アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

213 身勝手な親子

「お前はリーダーなんだろ・・・なのになぜそこまで俺との戦いに抵抗する」
「リーダーとかそんなの・・・関係ないよ」

 重なる刃越しに交わされる言葉。

「・・・なんでこんなことをしなくちゃいけないんだ」

 ジリジリと、重なり震える刀から漏れ出してくるように本音が溢れてくる。

「ねぇ答えてよ父さん!」

 慟哭し絶叫する。同時に──

「・・・さあな!」

 また、決別する。

「嫌だ! こんなのなんの意味もない!」
「そうか・・・?」
「ボクは名前とか見えない権利とかを賭けて人と傷つけ合いができるような・・・そんな粋な人間じゃない」
「じゃあなんで今お前はここにいる・・・仲間とあのテッペン目指すために俺らを倒しに来たんじゃないのか!」

 ウィルは指差す。今度はリアムの胸にではない。木々の隙間から覗くコルトの頂上を。

「そうしないと・・・父さんと母さんが戻ってこないから」
「・・・そうか」

 言われてみればここまで、なんとなくで色々やってきた気がする。生活もダンジョン攻略も・・・なんかもう、どうでもよくなってくるような。

「お前も俺に似て・・・やっぱわがままだな」

 ずるい。こっちを直視もせずに、自分で今は親子じゃないと言っておきながらそんな──

「今の安寧を守りたいか。俺もできればそうしたいが、それ以上にスリルを求めている自分を知っている」

 そんな・・・わがままをボクに押し付けるなんて。

「俺の夢は再び仲間ともう一度あの頂点に挑むこと!!!」
「モグッ!」
「なんだ出てきちまったのかモグリ?」
「グリッ! リリュ!」
「わかった! わかったから、な?」

 ウィルの夢語りに誘われて出てきたモグリがじゃれる。二人とも、本当に楽しそうに──

「否が応でも俺にはずっとスリルが付き纏う。だったら行くところまで行って・・・そして俺は仲間と」
 
 ・・・今、なんて?

「テッペンからの景色を見て・・・笑うんだ」

 ふと、リアムに聞こえないか聞こえるかくらいでそう呟いたウィルの横顔がとても印象的で・・・

「さっき上から見た景色も凄かったがやっぱり自分達の足でじゃないとな」と、再び嬉しそうにモグリと語り合う姿。
 だがそのギャップのせいでリアムの中により、鮮明に疑問が残ってしまう。

「父さん今の一体どういう意味で・・・」
「ん? まあそうだな・・・お前が俺に勝ったら教えてやるよ」

 リアムの質問に、勝ったら教えると発言をうやむやにするウィル・・・つまりさっきのは故意だったのか?

「さてリアム。そろそろ父子(おやこ)の仲睦まじい夢相談は終わりだ」
「夢相談って・・・ほとんど父さんが一方的に話してただけだよ」
「そうか? 一応俺なりに相談にのったつもりだったんだが」

 こんなよくわからない会話で実は相談にのったつもりだったと言われても困る。

「まあ話には付き合ったんだ。これからはお前も本気でかかってこい。モグリも出てきたことだし俺も本気で行く」

 が──

「ここからはあんまり戦闘中にギャーギャー喚いていると・・・」
「魔力強化《刀》!」
「舌を噛むぞ・・・!」

 さっきより断然に剣が鋭く重い。

「同調(シンクロ)──」
「消えた!___右!!!」

 いや──

『こっちは土の魔法・・・挟撃!!!』
「モールクロー・・・左だ・・・リアム」
「ウグッ・・・!」

 右に感じた魔力の蠢きはウィルの魔法攻撃 兼 囮。先鋭の太い土棘はリアムに当たるや否やボロボロと崩れ落ちるが、刹那にウィルの声が耳に入った時にはもう、リアムの左腕の上腕に縦の切れ込みがスッパリと入っていた。

「インサイズドウーンド」
「ヒール」

 ウィルの武器は短剣。また土魔法の攻撃のダメージはなく、剣から受けた傷は単純な切創のためにヒールでも治せた。

「・・・痛い」

 だが戦いが始まって、初めてリアムが傷を負った。また開放性の損傷部分が深く、治せても痛いのには変わりない。

「シンクロ・・・やっぱこの程度の魔力で作ったモールクローだとお前の魔法防御は貫通しないか・・・けどどうだ? これが俺たちの奥の手・・・お前にこれが捉えきれるか?」

