アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜
211 エリシアVSヴィンセント
「ちなみに先ほどエリシアが呟いていたもう一つの可能性というのはなんだ?」
「聞こえていたの?」
「吸血種は耳がいいんだ」
森の中で対峙しながら、「よく知っているだろう?」と、自分の血を引くエリシアが身を以て知っているはずだとニヤつくヴィンセント。
「もう一つの可能性はリアム。私の将来の旦那様で、もしかしたらリアムの実力を直接試したいと考えてのことじゃないかと思ったの」
「しかしリアムくんは既に決闘のルールによってウィリアム殿との対決が決まっていた」
「そう。だからもう一つの可能性は既に潰れていた」
一つ一つ、確かめるようにエリシアとヴィンセントは擦り合わせを行う。
「ふむ。いい考察だ。実際私が今回の決闘への参加をウィリアム殿に願い出たのもエリシアとこうして対面するためだった」
正解。エリシアの読みは正しかった。しかし──
「なればこそエリシア。私が君に求めるものはなんだと思う」
尚更、問いかける。ここまで理解して受けたのならばと。
「それは強さだ。正直言って私はリアムくんのあの実力を見て、勝てるとは到底思えない。しかし一つわかることはエリシア・・・君がリアムくんにとってふさわしい強さを得ていないということだ」
「強さ・・・」
「そうだ。例えばリアムくんは君たちがキマイラと戦った日に、魔装を出して見せた」
それは約1週間前の話だ。キマイラと対峙したリアムはあの時不思議な黒の刀を発現させて見せた。
「ならばその彼の契約者である君が未だそれを発現できていないのはどういうことだ」
「・・・」
エリシアは沈黙する。
魔族由来の魔力。これを供給する者はリアムではなく自分だ。
「私は心配なのだよ。これから先、長い未来を君は彼と歩むことになる。彼が君の隣にいてくれたように、君はこれからもずっと彼の隣で寄り添い続けることができるのかということが」
決してそれが彼の魔眼を通して生み出されているとしても、それを実現しているのもエリシアの中の魔族としての力。
「私の試練(もくてき)は君が魔装を発現させること」
それを将来の伴侶(パートナー)となってくれたリアムより先に発現できないというのはどういうことなのか。使えないというのは・・・──
「魔装 吸血牙(ブラッドバイト)」
ヴィンセントが、いつかリアムにも見せた大きな鎌を携える。
「参る」
そして──
「ック!」
「それは刀かね・・・?」
「そう。リアムがくれたこのポーチに仕舞っていたの」
「私は魔道士だから」と、ヴィンセントの一撃を止め近接戦闘より魔法戦を好むエリシアが不満を零す。
「ふむ。だが──」
しかし──
「・・ッ! 折れた・・・いや折られた」
次の瞬間、エリシアが鎌を止めるに構えた刀が折られる。
「彼が生み出すモノはどれも素晴らしい。是非魔道具を専門とする我が商会でもまた、取り扱いものだが・・・」
ヴィンセントが刀のしまってあったポーチを見て感心する。
「使い手の練度がその程度では、到底私の魔装には追い縋れない」
溜め息。初手を擦りでもして避け、その有利性をもう少し後にとっておくべきだった。これから先、ポーチからのビックリ不意打ち攻撃は使えない。
「もうこうなったら・・・一か八か──!」
すると、早くも追い詰められたエリシアが──
「闇の鎌!」
いきなりに魔装を呼ぶ。すると──
「なんだ発現できたのか?」
「いいえ一か八か・・・まさか本当に出てくるとは思わなかったけど・・・」
まさか本人も本当に現れるとは思っていなかった勢い任せの発現。それがエリシアの手の中に・・・
「ふぅ・・・はぁはぁ!」
しかしそれを握った途端──。
「なるほど。恐怖か」
急に息を乱し始めたエリシアを見て、ヴィンセントが分析する。
「そんな脆い精神で私の牙が折られるか・・・!」
そして──
「なんで・・・」
「それは魔装のただの搾りかすだ。本当の魔装は私のモノのように、何かしら使用者の特徴が現れる」
一瞬にして、エリシアの希望(まそう)を破壊してしまった。
