンを攻略し解放の英雄とまで呼ばれておきながら突如事故死したなんて怪しげな筋書きシナリオ・・・信じるのは家の既得権益で議席に着く馬鹿な権力者か、貴族の権力闘争を知らない田舎からのお上りさんくらいですよ」

 するとその傍ら、今度はこっちで前哨戦の軽い舌戦が繰り広げられる。

「最も、ソレを信じなかった王都民の多くもあなたはつまらない権力争いに巻き込まれて死んだのだと、まんまと目論見通り騙されたわけですが」
「バァーカその推測は全部ハズレだ。俺はただ、アイナと一緒になるためにこっちに逃げてきただけだっての。それに子供の前で親の過去をペラペラと喋りやがって・・・覚悟できてんだろうな」
「それはお生憎様。しかし正直にお話ししていなかったあなたが悪いのでは?」
「だからクソッタレなんだよ! ・・・俺は! その話を今日! 息子に話すつもりだったんだ!!!」
「それはますます愉快ですね!」

 アイナに抱きつかれながらも2人の会話にリアムの目丸く見開かれる。・・・ちょっと何言ってるかわからない。

「おや、2番手でしたか」
「リアム!・・・ミリアは?」
「それが・・・」

 すると、今度はどこからともなく騒ぎを察知したヴィンセントとエリシアが・・・

「全くもうなんの騒ぎなの?」
「ゼェ・・・ゼェ。どうしてさっきまで気絶していたのにボクらより速く動けるんだ・・・やはり脳筋の化け物か」
「失敬ね〜それはあなたの鍛錬が足りていないだけよ? 現にティナちゃんは私より走るの速かったわ、ね?」
「・・・うん」

 MPの回復ポーション飲んで何故か勝利したティナとアルフレッドよりも元気なリゲスに・・・

「全くさっきまで魔力切れだったってのにこのおばさんゲート使いがあらギッ!」
「お・ば・さ・ん〜?」
「間違えました! お姉さまでした!」
「よろしい」
「・・・・・・」

 まだ完全回復に至らずしかしカミラにこき使われゲートを開き登場したゲイルとウォルターと・・・

「これは一体・・・」
「あの人・・・誰?」
「ん? エドにレイア・・・にラナはどうしたんだ?」
「エヘヘ・・・父さんの試練がちょーっとキツくて疲れちゃったからおぶってもらって・・・」

 その隣にはレイアもおり、また普段は強がり中々弱み見せようとしないラナがぐったりとエドガーにおぶられやってきた。

「ということは・・・」
「うん。ボクの決闘はレイアとラナの勝ちだよ」
「・・・そうか!」

 葛藤とは複雑なようでその実行き着く答えは至ってシンプル。精神の世界での出来事は夢のようにあっという間の儚い束の間の狭間にある。

「みんな・・・」
「ぞろぞろと・・・邪教に支配され常世にも行けない哀れな虫けら増えましたね」

 女の口元が不満に歪む。だが──

「おや〜? これは懐かしい顔ですね〜」
「せん・・・せい?」
「お元気ですかゲイルくん?」
「ゲイル。先生ってことはもしかして・・・」
「ああ。引っかかってしまったのが自分なだけに、今にして思えばどうしてあんなイカれた奴を先生って呼んでいたのかと慙愧に堪えない」

 どうやらあの女は過去にゲイルを甘い言葉で巧みに騙し隠れ蓑として使っていた人間らしい。
 
「・・・無視ですか」

 また、見知った顔に無視された女は再び静かに呟くが、今度は先ほどのように歪みはせず、ニッコリとゲイルに話しかけたままに口角は上がったままで・・・

「ようやく着いたな・・・で、さっきまで戦場におったこやつらがなぜ我々よりも先に着いとる?」
「流石はトッププレイヤーね。いち早く異変を察知して集合したってところかしら」

 すると、ようやく皆に追いついた公爵夫婦が現場に到着した。

『挙句敵国の大幹部まで・・・虫唾が走る』

 ニッと黒く塗られた女の唇と唇の間から白い歯が見える。

「ま、いいでしょう! では気を取り直して・・・」
「・・・!」
「そう構えないでください皆さん。ただの自己紹介、私の名前は シルク・ハッターと言います。前はそこのゲイルくんに先生なんて呼ばれていましたが、私は我らが父が崇拝するイドラを祀る者。ファウストのしがない帽子屋担当です。以後お見知り置きをリアム様」
「・・・・・」
「どうかされたので?」
「いやだってその・・・」
「お前帽子屋って言いながら被ってんのフードじゃん」
「いえいえ。ほら!」

