アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

216 リアムの秘密

「はっ・・・? 今なんて言ったリアム・・・どうやら砂が耳につまってたらしい。すまないがもう一回言ってくれないか?」

 耳をホジホジとして僅かに手についた砂を掻き出し、秘密を打ち明けたリアムにもう一度尋ねるウィル。

「ステータス」

 そんなウィルに、より現実味を感じてもらうためにリアムはステータスボードを呼び出して・・・

「父さん・・・ここを見て」

 自らその称号を見せる。

「これは・・・!」

 瞬間、称号の欄を見たウィルは体を硬直させる。

「じゃあ本当に・・・」

 そしていくつかリアムと言葉を交わした後にそう呟くと、頭を抱えて再び5分ほど沈黙する。

「はぁ・・・」

 5分後、吐き出された大きなため息。

「・・・どうして今まで黙って・・・いや、どうして今なんだ」

 そして一応は飲み込んだものの、未だ現実とは思えず信じられないと言った顔でリアムにそう尋ねる。

『父さんボクは──』

 戦いの後でアドレナリンがドバドバ出ているときにこっそりとウィルにだけこの申告。

『転生者だ・・・』

 ずるい? ・・・いやでも、実際に君たちが異世界で誰か見ず知らずの別の家族の元に新しく生まれればどうする。サラッと言ってしまう?・・・それではあまりにも、不誠実だ。

『すまないがもう一回言ってくれないか?』

 かと言って一生黙り続けているのはどうだろうか。まあその転生先の家族が仮に君をないがしろにし、虐待やそれに近い行為に及ぶのならば別に話してやる義理もない。 

『ステータス・・・見てよこれ』
『・・・これは』

 ・・・だけどボクは違った。新しい世界で新しい命を授かり、新しい優しい家族の元に生まれ育っているのだ。

『ははは冗談きついぜリアム・・・どうせ隠蔽のスキルで内容を書き換えでもしてる・・・』
 
 つまりボクにとって、この転生という話はとても魅力的で・・・──後ろめたい称号。これは自分に与えられたチャンスで、前の世界と自分の間に限りなく深い谷を作ってみても割り切る事は出来ない。

『・・・まさか嘘だろ! だって転生者って・・・いえば』

 亀裂・・・せいぜいボクが過去の世界との間に作れるものがあるとすれば、すぐにまたぐことも飛び越えることもできる亀裂だ。何故ならば、ボクは前の世界の家族・・・それだけは何があっても忘れたくない。

『本当なんだ父さん。ボクは紛れもなく転生者。記憶の混濁なんかじゃない・・・その称号が、何よりもはっきりと事実を物語っている』
 
──そんな、女々しい奴だから。 

「・・・」
「・・・」

 しばらく続く沈黙。5分・・・10分、いや、既に1時間は経ってしまったのではないだろうかと思えるほどに長い沈黙だった。そしてそれを破ったのは──

「どうして、今なんだリアム・・・」

 ウィルだった。

「一つ目は今、父さんが戦いの後のトランス状態にあるから。今感じているのが興奮か、爽快感かはたまた消失感かはわからないけど、どちらにしても様子を見る限り突飛な話でも多少は受け入れやすい状態にあるんじゃないかという判断から・・・」

 リアムは素直にウィルの質問に応えていく。嘘偽りない心を。とても複雑で、自分でもよくわからなくなってしまうほどの絡み合った心の糸を一本一本、解いていくように。

「そうか・・・」

 しかし脳が現実を認識するスピードも徐々に追いついてきた感覚がする。ウィルの一言一言が、ようやく現実のスピードとマッチし始めた。

「じゃあ、二つ目はなんだ・・・」

 ウィルがゆっくりと重い口を開き、その二つ目とやらがなんなのかを尋ねる。

『二つ目・・・』

 正直言えば、最近これを思うととても苦しかった・・・きつかった。

「ボクの世界では・・・ああ前に生きていた世界なんだけど。そこは魔法はないけどここよりもはるかに発展した世界で・・・」

 きっかけは5ヶ月前の目覚め。その前に1年もの間意識を失い眠っていたこと。

「こうした転生した話とかはボクが生きた時代には実はポピュラーな作り話だったりもしたんだ。だからかな・・・馬鹿な話で最初は驚きもしたけど、自分はとても幸運で、きっとそれは自分の力でもぎ取った新しい人生とかまで思っちゃってたりして・・・」