「・・・!ダークウォー」
「遅い」
「きゃあッ!」
ヴィンセントの払うような一撃。防ぐ術を一つ失ったエリシアが闇の壁を出現させようとするが、6割ほどそれが完成したと同時に不完全な壁ごと吹き飛ばされてしまう。
「グラビティ」
「ああああ゛ア゛!」
また、続けざまにヴィンセントが発生させた闇の重力フィールド。鍛えていても小さく華奢なエリシアは今にも潰されてしまいそうな圧。
『自重加算量に対し地面も土。死にはしない程度に手加減はしたが・・・』
やがて・・・──
『力加減を間違えてしまったか』
ぐったりピクリとも動かないエリシアを見て──
『嫌われたか・・・あとリンシアに・・・』
大量の汗を掻く。追い詰めたはずがなぜか逆に人生最大のピンチに陥る。
『嘘・・・私負けるの』
一方──
『あんなに大見得切って選んでもらったのに』
エリシアはまだ、死んではいなかった。ただ──
『・・・情けない』
意識は深く、もう溺れかけてしまっていた。
『・・・なんでこんなことをしなくちゃいけないんだ』
『・・・だれ?』
『ねぇ答えてよ父さん!』
『ああリアムだ・・・どうしたんだろう』
しかし後一寸、深く沈めば底について楽になれるというスレスレで・・・
『嫌だ・・・こんなのなんの意味もない!』
『泣いてる・・・』
エリシアの意識が、留まる。
『ボクは名前とか見えない権利とかを賭けて人と傷つけ合いができるような・・・そんな粋な人間じゃない』
『私も・・・大切な人と傷つけ合うのは嫌』
あれをしよう・・・これをしたい。
『そうしないと父さんと母さんが戻ってこない』
『どっちをとればいいのかわからない』
だけどこれがああでやっぱりどうで。
『どうすればいいんだ・・・本当に強さだけでいいのか?』
『どうすればいいの・・・必要なのは力なの?』
思考の中には絶対にソレが存在する。でなければ掛け合わさらないから。
『・・・こんな苦しみを味わうためにボクはダンジョンに挑戦していたんじゃない。ただボクは前にできなかった自由を──』
葛藤。今までの自分の積み重ねが一気にデタラメに化けてしまう。
しかし──
『ああそっか・・・リアムでもまだ足りていないんだったら、私はもっと』
そんなデタラメを誰かのため、自分のため・・・何度も同じ思い出しては忘れてを繰り返して──。
『・・・また、忘れかけていた』
しかし少し忘れてしまうくらい些細なこと。だって夢や希望として決意を思い出した時、色褪せない努力さえ怠らなければ人は何度でもやり直せる。そうして一本化してできたそれを、人は・・・
『覚悟(ちから)を』
覚悟と呼ぶ。
「私が・・・リアムの傍にいる」
押し付けられた時に口の中に入ってしまった土が少し苦い。
「霧・・・もしや」
『暴走したあの時とは違う! 今私の中には・・・』
何だろうこの感覚。熱いのにあったかくてそれでいて溶けていくような、元に戻っていくような・・・
「リアムがいるんだから」
エリシアはゆっくりと自分の体の調子を確かめるように立ち上がる。同時に、痛みが・・・引いていく。
「魔装 薔薇ノ血棘」
束の間──
「・・・再生! まさか本当に発現したのか!?」
エリシアの手には、柄に握るのに邪魔にならない程度の荘厳な蔦と葉が装飾され、また全体に枝のように広がる紫の線が特徴的な大きな鎌が握られていた。
「斬撃・・・1」
刹那──
「・・・23」
「バンプファング・・・!」
突然の復活と発現に面食らうヴィンセントに考える暇もなく──
「45678910・・・」
エリシアの振る鎌の刃から高速で次々と打ち出されていく魔力の斬撃。
「千ノ棘!!!」
やがて斬撃は重なる。
「・・・ニ咲く花」
まるで棘で傷つけ滴り落ちた血を吸った・・・赤い薔薇の花弁のように。
「・・・」
だが──
「初めての魔装でここまで出来れば上出来だ。魔装を発現させるものは良くも悪くも、まっすぐな意志」
魔装。それは魔族の本能が発現させる武装。
「これは特別枠。本当は発現さえできてしまえば勝ちを譲る気だったのだが──」
形態はミリアが使う眷属魔法にちょっと似ているわね・・・こんな時に何考えてるのかしら?