 カミラに被っていたフードを指摘されマントを脱ぎ捨てるシルク。

「大きくて中々良い帽子でしょ? それにこれは私用にデザインしたオリジナルのコートでして・・・」

 するとその下から出てきたのは歯車や羽根で飾られた大きく派手な帽子(シルクハット)と白をベースに所々がカラフルに染められたボブでウェーブがかった髪、そして普通とは少し逸脱した黒と白の生地をつぎはぎしたトレンチコート。

「どうですリアム様! 私かわいい? かわいい?」
「マントの下にコートとか暑くないのか? それにどうやって被ってたんだよソレ!」
「全くやかましい。さっきから私とリアム様の楽しいお喋りタイムの邪魔を・・・確かあなたは・・・ああそうでしたそうでした。その目が痛くなるような派手で明るい赤い髪に薔薇の紋章はヴィアー家のものですね。ウィリアム・ハワードの家来で逃げた彼に付いてきたカミラ・ド・ヴィアーですか」
「私はもうこいつの家来でもねぇし家名はホワイトだ!」

 普段人以上に視覚を敏感にして戦うカミラは、意外とこういうことにはうるさい。

「それからあと一緒に逃げたのはそこの火魔法の天才アイナに、王都の一等宿を経営する宿屋王ロドリー家のリゲス・ロドリーでしたっけ?」
「人の話聞けっての!」
「・・・うるさいですね。弱い犬ほど良く吠える」
「ガルルルル!」
「馬鹿俺じゃなくて言ったのはあいつだ!」

 シルクに言い負かされてしまったカミラがウィルに噛み付く。実はカミラは犬が大嫌い。理由はウィルが剣狼と呼ばれていること、またそのことに起因しそんなウィルの側仕えだった彼女の過去にも理由があるのだが、それについて語るのはまた次の機会ということで・・・。

『時間稼ぎはこんなところでいいか』
『だね・・・レイア。頼んだよ』
『任せて』

 次の瞬間──

「おやおや〜? ご乱心〜?」
「乱心でもましてや身投げでもない。救助だ」
「ご冗談を。あそこは死の溜り場です・・・深くなるほどそれは濃くなる。それに忌々しい加護を持つそこの男ならまだしもさっき突き落とした虫は幼い。更にか弱そうなあの少女を飛び込ませるなど愚の骨頂では?」

 なんとレイアがミリアの落ちた谷へと飛び込む。真っ暗な、死の谷へと。

「言ってろ・・・私の子は強い。そして・・・」
「もち──」
「もちろん! ミリアは私の娘・・・あの子は強い子です! それよりもあなたはご自身の身をご心配なさった方がよろしいのでは?」
「・・・だな」

 すると、レイアの強さを自慢するカミラ、それに続こうとしたブラームスを差し置いてマリアが堂々と見得を切る。カミラとマリアの口から飛び出した言葉はとても力強く、それには親バカとかそういう可愛いいという情だけではなく、純粋な子供達への厚い信頼が込められていた。

「ふぅむ・・・お客様が減ってしまうとは残念なところではありますが」
「お前が突き落としたのであろうが!」
「おっとショー開幕前に大きなご声援ありがとうございます。しかし落ち着いて・・・というか我らが神の封印に関わっている精霊王の加護持ちが近くにいるとか私、気持ち悪くて実は今にも吐き・・・オエェー」

 ブラームスの顔を見たシルクが頭にかぶる帽子をサッととると、背中を向けてその中に汚物を吐く・・・本当に吐いているのかどうかは定かではないが・・・

「人の顔を見た途端に吐くとは・・・無礼なやつだ」
「そうね」

 それでも、その不愉快極まりない行動がブラームスに対する侮辱であることに変わりはない。ブラームスが突然吐いたシルクに無礼だと反論し、谷に落とされたミリアのこともあってかその怒りをこの上なく分かりやすく表情(カオ)に見せる。見得を切るとブラームスの後ろに再び下がり控えるマリアもまた、ブラームスの意見に賛同しながらもピクリとも表情が動かないのが逆に怖い。

「はぁ・・・まあ招かれざる客の登場ですが、私、心広いですしよしとしましょう。余計なお客様もお揃いになったところでお楽しみショータイムのお時間に移りましょう!」

 その数秒後、吐ききったのかこちらに視線を戻したシルクはサッと何事もなかったかのように、身なりを整え巫山戯たことを言う。

「さぁて紆余曲折ありましたが、お楽しみショータイムの時間がやってまいりました〜!ファウストの帽子屋こと私ハッターの拙い芸ですが、どうぞお楽しみくださ〜い」
「何をふざけておるあいつ・・・」

 そして自身で宣言した通りに、シルクが勝手に何かを催し始めた。

「タッタラータッタラー、クルクルクルー・・・ッパ!」
「鳩・・・?」

 あれは針であろうか・・・ステッキにしては短いし、杖にしては先端が鋭い。シルクはどこからともなくその大針を取り出すと、ご機嫌にステップを踏み、手に持った帽子をクルクルと回せばそこから白い鳩5羽を出現させる。