 一瞬、姿をリアムに見せ得意げに笑うウィル。だが彼は言いたいことだけを言うとまた──

「土竜剣狼(ドリュウケンロウ)」

 魔眼でも捉えることが難しい超スピードの中に・・・消えた。

「テレポート!」

 その刹那、リアムはとにかく逃げるために空へ──

「よっ・・・遅かったな」
「・・・そんな!」
「コントゥージョン」

 しかし気づけば背後には既にウィルがいて、今度は背中を強化した拳で思いっきり殴られる。

「うわあぁぁぁ!」

 墜落。背中の痛みに悶えながら空中でコントロールを失ったリアムは真っ逆さまに地へと落ちていく。
 
「・・・サンド!!!」

 が──

「砂をクッションに・・・流石だ」

 リアムはなんとか大量の砂を落下地点に出現させてそれをクッションとする。

「傷口にはなんとか砂が入らないようにした・・・けホッ!」

 着地と同時に口に砂が入った。同時に咄嗟に覆い傷だらけの背中への砂の侵入を守った魔力膜を解除して再び治癒する。
 しかしさっきウィルがやったことが脳裏に焼き付いていたのかフラッシュバックし、功を奏した。もしあそこで無理に風を操ろうものなら余計混乱を招く可能性、また空中で空間的に体を縫い付け停止しようものならきっと追の一撃が・・・──

「・・・ウォーター!」

 いけない。
 短い時間にいろんなことがありすぎて混乱している。
 一度水をかぶって余計なものを全て流そう。

「いったいどうやって父さんはあんなに早く動いて・・・」

 考えろ・・・瞬間移動の魔法にもついてこれるほどの速さで動いておきながら、どうやってウィルは周りを認識しているのか。

「マスター、おそらく・・・」

 すると、水をしたたさせながらウィルを分析するリアムにイデアが助言を出そうとする。

「イデア!」
「はい」
「・・・黙って」
「・・・はい」

 しかしリアムはスグにそれをやめさせる。

 それはアリアのメンバーで、今回の決闘に際して準備を進めていた時のこと──

『イデア・・・練習では君とこうして戦う練習をしてるけど』
『はい』
『みんなには悪いからこの練習では君の力を借りてるけど、本番では、君の力を借りるつもりはない』

 特訓の合間に、リアムは今回の決闘に臨むにあたってこっそりとイデアにだけ語った意気込み。

『それはなぜ・・・』
『本当は戦いたくない。だから初めボクは、父さんの説得から入ると思う・・・』

 一つ、絶対に確かで明らかなことは、避けられるならこの戦いは避けたい。

『でもきっと父さんは取り合わないと思う』
『そうでしょうね』

 しかしこうしてみんなと研鑽を重ねていると、ある小さな別の感情がリアムの中で肥大し始めた。

『ボクさ・・・1年ぶりに目覚めたあの日すぐ傍にいてくれた母さんと父さんの顔を見て思ったんだ』

 また、その裏で燻っているもう一つの感情もざわつき始める。

『ボクは悪戯に2人の大切な時間を奪ったんじゃないかって・・・』
『・・・・・・』
『だからもし、父さんがそれでも容赦なくボクと対等に戦おうとするのなら・・・』

 あの日。精神的ショックに苛まれる傍、もう一つ感じたとてつもなく苦しくてイデアにしか話せなかった罪悪感。

『全力で・・・演じてぶつかってみたいんだ』

 本当のボクを知って失望して欲しくない・・・失望させたくない。・・・できれば向き合いたくなかった自分の中のもう一つの感情。しかし応えねば・・・無理にでも闘争心を燃やし尽くして勝利を達成した暁には──・・・

「もう泣き言は無しだ」

 額を伝って流れてくる水滴たちを拭う。

「そうか。ようやく覚悟を決めたのか」
「待っててくれてありがとう・・・父さん」

 すると、さっきから追撃をやめて水をかぶったリアムの様子をずっと、木の陰から伺って見ていたウィルが姿を現して歩みを進める。
 そして──

「ボクは一つ、父さんと母さんに謝らなくちゃいけないことがある・・・!」
「俺だけじゃなくてアイナにも? なんだそれ・・・留守中に家でも燃やしちまったのか? 聞いてやるから言ってみろよ・・・!」

 一瞬のうちに再び交じり合う刃。冗談を交えて言葉を返してくるあたり、刃を交えていてもやっぱりウィルはウィルか。

「・・・家族だろ?」

 家族・・・今ボクにとってその言葉は胸を突き刺す。
 だけど同時にボクはもっと父さんの子供で・・・父さんと母さんと家族で・・・!

「ボクがこの勝負に勝ったら・・・話すよ!!!」

──いたいや。

「生意気だな!・・・だったら俺の奥の手、もう一回見せてやるから」

 ウィルが刀に込める力をフッと抜いて後ろに下がる。そして同時に刃が離れれば──

「今度はしっかり・・・止めてみな」
『シンクロ・土竜剣狼。目では追えないけど仕組みは大体予想がつく』

 全力 対 全力の・・・父と子の互いの秘密をかけた本物の決闘が始まる。

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