でも今はとても幸せな気分だから・・・案外2つの起源って同じだったりして。
「ルールだ。私が降参する前に倒れてしまったのだから・・・」
1度だけ。昔、私はもうあまり覚えていないのだけれど、魔装を発現したことがあるらしい。あれから数年も、数年しか経っていないのにらしいというのはつまり・・・
「仕方あるまい」
暴走。それが私のもう一つの心の棘。・・・隠していたいとずっと残っていた楔の痕だった。
エリシアVSヴィンセント 勝者 ──ヴィンセント。
「聞こえていたの?」
「吸血種は耳がいいんだ」
森の中で対峙しながら、「よく知っているだろう?」と、自分の血を引くエリシアが身を以て知っているはずだとニヤつくヴィンセント。
「もう一つの可能性はリアム。私の将来の旦那様で、もしかしたらリアムの実力を直接試したいと考えてのことじゃないかと思ったの」
「しかしリアムくんは既に決闘のルールによってウィリアム殿との対決が決まっていた」
「そう。だからもう一つの可能性は既に潰れていた」
一つ一つ、確かめるようにエリシアとヴィンセントは擦り合わせを行う。
「ふむ。いい考察だ。実際私が今回の決闘への参加をウィリアム殿に願い出たのもエリシアとこうして対面するためだった」
正解。エリシアの読みは正しかった。しかし──
「なればこそエリシア。私が君に求めるものはなんだと思う」
尚更、問いかける。ここまで理解して受けたのならばと。
「それは強さだ。正直言って私はリアムくんのあの実力を見て、勝てるとは到底思えない。しかし一つわかることはエリシア・・・君がリアムくんにとってふさわしい強さを得ていないということだ」
「強さ・・・」
「そうだ。例えばリアムくんは君たちがキマイラと戦った日に、魔装を出して見せた」
それは約1週間前の話だ。キマイラと対峙したリアムはあの時不思議な黒の刀を発現させて見せた。
「ならばその彼の契約者である君が未だそれを発現できていないのはどういうことだ」
「・・・」
エリシアは沈黙する。
魔族由来の魔力。これを供給する者はリアムではなく自分だ。
「私は心配なのだよ。これから先、長い未来を君は彼と歩むことになる。彼が君の隣にいてくれたように、君はこれからもずっと彼の隣で寄り添い続けることができるのかということが」
決してそれが彼の魔眼を通して生み出されているとしても、それを実現しているのもエリシアの中の魔族としての力。
「私の試練(もくてき)は君が魔装を発現させること」
それを将来の伴侶(パートナー)となってくれたリアムより先に発現できないというのはどういうことなのか。使えないというのは・・・──
「魔装 吸血牙(ブラッドバイト)」
ヴィンセントが、いつかリアムにも見せた大きな鎌を携える。
「参る」
そして──
「ック!」
「それは刀かね・・・?」
「そう。リアムがくれたこのポーチに仕舞っていたの」
「私は魔道士だから」と、ヴィンセントの一撃を止め近接戦闘より魔法戦を好むエリシアが不満を零す。
「ふむ。だが──」
しかし──
「・・ッ! 折れた・・・いや折られた」
次の瞬間、エリシアが鎌を止めるに構えた刀が折られる。
「彼が生み出すモノはどれも素晴らしい。是非魔道具を専門とする我が商会でもまた、取り扱いものだが・・・」
ヴィンセントが刀のしまってあったポーチを見て感心する。
「使い手の練度がその程度では、到底私の魔装には追い縋れない」
溜め息。初手を擦りでもして避け、その有利性をもう少し後にとっておくべきだった。これから先、ポーチからのビックリ不意打ち攻撃は使えない。
「もうこうなったら・・・一か八か──!」
すると、早くも追い詰められたエリシアが──
「闇の鎌!」
いきなりに魔装を呼ぶ。すると──
「なんだ発現できたのか?」
「いいえ一か八か・・・まさか本当に出てくるとは思わなかったけど・・・」
まさか本人も本当に現れるとは思っていなかった勢い任せの発現。それがエリシアの手の中に・・・
「ふぅ・・・はぁはぁ!」
しかしそれを握った途端──。
「なるほど。恐怖か」
急に息を乱し始めたエリシアを見て、ヴィンセントが分析する。
「そんな脆い精神で私の牙が折られるか・・・!」
そして──
「なんで・・・」
「それは魔装のただの搾りかすだ。本当の魔装は私のモノのように、何かしら使用者の特徴が現れる」
一瞬にして、エリシアの希望(まそう)を破壊してしまった。
「・・・!ダークウォー」
「遅い」
「きゃあッ!」
ヴィンセントの払うような一撃。防ぐ術を一つ失ったエリシアが闇の壁を出現させようとするが、6割ほどそれが完成したと同時に不完全な壁ごと吹き飛ばされてしまう。