「おいさっき吐いた汚物はどこに行ったんだ!?」
「空間魔法とかでしょ、どうせ・・・」
 
 空間属性使いのくせにトリックを見破れなかったゲイルを、残念なものを見る目で一瞥するエリシア。

「もひとつついでにクルックル〜の・・・はいっと!」
「ポッポー」

 5羽の鳩が出たのも束の間、ステップを踏み続けるシルクが再びその帽子の中から鳩を出す。今度は8羽。

「あ、さらにオマケに・・・」

 そして続け様に帽子を眼前の地面に投げて──

「ワン、ツー、スリーの・・・」

 大針で帽子を叩くような振りをすればみるみるうちにソレが巨大化していく。

「はい!」

 そして──

「・・・!?」
「どうです? 空間魔法ならではの演出・・・お気に召しましたぁ?」

 ポンッと弾けた帽子。その中から出てきたものは・・・

「アメリア・・・?」

 鳩ではなく、不思議な鎖の球の中で眠るアメリアだった。

「あの拘束具は・・・!」
「はい。ユノの鎖です♪ 我が教会が実験に実験を重ね再現した自信作で〜す」

 ウィルの言葉から驚きを汲み取ったシルクは、亜空間から予備の弾けた帽子と同じデザインの帽子を取り出してかぶり直しながらも、嬉々としてアメリアの周りに漂う鎖の正体を語る。

「この子は我らが亡き母が作り出したある種子を埋めて孤児院に預けていた特別な生贄なのですよ」
 
 すると突然、鎖の空間の中に腕を突っ込んでアメリアの上着をシルクがペラっとめく・・・

「見ちゃダメよ!」
「ダメですぅー!」
「フラッシュ!」

 ・・・あのみなさん? 視界をふさがれたら見えないんですけど・・・アルフレッドはフラジール、ウィルの視界をアイナが、エドガーはラナ、ウォルターはカミラ、ヴィンセントはエリシア、ブラームスはマリアでそしてリアムはリゲス・・・なぜリゲスは塞ぐ側に回っているのか。

「グオぉー目がぁぁあ!」

 なお、視界を塞ぐ者が足りなかったために一人だけカミラの強烈なフラッシュによる目潰しを食らって悶え苦しむゲイルの声が。

「あんたちょ・・・どこめくってんのよ!」
「ダメですか?」
「ダメに決まってるでしょ!」

 暗い視界の中、エリシアがシルクと話す声が聞こえてくる。

「もういいんじゃないティナちゃん?」
「・・・はい」

 なるほど。どうやらリゲスがリアムの視界を塞ぎ、更にリゲスの視界を機動力のあるティナが塞ぎに行っていたようだ・・・なんという連携、あの一瞬のうちに彼女たちはゲイルを犠牲にしようと意思疎通し行動に移ったというのか。

『どっちにしてもゲイルの扱いがひどい・・・』

 女性陣のお許しが出たために視界の封鎖が解かれる。

「リフレッシュ」
「うう・・・何故俺だけ」
「仕方ないだろ。手が足りなかったんだ」

 エドガーに状態異常回復の魔法をかけてもらいながら不満を漏らすゲイル。強光での目潰し奇襲ではなく、せめて視覚阻害なんかのジャミング系魔法でアイマスクでも作るという選択肢はなかったのか? ・・・緊急だったし今更か。

「・・・あのみなさん。よろしい?」
「よろしいわよ」 
「全く頼みますよ? ここからが見せ場なんですから」

 タイミングを逃してしまったシルクが、再度ショーの再開を申し出る。

「コホン。では改めて・・・この子は我らが亡き母が作り出したある種子を埋めて孤児院に預けていた特別な生贄なのですよ」

 エリシアからの許しを得て先ほどの続きからショーとやらを再開するシルク。

「そしてその種子の名はメフィストフェレス ──通称メフィスト。その意味とは・・・」
「悪魔の代理、嘘つき悪魔・・・」
「その通り! 光を愛せず悪臭を愛する嘘つきな悪魔! まさかリアム様がご存知とは、流石我らが宿願を果たし世界に混沌を齎す神の使徒・・・これも運命というやつでしょうか?」

 先ほどの教訓を生かして、今度は襟に指をかけて布をアメリアの胸元まで下げる。そこには彼らがメフィストと呼ぶ禍々しい種子が根を張るように、アメリアの胸部に寄生していた。そしてシルクがある呪文を唱えると──

「サクリファイス」
「あぁぁぁああゔぁあああ!!!」
「・・・何を!?」

 鎖の形成する球体の中で穏やかだがまるで死んだように眠っていたアメリアが、苦痛の絶叫をあげる。

「アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く