 目覚めた場所は知らない天井のある場所だった。
 壁も・・・窓もベッドも見覚えのない場所。
 そんな場所で、ボクは1年も眠っていたのだ。

『リアム・・・』

 しかしそんな見ず知らずの場所で目覚めた時、最初に見たのは──

『ふぁぁ・・・あれ、リアム?』

 目の下にクマを作りながらも、ずっとボクの傍に寄り添っていてくれたアイナの顔だった。

 そしてそこには──

『マレーネ! エド! ああ後ウィル! リアムが目を覚ましたわよ!』
『おきたかい。リム坊』
『よかった。目を覚ましたね』
『おお! 起きたのか!』

 アイナがいて、体を看ていてくれたマレーネとエドガーに・・・ウィルもいた。

「でも最近になってようやく、それは架空のお話で現実に考えれば馬鹿で家族を裏切っていることなんだって罪悪感が胸を突き刺すようになった・・・」

 元々、こんな機会がなくてもウィルとアイナにはこのことを話そうと思っていた。

「だから話した。産んでもらって育ててもらって、命をもらったのにこんな隠し事をしているのは不愉快極まりない裏切り行為だと悟ったから」

 タイミングはエリアGのラストボスと戦った後・・・勝っても負けても2人にはこのことを話そうと決心していた。

「・・・」

 10秒ほどの短い沈黙が場を支配する。

「それだけか・・・?」

 が──

「えっ?」
「いやだから、お前が今俺にそんな大事な秘密を話した理由ってのはそれだけかって聞いてるんだ」
「う、うん・・・そうだけど」

 今度は先ほどのように長い沈黙はない。ウィルはどうやらリアムの話が終わったかどうかを確認するだけのために黙っていたようだ。

「ふ・・・ふは」

 そして──

「ふふふふふははははは!」

 突然、上を向いて狂ったように笑い始めた。

「と、父さん!?」
「ハッハッハッハッハ! そうか! それだけか!」

 リアムの問いに嬉しそうに、それだけかと安心しながら笑い続けるウィル。

「なんで・・・なんで父さんは驚かないの! 笑ってるの!」

 理解できない。どうして今、ウィルがそんなに嬉しそうに笑っているのか。

「はぁぁぁ・・・なんとーなく、そうなんじゃないかって思うこともあったけどな」

 やがて笑い疲れたウィルが、目に溜まった涙を拭う。
 
「そうなの!?」
「だって考えてもみろよ。幾ら俺が才能豊かでアイナが賢くてもお前の魔力や適正属性は明らかに異常だったし、オリジナルスキル持ちな上に飛び級はするわ今の時点でもう既に大人顔負けの知識や財力も持っていて・・・いや、整理してみればそうなんじゃないかって思うことがあったっていうより、そう思う出来事があって今気付いたってのが正しいのか・・・」

 そして両手を後ろの地面につき、仰ぐように空を見上げると──

「兎にも角にも、それを聞いて腑に落ちることがかなりたくさんあったってことだな」

 リアムを見て、またニッコリと笑う。

「その、打ち明けたボクがこんなことを聞くのはなんだけど・・・」
「なんだ?」
「これってかなり大事だと思うんだけど、どうして父さんはそんなに落ち着いているの?」

 落ち着いている。あえて言えばそんなところだろうか。もっとウィルからはいろんなことを責められたり怒鳴られたりするかと思っていたのに。

「ん? そうかお前が気にしてるのはそこか・・・」

 するとウィルはなるほどと何かを納得して──

「お前が転生者だからって別に驚きはするが、俺の息子であることには違いはあるまい」

 ・・・そう言った。

「ど、どうしてそんなすんなりと納得できるの!?」

 これには思わずリアムも動揺する。

「ま、まさか父さんも転生者とか!?」

 少なくとも絶対にありえないようなことを口走るほどに。

「いや違う。もし俺がお前と同じ転生者だったら既にもう気づいているはずだったろ?」
「あ、そっか」

 一方ウィルは冷静である。これじゃあどっちが秘密を暴露したのかされたのかわからない。立場が逆だ。

「だが・・・俺があまり驚いていない理由に焦点を当てて見れば、俺の出生に関わることでひとつ気がかりがあることは事実で・・・」
「出生?」
「まあそこは今は気にするな。そこら辺も含めてお前に後で話そうと思っているから」

 だがどうやら彼にもリアムに秘密にしている事があるのはたしかだったようで。

「それからあまり俺が動じていない理由はあともうひとつあるな。実際に会ったことはないが、俺も一人・・・転生者を知ってる」
「えっ? でも転生者ってそんな滅多に・・・」
「ああ。だから誰が? とは言わないでおこう。・・・俺自身実際に会ったことがあるわけじゃないし、一昔前の確証もない話だ。だがそんな記録を見たことがあるってだけで・・・実家の隠し部屋でな」
「隠し部屋?」
「あっ・・・まあそれも今は気にするな。どうせ後で話すことになるから」