「グラビティ」
「ああああ゛ア゛!」
また、続けざまにヴィンセントが発生させた闇の重力フィールド。鍛えていても小さく華奢なエリシアは今にも潰されてしまいそうな圧。
『自重加算量に対し地面も土。死にはしない程度に手加減はしたが・・・』
やがて・・・──
『力加減を間違えてしまったか』
ぐったりピクリとも動かないエリシアを見て──
『嫌われたか・・・あとリンシアに・・・』
大量の汗を掻く。追い詰めたはずがなぜか逆に人生最大のピンチに陥る。
『嘘・・・私負けるの』
一方──
『あんなに大見得切って選んでもらったのに』
エリシアはまだ、死んではいなかった。ただ──
『・・・情けない』
意識は深く、もう溺れかけてしまっていた。
『・・・なんでこんなことをしなくちゃいけないんだ』
『・・・だれ?』
『ねぇ答えてよ父さん!』
『ああリアムだ・・・どうしたんだろう』
しかし後一寸、深く沈めば底について楽になれるというスレスレで・・・
『嫌だ・・・こんなのなんの意味もない!』
『泣いてる・・・』
エリシアの意識が、留まる。
『ボクは名前とか見えない権利とかを賭けて人と傷つけ合いができるような・・・そんな粋な人間じゃない』
『私も・・・大切な人と傷つけ合うのは嫌』
あれをしよう・・・これをしたい。
『そうしないと父さんと母さんが戻ってこない』
『どっちをとればいいのかわからない』
だけどこれがああでやっぱりどうで。
『どうすればいいんだ・・・本当に強さだけでいいのか?』
『どうすればいいの・・・必要なのは力なの?』
思考の中には絶対にソレが存在する。でなければ掛け合わさらないから。
『・・・こんな苦しみを味わうためにボクはダンジョンに挑戦していたんじゃない。ただボクは前にできなかった自由を──』
葛藤。今までの自分の積み重ねが一気にデタラメに化けてしまう。
しかし──
『ああそっか・・・リアムでもまだ足りていないんだったら、私はもっと』
そんなデタラメを誰かのため、自分のため・・・何度も同じ思い出しては忘れてを繰り返して──。
『・・・また、忘れかけていた』
しかし少し忘れてしまうくらい些細なこと。だって夢や希望として決意を思い出した時、色褪せない努力さえ怠らなければ人は何度でもやり直せる。そうして一本化してできたそれを、人は・・・
『覚悟(ちから)を』
覚悟と呼ぶ。
「私が・・・リアムの傍にいる」
押し付けられた時に口の中に入ってしまった土が少し苦い。
「霧・・・もしや」
『暴走したあの時とは違う! 今私の中には・・・』
何だろうこの感覚。熱いのにあったかくてそれでいて溶けていくような、元に戻っていくような・・・
「リアムがいるんだから」
エリシアはゆっくりと自分の体の調子を確かめるように立ち上がる。同時に、痛みが・・・引いていく。
「魔装 薔薇ノ血棘」
束の間──
「・・・再生! まさか本当に発現したのか!?」
エリシアの手には、柄に握るのに邪魔にならない程度の荘厳な蔦と葉が装飾され、また全体に枝のように広がる紫の線が特徴的な大きな鎌が握られていた。
「斬撃・・・1」
刹那──
「・・・23」
「バンプファング・・・!」
突然の復活と発現に面食らうヴィンセントに考える暇もなく──
「45678910・・・」
エリシアの振る鎌の刃から高速で次々と打ち出されていく魔力の斬撃。
「千ノ棘!!!」
やがて斬撃は重なる。
「・・・ニ咲く花」
まるで棘で傷つけ滴り落ちた血を吸った・・・赤い薔薇の花弁のように。
「・・・」
だが──
「初めての魔装でここまで出来れば上出来だ。魔装を発現させるものは良くも悪くも、まっすぐな意志」
魔装。それは魔族の本能が発現させる武装。
「これは特別枠。本当は発現さえできてしまえば勝ちを譲る気だったのだが──」
形態はミリアが使う眷属魔法にちょっと似ているわね・・・こんな時に何考えてるのかしら?
でも今はとても幸せな気分だから・・・案外2つの起源って同じだったりして。
「ルールだ。私が降参する前に倒れてしまったのだから・・・」
1度だけ。昔、私はもうあまり覚えていないのだけれど、魔装を発現したことがあるらしい。あれから数年も、数年しか経っていないのにらしいというのはつまり・・・
「仕方あるまい」
暴走。それが私のもう一つの心の棘。・・・隠していたいとずっと残っていた楔の痕だった。
エリシアVSヴィンセント 勝者 ──ヴィンセント。
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