 再び何やらリアムにこれまで話していなかった秘密の存在を匂わせておいて・・・ウィルがそう言うなら、今話しているのはボクの秘密についてであるし、その秘密については後でじっくりと聞かせてもらうとしよう。

「父さんは・・・こんなボクでも家族として認めてくれる?」

 話は戻ってリアムが転生者であったという話。果たしてウィルは結局その辺のことをどう思っているのか。

「そりゃあ大事な一人息子だ。認めるさ。もちろんだ・・・ああ、もちろんだとも」

 ウィルは答える。今の現実を、人生とその選択に過去、これから先の未来を噛み締めながら・・・。

「結局、お前が俺たちの息子として授かったその肉体も流れる血も、過ごした時間もこれから先何があろうと変わることはない。それが俺がお前を認める根拠で親子の絆であり、これから先もずっと変わることのない真実だ」

 リアムがどんな違う世界の記憶を持っていようとも──

「違うか・・・?」

 自分の家族であり息子であることに変わりはないと。

「いや。そう言ってもらえるととっても嬉しいよ・・・」

 リアムは思わずむず痒くなってしまった心に胸を抱えて答える・・・が──

「まだ何か懸念があるのか?」
「まあ・・・その・・・」

 もう一つだけ、彼の中には不安があった。

「母さんはこのこと・・・受け入れてくれるかな」

 勢い余って、彼は心の中のもう一つの不安を吐露してしまう。本来はウィルにこんな質問をすべきではないのに。

「多分だけどアイナは受け入れてくれるんじゃないかな・・・あいつはそんなことで家族を見捨てるやつじゃない」

 しかし意外にもまた、ウィルは答えた。

『母さんも・・・』

 リアムは再び決心する。この話をウィルにだけしてはいお終いとか、彼伝いにアイナに話をしてもらうとかいう選択肢はもちろんない。

「そうだリアム。これから話す俺の話が終わったらさ・・・お前の前の世界でのことを聞かせてくれよ」
「実はボク、大人になる直前で死んじゃって・・・それに前世ではそもそも病弱であんまり自由には動けずにいたんだ。・・・でもそれを恨んで死んだわけじゃないし、たくさん本を読んだり動画を見たりインターネットっていう便利なツールを使って色々なものと繋がって世界を知ったり・・・そんな他愛もない人生の話でよかったらもちろん話すよ」
「いいな・・・別の世界の他愛ない話か。既にわからないことばっかりで超が千はつくほど面白そうな話だ」 

 それから2人はまた、親子に戻った。ちょっと特殊な関係にはなるが、それでもやはり仲の良い、元の父と子に・・・

「──ッ!?」

──次の瞬間、同時にウィルとリアムが森の中で急激に変化する魔力の流れを感知する。

「なに・・・この魔力!?」

 リアムが驚愕する。もちろん自分の持つ魔力には到底及ばないが、それでも今までに感じた事がないほど激しい魔力のぶつかり合いに──。

「大きい魔力が二つ対峙してる・・・一つはアイナか!」
「母さんの魔力なの?・・・これ?」
「だがもう一つは・・・ミリアじゃないな。知らない魔力・・・誰の魔力だ・・・」

 一方、1つだけその魔力の正体を知っていたウィルが感知したままに分析する。たしかにウィルの言った通り、両方ともがミリアのソレとは違ったものだと感じるが・・・

「だとしたら一体誰の・・・」

 ここで1つの疑問が生まれる。今エリアDはブラームスがギルドに発行させた規制線によって立ち入り禁止になっているはずだ。

「流石にミリア達相手でアイナがここまで本気を出すとも思えない・・・嫌な予感がする・・・俺の話はひとまず後だリアム! 悪いがゲートを頼む!」
「ゲート!」

 つまり ・・・──非常事態。緊急を要する可能性のある事案。

「これは・・・!」

 リアムの作ったゲートをくぐった先、そこに広がっていた光景は──

「炎の森・・・」

 リアムが先ほど燃やしたものとは明らかに規模が違う、見渡す限りの木々が全て燃えている炎の森。

「リアムさん!」
「フラジール!・・・ミリアは?」
「ミリアさんはその・・・」

 またそこにいたのはフラジールと・・・

「かあさん・・・?」

 全身の所々に炎を纏い、髪もオレンジ色に染まった炎の化身へと姿を変えた母さん・・・

「おやまさか! これはこれはまさか御自ら足を運んでくださるとは思いもよらず、ご足労をおかけして誠に申し訳ありません」

 それから、リアムを見るや否や盛大に演説を始めた──

「我らが神の使い、イドラの子よ・・・フフッ」
 
 不気味に笑う、フードを被った女だった。

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